【1】書式概要
転質権設定契約書は、すでに質権が設定されている物件を対象として、さらに別の債権者に転質権を設定する際に使用する契約書です。この契約書が必要になるのは、例えば個人や企業が美術品や貴金属などの動産を担保として第三者から借入を行っている状況で、その質権者がさらに別の相手に対する債務を担保するために、既存の質権を転質として提供するケースです。
実際の使用場面として、貴金属商や美術商が顧客から預かった商品に質権を設定しており、その質権者が別の金融業者から資金調達を行う必要が生じた際に活用されます。また、個人間の金銭貸借においても、借り手が既に設定している質権を利用して追加の資金調達を行う場合に重宝します。特に最近では、コレクターズアイテムや芸術作品を担保とした資金調達のニーズが高まっており、こうした場面での転質権設定が増加傾向にあります。
この契約書は2020年4月施行の改正民法に完全対応しており、従来の契約書では対応できない新しい規定もカバーしています。代物弁済の規定や清算義務の詳細な定めなど、実務で必要となる条項が網羅的に盛り込まれているため、トラブル防止の観点からも安心してご利用いただけます。
金融業務に携わる方はもちろん、動産を扱う事業者の方々にとっても、適切な担保設定を行うための必須ツールとなっています。
【2】条文タイトル
第1条(被担保債権の確認)
第2条(転質権設定の合意)
第3条(原質権の内容に対する保証等)
第4条(質物の引渡し)
第5条(被担保債務)
第6条(保管義務)
第7条(質物の処分)
第8条(清算義務)
第9条(合意管轄)
【3】逐条解説
第1条(被担保債権の確認)
この条項では、転質権設定の前提となる債務関係を明確化します。借入日、借入額、利率、返済期日といった基本的な債務内容を記載することで、後日の紛争を防止する効果があります。例えば、100万円を年利5%で借り入れ、1年後に返済するという具体的な条件を明記することで、当事者間の認識のズレを防げます。
第2条(転質権設定の合意)
転質権設定の核心部分を定めた条項です。債務者が第三者に対して有している質権の目的物について、債権者に転質権を設定することを合意します。美術品や骨董品など、具体的な物件を特定して記載することが重要です。「山田太郎作『春の風景』と題する油絵」といった具体的な記載例が考えられます。
第3条(原質権の内容に対する保証等)
転質権の基礎となる原質権の内容を確認する条項です。被担保債権額や返済期日を明記することで、転質権者が原質権の範囲を把握できます。例えば、原質権の被担保債権が500万円で返済期日が来年3月末日というように、具体的な金額と期日を記載します。
第4条(質物の引渡し)
質権の効力発生には物件の引渡しが必要であることを踏まえた条項です。転質権者が現実に質物を占有することで、第三者に対する対抗力を取得します。引渡しの事実を契約書に明記することで、占有開始時点を明確化できます。
第5条(被担保債務)
転質権によって担保される債務の範囲を定めた条項です。元本債務だけでなく、質権実行費用や保存費用も含むことで、債権者の負担を軽減します。実際の事例では、質物の保険料や保管場所の賃料なども保存費用に含まれることがあります。
第6条(保管義務)
転質権者の質物保管責任を定めた条項です。善管注意義務を明記することで、質物の価値維持に対する責任を明確化します。美術品であれば適切な温湿度管理、貴金属であれば盗難防止措置など、物件の性質に応じた管理が求められます。
第7条(質物の処分)
債務不履行時の質物処分方法を定めた重要条項です。任意売却と代物弁済の両方を規定することで、市況に応じた柔軟な対応が可能になります。代物弁済価額の事前合意により、処分時の評価争いを防止できる点も実務上有用です。
第8条(清算義務)
質物処分後の清算手続きを定めた条項です。余剰金の返還期限と不足金の支払期限を具体的に定めることで、処分後の手続きをスムーズに進められます。例えば30日以内という期限設定により、当事者の予測可能性を高めています。
第9条(合意管轄)
紛争解決のための管轄裁判所を事前に定めた条項です。地理的利便性や専門性を考慮して管轄を選択することで、紛争解決の効率化を図れます。商事関係であれば東京地裁や大阪地裁を選択するケースが多く見られます。