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【1】書式概要
職場での出来事を「気のせいだ」「自分が弱いだけだ」と思い込んで我慢してきた方は、決して少なくないと思います。でも、毎日怒鳴られる、無理な仕事だけを押しつけられる、チームの会話から一人だけ外される——こうした行為はパワーハラスメントです。この書式セットは、そういった被害を受けた方が「記録して、会社や行政機関に正式に伝える」ための文書を5点まとめたものです。
1点目の「パワハラ被害記録書」は、いつ・どこで・誰に・何をされたかを整理して書き留めておくためのフォーマットです。後から「そんなことはなかった」と言われないための備えになります。2点目の「証拠保全申入書」は、会社に対してメールや人事記録・監視カメラ映像などを捨てないよう正式に申し入れる書面で、内容証明郵便でも送付できる体裁に整えています。3点目の「社内申告書(ハラスメント相談窓口宛)」は、会社の相談窓口への正式な申告書です。4点目の「労働基準監督署申告書」は、会社が動かない場合に国の機関へ直接申告するための書面です。5点目の「都道府県労働局あっせん申請書」は、第三者を交えて話し合いによる解決を求めるための申請書で、費用は無料です。
「社内で相談したのに会社が何もしてくれない」「証拠を集めたいが何から手をつければいいかわからない」「辞めずに戦いたいが手順がわからない」——そんなときに、この5点を順番に使うことで、初動から外部申告まで一連の対応が整います。すべてWord形式なので、自分の状況に合わせてそのまま編集して使えます。難しい専門知識がなくても、空欄を埋めるだけで一通りの書面が揃います。
【2】条文タイトル
◆ 01 パワハラ被害記録書
第1(記録者情報)
第2(加害者情報)
第3(被害行為の種別)
第4(被害記録一覧)
第5(心身への影響)
第6(保有証拠一覧)
◆ 02 証拠保全申入書
第1(保全を求める資料の範囲)
(1)人事記録・業務評価書等
(2)加害者の業務指示記録・電子メール等
(3)ハラスメント相談窓口の申告・相談記録
(4)会議録・議事録・業務日報等
(5)監視カメラ映像・入退室記録
(6)その他電磁的記録・紙媒体資料
第2(保全期間)
第3(回答期限)
第4(担当窓口)
◆ 03 パワハラ被害申告書(社内窓口宛)
第1(申告者の情報)
第2(行為者の情報)
第3(被害の概要)
第4(被害行為の具体的内容)
第5(保有している証拠)
第6(申告者が求める対応)
第7(調査に関するお願い)
◆ 04 労働基準監督署申告書
第1(事業場の情報)
第2(申告者の雇用状況)
第3(申告する違反事実)
(1)安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
(2)時間外労働に関する違反(労働基準法第32条・第36条)
(3)その他の違反事実
第4(被害の経緯)
第5(添付資料)
第6(申告者の保護についてのお願い)
◆ 05 都道府県労働局あっせん申請書
第1(申請者)
第2(相手方)
第3(紛争の内容)
第4(紛争の概要)
第5(申請者が求める解決の内容)
第6(これまでの解決努力の経過)
第7(添付資料)
【3】逐条解説
◆ 01 パワハラ被害記録書
第1(記録者情報)
記録する本人の氏名・所属・記録開始日を書き込む欄です。後から「誰がいつ書いたのか」が明確になるため、記録の信頼性が上がります。名前と日付が入っているだけで、行政機関や弁護士への相談時に「いつから被害に気づいていたか」の証明にもなります。
第2(加害者情報)
行為をした人物の氏名・所属・申告者との関係(直属上司か上位管理職かなど)を記録する欄です。特に「直属上司」か「上位管理職」かによって、会社側の責任の重さが変わることがあります。たとえば部長が課長に指示してハラスメントをさせていた場合は、両者を記録しておくことが重要です。
第3(被害行為の種別)
厚生労働省が定めるパワハラの6類型(身体的攻撃・精神的攻撃・人間関係の切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)をチェックボックス形式で選択できるようにしています。「自分の被害がどの種類に当たるのかわからない」という方でも、チェックするだけで整理できます。複数に該当するケースも多く、その場合は全部にチェックして構いません。
第4(被害記録一覧)
日時・場所・行為の詳細を件ごとに記録する表です。【加害者】【行為内容】【目撃者】【証拠】の4項目を書き込む形式で、後から「あの日何があったか」を正確に思い出せるよう設計しています。たとえば「令和○年○月○日午前10時、会議室で○○部長から『お前は使えない』と全員の前で怒鳴られた。目撃者:△△さん(同課)。証拠:録音あり」のように書きます。
第5(心身への影響)
身体的・精神的な症状と通院歴を記録する欄です。パワハラ被害の深刻さを示す客観的な資料になります。診断書がある場合はその医療機関名と初診日も記入しておくと、損害賠償を求める場面で金額の根拠として活用できます。
第6(保有証拠一覧)
