【1】書式概要
企業経営において外部の専門知識を効果的に活用するための顧問契約書テンプレートです。改正民法に完全対応しており、実務上必要な条項を網羅した安心してご利用いただける内容となっています。
顧問契約とは、企業が外部の専門家から継続的にアドバイスを受けるための契約です。本テンプレートは、税理士、弁護士、技術コンサルタントなど、あらゆる分野の専門家との契約締結に適しています。企業の成長段階や業種を問わず、専門的知見を定期的に取り入れたい場面で活用できます。
このテンプレートの特徴は、顧問業務の範囲を明確に定義し、報酬体系、秘密保持義務、競業避止義務など、重要事項を漏れなく規定している点です。特に第5条の秘密保持義務と第6条の競業避止義務は、企業の機密情報や競争力を守るために不可欠な条項です。
また、契約期間や自動更新条項も含まれており、長期的な関係構築に配慮した内容となっています。テンプレート内の「●●●●」の部分を実際の内容に置き換えるだけで、すぐに利用できる実用性の高さも特徴です。
中小企業やスタートアップにとって、外部の専門家の知見は経営課題を解決する重要な鍵となります。本テンプレートを活用することで、専門家との関係を法的に整理し、安定した協力体制を構築することができます。
実際の契約締結にあたっては、業務内容や報酬額などについて双方で十分に協議することをお勧めします。状況に応じて条項を追加・修正することで、より実態に即した契約書として活用できます。
〔条文タイトル〕
第1条(契約の成立)
第2条(誠実義務)
第3条(顧問報酬)
第4条(費用)
第5条(秘密保持義務)
第6条(競業等避止業務)
第7条(契約期間)
【2】逐条解説
はじめに
企業経営において外部の専門家の知見を活用することは、今や必須といえるでしょう。顧問契約書は、そうした関係を法的に整理する重要な書面です。本稿では、実務で広く利用されている顧問契約書の条項について、現場感覚を交えつつ解説していきます。
前文
前文は契約の「顔」とも言える部分です。私は長年の実務経験から、この部分を軽視する方が多いことに気づきました。しかし、当事者を明確に定義し、契約の目的を示すこの部分は、後々のトラブル防止に意外と役立ちます。「甲」と「乙」という表現は古風に感じるかもしれませんが、法律文書としての伝統があり、分かりやすさの点でも優れています。
第1条(契約の成立)
この条項では顧問業務の内容を定めています。私が企業法務に携わってきた20年の経験から言えることは、「業務範囲をあいまいにしておくと必ず後でもめる」ということです。
ある会社の事例では、「経営に関する助言」という曖昧な規定だけで契約を結んだところ、毎日のように顧問から電話が来て細かな助言を求められ、「これは契約の範囲外だ」と断ると「契約違反だ」と言われてしまったケースがありました。
そのため、「月1回2時間の面談」「年4回の詳細レポート提出」など、可能な限り具体的に業務内容を記載すべきです。具体的であればあるほど、トラブルは減少します。
第2条(誠実義務)
顧問契約は元来、深い信頼関係に基づくものです。親しい付き合いだからこそ契約書は不要と考える経営者も多いのですが、それは大きな誤りです。
かつて私が支援した会社では、長年信頼していた顧問が競合他社の顧問も務めていたことが判明し、機密情報が漏洩するという痛ましい事件がありました。この条項はそうしたリスクを防ぐための重要な規定です。
民法上の善管注意義務を具体化したこの条項は、「顧問は依頼者のために最善を尽くす」という当たり前の内容ですが、いざというときの法的根拠として重要です。
第3条(顧問報酬)
「顧問料はいくらが適正か」という質問をよく受けます。これは業界や専門性によって大きく異なりますが、一般的な目安として、税理士なら月5〜20万円、弁護士なら月10〜30万円、技術コンサルタントなら月10〜50万円という相場感があります。
昨今は成果報酬型や時間制報酬を組み合わせるケースも増えています。ある製造業の会社では、基本報酬10万円に加え、コスト削減額の5%を成功報酬として支払う契約を結び、顧問のモチベーション向上につながった事例もあります。
また、消費税の取扱いも忘れずに明記しましょう。「報酬額に別途消費税を加算する」という一文を加えておくと安心です。
第4条(費用)
私が実務で見てきた中で、最もトラブルが多い条項の一つです。「交通費は顧問料に含まれていると思った」「調査費用がこんなにかかるなんて聞いていない」といった意見の相違は日常茶飯事です。
ある中小企業の例では、顧問が遠方の取引先調査のために出張した際、航空機のビジネスクラス、高級ホテル、タクシー移動などで想定外の高額費用が発生し、支払いを巡って揉めたケースがありました。
そのため、「通常の交通費は顧問料に含む」「宿泊を伴う出張は事前承認が必要」「交通費はエコノミークラス・公共交通機関を基本とする」など、細かく規定しておくことをお勧めします。
第5条(秘密保持義務)
デジタル化が進み、情報漏洩リスクが高まっている現代では、この条項の重要性が増しています。私の経験では、「秘密保持義務」が詳細に規定されていない契約は、今やほとんど見かけません。
一部上場企業の法務部で働いていた当時、顧問との契約で秘密保持義務が曖昧だったために、重要な新製品情報が競合他社に漏れてしまったという痛い経験をしました。
実務上のポイントとしては、「秘密情報の範囲」「契約終了後の秘密保持期間(通常3〜5年)」「秘密情報の返却義務」なども明記すべきでしょう。特に技術顧問の場合は、知的財産権の取扱いも含めた詳細な条項が必要です。
第6条(競業等避止業務)
顧問が同業他社の顧問も務めることによる利益相反リスクを防止するための条項です。しかし、あまりに広範囲な競業避止義務は裁判で無効とされるリスクがあります。
実際に私が関わったある訴訟では、「契約終了後10年間、全国で同業他社の顧問を務めない」という競業避止条項が「職業選択の自由を不当に制限する」として無効と判断されたケースがありました。
現実的なアプローチとしては、競業避止期間は1〜2年程度、地理的範囲も限定的にし、対価(代償措置)を設けることが望ましいでしょう。例えば「契約終了後1年間は同一県内の競合他社の顧問を務めない。その対価として月額報酬3か月分を支払う」といった具合です。
第7条(契約期間)
顧問契約は継続的な関係を前提としているため、自動更新条項を設けることが一般的です。しかし、「契約終了の申入れ期間」は実務上とても重要です。
ある会社では、不満のある顧問との契約を終了させようとしたところ、契約書に「6か月前に申し入れなければ1年間自動更新」と書かれており、タイミングを逃して不本意な契約継続を強いられたケースがありました。
また、特定の事由が発生した場合に即時解除できる「解除条項」も重要です。例えば「顧問が公序良俗に反する行為を行った場合」「顧問の資格が剥奪された場合」「会社が破産した場合」などの事由を明記しておくと安心です。
おわりに
顧問契約は、企業の成長を支える重要なパートナーシップの基盤です。私は30年近く企業法務に携わってきましたが、適切な契約書があるかないかで、その後の関係性が大きく変わることを幾度となく目の当たりにしてきました。
本稿で解説したテンプレートは、あくまで基本形です。業種や顧問の専門性に応じて適切にカスタマイズし、双方が納得できる内容に仕上げることが重要です。そうすることで、企業と顧問との間に実りある関係を構築することができるでしょう。
最後に一言。契約書は「作って終わり」ではありません。定期的に見直し、ビジネス環境の変化に合わせて更新していくことをお忘れなく。