【1】書式概要
この書式は、会社から採用内定を取り消された方が、その会社に対して損害賠償を求めるための請求書テンプレートです。内定をもらって入社を楽しみにしていたのに、ある日突然「やっぱり採用できません」と言われてしまった。そんな理不尽な状況に直面したとき、泣き寝入りせずに正当な補償を求めるための武器となる書式です。
そもそも、採用内定というのは単なる「入社の約束」ではありません。判例上、採用内定の時点で労働契約が成立すると考えられています。つまり、内定を取り消すということは、実質的には「解雇」と同じ意味を持つのです。会社が従業員を解雇するには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります。これは労働契約法第16条に定められたルールで、「なんとなく気が変わった」「業績が少し悪くなりそう」といった曖昧な理由で内定を取り消すことは許されません。
この請求書は、まさにそのような不当な内定取消しを受けた方が使うことを想定しています。例えば、新卒で就職活動を終えて内定先を決め、他の会社の選考を辞退した後に内定を取り消されたケース。あるいは、転職活動で内定をもらい、現職に退職届を出した直後に「やっぱり採用できない」と言われたケース。こうした場面では、内定者は大きな損害を被ります。他の就職先を探す時間とお金がかかりますし、精神的なショックも相当なものでしょう。
この書式には、そうした損害を漏れなく請求できるよう、主な損害項目があらかじめ整理されています。入社していれば得られたはずの給与相当額、再就職活動にかかった交通費や通信費、そして精神的苦痛に対する慰謝料。これらを一つずつ金額を記入していくだけで、会社に対する正式な損害賠償請求書が完成します。
Word形式で提供されているため、ご自身の状況に合わせて自由に編集できます。日付や金額、会社名、内定取消しの理由など、空欄部分を埋めていくだけで使えるようになっています。専門家に依頼する前の第一歩として、まずはこの書式で会社に請求書を送り、交渉のきっかけを作るという使い方も有効です。
なお、この請求書を送っても会社が応じない場合は、労働基準監督署への相談や、弁護士を通じた法的手続きに進むことも選択肢となります。その際にも、この請求書を送った記録は「まず話し合いで解決しようとした」という証拠になりますので、決して無駄にはなりません。
【2】条文タイトル
この書式は契約書形式ではなく請求書形式のため、条文番号は付されていません。構成要素としては以下の項目で成り立っています。
第1項(請求者・被請求者の表示) 第2項(採用内定の経緯) 第3項(内定取消しの事実) 第4項(内定取消理由の記載) 第5項(内定取消しの違法性) 第6項(損害の内訳) 第7項(損害合計額) 第8項(支払請求) 第9項(振込口座の指定) 第10項(法的措置の予告)
【3】逐条解説
第1項(請求者・被請求者の表示)
この部分では、誰が誰に対して請求するのかを明らかにします。被請求者である会社の所在地・社名・代表者名を冒頭に記載し、その下に請求者である内定取消しを受けた本人の住所・氏名・連絡先を記載します。
会社名は略称ではなく登記上の正式名称を使い、代表取締役の氏名も正確に記載することが大切です。相手方を特定することで、この請求書が正式な意思表示であることを示す効果があります。
第2項(採用内定の経緯)
ここでは、いつ採用内定通知を受けたのか、いつから入社する予定だったのかという事実関係を記載します。
例えば「令和7年3月15日付で内定通知を受け、令和7年4月1日から入社予定だった」といった具合です。この部分は、後に内定取消しが不当であったかどうかを判断する際の基礎となる事実ですので、日付は正確に記載してください。内定通知書や採用通知メールなどを確認しながら記入するとよいでしょう。
第3項(内定取消しの事実)
会社からいつ内定取消しの通知を受けたのかを記載する部分です。
内定取消しの連絡が電話だったのか、書面だったのか、メールだったのかによらず、その連絡を受けた日付を記載します。もし書面で通知を受けている場合は、その書面の日付を記載するのが通常です。
第4項(内定取消理由の記載)
会社側が示した内定取消しの理由を「記」書き形式で記載する部分です。
例えば「業績悪化による採用計画の見直し」「採用枠の縮小」「経営方針の変更」など、会社から伝えられた理由をそのまま書きます。もし理由が明確に示されなかった場合は「理由の明示なし」と記載することも可能です。ここで記載した理由が、次の項目で「不当である」と主張する根拠になります。
第5項(内定取消しの違法性)
この部分が請求書の核心です。採用内定によって労働契約が成立していたこと、そして会社が示した内定取消理由が解雇権の濫用に当たることを主張します。
労働契約法第16条は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効であると定めています。採用内定も労働契約の一種と解されているため、この規定が適用されます。例えば「なんとなく社風に合わなそう」とか「もっと優秀な人が見つかった」といった理由では、到底合理的とは言えません。
第6項(損害の内訳)
内定取消しによって被った具体的な損害を項目別に記載する部分です。
