【1】書式概要
この退職合意書は、会社と従業員が雇用関係を円満に終了する際に使用する重要な書面です。特に外国人従業員や中国語を母語とする方との雇用契約を解除する場面で威力を発揮します。
現代の職場では、様々な事情により雇用関係を終了させる必要が生じることがあります。業績不振による人員削減、職場環境の変化、個人的な事情など、理由は多岐にわたりますが、いずれの場合も双方が納得できる形で退職手続きを進めることが重要です。この合意書は、そうした状況において会社と従業員の利益を調整し、後々のトラブルを防ぐための強力なツールとなります。
退職金の支払い条件、有給休暇の買取、守秘義務の確認、今後の関係性について明確に定めることで、双方が安心して新たなスタートを切ることができます。特に外資系企業や多国籍企業では、言語の壁が原因で意思疎通に齟齬が生じることも少なくありません。この書面は中国語と日本語の両方で記載されているため、内容の理解に関する誤解を防ぎ、透明性の高い退職手続きを実現します。
人事担当者の方々にとっては、退職面談から実際の手続き完了まで、一貫した対応ができる実用的なツールです。Word形式で提供されているため、会社の実情に合わせて条項を調整したり、金額や日付を入力したりすることが簡単にできます。また、労働基準監督署への提出書類作成時の参考資料としても活用できるでしょう。
【2】逐条解説
第1条(雇用契約の合意解約)
この条項は退職の基本的な枠組みを定めています。「合意解約」という表現により、一方的な解雇ではなく双方の同意に基づく円満な退職であることを明確にしています。具体的な退職日を記載することで、いつまで雇用関係が続くのかを明確にし、引き継ぎ期間の設定や後任者の準備に必要な時間を確保できます。
第2条(退職金の支払い)
退職金の具体的な金額と支払方法を定める重要な条項です。銀行口座への振込という方法を指定することで、現金手渡しによるトラブルを避けることができます。税金の控除についても明記されており、実際に従業員が受け取る金額を事前に把握できる仕組みになっています。例えば、退職金が100万円の場合、所得税や住民税を差し引いた実際の振込額を事前に計算して伝えることができます。
第3条(有給休暇の買い上げ)
未消化の有給休暇を金銭で買い取る条項です。労働基準法では有給休暇の買い上げは原則として禁止されていますが、退職時の未消化分については認められています。1日あたりの買取単価を明記することで、従業員は残りの有給日数に応じた金額を正確に把握できます。これにより、有給を無理に消化する必要がなくなり、円滑な業務引き継ぎが可能となります。
第4条(離職証明書の処理)
雇用保険の手続きにおける離職理由の取り扱いを定めています。「退職勧奨の受け入れ」として処理することで、従業員にとって失業給付の面で不利にならないよう配慮されています。これは会社側の一方的な都合による退職ではないことを示しつつ、従業員の今後の生活設計に配慮した内容となっています。
第5条(就労義務の免除と給料の支払い)
いわゆる「有給休職」の取り扱いを定めています。退職日までの期間中、実際には出勤しなくても給料を支払うという内容です。これにより従業員は次の転職先を探す時間を確保でき、会社側も職場の雰囲気を損なうことなく退職手続きを進められます。実務上は、重要な業務から徐々に外れていき、引き継ぎに専念できる環境を整えることになります。
第6条(守秘義務と誹謗中傷の禁止)
この合意書の内容や退職に至る経緯について、第三者への口外を禁止する条項です。また、双方が相手を悪く言わないことも約束しています。SNSが普及した現代では、元従業員による会社への批判的な投稿が企業イメージに大きな影響を与えることがあります。逆に会社側も元従業員について否定的な情報を流さないことで、業界内での評判を守ることができます。
第7条(会社による情報開示の制限)
会社が第三者に対して従業員の退職について説明する際のルールを定めています。転職活動中の面接で前職の退職理由を聞かれることは珍しくありませんが、この条項により会社は「円満退職」としか答えることができません。これにより従業員のキャリアに悪影響を与えることを防いでいます。
第8条(営業秘密・個人情報の返却と守秘義務)
会社の機密情報や顧客情報の取り扱いについて定めた条項です。退職時にすべての資料を返却することはもちろん、記憶に残っている情報についても退職後は第三者に漏らしてはならないとしています。特にIT関係や営業職では、システムのパスワードや顧客リストなど重要な情報を扱うことが多いため、この条項は非常に重要です。USBメモリやクラウドストレージに保存したデータも含めて、すべて削除・返却する必要があります。
第9条(債権債務の清算確認)
会社と従業員の間に、この合意書に記載された内容以外の金銭的な貸し借りがないことを確認する条項です。例えば、従業員が会社から前借りした給料がある場合や、逆に会社が従業員に対して経費の精算が残っている場合などは、この合意書締結前にすべて清算しておく必要があります。また、関連会社との関係も含めて包括的に清算を確認しています。
第10条(契約書の言語と優先順位)
この合意書が日本語と中国語で作成されていることを明記し、内容に齟齬がある場合は日本語版を優先することを定めています。翻訳の過程で微妙なニュアンスの違いが生じることがあるため、どちらを正式な内容とするかを事前に決めておくことでトラブルを防ぎます。
第11条(紛争解決の管轄裁判所)
万が一この合意書に関して争いが生じた場合の裁判所を指定しています。管轄裁判所を事前に決めておくことで、どこで裁判を行うかで争うことを避けられます。通常は会社の本店所在地を管轄する地方裁判所を指定することが多く、これにより会社側の対応負担を軽減できます。
|