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【1】書式概要
このスモールM&A完全書式パックは、中小企業の事業承継や小規模な会社・事業の売買を進めるうえで必要となる契約書や書類のひな型を、全6種類まとめてセットにしたものです。後継者がいない、あるいは新しい事業を買い取って始めたいといった場面で、M&Aの検討段階から最終的な契約締結まで、実務の流れに沿って使えるよう構成しています。
セットの内容は、まずお互いの情報を守るための秘密保持契約書(NDA)、買い手側の意思を伝える意向表明書(LOI)、大まかな条件をすり合わせて合意する基本合意書(MOU)、そして最終契約として株式譲渡契約書(SPA)と事業譲渡契約書(APA)の2パターン、さらに対象会社の調査に使うデューデリジェンス資料依頼リストの合計6点です。
たとえば、知人の会社を譲り受ける話が持ち上がったとき、M&A仲介会社やマッチングサイトで買い手・売り手が見つかったとき、あるいは顧問先の事業承継を支援する士業の方が案件を進める場面など、幅広くお使いいただけます。
各書式には、表明保証や補償条項、独占交渉権、競業避止義務、反社会的勢力排除条項など、実務上欠かせない条項をあらかじめ盛り込んでいます。すべてWord形式ですので、会社名や金額、期間などの空欄を埋めたり、自社の事情に合わせて条文を追加・削除したりと、自由に編集してお使いいただけます。法律の専門知識がなくても各書式の流れが把握できるよう、分かりやすい条文構成にしています。
【2】条文タイトル
■ 秘密保持契約書(NDA) 全12条
第1条(秘密情報の定義)
第2条(秘密保持義務)
第3条(秘密情報の管理)
第4条(開示の例外)
第5条(法令に基づく開示)
第6条(秘密情報の返還・廃棄)
第7条(知的財産権)
第8条(本件検討の公表禁止)
第9条(損害賠償)
第10条(有効期間)
第11条(合意管轄)
第12条(準拠法)
■ 意向表明書(LOI) 全8項目
第1条(取引の概要)
第2条(希望譲渡価格)
第3条(譲渡価格の算定根拠)
第4条(資金調達の方法)
第5条(デューデリジェンスの実施)
第6条(役員・従業員の処遇)
第7条(希望スケジュール)
第8条(法的拘束力)
■ 基本合意書(MOU) 全13条
第1条(取引の基本的条件)
第2条(譲渡価格)
第3条(独占交渉権)
第4条(デューデリジェンス)
第5条(役員・従業員の処遇)
第6条(最終契約の締結)
第7条(秘密保持)
第8条(善管注意義務)
第9条(法的拘束力)
第10条(費用負担)
第11条(有効期間)
第12条(合意管轄)
第13条(準拠法)
■ 株式譲渡契約書(SPA) 全17条
第1条(株式の譲渡)
第2条(譲渡価格)
第3条(譲渡価格の調整)
第4条(支払方法)
第5条(クロージングの前提条件)
第6条(クロージング)
第7条(乙の表明及び保証)
第8条(甲の表明及び保証)
第9条(クロージング前の義務)
第10条(補償)
第11条(競業避止)
第12条(秘密保持)
第13条(解除)
第14条(反社会的勢力の排除)
第15条(合意管轄)
第16条(準拠法)
第17条(誠実協議)
■ 事業譲渡契約書(APA) 全17条+別紙4点
第1条(事業の譲渡)
第2条(承継対象)
第3条(従業員の承継)
第4条(譲渡価格)
第5条(支払方法)
第6条(クロージングの前提条件)
第7条(クロージング)
第8条(乙の表明及び保証)
第9条(甲の表明及び保証)
第10条(補償)
第11条(競業避止)
第12条(秘密保持)
第13条(解除)
第14条(反社会的勢力の排除)
第15条(合意管轄)
第16条(準拠法)
第17条(誠実協議)
別紙1 承継対象資産目録
別紙2 承継対象負債目録
別紙3 承継対象契約目録
別紙4 承継対象従業員名簿
■ デューデリジェンス資料依頼リスト 全8カテゴリ・約50項目
1. 会社基本情報(10項目)
2. 財務・会計(11項目)
3. 税務(5項目)
4. 法務(6項目)
5. 人事・労務(9項目)
6. 事業・営業(5項目)
7. IT・システム(3項目)
8. 環境・その他(3項目)
【3】逐条解説
■ 秘密保持契約書(NDA)
第1条(秘密情報の定義)
