第1条(被担保債権・根抵当権の設定)
この条項は契約の中核となる部分で、どのような債務を担保するのか、そしてその担保の設定方法について定めています。根抵当権は通常の抵当権と違って、現在ある債務だけでなく将来発生する可能性のある債務も含めて担保できる点が特徴です。
被担保債権として金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権が挙げられていますが、これは継続的な商取引でよく発生する債務類型を網羅したものです。例えば、建設会社が資材購入のために銀行から継続的に融資を受ける場合、その都度新しい担保を設定するのではなく、一度の根抵当権設定で将来の融資も含めてカバーできるわけです。
極度額は担保できる債務の上限を示しており、この金額を超える部分については担保の効力が及びません。元本確定日は根抵当権の変動性が止まる日付で、この日以降は新たな債務は担保されなくなります。
第2条(登記義務)
根抵当権を第三者に対抗するためには登記が不可欠です。この条項では、債務者が登記手続きに協力し、かつ登記費用も負担することを明確にしています。
実際の手続きでは、司法書士に依頼して登記申請を行うのが一般的です。登記費用には登録免許税(債権額の0.4%)や司法書士報酬などが含まれます。例えば、極度額1000万円の根抵当権であれば、登録免許税だけで4万円かかることになります。
債権者と債務者が共同で登記申請を行う必要があるため、債務者の協力義務を契約で明記しておくことは実務上重要なポイントです。
第3条(担保価値の保持)
担保となる不動産の価値が下がってしまうと、債権者にとって担保の意味がなくなってしまいます。この条項は、債務者が勝手に建物を改築したり、第三者に賃貸したりして担保価値を損ねることを防ぐ規定です。
具体的には、建物の構造を変える工事、長期の賃貸借契約の締結、建物の一部取り壊しなどが制限される行為に該当します。ただし、軽微な修繕や通常の維持管理は問題ありません。例えば、壁紙の張り替えや畳の交換程度であれば債権者の承諾は不要でしょう。
もし債務者がこれらの行為を行いたい場合は、事前に債権者から書面による承諾を得る必要があります。
第4条(追加担保の提供)
不動産が災害で損壊したり市況の変化で価値が下落したりした場合、当初設定した担保だけでは債権をカバーしきれなくなる可能性があります。この条項は、そうした事態に備えて追加の担保提供を義務付けるものです。
例えば、地震で建物が半壊した場合や、近隣に大型商業施設ができて住宅地の地価が下落した場合などが該当します。債務者は速やかに債権者に通知し、債権者の指示に従って新たな不動産や保証人などの追加担保を提供しなければなりません。
この仕組みにより、債権者は経済情勢の変化に関わらず、常に十分な担保を確保できることになります。
第5条(火災保険の設定)
建物が火災で焼失してしまうと担保価値がゼロになってしまうため、火災保険への加入は債権者にとって重要な関心事です。この条項では、保険加入義務だけでなく、保険金請求権に対する質権設定まで規定されています。
質権設定により、万が一火災が発生した場合、保険金は債務者ではなく債権者が直接受け取ることができます。そして受け取った保険金は債務の弁済に充当されることになります。例えば、3000万円の建物が全焼し、2000万円の保険金が支払われた場合、この2000万円は自動的に借金の返済に使われるわけです。
保険会社に対する質権設定承認請求書の提出も契約と同時に行うことで、確実に質権を設定できる仕組みになっています。
第6条(合意管轄)
契約をめぐって紛争が生じた場合の裁判所を事前に決めておく条項です。通常は、債権者の本店所在地を管轄する地方裁判所を指定することが多く、債権者にとって訴訟手続きを進めやすくする効果があります。
ただし、この合意管轄は第一審に限られるため、控訴審以降は通常の管轄ルールに従うことになります。また、債務者の住所地を管轄する裁判所での提訴も依然として可能です。
第7条(協議)
契約書に明記されていない事項や解釈に疑義が生じた場合の解決方法を定めた条項です。まずは当事者間での話し合いによる円満解決を目指すという、日本の商慣行に合った規定です。
この協議が調わない場合は、前条の合意管轄条項に基づいて裁判所での解決を図ることになります。実務的には、この協議条項があることで、軽微な疑問点については柔軟に解決できることが多いです。