【1】書式概要
この書式は、ストーカー行為や執拗な付きまとい被害に遭われている方が、加害者に対して行為の即時中止を求めるための正式な警告文書です。元交際相手からの復縁要求、職場や学校での待ち伏せ、SNSでの執拗な連絡、自宅周辺での監視行為など、日常生活の平穏を脅かす迷惑行為に悩まされている状況で使用します。
この文書には、被害の具体的な内容を時系列で記録できる欄が設けられており、電話やメール、LINEなどの連絡回数、待ち伏せや尾行の日時と場所、監視していることを告げる発言など、あらゆる迷惑行為を詳細に記載できる構成になっています。単なる「やめてください」という簡単な警告ではなく、ストーカー規制法や刑法の具体的な条文を引用しながら、相手の行為が法律違反であることを明確に伝える内容となっています。
実際に警察へ被害届を出す前段階として、あるいは弁護士に相談する際の資料として活用できるよう、証拠保全の項目や損害賠償請求の予告、刑事告訴の可能性まで盛り込んだ包括的な内容です。相手に「このまま続ければ警察や裁判所が関与することになる」という強いメッセージを伝えることで、行為の自主的な中止を促す効果が期待できます。
Word形式で提供されているため、ご自身の被害状況に合わせて自由に編集が可能です。日時や場所、具体的な行為内容、被害の程度など、空欄になっている箇所に実際の情報を入力するだけで、すぐに使用できる実用的な書式となっています。弁護士に依頼する費用を抑えたい方や、まずは自分で対応してみたいという方にとって、心強い味方となる文書です。
【2】解説
なぜこの警告書が必要なのか
ストーカー被害や付きまとい被害に遭っても、警察に相談すると「まずは相手に明確な拒否の意思を伝えてください」と言われることがあります。この警告書は、そうした拒否の意思を書面で残すための道具です。口頭での注意と違い、内容証明郵便で送ることで「いつ、どのような警告をしたか」が公的に記録され、後の手続きで重要な証拠になります。
第1:付きまとい行為等の具体的内容
この部分が警告書の核心です。「なんとなく怖い」といった曖昧な表現ではなく、具体的な日時・場所・行為を記録します。たとえば「令和6年4月15日午後7時30分頃、自宅マンション前で待ち伏せされ、断ったのに△△駅まで15分間尾行された」のように、第三者が読んでも状況が分かる記載を心がけます。
複数回の被害がある場合は、できるだけ多く記載してください。「継続的」「反復」している事実を示すことで、ストーカー規制法の要件を満たしやすくなります。SNSの連絡も「1日平均20通、合計300通。ブロック後も別アカウントを作成」など、執拗さが伝わる書き方が効果的です。
第2:法的根拠および違法性
ストーカー規制法違反
相手の行為が単なる迷惑ではなく、法律で禁止された犯罪であることを示します。「つきまとい等」には8つの類型があり、①つきまとい・待ち伏せ・見張り、②監視の告知、③面会要求、④粗野な言動、⑤無言電話・連続メール、⑥汚物送付、⑦名誉毀損的告知、⑧性的羞恥心侵害、が該当します。
これを「恋愛感情やその怨恨」から「特定の者に」「反復」して行うと「ストーカー行為」となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。元交際相手が「やり直したい」と毎日職場前で待ち伏せするケースは典型例です。
刑法上の犯罪該当性
行為によっては他の犯罪も成立します。住居侵入罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)はマンション敷地内への無断侵入、脅迫罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)は「家族に危害を加える」などのメッセージ、名誉毀損罪(3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)はSNSでの悪評流布などが該当します。
民事上の不法行為
刑事罰とは別に、民法709条に基づく損害賠償請求も可能です。慰謝料、防犯対策費用、通院費用、弁護士費用などを請求できます。被害の程度や期間により数十万円から数百万円になることもあり、特に長期間の被害や精神疾患の発症、転居を余儀なくされた場合は高額になる傾向があります。