M&Aの交渉では、売上データや顧客リスト、技術情報、従業員の個人情報など、非常にセンシティブな情報が飛び交います。この条文では、どこまでが「秘密情報」にあたるのかを明確にしています。ただし、すでに世の中に知られている情報や、受け取った側がもともと持っていた情報まで縛ってしまうと現実的でないので、5つの除外事由を設けています。たとえば、ある技術情報をもらったが、実はその技術は業界誌にすでに掲載されていた場合などは除外されます。
第2条(秘密保持義務)
秘密情報を他に漏らさないという、NDAの核心部分です。単に「漏らすな」と書くだけでなく、目的外での使用も禁じています。たとえば、M&Aの検討のためにもらった顧客リストを、自社の営業活動に流用するといったことは許されません。
第3条(秘密情報の管理)
情報を受け取った側がどう管理するかを定めています。「善良な管理者の注意」というのは法律用語ですが、要するに「プロとして当然求められるレベルの注意を払ってください」という意味です。情報に触れる人を、案件に関わる役員や担当者だけに限定するよう求めています。
第4条(開示の例外)
弁護士や会計士、税理士などの専門家に情報を見せないと検討が進まない場面があります。この条文は、相手方の書面承諾を得たうえでアドバイザーに開示できるとしています。ただし、アドバイザーにも同じレベルの守秘義務を負わせることが条件です。
第5条(法令に基づく開示)
裁判所の命令や監督官庁からの照会があった場合に、秘密情報を出さざるを得ない場面を想定した条文です。その場合でも、事前に相手方に知らせる努力義務があり、開示は必要最小限に留めなければなりません。
第6条(秘密情報の返還・廃棄)
M&Aの話がまとまらなかった場合、もらった資料やデータをそのまま持っていていいわけではありません。相手方から求められたら返す、あるいは廃棄して「廃棄しました」と書面で知らせるという手続きを定めています。
第7条(知的財産権)
秘密情報を開示したからといって、特許権や著作権まで渡したことにはならないという確認条項です。ありがちな誤解を防ぐために入れておく条文で、実務上は地味ですが重要です。
第8条(本件検討の公表禁止)
M&Aの検討をしていること自体が秘密です。うわさが広まると、取引先や従業員が動揺して案件がつぶれることがあります。この条文は「交渉しているという事実すら漏らすな」と明確にしています。
第9条(損害賠償)
秘密保持に違反した場合、相手方に生じた損害を賠償する義務があることを定めています。弁護士費用も含むと明記することで、違反した場合の実質的な負担が大きいことを認識させる効果があります。
第10条(有効期間)
NDAの有効期間と、契約終了後も守秘義務が残る存続期間を分けて定めています。M&Aの交渉は数ヶ月から1年程度で決着がつくことが多いですが、知り得た秘密情報の重要性は契約終了後も変わらないため、存続期間の設定が重要です。
第11条(合意管轄)
紛争が起きたとき、どの裁判所で争うかをあらかじめ決めておく条文です。地方の中小企業同士の場合、お互いの本社所在地が離れていることも多いので、合意管轄を設定しておくことはトラブル防止に役立ちます。
第12条(準拠法)
日本の法律に基づいて契約を解釈するという確認条文です。国内取引では当然ともいえますが、将来的に外国籍の方や外資系企業が関わる可能性もあるため、明記しておくのが実務上の慣行です。
■ 意向表明書(LOI)
第1条(取引の概要)
買い手側が「こういう形で買いたい」という基本的な枠組みを示す部分です。株式譲渡なのか事業譲渡なのか、取得割合はどのくらいかといった大枠をチェックボックス形式で記載できるようにしています。たとえば、全株式を買い取って完全子会社にしたいのか、事業の一部だけを切り出して買いたいのかで、この先の契約書の形が変わります。
第2条(希望譲渡価格)
買い手が考える希望価格を記載します。ただし、この段階ではまだデューデリジェンスを行っていないため、あくまで暫定的な金額であることを明記しています。後で調査の結果に応じて変わり得ることを織り込んでおくのがポイントです。
第3条(譲渡価格の算定根拠)
希望価格をどういう方法で算出したかを示す欄です。時価純資産法に営業権(のれん)を加算する方法や、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法など、典型的な評価手法を想定しています。売り手に対して「根拠なく安く買おうとしているわけではない」と示す役割もあります。
第4条(資金調達の方法)
