【1】書式概要
この書式は、賃貸住宅を退去した際に家主から敷金が返還されない場合に使用する正式な請求書類です。アパートやマンションなどの賃貸物件から引っ越しをした後、本来返還されるべき敷金が戻ってこないという問題は、実は多くの賃借人が直面する深刻なトラブルの一つです。
2020年4月に施行された改正民法では、賃借人の原状回復義務について明確な規定が設けられ、通常の使用による損耗や経年変化については賃借人が負担する必要がないことが法律上はっきりと定められました。しかし、この法改正が行われたにも関わらず、未だに敷金の返還を渋る家主や管理会社が存在するのが現実です。
この通知書は、そうした状況に置かれた賃借人が家主に対して敷金の全額返還を求める際に使用します。単なる口約束ではなく、書面による正式な請求を行うことで、後の交渉や法的手続きにおいて重要な証拠となります。特に、退去時の立会いが済んでいるにも関わらず長期間敷金が返還されない場合や、不当な原状回復費用を請求される場合などに威力を発揮します。
この書式を使用することで、家主に対して法的根拠を明示しながら返還を求めることができ、多くの場合、訴訟に発展する前の段階で問題解決につながります。内容証明郵便として送付すれば、より一層効果的な請求が可能になります。
【2】解説
冒頭部分(日付・宛先・差出人)
通知書の基本的な体裁を整える部分です。正式な請求書類として成立させるためには、発信者と受信者の特定が不可欠です。実際の使用時には、家主の正確な氏名と住所を記載することが重要で、登記簿謄本などで確認しておくと良いでしょう。
賃貸借契約の概要説明部分
契約開始日、退去日、解約日を明記することで、賃貸借関係の存在とその終了を客観的に示しています。ここで重要なのは、適切な退去予告を行い、正式な立会いを経て物件を明け渡したという事実の記載です。これにより、賃借人としての義務を適切に履行したことを主張できます。
物件の表示部分
不動産を特定するための必須事項です。所在地、家屋番号、構造などを詳細に記載することで、対象物件を明確に特定します。実際には登記事項証明書や賃貸借契約書に記載された情報をそのまま転記することになります。
敷金と賃料支払いの確認部分
敷金の預託額と最終月の賃料支払い完了を明記しています。この記載により、金銭的な義務も適切に履行していることを示し、敷金返還請求の正当性を裏付けます。例えば、敷金20万円を預けて最後まできちんと家賃を払ったのに返してもらえない、といった状況での使用が想定されます。
通常損耗の主張部分
改正民法第621条を根拠として、通常の使用による損耗や経年変化については原状回復義務がないことを明確に主張しています。壁紙の日焼けや畳の擦り切れ、フローリングのワックス剥がれなどは通常損耗に該当し、賃借人が費用負担する必要がないという法的根拠を示しています。
特約の否定部分
賃貸借契約に特約条項がないことを明記することで、通常損耗についても賃借人負担とする取り決めが存在しないことを主張しています。仮に特約があったとしても、消費者契約法により無効となる可能性が高いという背景があります。
返還遅延の事実指摘部分
建物明け渡し後に相当期間が経過しているにも関わらず敷金が返還されていない事実を指摘し、家主の義務不履行を明確にしています。一般的に、退去後1か月程度で敷金精算が行われるのが通常ですので、それを大幅に超える期間が経過している場合の根拠となります。
具体的請求と期限設定部分
明確な期限を設けて敷金全額の返還を請求し、応じない場合の法的措置についても言及しています。通常は7日から14日程度の期限を設定することが多く、これにより家主に対してプレッシャーをかけることができます。
振込先口座の指定部分
返還方法を具体的に指定することで、家主が返還に応じやすい環境を整えています。口座情報を正確に記載することで、スムーズな返還処理が可能になります。