第3:警告および要求事項
即時中止を求める行為
今後禁止する行為を9項目で具体的に列挙し、相手に「グレーゾーン」を与えません。「連絡しないで」だけでは「会いに行けばいい」と解釈されかねないため、あらゆる接触手段を網羅的に禁止します。
特に重要なのが「家族、友人、職場関係者等への接触禁止」です。本人への接触を禁じられた加害者が、周辺人物を通じて間接的に接触を試みるケースは実際に多いため、この点も明確に禁止しておきます。
誓約書の提出要求
7日以内の誓約書提出を求めるのは、相手に本気度を示すとともに、書面での約束を取り付けるためです。提出されれば「問題を認識し今後は行わない」という証拠になり、提出されなければ「警告を無視した」という記録になります。
第4:法的措置の予告
刑事手続
警察への被害届、ストーカー規制法に基づく警告申出、禁止命令の申出、刑事告訴など、段階的な手続きを明示します。警察の警告を受けてもなお行為を続けた場合、公安委員会は禁止命令を出せます。これに違反すると2年以下の懲役または200万円以下の罰金という重い刑罰が科されます。
民事手続
接近禁止の仮処分は、裁判所に「加害者は被害者から○○メートル以内に近づいてはならない」という命令を出してもらう手続きです。正式な裁判より迅速なため緊急時に有効です。損害賠償請求では、慰謝料のほか防犯カメラ設置費用、引っ越し費用、通院費用、弁護士費用なども請求できます。
具体的な賠償額を記載することで、相手に経済的リスクを認識させる効果があります。実際の金額は被害の程度や継続期間、悪質性などを総合的に考慮して決定されます。
第5:証拠の保全
相手に「全て記録されている」というプレッシャーを与え、同時に警察や裁判所への準備が整っていることを示します。ストーカー被害では証拠が決定的に重要です。日時・場所・内容の記録、写真・動画、電話着信履歴、メール・SNSのスクリーンショット、目撃者情報、医師の診断書などを日頃から収集・保存しておくことが不可欠です。
第6:本警告書の取扱い
内容証明郵便での送付により「いつ、誰が、誰に、どのような内容を送ったか」が郵便局に記録されます。配達証明付きなら「相手が受け取った日時」も証明できます。後日「受け取っていない」と言われても送達の事実を証明できます。
警告書の写しを警察や裁判所に提出する旨を明記することで、「公的機関も把握する」というプレッシャーを与えます。
第7:最終警告
「これは最後の警告」と明確に伝え、「次はない」というメッセージを送ります。「良識ある判断と対応を期待」という表現は、相手の自尊心に訴えかけつつ「まだ引き返すチャンスがある」と伝える効果もあります。
代理人弁護士の記載
弁護士名が入ることで警告の法的重みが増し、「本気で法的手続きに移行する準備ができている」と認識させます。現時点で弁護士に依頼していなくても、この警告書を持参すれば弁護士への相談がスムーズに進みます。
添付書類
証拠資料を整理して添付することで説得力が高まります。オリジナルは手元に残し、送付するのはコピーにしてください。証拠資料目録では「別紙2:メール記録(令和○年○月○日~○月○日、計○○通)」のように整理すると、「膨大な証拠がある」という印象を与えられます。
【3】活用アドバイス
送付前の準備が成功の鍵
この警告書を送る前に、必ず以下の準備を整えてください。まず最も重要なのは、警察への相談です。いきなり警告書を送ってしまうと、相手が逆上して危険な状況になる可能性もゼロではありません。事前に最寄りの警察署の生活安全課に相談し、「これから警告書を送ろうと思っているのですが」と伝えておくことで、警察にも状況を把握してもらえます。
証拠集めも徹底的に行ってください。警告書に記載する被害内容は、できるだけ具体的で詳細である必要があります。曖昧な記憶で書くのではなく、日記やメモ、スクリーンショット、録音データなどの客観的な証拠に基づいて記載しましょう。証拠が多ければ多いほど、警告書の説得力は増します。
弁護士への相談も検討してください。費用が心配な方は、自治体の無料法律相談や法テラスの利用を検討してみましょう。弁護士の助言を受けた上で警告書を送ることで、より効果的な対応が可能になります。