買い手が代金をどうやって用意するのかを示します。自己資金なのか、銀行融資なのか。売り手にとっては、相手に支払能力があるかどうかは最大の関心事の一つですので、この段階で明らかにしておくことが信頼構築につながります。
第5条(デューデリジェンスの実施)
買い手側が対象会社の財務・税務・法務・事業の状況を調べるデューデリジェンスについて、実施の意向と希望期間を記載します。費用は買い手負担が一般的であることもここで示しています。
第6条(役員・従業員の処遇)
M&Aで売り手が最も心配することの一つが、従業員の雇用が守られるかどうかです。この条文では、原則として雇用を継続する方針を示しつつ、詳細はDD後に協議するとしています。売り手の安心感を得るために重要な項目です。
第7条(希望スケジュール)
基本合意からDD、最終契約、クロージングまでの大まかなスケジュール感を提示します。スモールM&Aでは全体で3~6ヶ月程度が一般的ですが、案件によって大きく異なります。
第8条(法的拘束力)
意向表明書は「うちはこう考えています」という意思表示にすぎず、この段階で契約上の拘束力は発生しないことを明記しています。法的拘束力を持たせるのは、次のステップの基本合意書の一部の条項からです。
■ 基本合意書(MOU)
第1条(取引の基本的条件)
株式譲渡か事業譲渡か、あるいはその他の方法かという取引の骨格を確認する条文です。意向表明書で示した方向性を、ここで売り手・買い手双方が「この方向でいきましょう」と合意します。
第2条(譲渡価格)
暫定的な目安価格を記載します。「最終的にはDDの結果を踏まえて確定する」と明記することで、この段階の価格にがっちり縛られるわけではないことを示しています。価格交渉で揉めるリスクを軽減するための工夫です。
第3条(独占交渉権)
買い手にとって非常に重要な条文です。DDには時間と費用がかかります。その間に売り手が別の買い手候補と並行交渉を進めてしまうと、買い手は費用を捨てることになりかねません。この条文で一定期間、売り手が他と交渉しないことを約束させます。この条文は法的拘束力ありとされています。
第4条(デューデリジェンス)
DD実施に関する売り手の協力義務を定めています。資料や情報の提供義務、費用負担(通常は買い手)、実施期間などを明確にします。売り手が資料を出し渋ると案件が停滞するため、協力義務を明文化しておくことが大切です。
第5条(役員・従業員の処遇)
従業員の雇用継続に関する買い手の努力義務を定めています。意向表明書では「方針」としていたものを、基本合意書では「努めるものとする」という形で少し踏み込んだ記載にしています。
第6条(最終契約の締結)
DDの結果を踏まえて、最終的な売買契約を誠実に交渉するという努力義務です。この条文自体には法的拘束力を持たせないのが一般的で、DDの結果次第では「やっぱりやめます」という判断も可能です。
第7条(秘密保持)
基本合意書の中にも秘密保持条項を入れることで、NDAの内容を補強しています。別途NDAを締結済みの場合はそちらが優先する旨も記載しています。この条文は法的拘束力ありです。
第8条(善管注意義務)
DDの期間中に売り手が対象会社の資産を処分したり、大きな借入れをしたりすると、買い手が想定していた会社の状態が変わってしまいます。この条文は、クロージングまでの間、売り手に通常どおりの経営を義務づけるものです。法的拘束力ありとされています。
第9条(法的拘束力)
基本合意書の中でどの条項に法的拘束力があり、どの条項にはないのかを明確に仕分けしています。独占交渉権、秘密保持、善管注意義務などは拘束力あり、価格や取引条件の部分は拘束力なしとするのが一般的な構成です。この仕分けがM&A実務における基本合意書の最大の特徴です。
第10条(費用負担)
それぞれのアドバイザー費用は各自負担とする、いわゆる「各自負担原則」を定めています。M&A仲介の手数料とは別に、弁護士や会計士の費用がかかりますが、それは自分で頼んだ専門家の費用は自分で持つという趣旨です。
第11条(有効期間)
基本合意書自体の有効期間を設定します。独占交渉権の期間と連動して考えることが多く、期間が過ぎれば基本合意は失効します。延長する場合は書面合意が必要としています。
第12条(合意管轄)
紛争時の管轄裁判所を定める条文です。法的拘束力ありの条項ですので、実際に訴訟になった場合にはここで指定した裁判所に訴えを起こすことになります。
第13条(準拠法)
日本法に従って解釈するという確認条文です。
■ 株式譲渡契約書(SPA)
第1条(株式の譲渡)
