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2025年3月25日

企業内意思決定プロセスと法務部の位置づけ:外部弁護士には見えない現実

企業内意思決定プロセスと法務部の位置づけ:外部弁護士には見えない現実

企業内意思決定プロセスと法務部の位置づけ:外部弁護士には見えない現実

はじめに

企業法務に携わって、日々奮闘する中で感じるのは、外部弁護士と企業内法務担当者の間には「見えない壁」があるということです。特に顕著なのが、企業内での意思決定プロセスと法務部の位置づけについての認識の違い。今日はこのテーマについて、実際の社内でのやりとりを再現しながら、企業内法務の実態をお伝えしたいと思います。

 

法的アドバイスが変容する瞬間

~とある製品発売前の最終会議にて~

 

事業部長: 「新製品のローンチまであと2週間だが、最終確認はどうだ?マーケティング資料は問題ないか?」

 

マーケティング部長: 「競合他社より優位性をアピールする表現を強めました。『業界No.1の性能』という表現も入れています。」

法務担当: 「その表現ですが、客観的データで裏付けられていますか?景品表示法上、優良誤認となるリスクがあります。表現の修正をお願いしたいのですが...」

 

事業部長: 「今から変えるのは難しい。印刷物は既に発注済みだし、Webサイトも準備完了だ。それに競合も似たような表現を使っているじゃないか。」

 

マーケティング部長: 「確かに絶対的な証明はないけれど、社内テストでは良い結果が出ています。法的リスクはどの程度なんですか?」

 

法務担当: 「消費者庁から措置命令を受けるリスクがあります。最悪の場合、課徴金も...」

 

事業部長: 「具体的に、過去に似たケースで処分を受けた例はあるのか?」

 

法務担当: 「この業界では直接の事例はありませんが...」

 

事業部長: 「わかった。では表現は維持しよう。ただし、社内テストのデータは必ず公開できるようにしておくこと。法務には申し訳ないが、ビジネスジャッジメントとして私が責任を取る。」

 

外部弁護士には見えない現実

 

こうした会話は企業内では日常的に繰り広げられています。法務担当者が外部弁護士から受け取るアドバイスは往々にして「それはリスクがあるのでやめるべきです」という明確なものです。しかし、企業内では法的リスクは事業判断における「一要素」に過ぎません。

 

外部弁護士から見えないのは、このようなリスク評価から最終判断に至るまでの「変換プロセス」です。法務の警告が:

 

  1. 事業部によって「どの程度のリスクなのか」と具体性を求められる
  2. コストや競争環境との比較衡量を経る
  3. 最終的に「誰が責任を取るのか」という判断に変換される

という流れです。

 

法務部の本当の役割

 

~翌日の法務部内ミーティングにて~

法務部長: 「昨日の会議の件、どう思う?」

 

法務担当: 「正直、もう少し主張すべきだったかもしれません。明らかにリスクがあるのに...」

 

法務部長: 「君のアドバイスは間違っていなかった。ただ、事業部長が『自分が責任を取る』と言った時点で、我々の役割は一旦終わるんだ。」

 

法務担当: 「でも、後で問題になったら...」

 

法務部長: 「そのためにしっかり議事録に残しておこう。ただ覚えておいてほしいのは、企業内法務の仕事は『リスクをゼロにすること』ではなく、『経営判断に必要な法的リスク情報を適切に提供すること』なんだ。最終判断は経営者や事業責任者が行う。それが企業の意思決定プロセスというものさ。」

 

法務担当: 「でも外部弁護士は...」

 

法務部長: 「外部弁護士は専門的見地から最も安全な道を示してくれる。それは非常に価値がある。でも、彼らには見えていない企業内の力学やビジネス判断の軸がある。我々の役割は、その両方を理解した上で架け橋になることなんだよ。」

 

まとめ:企業内法務の真価

 

企業内法務の真の価値は、単なる法的アドバイスの提供ではなく、法的リスクをビジネス言語に翻訳し、意思決定者が適切な判断を下せるよう支援することにあります。そして時には、自分のアドバイスが100%受け入れられないことを受容する度量も必要です。

 

外部弁護士の皆さんには、こうした企業内での「アドバイスの変容プロセス」を理解していただければ、より効果的なコラボレーションが可能になるでしょう。法的に完璧なアドバイスよりも、ビジネス現場で実行可能なアドバイスの方が、時に価値が高いこともあるのです。

 

そして企業内法務担当者の皆さんは、この「変換プロセス」の専門家として、法とビジネスの架け橋となる重要な使命を担っていることを誇りに思ってください。

 

本ブログは企業法務の現場で日々奮闘している法務部長の経験に基づいています。