内容証明郵便での送付は必須
この警告書は必ず「内容証明郵便・配達証明付き」で送付してください。普通郵便やメールで送ってしまうと、後日「受け取っていない」と言われた時に証明できません。内容証明郵便は全国の主要な郵便局で取り扱っており、手数料は数千円程度です。
内容証明郵便を出す際は、同じ内容の文書を3部用意する必要があります(相手に送る分、郵便局が保管する分、自分が保管する分)。郵便局の窓口で係員が内容を確認し、日付入りの印を押してくれます。配達証明を付けておけば、相手が受け取った日付も証明されます。
送付先の住所は正確に記載してください。間違った住所に送ってしまうと、警告の効力が疑問視される可能性があります。相手の現住所が不明な場合は、探偵に依頼したり、住民票の取得を検討する必要があるかもしれません。
空欄の埋め方のコツ
この書式には多くの空欄がありますが、できるだけ具体的に埋めることが重要です。「令和○年○月頃」ではなく「令和6年4月15日」と日付まで特定できればベストです。「数回」ではなく「少なくとも20回以上」のように数字で示せれば、被害の深刻さが伝わります。
場所の記載も具体的に。「駅の近く」ではなく「○○駅東口改札前」「○○線△△駅南側ロータリー」のように、第三者が地図で特定できるレベルまで書けると良いでしょう。
被害内容の記載では、相手の言動を具体的に引用することも効果的です。「『別れるなんて認めない』『お前を監視している』と言われた」のように、実際に言われた言葉を記載することで、相手の意図や悪質性が明確になります。
送付後の対応が重要
警告書を送った後、相手から何らかの反応があるかもしれません。電話やメールで反論してきたり、謝罪してきたり、あるいは逆上して脅迫めいた連絡をしてくることもあります。どのような反応があっても、直接対応せず、必ず記録を取ることが重要です。
相手から連絡があった場合、電話には出ず、メールやLINEも既読にせずスクリーンショットだけ取って保存します。「警告書を送ったのに連絡してきた」という事実自体が、警告を無視したという新たな証拠になります。
もし誓約書が送られてきた場合は、その内容をよく確認し、原本を大切に保管してください。これは相手が「問題を認識し、今後は行わないと約束した」という重要な証拠です。
逆に誓約書も送られてこず、行為も止まらない場合は、予告どおり警察への被害届提出や弁護士への正式な依頼を検討する時期です。警告書を送ったという事実があれば、警察も本腰を入れて対応してくれる可能性が高くなります。
自分の安全を最優先に
警告書を送ることで相手が逆上し、より危険な行動に出る可能性も完全には否定できません。特に暴力的な傾向がある相手の場合は、警告書送付前に必ず警察に相談し、場合によっては一時的に避難することも検討してください。
自宅の防犯対策も強化しましょう。防犯カメラの設置、鍵の交換、玄関のチェーンロック追加など、物理的な安全確保も重要です。外出時は人通りの多い道を選び、できるだけ一人で行動しないようにします。
家族や友人、職場の上司にも状況を説明し、協力を求めることをお勧めします。「もし不審な人物が訪ねてきても対応しないでほしい」「私あての電話や郵便物に注意してほしい」など、具体的なお願いをしておくと良いでしょう。
【4】この文書を利用するメリット
法的に有効な警告ができる
この文書の最大のメリットは、法律の専門知識がなくても、法的に有効な警告を相手に送ることができる点です。ストーカー規制法の条文を正確に引用し、刑法上の犯罪該当性も指摘し、民事上の損害賠償請求の可能性まで網羅した内容になっているため、「これ以上続けると本当にまずい」という強いメッセージを伝えられます。
弁護士に一から依頼すると、警告書の作成だけで数万円から十数万円の費用がかかることもあります。この書式を使えば、そうした費用を大幅に抑えながら、プロレベルの警告書を作成できます。もちろん、重大な案件では弁護士への相談をお勧めしますが、「まずは自分で対応してみたい」という方には非常に有効な選択肢です。
証拠として使える
警告書を内容証明郵便で送付することで、「いつ、どのような警告をしたか」という客観的な記録が残ります。これは後日、警察に被害届を出す際や、裁判所に訴えを起こす際に、非常に重要な証拠となります。