売り手が持っている対象会社の株式を買い手に渡すという、この契約の中心的な合意です。何株を、発行済株式の何パーセント分として渡すのかを明確にします。100%取得なのか、過半数取得なのかで、経営の支配権や会計上の扱いが大きく変わります。
第2条(譲渡価格)
確定した最終的な譲渡価格を記載します。基本合意書では「目安」でしたが、ここでは「この金額で売買します」と確定させます。
第3条(譲渡価格の調整)
DDの基準日とクロージング日の間にタイムラグがあるため、その間に対象会社の純資産が大きく変動した場合に価格を調整する仕組みです。たとえば、DDでは純資産が5,000万円だったのに、クロージング時点で4,500万円に減っていたら、その差額に応じて価格を下げるといった調整を想定しています。
第4条(支払方法)
クロージング日に銀行振込で全額支払うという、シンプルかつ明確な支払条件です。振込手数料は買い手負担としています。分割払いやエスクローを使う場合は、この条文を修正して対応できます。
第5条(クロージングの前提条件)
株式の引渡しと代金の支払を実行する前に満たされていなければならない条件を列挙しています。買い手側の前提条件としては、売り手の表明保証が真実であること、譲渡制限株式の場合の取締役会承認決議、MAC(重大な悪影響)が生じていないことなどがあります。条件が満たされない場合、買い手はクロージングを拒否できます。
第6条(クロージング)
クロージングの日時・場所と、そのときに売り手から買い手へ渡す書類の一覧を定めています。取締役会議事録、株主名簿書換請求書、会社の実印や通帳なども含まれます。いわば引渡しの段取りを具体的に決めた条文です。
第7条(乙の表明及び保証)
売り手が「これらの事実は間違いありません」と保証する条項で、SPA全体の中でも最も重要な条文の一つです。株式に担保がついていないこと、簿外債務がないこと、法令を守って事業をしていること、税務申告が適正であること、COC条項付き契約の有無など、9項目を列挙しています。DDで把握しきれなかったリスクについて、売り手側に責任を持たせるための仕組みです。
第8条(甲の表明及び保証)
買い手側の表明保証です。売り手に比べて項目は少なく、契約を結ぶ権限があること、法令や内部規則に違反しないこと、支払資金が確保されていることの3項目に絞っています。
第9条(クロージング前の義務)
契約を結んでからクロージングまでの間、売り手が対象会社の経営を現状のまま維持する義務を定めています。重要な資産の処分、新たな借入れ、組織再編、役員人事の変更、大規模な採用や解雇など、会社の状態を大きく変える行為を制限しています。
第10条(補償)
表明保証に違反があった場合の損害賠償ルールです。スモールM&Aでは、補償の上限額を譲渡価格と同額にすることが多いです。また、少額のクレームで毎回揉めないよう、個別の損害額と合計額にそれぞれ閾値(バスケット)を設けています。たとえば「個別100万円以上、合計500万円超から補償義務が発生する」といった設定が可能です。
第11条(競業避止)
売り手が会社を売った後に、すぐ同じ事業を始めてしまうと買い手にとっては大きな損害です。この条文で一定期間の競業禁止を定めています。会社法でも事業譲渡の場合は20年間の競業避止が法定されていますが、株式譲渡の場合は法定規定がないため、契約で明記しておく必要があります。
第12条(秘密保持)
取引完了後も、契約内容や交渉過程で知った秘密情報を漏らしてはならないという条文です。NDAとは別に最終契約書にも入れておくことで、NDAの有効期間が切れた後もカバーできます。
第13条(解除)
契約を途中で白紙に戻せる場合を定めています。相手方の重大な義務違反が是正されない場合、表明保証の重大な違反が判明した場合、期限までにクロージングが完了しない場合の3つを解除事由としています。
第14条(反社会的勢力の排除)
いわゆる暴排条項です。自社と役員が反社会的勢力でないことを相互に表明保証するもので、現在のビジネス契約では必須の条項です。金融機関の審査でも、この条項がない契約は問題視されることがあります。
第15条(合意管轄)
紛争時の管轄裁判所をあらかじめ合意しておく条文です。
第16条(準拠法)
日本法準拠の確認条文です。
第17条(誠実協議)
契約に書かれていないことが出てきた場合、まずは話し合いで解決しましょうという条文です。日本の契約書ではおなじみの条文ですが、誠実に協議する義務自体には裁判上の強制力は限定的です。
