【1】書式概要
この契約書は、企業がデザイン制作会社やフリーランスのデザイナーに継続的に業務を発注する際の基本的な取り決めを定めた書式です。プロダクトデザイン、広告制作、ブランディング支援といった創作性の高い業務を外部委託する場面で威力を発揮します。
特に注目すべきは、改正民法に完全対応している点です。債権法改正により変更された契約ルールを踏まえ、現代のビジネス環境に即した内容となっています。知的財産権の帰属や著作者人格権の扱いについても明確に規定しており、後々のトラブルを未然に防ぐ工夫が随所に施されています。
実際の使用場面としては、新商品のパッケージデザイン依頼、企業ロゴの制作、販促物の継続的な制作委託、ブランドコンサルティング業務の長期契約などが挙げられます。一度この基本契約を締結しておけば、個別の案件ごとに詳細な契約書を作成する手間が大幅に削減され、スムーズな業務進行が可能になります。
Word形式で提供されているため、自社の実情に合わせた条文の修正や追加が容易です。契約当事者の情報、管轄裁判所、具体的な業務内容などを適宜カスタマイズして使用できます。
【2】条文タイトル
第1条(目的) 第2条(委託業務の内容) 第3条(業務の遂行) 第4条(再委託の禁止) 第5条(納期) 第6条(検収) 第7条(対価の支払い) 第8条(知的財産権) 第9条(成果物の所有権) 第10条(秘密保持) 第11条(個人情報の取扱い) 第12条(反社会的勢力の排除) 第13条(契約期間) 第14条(解除) 第15条(損害賠償) 第16条(不可抗力) 第17条(権利義務の譲渡禁止) 第18条(契約の変更) 第19条(完全合意) 第20条(分離可能性) 第21条(準拠法) 第22条(管轄裁判所) 第23条(協議解決) 特約条項 第1条(同一性保持権) 第2条(コンペ時の作品データの取扱い)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条文は契約全体の基本的な枠組みを示しています。単発の業務委託ではなく、継続的な取引関係を前提とした「基本契約」であることを明確にしています。実際の業務は個別契約で詳細を定めることになります。
第2条(委託業務の内容)
委託する業務の範囲を具体的に列挙しています。プロダクトデザイン、広告制作、コンサルティングという主要業務に加え、「その他合意した業務」として将来の業務拡張にも対応しています。たとえば、当初は商品パッケージのデザインのみを想定していても、後にウェブサイトデザインや展示会ブースデザインなども追加できる柔軟性があります。
第3条(業務の遂行)
受託者の基本的な義務を定めています。「誠実に遂行」という表現は改正民法で明文化された信義則の具体化です。また、「デザイン経営」という現代的な概念を盛り込み、単なる作業の実行ではなく、委託者の企業価値向上への貢献を求めています。
第4条(再委託の禁止)
デザイン業務の性質上、受託者の個人的な技能や感性が重要な要素となるため、原則として再委託を禁止しています。ただし、印刷業務や撮影業務など一部の作業については事前承認により再委託が可能です。
第5条(納期)
納期については個別契約で定めることとし、遅延の可能性がある場合の早期通知義務を課しています。デザイン業務では修正作業が発生しやすいため、事前の相談体制を整えることで円滑な進行を図っています。
第6条(検収)
委託者による検収期間を14日と定めています。この期間は改正民法の趣旨に沿って、受託者の予見可能性を高める配慮がなされています。瑕疵があった場合の修正請求権についても明記しています。
第7条(対価の支払い)
支払い条件を詳細に規定しています。検収完了後30日以内という支払期限は、改正民法で新設された「支払期限の明確化」の要請に対応しています。振込手数料の負担者も明記することで、後々の争いを防いでいます。
第8条(知的財産権)
デザイン業務において最も重要な条文の一つです。著作権が委託者に帰属することを明確にし、著作者人格権の不行使についても規定しています。第三者の権利侵害に対する保証条項も含まれており、包括的な知的財産権保護を図っています。
第9条(成果物の所有権)
物理的な成果物の所有権移転時期を対価支払完了時と定めています。これにより、支払いが完了するまでは受託者が所有権を保持し、担保的な効果を持たせています。
第10条(秘密保持)
相互の秘密保持義務を定めています。契約終了後3年間の存続期間を設けることで、十分な保護期間を確保しています。デザイン業務では新商品の企画情報など機密性の高い情報を扱うことが多いため、重要な条文です。
第11条(個人情報の取扱い)
個人情報保護法の遵守義務を明記しています。消費者向け商品のデザインでは顧客データを扱う場面もあり、適切な管理体制の構築を求めています。
第12条(反社会的勢力の排除)
コンプライアンス体制の強化を図る条文です。表明保証条項と併せて、違反時の無催告解除権を定めています。上場企業や大手企業では必須の条項となっています。
第13条(契約期間)
1年間の契約期間とし、自動更新条項を設けています。継続的な取引関係を前提とした業務委託契約では一般的な仕組みです。
第14条(解除)
債務不履行による解除権を定めています。改正民法では催告が原則不要となりましたが、この契約では相当期間を定めた催告を前置しており、契約関係の維持に配慮した内容となっています。
第15条(損害賠償)
契約違反に基づく損害賠償責任を定めています。改正民法では損害賠償の範囲について新たな規定が設けられており、それに対応した条文構成となっています。
第16条(不可抗力)
天災等の不可抗力による履行遅延・不能時の免責条項です。新型コロナウイルスのような感染症拡大も想定した包括的な規定となっています。
第17条(権利義務の譲渡禁止)
契約上の地位や権利義務の譲渡を禁止しています。デザイン業務では受託者の個人的な技能が重要であり、無断での譲渡を防ぐ必要があります。
第18条(契約の変更)
契約内容の変更には書面による合意を必要とする条文です。口約束によるトラブルを防ぐ効果があります。
第19条(完全合意)
この契約書が当事者間の完全な合意を構成することを確認する条文です。従前の口頭合意等に優先することを明記しています。
第20条(分離可能性)
一部の条項が無効となっても、契約全体の効力に影響しないことを定めています。契約の安定性を確保する重要な条文です。
第21条(準拠法)
日本法の適用を明記しています。国際取引でない限り、通常は日本法が適用されますが、明示することで明確化を図っています。
第22条(管轄裁判所)
専属的合意管轄を定めています。地方裁判所名は当事者の所在地等に応じて適宜変更する必要があります。
第23条(協議解決)
契約に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の協議解決を定めています。訴訟に至る前の話し合いによる解決を促進する条文です。
特約第1条(同一性保持権)
著作者人格権の一つである同一性保持権の不行使を定めています。デザイン制作では、委託者が事業上の必要に応じて改変を行う場合があり、それを予め承諾してもらう重要な条文です。
特約第2条(コンペ時の作品データの取扱い)
デザインコンペ実施時の知的財産権の取扱いを定めています。採用されなかった作品の著作権は受託者に残し、データの廃棄義務を委託者に課すことで、公正なコンペ運営を担保しています。
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