まず「得べかりし賃金相当額」は、入社していれば得られたはずの給与です。入社予定日から実際に再就職するまでの期間について、内定時に提示されていた月額給与を基準に計算します。例えば月給25万円で、再就職まで3か月かかった場合は75万円となります。
次に「再就職活動費用」は、新たな就職先を探すためにかかった交通費や通信費、履歴書用の写真代などです。領収書やレシートを保管しておくと、金額の根拠を示しやすくなります。
「慰謝料」は、精神的苦痛に対する賠償です。内定取消しによる精神的ショックは相当なもので、特に他社の内定を辞退していた場合や、現職を退職していた場合は深刻です。金額の相場は事案によって異なりますが、数十万円から百万円程度が一つの目安とされています。
「その他の損害」には、引っ越し費用のキャンセル料や、内定先の近くに借りた部屋の違約金など、個別の事情に応じた損害を記載できます。
第7項(損害合計額)
上記の各損害項目を合計した金額を記載します。この金額が、会社に対して請求する総額の根拠となります。
第8項(支払請求)
損害賠償として具体的にいくらを、いつまでに支払ってほしいのかを明記する部分です。
この書式では「本書面到達後14日以内」という期限を設けています。14日という期間は、相手方が検討するのに十分な時間でありながら、いたずらに引き延ばされることを防ぐ意味もあります。もちろん、状況に応じて「7日以内」や「1か月以内」に変更することも可能です。
第9項(振込口座の指定)
支払いを受けるための銀行口座を指定する部分です。金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義を漏れなく記載します。
口座名義は請求者本人の名義にするのが通常です。振込先を明確にしておくことで、相手方が「どこに払えばいいか分からなかった」という言い訳をできなくなります。
第10項(法的措置の予告)
期限までに支払いがない場合は法的手続きをとる可能性があることを予告する部分です。
これは脅しではなく、請求者が本気であることを示すための記載です。この一文があることで、相手方は「無視していたら訴えられるかもしれない」と認識し、真剣に対応を検討するきっかけになります。実際に訴訟を起こすかどうかは請求者の判断ですが、この予告があることで交渉がスムーズに進むケースも少なくありません。
【4】FAQ
Q1. 採用内定を取り消されたら、必ず損害賠償を請求できますか?
すべてのケースで請求が認められるわけではありません。会社側に正当な理由がある場合、例えば内定者が重大な経歴詐称をしていた場合や、卒業できなかった場合などは、内定取消しが有効と判断されることもあります。ただし、「業績悪化」や「採用計画の見直し」といった会社都合の理由による内定取消しは、多くの場合不当と判断される傾向にあります。
Q2. 内定通知書をもらっていないのですが、請求できますか?
書面での内定通知がなくても、メールや口頭で内定を伝えられていれば、労働契約が成立していたと主張できる可能性があります。採用担当者からのメール、内定者向け研修の案内、入社書類の送付など、内定が出ていたことを示す証拠があれば、それらを根拠にすることができます。
Q3. 損害賠償の金額はどうやって決めればいいですか?
実際に被った損害を積み上げて計算するのが基本です。得べかりし賃金は、内定時に提示された給与額と、再就職までにかかった期間から算出します。再就職活動費用は、実際にかかった交通費などを集計します。慰謝料については、過去の判例では50万円から100万円程度が認められたケースが多いですが、事案の悪質性によって変わります。
Q4. この請求書を送る方法は決まっていますか?
特に決まりはありませんが、内容証明郵便で送ることをお勧めします。内容証明郵便を使えば、いつ、どのような内容の書面を送ったかが郵便局に記録として残るため、後々「受け取っていない」「そんな内容ではなかった」といった争いを防ぐことができます。
Q5. 請求書を送っても会社が無視したらどうすればいいですか?
まずは労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナーに相談することをお勧めします。無料で相談でき、会社に対して助言や指導をしてくれる場合もあります。それでも解決しない場合は、弁護士に依頼して労働審判や訴訟といった法的手続きに進むことも選択肢となります。
Q6. 新卒と中途採用で、請求の仕方に違いはありますか?
基本的な請求の枠組みは同じですが、損害の内容が異なる場合があります。新卒の場合は、他社の内定を辞退していた事実が損害の大きさを示す材料になります。中途採用の場合は、前職を退職していた場合の収入の空白期間や、退職に伴う各種損害なども請求できる可能性があります。
Q7. 会社が倒産しそうな場合でも請求する意味はありますか?
会社の経営状態が厳しい場合、実際に回収できるかどうかは不透明です。ただし、請求書を送ることで記録を残しておくことには意味があります。会社が倒産した場合でも、未払賃金立替払制度など、一定の救済措置が受けられる可能性もあるため、まずは請求しておくことをお勧めします。
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