■ 事業譲渡契約書(APA)
第1条(事業の譲渡)
売り手が営む特定の事業を、丸ごと買い手に渡すという基本的な合意です。株式譲渡と違い、会社そのものではなく「事業」という単位で売買する点がAPAの特徴です。
第2条(承継対象)
事業譲渡では、何を引き継いで何を引き継がないかを一つひとつ仕分ける必要があります。資産、負債、契約をそれぞれ別紙で個別に列記する構成にしており、明示されていないものは売り手に残る旨を明記しています。たとえば、工場の機械は引き継ぐが、本社ビルの不動産は引き継がないといった線引きをここで行います。
第3条(従業員の承継)
事業譲渡では、従業員の雇用関係は自動的には引き継がれません。一人ひとりに転籍の同意を得る必要があります。この条文では、承継対象の従業員を別紙で特定し、従前の労働条件を維持する方針と、売り手が事前に従業員へ説明して承諾を得る義務を定めています。
第4条(譲渡価格)
事業の譲渡価格を確定させます。事業譲渡は消費税の課税取引にあたるため、「消費税及び地方消費税別途」と明記しています。株式譲渡が非課税であるのとは対照的で、事業譲渡ならではの重要なポイントです。
第5条(支払方法)
クロージング日に消費税等を含む全額を振込で支払う旨を定めています。
第6条(クロージングの前提条件)
事業譲渡に特有の前提条件として、会社法第467条に基づく株主総会の特別決議が含まれています。また、許認可の新規取得や承継手続の完了、取引先からの契約上の地位の移転についての承諾取得なども前提条件に挙げています。事業譲渡は株式譲渡に比べて手続が多く、この条文はそれを反映しています。
第7条(クロージング)
事業の引渡しと代金の支払を同時に行う日を定めます。売り手は承継対象資産の引渡しと権利移転に必要な書類を渡し、買い手は代金を払います。
第8条(乙の表明及び保証)
売り手の表明保証です。株式譲渡契約書と比べると、対象が「会社全体」ではなく「対象事業に関する資産・負債・許認可」に絞られるのが特徴です。承継対象資産に担保がないこと、簿外債務がないこと、許認可に問題がないこと、訴訟やクレームがないことなどを保証させています。
第9条(甲の表明及び保証)
買い手側の表明保証で、契約締結の権限と支払資金の確保の2項目です。
第10条(補償)
表明保証違反や義務の不履行による損害の補償ルールです。上限額やバスケット条件の詳細は別紙に委ねる構成にしており、案件ごとの事情に応じて柔軟に設定できます。
第11条(競業避止)
売り手の競業避止義務を契約で定めるとともに、会社法第21条(事業譲渡人の競業の禁止)の適用も確認しています。会社法では同一市区町村及び隣接市区町村で20年間の競業が禁止されますが、契約でより広い範囲や異なる期間を設定することも可能です。
第12条(秘密保持)
取引に関する秘密保持義務と、契約終了後の存続を定めています。
第13条(解除)
重大な義務違反が是正されない場合の解除権を定めています。
第14条(反社会的勢力の排除)
暴排条項です。
第15条(合意管轄)
管轄裁判所の合意です。
第16条(準拠法)
日本法準拠の確認です。
第17条(誠実協議)
契約に定めのない事項についての誠実協議義務です。
別紙1~4
承継対象資産目録、承継対象負債目録、承継対象契約目録、承継対象従業員名簿の4つの別紙を用意しています。事業譲渡の成否は、この別紙の作り込みにかかっているといっても過言ではありません。DDで把握した情報をもとに、一つひとつ漏れなく記載していくことが重要です。
■ デューデリジェンス資料依頼リスト
このリストは、買い手が対象会社の実態を調査するために売り手に提出を依頼する資料の一覧です。会社基本情報、財務・会計、税務、法務、人事・労務、事業・営業、IT・システム、環境の8カテゴリ・約50項目で構成しています。
スモールM&Aでは大企業のM&Aほど大規模なDDは行われませんが、それでも最低限確認すべき事項は押さえておく必要があります。このリストは「何を見ればいいか分からない」という買い手や、DDの経験が少ないアドバイザーにとってのチェックリストとして機能します。全項目を必ず提出するというものではなく、案件の規模や業種に応じて不要な項目を削除したり、必要な項目を追加したりして使ってください。受領確認欄を設けているので、どの資料が届いていてどれが未了かを管理できます。
【4】FAQ
Q1. このセットだけでM&Aの手続きをすべて完了できますか?
