【1】書式概要
この契約書は、都市計画事業や道路拡幅工事などの公共事業により建物の取り壊しが決定している場合に使用する専用の賃貸借契約書です。通常の賃貸契約とは異なり、借地借家法第39条に基づく特別な取り扱いが適用され、契約期間が明確に制限されています。
不動産オーナーや管理会社が、取り壊し予定の建物を有効活用したい場面で重宝します。例えば、再開発地区内の建物や道路拡幅予定地の物件を、取り壊しまでの間だけ賃貸に出すケースです。また、テナント側も短期間の営業拠点や仮店舗として利用する際に活用できます。
改正民法に完全対応しており、敷金の取り扱いや原状回復義務についても最新の規定を反映しています。Word形式なので、物件情報や契約条件を簡単に編集・カスタマイズできます。不動産取引の実務経験豊富な専門家が作成したテンプレートで、契約トラブルを未然に防ぐ工夫が随所に盛り込まれています。
【2】条文タイトル
- 第1条(本件建物の特定と賃料の支払い)
- 第2条(賃貸期間)
- 第3条(使用目的)
- 第4条(敷金)
- 第5条(善管注意義務)
- 第6条(修繕等)
- 第7条(転貸等)
- 第8条(本件建物の全部ないし一部滅失)
- 第9条(解除)
- 第10条(損害賠償)
- 第11条(本件建物の返還・原状回復)
- 第12条(必要費・有益費の償還)
- 第13条(合意管轄)
- 第14条(協議)
【3】逐条解説
第1条(本件建物の特定と賃料の支払い)
この条項では賃貸する建物の詳細情報と賃料について定めています。所在地、家屋番号、構造、床面積といった物件の基本情報を明記し、月額賃料と支払期日を設定します。特に重要なのは第4項で、借地借家法第30条(正当事由による解約制限)の適用除外を明文化している点です。これにより、通常の賃貸借では貸主側の都合による解約が困難ですが、取り壊し予定建物という特殊事情により、予定された取り壊し時期での確実な契約終了が可能になります。
第2条(賃貸期間)
契約期間を明確に区切る条項です。取り壊し予定日までの期間限定契約であることを明示し、万が一取り壊しが遅れた場合の対応も規定しています。例えば、道路拡幅工事の遅延により予定していた6か月の契約が延長される可能性もありますが、その場合でも当事者間の合意があれば柔軟に対応できる仕組みになっています。ただし、最終的には取り壊し実施をもって契約が終了する点は変わりません。
第3条(使用目的)
建物の使用用途を限定する条項です。住宅用途、事務所用途、店舗用途など、具体的な利用目的を記載欄に明記します。短期間の契約とはいえ、近隣への影響や建物の性質を考慮した適切な用途制限は欠かせません。例えば、住宅地域内の建物を騒音を伴う工場として使用することは認められません。
第4条(敷金)
改正民法に対応した敷金条項です。従来の慣行的な取り扱いから、敷金の性質と返還義務を明文化しています。賃料滞納や原状回復費用などの債務担保として預かる金銭であることを明確にし、契約終了時の返還手続きも詳細に規定しています。短期契約でも敷金設定により、貸主のリスクヘッジが図れます。
第5条(善管注意義務)
借主に課される基本的な管理義務です。「善良な管理者の注意」という民法上の概念を契約に明記し、通常の注意を払った建物管理を求めています。取り壊し予定とはいえ、契約期間中は適切な維持管理が必要です。
第6条(修繕等)
建物の修繕責任について貸主と借主の役割分担を定めています。原則として貸主が修繕義務を負いますが、小修繕については借主負担とする実務的な取り決めです。取り壊し予定建物の場合、大規模修繕は現実的でないため、必要最小限の修繕にとどめる運用が一般的です。
第7条(転貸等)
建物の使用方法変更、原状変更、転貸・譲渡について事前承諾を求める条項です。短期契約であっても、貸主の知らないところで建物の利用状況が変わることは避けなければなりません。例えば、事務所として借りた建物を無断で飲食店に変更したり、第三者に又貸しすることは禁止されています。
第8条(本件建物の全部ないし一部滅失)
火災や自然災害、公共事業による建物の滅失・損傷時の取り扱いを定めています。建物が使用不能になった場合の契約終了や、一部損傷時の賃料減額について詳細に規定しています。取り壊し予定建物という性質上、予期せぬ事情による早期の使用不能も想定した条項です。
第9条(解除)
契約違反時の解除事由を包括的に列挙しています。無催告解除事由と催告解除事由を分けて規定し、特に反社会的勢力の排除条項も盛り込んでいます。賃料滞納や無断転貸など、一般的な違反行為から、破産手続きや信用状態悪化まで幅広くカバーしています。
第10条(損害賠償)
契約違反による損害賠償請求権を定めています。過失責任主義に基づき、違反当事者に責任がない場合の免責条項も設けています。短期契約でも、損害が発生した場合の救済手段は確保されています。
第11条(本件建物の返還・原状回復)
契約終了時の建物返還と原状回復義務について、改正民法の規定を反映して明文化しています。通常損耗や経年劣化は借主負担から除外し、故意・過失による損傷のみを原状回復対象とすることで、従来の曖昧な慣行を是正しています。
第12条(必要費・有益費の償還)
建物の維持管理費用と改良費用の負担関係を明確化しています。必要費は貸主が即座に償還する一方、有益費については取り壊し予定という特殊事情を踏まえて償還義務を免除しています。短期契約で大規模改良を行う合理性がないことを踏まえた実務的な判断です。
第13条(合意管轄)
契約に関する紛争の管轄裁判所を指定しています。当事者間で事前に管轄を合意することで、紛争時の手続きを明確化し、迅速な解決を図ります。
第14条(協議)
契約に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の解決方法を定めています。まずは当事者間の協議による円満解決を目指す条項で、訴訟前の話し合いによる解決を促進します。
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