【1】書式概要
この書式は、借金の返済に困った個人や法人が債権者と交渉を行い、返済条件を見直すために使用する任意整理の和解契約書です。借入金の返済が困難になった場合、債務者は自己破産や個人再生といった裁判所を通じた手続きを選択することもできますが、任意整理は債権者との直接交渉によって解決を図る方法として、多くの債務者に選ばれています。
この契約書の最大の特徴は、債権者側の協力的な姿勢を前提として、利息や損害金の支払いを免除し、元金のみを分割で返済することを約束する点にあります。通常の借入契約では、返済が滞ると高額な遅延損害金が発生し、債務者の負担がさらに重くなりがちですが、任意整理では債権者が一定の譲歩をすることで、現実的な返済計画を立てることができます。
実際の使用場面としては、個人事業主が事業資金の返済に行き詰まった場合、会社経営者が運転資金の調達で困窮した場合、あるいは一般の消費者が複数の借入れを抱えて返済が困難になった場合などが挙げられます。特に、債務者に一定の収入があり、元金については返済の見込みが立つものの、利息や損害金を含めた総額では返済が困難という状況で威力を発揮します。
改正民法に対応している点も重要なポイントです。民法の債権関係規定が大幅に見直されたことを受け、遅延損害金の取り扱いや契約条項の記載方法など、最新の規定に準拠した内容となっています。これにより、契約締結後のトラブルを未然に防ぎ、両当事者にとって安心できる合意形成が可能になります。
また、この書式では複数の債権者がいる場合を想定した停止条件が設けられています。債権者数と債務総額の両面で過半数以上の同意が得られることを条件とすることで、一部の債権者とだけ和解が成立し、他方で厳しい取立てが続くような事態を回避できます。これは実務上非常に重要な配慮であり、真の債務整理を実現するための仕組みといえるでしょう。
【2】条文タイトル
第1条(債務の確認)
第2条(一部免除)
第3条(分割支払)
第4条(期限の利益の喪失)
第5条(遅延損害金)
第6条(債権債務の確認)
第7条(本和解契約の効力発生要件)
【3】逐条解説
第1条(債務の確認)
この条項は、和解の前提となる債務の内容と金額を明確にする役割を果たします。借入元金、利息、損害金の三つに分けて記載することで、どの部分がいくらなのかを両当事者が正確に把握できるようになっています。実務では、長期間にわたる取引の中で債務額が不明確になることが少なくありませんが、この条項によって「現在の債務はこれだけです」という共通認識を作り出すことができます。たとえば、当初100万円借りた債務者が、3年間で元金50万円を返済したものの、延滞により損害金が30万円発生しているような場合、残元金50万円、利息10万円、損害金30万円といった具合に整理されます。
第2条(一部免除)
債権者の最大の譲歩ポイントがこの条項です。通常であれば債務者が支払うべき利息と損害金を全額免除することを約束しています。これは債権者にとって相当な負担軽減策であり、債務者の経済的更生を支援する意味合いが強く表れています。例えば総債務額が200万円で、そのうち元金が120万円、利息と損害金が80万円という状況であれば、債務者は80万円の支払い義務から解放されることになります。ただし、この免除は無条件ではなく、後続の条項で定められた分割支払いを確実に履行することが前提となっています。
第3条(分割支払)
現実的な返済計画の核心部分です。24回という分割回数は、債務者の返済能力と債権者の回収期間のバランスを考慮した設定といえます。毎月末日という支払期限を明記することで、債務者にとって予測可能で計画的な返済スケジュールが確立されます。振込手数料を債務者負担とする点も実務的な配慮です。具体例として、残元金120万円を24回で分割する場合、月額5万円の支払いとなり、債務者は2年間かけて完済することになります。銀行口座への送金という方法も、支払履歴が明確に残るため、後々のトラブル防止に役立ちます。
第4条(期限の利益の喪失)
分割支払いの約束を守らない場合のペナルティを定めた重要な条項です。「その総額が金●●万円に達したとき」という表現により、1回や2回の支払い遅延で直ちに一括請求されることを防ぎ、債務者に一定の猶予を与えています。
たとえば月5万円の支払いで、2回分の10万円が遅延基準額として設定されていれば、1回だけ支払いを忘れても即座に期限の利益を失うことはありません。しかし、2回連続で支払いを怠ると、残債務全額の一括返済義務が生じることになります。これは債権者にとっての最終的な保護措置といえるでしょう。
第5条(遅延損害金)
期限の利益を喪失した後の遅延損害金について規定しています。利率を年●.●パーセントと具体的に定めることで、後日の紛争を避けています。改正民法では遅延損害金の利率について新しい規定が設けられており、この書式もそれに対応した記載となっています。実際の運用では、例えば残債務が50万円で年利14.6%が設定されている場合、1年間の遅延で約7万3千円の損害金が発生することになります。債務者としては、期限の利益を失わないよう、計画的な返済を心がけることが極めて重要です。
第6条(債権債務の確認)
この契約以外に債権債務が存在しないことを相互に確認する条項です。将来的な紛争の芽を摘み取る効果があります。特に長期間の取引関係がある当事者間では、「他にも何か債務があるのではないか」「以前の取引で未処理の部分があるのではないか」といった疑念が生じがちですが、この条項によってそうした不安を解消できます。たとえば、過去に複数回の借入れや商取引があった場合でも、この和解契約ですべてを清算し、今後は新たなスタートを切ることができるのです。
第7条(本和解契約の効力発生要件)
複数の債権者がいる場合の調整を図る停止条件です。債権者数と債務総額の両方で過半数以上の同意を条件とすることで、実効性のある債務整理を実現しています。例えば、5社から総額500万円の借入れがある債務者の場合、3社以上、かつ250万円超の債務について和解が成立しなければ、この契約も効力を発生しません。
これにより、一部の債権者とだけ和解して他の債権者から厳しい取立てを受けるような中途半端な状態を避けることができます。債務者の真の再建を実現するための、実に実務的で配慮の行き届いた仕組みといえるでしょう。