「何度も口頭で注意したのに聞いてくれなかった」と言っても、証拠がなければ証明は困難です。しかし内容証明郵便で送った警告書があれば、「私はここまで明確に、書面で、法的根拠を示して警告しました。それでも相手は行為を止めませんでした」という事実を証明できます。
警察は「民事不介入」の原則があり、恋愛のもつれなどには積極的に介入したがらない傾向があります。しかし「正式な警告書を送ったのに無視された」という客観的事実があれば、警察も動きやすくなります。
心理的な抑止効果が期待できる
多くのストーカー行為や付きまとい行為は、加害者自身が「これは犯罪だ」という認識を持っていないケースも少なくありません。「愛情表現の一環」「話せば分かってもらえるはず」といった歪んだ認識を持っていることがあります。
この警告書では、相手の行為が具体的にどの法律に違反するのか、どのような刑罰が科される可能性があるのか、損害賠償はいくらになるのかを明示します。こうした情報に直面することで、「このまま続けると本当に逮捕されるかもしれない」「多額の賠償金を請求されるかもしれない」という現実的な恐怖を感じさせ、行為を思いとどまらせる効果が期待できます。
特に「禁止命令違反で2年以下の懲役」「損害賠償○○万円」といった具体的な数字は、心理的インパクトが大きいです。
自分の気持ちを整理できる
ストーカー被害に遭っている方の多くは、「自分の考えすぎかもしれない」「相手を警察に訴えるほどのことではないかも」と自分を責めてしまいがちです。しかし、被害内容を文章にして整理する過程で、「これは明らかに異常な行為だ」「私は被害者だ」という認識が明確になります。
警告書の作成は、単なる相手への通告だけでなく、自分自身の心の整理にも役立ちます。「私は何も悪くない。悪いのは相手だ」という認識を持つことは、精神的な回復の第一歩となります。
また、具体的な行動を起こすことで、「ただ耐えているだけ」という無力感から脱却できます。「自分の身は自分で守る」という主体性を取り戻すことは、心理的な回復にとって非常に重要です。
周囲の理解と協力を得やすくなる
家族や友人、職場の上司に「ストーカー被害に遭っている」と口頭で説明しても、なかなか深刻さが伝わらないことがあります。しかし、この警告書を見せることで、被害の具体的な内容や法的な深刻さを客観的に理解してもらえます。
「こんな詳細な警告書を送らなければならないほど深刻な状況なんだ」と分かってもらえれば、周囲の協力も得やすくなります。職場であれば警備体制の強化や出退勤時の同行、来客対応の厳格化など、具体的な対策を講じてもらいやすくなります。
家族には避難計画や緊急連絡体制について相談しやすくなりますし、友人には「しばらく一人で外出しないようにするから付き添ってほしい」といったお願いもしやすくなります。警告書という客観的な資料があることで、「大げさに騒いでいるわけではない」という理解が得られるのです。
記録を残す習慣が身につく
この警告書を作成する過程で、「いつ、どこで、何があったか」を詳細に記録する重要性を実感できます。この習慣は警告書送付後も継続すべきです。万が一相手が警告を無視して行為を続けた場合、「警告後もこれだけの違反行為があった」という追加の証拠を積み重ねることができます。
記録を残すことは、精神的な意味でも重要です。「自分は何も対策を取れずにただ耐えているだけ」という無力感から、「きちんと対応し、証拠を積み重ねている」という主体性の回復につながります。
費用対効果が高い
弁護士に警告書の作成から送付まで依頼すると、数万円から十数万円の費用がかかることも珍しくありません。この書式を使えば、そうした費用を大幅に抑えられます。浮いた費用を防犯カメラの設置や、いざという時の弁護士相談費用に充てることもできます。
もちろん、被害が深刻な場合や複雑な案件では最初から弁護士に依頼すべきですが、「まずは自分でできることをやってみたい」という方にとって、この書式は非常にコストパフォーマンスの高い選択肢となります。
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