A1. 本セットは、スモールM&Aで必要とされる主要な書式をカバーしていますが、案件によっては追加の書類が必要になることがあります。たとえば、不動産が含まれる場合の不動産売買契約、事業譲渡に伴う賃貸借契約の名義変更の覚書、役員の退任に関する合意書などです。また、許認可が必要な業種では行政手続きも別途必要です。重要な案件では弁護士への相談をお勧めします。
Q2. 株式譲渡契約書と事業譲渡契約書のどちらを使えばよいですか?
A2. 会社ごと買い取る場合は株式譲渡契約書(SPA)、会社の事業の一部だけを切り出して買い取る場合は事業譲渡契約書(APA)を使います。株式譲渡は手続がシンプルですが、簿外債務も含めて丸ごと引き継ぐリスクがあります。事業譲渡は引き継ぐ資産・負債を選べますが、従業員の個別同意や許認可の取り直しが必要になることがあります。税務面の違いもありますので、税理士にも相談されることをお勧めします。
Q3. 秘密保持契約書(NDA)は必ず必要ですか?
A3. 実務上はほぼ必須です。M&Aの検討段階では、売上情報、顧客リスト、従業員情報、技術情報など、非常にセンシティブな情報をやり取りします。NDAなしに情報を渡すと、交渉が決裂した場合に情報だけ持ち逃げされるリスクがあります。M&A仲介会社を通す場合でも、当事者間のNDAは別途締結するのが一般的です。
Q4. 意向表明書は法的に拘束力がありますか?
A4. 本セットの意向表明書は「法的拘束力を有しない」と明記しています。意向表明書は、買い手の意思を売り手に伝えるための文書であり、この段階で法的な義務は発生しません。法的拘束力が発生するのは、次のステップの基本合意書の一部の条項(独占交渉権、秘密保持、善管注意義務など)からです。
Q5. 基本合意書で法的拘束力がある条項とない条項があるのはなぜですか?
A5. 基本合意書の段階では、まだDDが完了しておらず、最終的な条件が確定していません。そのため、価格や取引条件などは「方向性の確認」にとどめ、法的拘束力を持たせません。一方、独占交渉権や秘密保持義務など、この段階で守ってもらわないと困る約束事には法的拘束力を持たせます。この使い分けがMOUの核心です。
Q6. 表明保証とは何ですか?なぜ重要ですか?
A6. 表明保証とは、「以下の事実は間違いありません」と相手方に約束することです。DDですべてのリスクを発見するのは現実的に困難ですので、売り手に「簿外債務はない」「訴訟はない」「税務申告は適正」などと保証してもらい、もし後から嘘が判明した場合は損害を補償してもらうという仕組みです。DDと表明保証はセットで機能するリスク管理の手法です。
Q7. デューデリジェンス資料リストの項目は全部提出してもらう必要がありますか?
A7. いいえ、案件の規模や業種に応じて取捨選択してください。たとえば、IT企業であれば環境関連の項目は不要でしょうし、不動産を持たない会社であれば不動産関連の項目は削除できます。逆に、特定の業界特有のリスク項目(たとえば飲食業なら食品衛生関連、建設業なら建設業許可関連)を追加することもお勧めします。
Q8. この書式を使う場合、弁護士に依頼する必要はありますか?
