【1】書式概要
この書式は、職場で発生した事故により従業員が後遺障害を負った際に、雇用主と被災者の間で損害賠償に関する合意を取り交わすための契約書です。労働現場での怪我や事故は予期せず発生するものですが、その後の対応が適切でないと企業と従業員双方にとって大きな負担となってしまいます。
本テンプレートは、実際の示談交渉が成立した後に正式な合意内容を文書化する際に使用します。特に後遺障害が残るような重篤な労働災害の場合、将来にわたる医療費や逸失利益、精神的苦痛に対する適正な補償について明確に取り決めておくことが重要です。製造業の機械事故、建設業での転落事故、運送業での交通事故、介護施設での腰痛悪化など、様々な業種で発生する可能性があります。
この書式はWord形式で提供されており、具体的な事故内容、損害額、支払条件などを自由に編集・カスタマイズできます。企業の人事・総務担当者、社会保険労務士、弁護士などの専門家が実務で活用することを想定しており、労災保険給付との関係や税務上の取扱いについても配慮した内容となっています。適切な示談書を作成することで、将来的なトラブルを未然に防ぎ、双方が納得できる解決を図ることができます。
【2】条文タイトル
第1条(事故の発生及び責任の確認) 第2条(傷害の内容及び治療経過) 第3条(損害の範囲及び算定根拠) 第4条(示談金額の確定) 第5条(示談金の支払方法) 第6条(遅延損害金) 第7条(後遺症の悪化及び新たな症状の発現) 第8条(労災保険給付との関係) 第9条(所得税等の取扱い) 第10条(受領書の交付) 第11条(清算条項) 第12条(秘密保持義務) 第13条(契約違反に対する措置) 第14条(不可抗力免責) 第15条(再発防止措置) 第16条(合意管轄) 第17条(準拠法) 第18条(契約の成立及び効力発生) 第19条(契約の変更及び解釈)
【3】逐条解説
第1条 事故の発生及び責任の確認
この条項では、労働災害の発生事実と企業側の責任を明確にします。労働契約法第5条に基づく安全配慮義務違反を認めることで、後々の争いを避ける効果があります。例えば、製造現場で安全装置の点検を怠ったことが原因で従業員が機械に巻き込まれた場合、企業はこの義務を怠ったことを認めることになります。責任の所在を曖昧にしたまま示談を進めると、後で「実は企業に過失はなかった」といった主張が出てくる可能性があるため、最初にしっかりと確認しておくことが大切です。
第2条 傷害の内容及び治療経過
被災者がどのような怪我を負い、どこの病院でいつまで治療を受けたかを記録します。症状固定日と後遺障害等級の認定も重要なポイントです。例えば、高所からの転落により腰椎圧迫骨折を負い、1年間の治療の結果、後遺障害等級12級が認定されたといった具体的な情報を記載します。この内容が損害賠償額の算定根拠となるため、医師の診断書や後遺障害認定書類と整合性を保つ必要があります。
第3条 損害の範囲及び算定根拠
賠償すべき損害の種類と計算方法を定めます。治療費、休業損害、後遺障害による逸失利益、慰謝料、交通費などが含まれ、詳細は別紙の損害計算書で示されます。例えば、年収500万円の営業職が手指の機能障害により営業活動に支障が出た場合、将来にわたる収入減少分を逸失利益として算定します。この条項により、なぜその金額になったのかが明確になり、双方の納得感が高まります。
第4条 示談金額の確定
最終的な賠償金額を明記する重要な条項です。消費税相当額についても記載することで、税務上の取扱いを明確にします。例えば、総額3000万円の示談金のうち、慰謝料部分は非課税ですが、逸失利益部分には所得税が課される可能性があるため、内訳を明確にしておくことが重要です。
第5条 示談金の支払方法
支払期限、振込先、手数料負担などの実務的な取り決めです。通常は契約締結から30日以内程度の期限を設定します。例えば、被災者が生活費に困っている場合は支払期限を短縮したり、分割払いの合意をする場合もあります。振込手数料は企業負担とするのが一般的で、被災者に余計な負担をかけない配慮が必要です。
第6条 遅延損害金
