【1】書式概要
この合意書は、本業と副業を同時に行う労働者が安心して働けるよう、労働時間の上限を明確に定めた実用的な書式です。働き方改革の一環で副業が推進される中、企業側も労働者側も労働時間の管理に頭を悩ませることが増えています。
特に2019年の労働基準法改正により、複数の職場で働く場合の労働時間は通算して管理する必要があり、上限規制を超えないよう細心の注意が求められます。本書式は、本業先企業、副業先企業、そして労働者本人の三者が事前に労働時間の配分を合意することで、後々のトラブルを防ぐ役割を果たします。
人事担当者が副業許可制度を導入する際、労働者が新たに副業を始める際、企業が副業人材を受け入れる際など、様々な場面で活用できる汎用性の高い書式となっています。月別の労働時間上限設定、割増賃金の計算方法、責任の所在まで網羅的にカバーしており、労働基準監督署への対応も念頭に置いた実践的な内容です。
【2】逐条解説
第1条(上限時間)
この条文は副業における労働時間の根幹を定めています。本業先と副業先それぞれで労働できる時間の上限を月別に設定し、合計で労働基準法の上限規制を超えないよう調整する仕組みです。例えば、本業で月80時間、副業で月40時間の上限を設定し、合計120時間以内に収めるといった具合です。労働者本人の同意も必要とすることで、一方的な押し付けを防いでいます。
第2条(他の就業先への通知)
労働時間が予定より多くなりそうな場合の早期警告システムを定めています。月の途中で上限から10時間を差し引いた時間を超えた段階で、もう一方の職場に通知することを義務付けています。これにより、月末になって突然上限オーバーが発覚するリスクを回避できます。実際の運用では、労働者が両方の職場に状況を報告する形になります。
第3条(上限時間の変更)
急な業務増加などで当初の予定時間では対応できない場合の調整メカニズムです。本業先が時間を増やしたい場合は副業先と協議し、副業側の時間を減らすことで全体の上限を維持します。例えば、決算期で本業の残業が増える場合、その分副業の時間を削減するといった調整が可能です。協議が整わない場合は元の合意内容に戻る安全装置も設けています。
第4条(割増賃金)
複数就業における割増賃金の複雑な計算方法を明確化しています。通常の1.25倍割増に加え、通算で月60時間を超える部分については1.5倍の割増を適用する規定です。重要なのは、それぞれの職場が自分の職場での労働分についてのみ割増賃金を支払えばよいという点です。深夜労働や休日労働については別途各職場の就業規則に従うことも明記されています。
第5条(刑事責任および民事責任)
労働基準法違反に対する責任の所在を明確にしています。それぞれの職場が自分で設定した上限時間を超えて労働させた場合のペナルティを確認する条文です。これにより、「相手の職場のせいで上限オーバーした」という責任逃れを防ぎ、各職場が自分の責任範囲を明確に認識できます。
第6条(解除)
合意の解除条件を定めています。本業先がいつでも理由を問わず合意を解除できる権利を認めています。これは本業先の経営判断の自由度を保つためで、副業を続けるかどうかの最終決定権を本業先に与えています。解除に伴う損害賠償責任は負わないことも明記されています。
第7条(管轄)
万が一紛争が生じた場合の裁判所を事前に決めておく条文です。通常は本業先企業の所在地を管轄する地方裁判所を指定することが多く、紛争解決の効率化を図っています。三者間の合意なので、どこの裁判所で争うかを明確にしておくことで、後々の混乱を避けられます。