A8. 案件の規模やリスクに応じて判断してください。譲渡価格が数百万円程度の小規模な案件であれば、本セットをベースに当事者間で進めることも十分可能です。ただし、譲渡価格が大きい場合、複雑な許認可が絡む場合、従業員が多い場合、不動産が含まれる場合などは、弁護士によるチェックを受けることを強くお勧めします。
Q9. Word形式で提供されていますが、どのように編集すればよいですか?
A9. すべてのファイルはWord形式(.docx)ですので、Microsoft Wordやその互換ソフト(Googleドキュメントなど)で開いて編集できます。__(下線空白)の部分に会社名、住所、金額、期間、日付などを入力し、チェックボックスの該当箇所にチェックを入れてご使用ください。案件に合わせて条文の追加・削除・修正も自由に行えます。
Q10. 事業譲渡の場合、消費税はかかりますか?
A10. はい、事業譲渡は原則として消費税の課税取引です。本セットの事業譲渡契約書でも「消費税及び地方消費税別途」と明記しています。なお、株式譲渡の場合、株式の売買は非課税取引ですので消費税はかかりません。この点は取引形態を選ぶ際の重要な考慮要素の一つです。
【5】活用アドバイス
1. 書式の使用順序を意識する
M&Aには典型的な流れがあります。まずNDAを締結して秘密情報のやり取りを可能にし、次に買い手がLOIで意思を示し、双方がMOUで大枠を合意してからDDを実施し、最後にSPA又はAPAで最終的な売買を確定する、という順番です。本セットはこの流れに沿って番号を振っていますので、01番から順に使っていただくとスムーズです。
2. 空欄の記入漏れに注意する
各書式の__(下線空白)は、必ず埋めてから使用してください。特に、合意管轄の裁判所名、有効期間、補償の上限額やバスケット金額、競業避止の期間などは、空欄のまま締結すると後々のトラブルの原因になります。印刷前に「__」で文書内検索をかけて、記入漏れがないか確認することをお勧めします。
3. 案件に合わせたカスタマイズを行う
本セットはあくまで汎用的な雛型です。業種や取引の規模によって、追加すべき条項や削除してよい条項があります。たとえば、飲食業の事業譲渡であれば食品営業許可の承継に関する条文を追加する、IT企業の株式譲渡であれば知的財産権の帰属に関する表明保証を詳細にする、といったカスタマイズが考えられます。
4. デューデリジェンス資料リストを早期に渡す
DDの資料収集は想像以上に時間がかかります。売り手側の経理担当者が一人で対応しているような中小企業では、過去3期分の決算書や税務申告書を揃えるだけでも数週間かかることがあります。基本合意書を締結したら、できるだけ早い段階で資料リストを渡し、準備を始めてもらうのが効率的です。
5. NDAの締結は交渉の最初に行う
M&Aの相談を受けたら、具体的な数字の話に入る前にまずNDAを締結してください。NDAなしに決算書や顧客リストを見せてしまうと、交渉が破談になった場合に情報だけ流出するリスクがあります。M&A仲介会社経由の場合でも、当事者間のNDAは別途締結するのが安全です。
6. 基本合意書の法的拘束力の範囲を把握する
基本合意書で最も重要なのは、第9条の法的拘束力の仕分けです。どの条項に拘束力があり、どの条項にはないのかを双方が正しく理解していないと、後のトラブルの元になります。特に独占交渉権の期間は、短すぎるとDDが終わらず、長すぎると売り手を不当に拘束することになりますので、案件の規模に応じた適切な期間を設定してください。
7. 表明保証と補償条項はセットで考える
株式譲渡契約書・事業譲渡契約書の表明保証条項は、DDで把握しきれないリスクをカバーするための仕組みです。しかし、表明保証に違反があっても補償のルール(上限額、バスケット、請求期限)がなければ機能しません。表明保証の範囲を広げるだけでなく、補償条項とセットで条件を交渉することが大切です。
8. 専門家への相談タイミングを見極める
すべての案件で最初から弁護士に依頼する必要はありませんが、少なくとも最終契約(SPA又はAPA)の締結前には専門家のレビューを受けることをお勧めします。特に、表明保証の範囲、補償条項の条件、クロージングの前提条件、競業避止の範囲と期間などは、案件固有の事情を踏まえた判断が必要な部分です。本セットの雛型をたたき台として専門家に見せれば、効率よくレビューを受けることができます。
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