手元にある証拠の種類をチェックする欄です。メール・録音・日報・診断書・目撃者の有無などを確認します。「証拠が何もない」と思っている方でも、スマートフォンのカレンダーや業務日報が証拠になることがあります。この欄を埋めることで、自分が持っている武器を整理できます。
◆ 02 証拠保全申入書
第1(保全を求める資料の範囲)
廃棄・改ざんしてはならない資料を6カテゴリに分けて列挙しています。人事記録・加害者のメール・監視カメラ映像など、会社側が「なかったこと」にしようとしがちな資料を網羅しています。特に(5)の監視カメラ映像は保存期間が短い場合が多く、早期の申入れが重要です。
第2(保全期間)
書面が届いた日から、問題が完全に解決するまでの間、保全を求める旨を明記しています。「解決した」かどうかは申告者が書面で通知するまで継続するという設計で、曖昧なまま期間が切れることを防いでいます。
第3(回答期限)
7日以内に書面で回答するよう求める条項です。正当な理由なく応じない場合や、証拠が失われた場合には証拠隠滅として責任を追及することを明示しており、会社側に対する抑止力になります。内容証明郵便で送ることで、「届いていない」という言い訳を封じることができます。
第4(担当窓口)
申告者の連絡先(電話・メール)を記載する欄です。会社側からの回答を書面で受け取るために、明確に連絡先を示しておくことが大切です。
◆ 03 パワハラ被害申告書(社内窓口宛)
第1(申告者の情報)
氏名・所属・内線・入社日を記載する欄です。窓口担当者が申告者を特定し、秘密保持の対象範囲を明確にするために必要な情報です。
第2(行為者の情報)
ハラスメントを行った人物の情報を記載します。「直属上司」か「上位管理職」かの区別が、会社側の対応義務の範囲に影響します。役職が高い人物であるほど、会社の管理責任が重くなります。
第3(被害の概要)
最初の被害日・直近の被害日・頻度・場所を記録する欄です。「ずっと前から続いている」「毎日起きていた」という事実を数字と日付で示すことで、単発のトラブルではなく継続的なハラスメントであることを証明する材料になります。
第4(被害行為の具体的内容)
自由記述欄です。「いつ・どこで・誰が・何をしたか・どんな言葉を言われたか」を具体的に書きます。記憶が鮮明なうちに書くほど正確な記録になります。たとえば「令和○年○月○日の朝礼で、課長から『お前だけは本当に使えない』と全員の前で言われた」のように、発言内容をできる限りそのまま書くことが大切です。
第5(保有している証拠)
申告の裏付けとなる証拠の有無をチェックする欄です。録音がある場合は特に強い証拠になります。「録音したら違法では?」と心配される方がいますが、自分が参加している会話の録音は基本的に適法です。
第6(申告者が求める対応)
謝罪・部署分離・注意指導・再発防止措置など、申告者が具体的に何を求めるかを明示する欄です。「とにかく何とかしてほしい」という状態で申告すると、会社側の対応が曖昧になりがちです。要求を明確に書いておくことで、後の確認がしやすくなります。
第7(調査に関するお願い)
申告内容を加害者に漏らさないこと、申告を理由にした不利益取扱いを禁じること、調査結果を書面で報告することの3点を求める条項です。「申告したら逆に自分の立場が悪くなった」という二次被害を防ぐための重要な条項です。
◆ 04 労働基準監督署申告書
第1(事業場の情報)
申告先の監督署が調査対象を特定するために必要な情報です。会社の所在地によって担当する監督署が決まります。本社と実際の勤務場所が異なる場合は、勤務場所を管轄する監督署への申告が基本です。
第2(申告者の雇用状況)
雇用形態・所属・入社日・現在の就業状況(在職中か退職済かなど)を記載します。退職後であっても申告は可能で、退職日から一定期間内であれば賃金未払い等の違反も申告できます。
第3(申告する違反事実)
安全配慮義務違反(労働契約法第5条)と時間外労働違反(労働基準法第32条・第36条)を申告事実として明記しています。パワハラ自体は現状では直接的な刑事罰の対象ではありませんが、会社がハラスメントを放置したことによる安全配慮義務違反として申告できます。時間外労働の違反が重なっている場合は、それも併せて申告することで行政の動きが加速することがあります。
第4(被害の経緯)
時系列での記述欄です。別紙の「パワハラ被害記録書」に詳細を記載している場合は「別紙のとおり」と書けばよく、二度手間を省けます。監督署の担当者が状況を短時間で把握できるよう、できるだけ時系列で簡潔に書くことを心がけましょう。
第5(添付資料)
申告書に添付する資料をチェックする欄です。被害記録書・診断書・社内申告書の写し等を揃えて提出すると、調査が具体的に進みやすくなります。
第6(申告者の保護についてのお願い)
労働基準法第104条第2項の規定に基づき、申告したことを理由とした不利益取扱いをしないよう求める条項です。法律上、申告者を解雇・降格等することは禁じられており、この条項がその法的根拠を明示しています。
◆ 05 都道府県労働局あっせん申請書
第1(申請者)
