【1】書式概要
この示談書は、会社の新設分割が債権者の利益を害する詐害行為として認定された場合に、債権者と新設会社との間で損害賠償責任を明確化し、紛争を円満に解決するための専門的な契約書雛形です。
企業の事業再編や会社分割において、既存の債権者が不利益を被る可能性がある場合、民法第424条に基づく詐害行為取消権が行使されることがあります。このような状況では、新設会社側が争うよりも適切な賠償を行って早期解決を図る方が、企業経営上も費用対効果の観点からも有利な選択となることが多いのです。
本書式は、そうした場面で活用できる実務的な雛形として作成されており、損害賠償金額の確定から支払方法、遅延損害金の取り決めまで、紛争解決に必要な条項を網羅的に盛り込んでいます。特に企業法務担当者や弁護士、司法書士の方々にとって、クライアントへの迅速な対応を可能にする実用性の高いツールとなっています。
Word形式で提供されているため、個別の事案に応じた条項の修正や追加が容易に行えます。当事者名や金額、日付等の具体的な情報を入力するだけで、すぐに使用できる実践的な書式として設計されています。
【2】条文タイトル
- 第1条(詐害行為取消権の行使の確認)
- 第2条(損害賠償)
- 第3条(支払方法)
- 第4条(遅延損害金)
- 第5条(清算条項)
- 第6条(費用負担)
- 第7条(協議条項)
- 第8条(管轄裁判所)
【3】逐条解説
第1条(詐害行為取消権の行使の確認)
この条項では、債権者が行使した詐害行為取消権について、新設会社が争わないことを明確にしています。通常、詐害行為取消権の行使を受けた側は、詐害性の有無や取消の要件について争うことが多いのですが、ここでは新設会社側が争わない旨を確認することで、長期化しがちな紛争を早期に収束させる効果を持ちます。例えば、親会社が経営難に陥った際に、優良事業部門だけを新設会社に移転させたようなケースでは、この条項により新設会社が責任を認めることで、債権者との関係修復にも寄与することができます。
第2条(損害賠償)
新設会社が損害賠償責任を負うことを明文化した核心的な条項です。詐害行為取消権が行使された場合、通常は原状回復が求められますが、実際の事業運営では原状回復が困難な場合も多く、金銭による損害賠償で解決を図ることが実務上は一般的です。具体的には、債権者が回収できなくなった債権額や、取消権行使に要した費用等が賠償の対象となります。
第3条(支払方法)
損害賠償金の具体的な支払方法と期限を定めています。振込送金による支払いを原則とし、手数料負担についても明記することで、後日の紛争を防止しています。支払期限を明確にすることで、新設会社側の履行義務を確実にし、債権者側の権利保護を図っています。
第4条(遅延損害金)
支払いが遅れた場合の遅延損害金について規定しています。現在の法定利率は年3%ですが、当事者間で合意すればこれを上回る利率を設定することも可能です。この条項があることで、新設会社側の期限内履行に対するインセンティブを強化し、確実な債権回収を促進します。
第5条(清算条項)
この示談書で定めた事項以外には、当事者間に債権債務関係がないことを確認する条項です。これにより、将来的な追加請求を防止し、紛争の蒸し返しを回避することができます。例えば、示談成立後に新たな損害が発覚したとしても、この条項により追加請求は原則として認められなくなります。
第6条(費用負担)
示談に関して発生した費用(弁護士費用、交通費、印紙代等)について、各自が負担することを定めています。これは一般的な示談書の条項であり、一方当事者に過度な負担を強いることなく、公平な解決を図る趣旨です。
第7条(協議条項)
示談書の内容について疑義が生じた場合の解決方法を定めています。まずは当事者間での協議による解決を試みることで、再度の法的紛争を回避し、円満な関係維持を図ることができます。実務上は、この条項により多くの解釈上の問題が当事者間の話し合いで解決されています。
第8条(管轄裁判所)
万が一、協議による解決が困難な場合に備えて、管轄裁判所を予め定めています。専属的合意管轄とすることで、どちらの当事者も他の裁判所に訴訟を提起することができなくなり、紛争解決の場を一本化することができます。通常は、当事者のいずれかの本店所在地を管轄する地方裁判所を指定することが多いです。
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