【1】書式概要
この健康情報取扱規程は、企業が従業員の健康に関する情報を適切に管理するために欠かせない社内規程のテンプレートです。近年、働き方改革や従業員の健康経営への関心が高まる中、企業には従業員の心身の健康状態に関する情報を適切に取り扱う責任が求められています。
この規程は、労働安全衛生法の改正に完全対応しており、健康診断結果やストレスチェックの結果、面接指導の記録など、業務上知り得た従業員の健康情報をどのように収集し、保管し、活用すべきかを明確に定めています。また、個人情報保護法との整合性も図られており、従業員のプライバシーを守りながら、企業の安全配慮義務を適切に履行することができます。
実際の使用場面としては、新入社員の健康診断実施時、ストレスチェック後の高ストレス者への対応、長時間労働者への面接指導、病気休職者の職場復帰支援、治療と仕事の両立支援など、日常的な人事労務管理の様々な局面で活用されます。特に人事部門や産業医、管理職の方々にとって、どこまでの健康情報にアクセスできるのか、どのような手続きが必要なのかが一目で分かる実用的な内容となっています。
【2】逐条解説
第1条(目的)の解説
この条文は規程全体の根幹を成すもので、なぜこの規程が必要なのかを明確にしています。労働安全衛生法に基づく健康確保措置の実施と、企業の安全配慮義務の履行という二つの大きな柱を掲げています。例えば、従業員が定期健康診断で異常所見が見つかった場合、会社はその情報を適切に管理し、必要に応じて就業制限や配置転換などの措置を講じる必要があります。この条文により、そうした対応の根拠が明確になります。
第2条(健康情報)の解説
健康情報の定義を別表に委ねることで、具体的で詳細な内容を整理しています。これにより、何が健康情報に該当するのかが一目瞭然となります。曖昧な定義では現場で混乱が生じやすいため、明確な基準を示すことが重要です。
第3条(健康情報の取扱い)の解説
健康情報の取扱いを「収集」「保管」「使用」「加工」「消去」の5段階に分けて定義しています。特に「加工」の概念が重要で、例えば健康診断の詳細な数値をそのまま人事部に伝えるのではなく、産業医が「就業上配慮が必要」といった形で加工して伝達することを想定しています。これにより、必要最小限の情報共有が実現できます。
第4条(健康情報を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報の範囲)の解説
この条文は実務上最も重要な部分の一つです。誰がどの健康情報にアクセスできるかを詳細に規定しています。例えば、産業医は全ての健康情報にアクセス可能ですが、直属の上司は加工された必要最小限の情報のみにアクセスできるといった具合に、役職や職種に応じた権限の違いを明確にしています。
第5条(健康情報を取り扱う目的等の通知方法及び本人同意の取得方法)の解説
従業員への透明性確保と同意取得のプロセスを定めています。法令に基づく健康診断は本人同意なしに実施できますが、企業が独自に追加する検査項目については本人同意が必要になります。例えば、法定の健康診断に加えて腫瘍マーカー検査を実施する場合は、事前に従業員の同意を得る必要があります。
第6条(健康情報の適正管理の方法)の解説
情報セキュリティの観点から、健康情報の適切な管理方法を包括的に規定しています。物理的セキュリティとして施錠可能な場所での保管、技術的セキュリティとしてアクセス制限やパスワード管理などを求めています。また、情報漏洩が発生した場合の対応手順も明確にしており、迅速な報告と適切な対応を求めています。
第7条(健康情報の開示、訂正等及び使用停止等)の解説
従業員の権利保護を図る重要な条文です。従業員が自分の健康情報の開示を求めた場合の対応方法を詳細に定めています。ただし、開示により本人や第三者に害が及ぶ可能性がある場合は、開示を拒否できる規定も設けています。例えば、精神的な不調により開示が本人の病状悪化につながる恐れがある場合などが該当します。
第8条(健康情報を第三者に提供する場合の取扱い)の解説
健康情報の外部提供に関する厳格なルールを定めています。原則として本人同意が必要ですが、個人情報保護法で同意が免除される場合の例外も規定しています。例えば、労災事故が発生し、労働基準監督署から健康情報の提供を求められた場合などは、本人同意なしに提供できる場合があります。
第9条(第三者から健康情報の提供を受ける場合の取扱い)の解説
外部から健康情報を受け取る際の確認事項と記録保存義務を定めています。例えば、転職者が前職での健康診断結果を持参した場合、その情報が適切に取得されたものかを確認し、記録を残す必要があります。
第10条(事業承継、組織変更に伴う健康情報の引継ぎに関する事項)の解説
企業の合併や分割の際の健康情報の取扱いを規定しています。承継前と承継後で利用目的が変わる場合は、改めて従業員の同意を得る必要があります。例えば、A社がB社を買収した際、A社がB社従業員の健康情報を新たな目的で利用する場合は、従業員への説明と同意取得が必要です。
第11条(健康情報の取扱いに関する苦情の処理)の解説
従業員からの苦情に対する対応窓口と処理体制を明確にしています。健康情報は極めてセンシティブな情報であるため、取扱いに関する不満や疑問が生じやすく、適切な相談窓口の設置が重要です。
第12条(取扱規程の従業員への周知の方法)の解説
規程の周知方法を具体的に定めています。社内掲示やイントラネット、メールなど複数の手段を用意することで、確実な周知を図っています。また、退職者への配慮も含めており、丁寧な対応が求められています。
第13条(教育・啓発)の解説
健康情報の適切な取扱いには、関係者の理解と意識向上が不可欠です。定期的な研修の実施により、健康情報保護の重要性を浸透させることを求めています。
第14条(その他)の解説
規程の主管部署を明確にすることで、運用上の責任体制を整備しています。通常は人事部門が主管することが多いですが、企業の組織体制に応じて適切な部署を指定します。
第15条(見直し)の解説
年1回の定期見直しと必要に応じた随時見直しを規定しています。法改正や企業の組織変更、新たな健康課題の発生などに対応するため、継続的な見直しが重要です。
第16条(実施日)の解説
規程の施行日を明確にする条文です。準備期間を考慮して適切な実施日を設定し、関係者への周知期間を確保することが重要です。