申請する本人の基本情報(氏名・住所・電話・雇用形態)を記載します。あっせんは申請者本人が労働局に出向く場合もあるため、連絡先の正確な記載が重要です。
第2(相手方)
会社側の情報を記載する欄です。担当者・窓口欄には、会社の人事部や顧問弁護士の情報があれば記載しておくと手続きが円滑に進みます。
第3(紛争の内容)
パワハラ・解雇・賃金未払いなど複数の紛争類型から選べます。パワハラに伴って解雇や減給が発生している場合はそれも選択し、被害の全体像を示します。
第4(紛争の概要)
紛争の経緯を自由記述する欄です。あっせん委員が中立的な立場で状況を把握するための資料になります。感情的にならず、事実を淡々と時系列で書くほど、委員が状況を正確に理解できます。
第5(申請者が求める解決の内容)
謝罪・損害賠償・復職・行為者への懲戒処分など、申請者が望む解決を具体的に示す欄です。金額も明示できる形式になっており、「いくら請求するか」を事前に考えておく必要があります。損害賠償額は、慰謝料・治療費・休業損害などを合算して検討します。
第6(これまでの解決努力の経過)
社内申告・労基署申告・専門家相談など、これまで行ってきた手続きを記録する欄です。あっせん申請は「まず話し合いで解決しようとした」という姿勢を示すものでもあり、その前段階の努力を整理しておくことが重要です。
第7(添付資料)
被害記録書・証拠保全申入書・社内申告書・労基署申告書等の写しを添付します。このセット内の書類をすべて揃えていれば、添付資料がそのまま出来上がっている状態になります。
【4】FAQ
Q1. このセットはどんな人が使うものですか?
A. 職場でパワーハラスメントの被害を受けており、記録・申告・外部機関への申請まで一連の対応を自分で進めたい方を想定しています。正社員・パート・派遣・契約社員など雇用形態を問わず活用できます。
Q2. 証拠が録音しかないのですが使えますか?
A. 録音は有力な証拠の一つです。ただし申告書には「録音がある」と記載した上で、日付・場所・発言内容を被害記録書に書き起こしておくと、より説得力が高まります。
Q3. 社内申告書と労基署申告書は両方出す必要がありますか?
A. 順番としては社内申告を先に行い、会社が誠実に対応しない場合に外部機関(労基署・労働局)へ進む流れが一般的です。ただし、会社に申告すると報復が怖い場合は、最初から外部機関に相談することもできます。
Q4. あっせんと労働審判の違いは何ですか?
A. あっせんは都道府県労働局が行う話し合いの場です。費用は無料ですが、相手方が拒否すれば手続きが終了します。労働審判は裁判所が行う手続きで、強制力は強くなりますが申立費用が必要です。このセットはあっせんまでをカバーしており、その後の労働審判は弁護士への相談をお勧めします。
Q5. 証拠保全申入書は内容証明で送らなければなりませんか?
A. 法律上の義務ではありませんが、内容証明郵便で送ることを強くお勧めします。届いた日付と内容が郵便局に記録されるため、「受け取っていない」という言い訳を防げます。本セットの証拠保全申入書は内容証明用フォーマット(1行20字以内・1枚26行以内)も含んでいます。
Q6. 会社に申告したら解雇されませんか?
A. 申告を理由とした解雇・降格・減給などの不利益取扱いは、男女雇用機会均等法・労働施策総合推進法等によって禁止されています。それでも報復があった場合は、その行為自体が新たな違法行為となり、追加の申告・請求が可能です。
Q7. 申告後どのくらいで解決しますか?
A. 社内申告は会社によって対応期間が異なります。労基署の調査は事案によって数週間から数ヶ月かかることがあります。あっせんは通常1〜3ヶ月で結果が出ます。早期解決のためにも、記録と証拠を最初からしっかり揃えておくことが最も大切です。
【5】活用アドバイス
このセットを最大限に活かすための鍵は「記録の習慣」です。被害記録書は被害を受けたその日のうちに書くことを心がけてください。時間が経つと記憶が薄れ、「いつのことだったか曖昧になった」という状況は会社側に有利に働くことがあります。スマートフォンのメモアプリに下書きしてから転記するだけでも十分です。
証拠保全申入書は、社内申告と同時か直後に送付することを勧めます。監視カメラ映像の保存期間は通常数週間から数ヶ月で上書きされるため、申入れが遅れると映像が失われるリスクがあります。送付は内容証明郵便を使い、控えは必ず手元に保管してください。
社内申告書は、提出後に会社から「受領した」という確認を書面でもらうことが理想です。難しい場合は提出時の状況をメモし、誰に渡したかを記録しておきましょう。申告後2週間を過ぎても会社から何の連絡もない場合は、労基署への申告や労働局へのあっせん申請に進む目安になります。
このセットの5点は、「①記録する→②証拠を保全させる→③社内で申告する→④行政機関に申告する→⑤第三者による解決を求める」という流れに沿って設計されています。全部を同時に使う必要はなく、状況に応じて必要なものから使い始めてください。弁護士や社会保険労務士への相談資料としても活用できます。
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