支払が遅れた場合のペナルティを定めます。年利率は通常3-6%程度が設定されることが多く、企業の資金繰りが悪化した場合でも被災者の権利を保護する仕組みです。例えば、1000万円の示談金の支払が30日遅れた場合、年5%であれば約4万円の遅延損害金が発生することになります。
第7条 後遺症の悪化及び新たな症状の発現
示談後に症状が悪化したり、事故との関連性が後から判明した症状が現れた場合の対応を定めます。例えば、脳外傷により当初は軽微な症状だったものが、数年後に高次脳機能障害の症状が顕在化した場合などが該当します。医師の診断に基づき追加の治療費を企業が負担することで、被災者の将来的な不安を軽減できます。
第8条 労災保険給付との関係
労災保険から支給される給付と民事上の損害賠償は別物であることを明確にします。例えば、労災から治療費や休業補償が支給されていても、それとは別に企業から慰謝料や逸失利益の一部を受け取ることができます。この条項により、「労災でもらっているから示談金は不要」といった誤解を防げます。
第9条 所得税等の取扱い
示談金の税務上の処理について定めます。慰謝料部分は通常非課税ですが、逸失利益部分は所得税の対象となる可能性があります。例えば、2000万円の示談金のうち1000万円が慰謝料、1000万円が逸失利益の場合、逸失利益部分については被災者が確定申告で所得として申告する必要があります。
第10条 受領書の交付
示談金の支払完了を証明する受領書の交付を定めます。これにより支払の事実が明確になり、後で「受け取っていない」といったトラブルを防げます。受領書には支払日、金額、振込先などを記載し、被災者の署名押印をもらうのが一般的です。
第11条 清算条項
この示談により当事者間の債権債務関係がすべて清算されることを確認します。これにより、後から追加の請求をされるリスクを回避できます。ただし、第7条で定めた症状悪化の場合は除外されるため、完全に清算されるわけではない点に注意が必要です。
第12条 秘密保持義務
示談内容の秘密保持について定めます。企業にとっては風評被害の防止、被災者にとってもプライバシー保護の観点から重要です。ただし、税務申告や専門家への相談など、正当な理由がある場合は例外として開示が認められます。
第13条 契約違反に対する措置
企業が示談金の支払などの義務を履行しない場合の対応手順を定めます。いきなり訴訟を起こすのではなく、まず書面で催告し、相当期間を設けて履行を求めることで、円満な解決を図ります。
第14条 不可抗力免責
地震や台風などの天災により履行が困難になった場合の免責事由を定めます。例えば、大規模災害により企業の事業所が被災し、一時的に示談金の支払が困難になった場合などが該当します。ただし、災害の影響が収まれば履行義務は復活します。
第15条 再発防止措置
企業が同種の事故の再発防止に努めることを約束します。これは被災者の心情的な満足感を高めるとともに、企業の社会的責任を明確にする意味があります。具体的な安全対策の実施により、職場環境の改善も期待できます。
第16条 合意管轄
紛争が生じた場合の裁判所を事前に決めておきます。通常は企業の本店所在地または被災者の住所地の地方裁判所を指定することが多く、当事者の利便性を考慮して決定します。
第17条 準拠法
契約の解釈について日本国法に従うことを明確にします。国際的な要素がある場合に重要になりますが、国内の労働災害では形式的な意味合いが強い条項です。
第18条 契約の成立及び効力発生
双方の署名押印により契約が成立し、効力が発生することを定めます。また、契約書を2通作成し、当事者が各1通を保有することで、後の証拠保全も図れます。
第19条 契約の変更及び解釈
契約内容の変更は双方の書面合意によってのみ可能とし、口約束による変更を防ぎます。また、解釈に疑義が生じた場合は当事者間の協議で解決を図り、一部条項が無効になっても契約全体の効力には影響しないことを定めています。
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