【1】書式概要
この文書は、会社で働く社員が新しいビジネスアイデアを実現できるよう、会社がサポートする仕組みを整えるための規程テンプレートです。近年、優秀な人材の流出を防ぎ、社内に眠るアイデアを事業化するため、多くの企業が「社内起業制度」の導入を検討しています。しかし、いざ制度を作ろうとすると、応募資格はどう設定するか、支援内容はどこまで認めるか、知的財産の扱いはどうするかなど、決めるべき事項が山ほどあって頭を悩ませるものです。
このテンプレートは、そんな制度設計の負担を大幅に軽減します。応募から審査、事業実施、成功時の子会社化、失敗時の原職復帰まで、社内起業に関わる一連のプロセスを網羅的にカバーしているため、自社の状況に合わせて空欄を埋めたり条件を調整したりするだけで、実用的な規程が完成します。Word形式で提供されるため、パソコンで簡単に編集が可能です。
実際の使用場面としては、新規事業部門の立ち上げ時、人事制度の刷新時、イノベーション推進施策の一環として導入する際などが考えられます。また、優秀な社員が「起業したい」と退職を申し出た際に、社内でチャレンジできる道を示すことで引き留めに使うケースもあります。審査基準や支援内容が明文化されているため、制度の透明性が高まり、社員からの信頼も得やすくなるでしょう。専門的な知識がなくても、このテンプレートがあれば社内起業制度の骨格をしっかりと構築できます。
【2】条文タイトル
第1条(目的) 第2条(定義) 第3条(対象者の資格要件) 第4条(応募受付及び選考スケジュール) 第5条(事業提案書の記載事項) 第6条(所属長の承認) 第7条(審査委員会の設置及び組織) 第8条(審査の基準及び方法) 第9条(審査結果の通知及び再応募) 第10条(支援の内容及び条件) 第11条(雇用関係及び処遇の取扱い) 第12条(事業の実施期間及び進捗報告) 第13条(事業の評価及び継続の判断) 第14条(知的財産権の帰属及び対価) 第15条(事業の独立及び子会社化) 第16条(事業中止時の処理及び原職復帰) 第17条(秘密保持義務) 第18条(競業避止義務) 第19条(資金の管理及び返還義務) 第20条(成功報奨制度) 第21条(規程の改廃)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条文では、なぜ社内起業制度を設けるのかという根本的な理由を明らかにしています。従業員が持っている創造性や起業家マインドを会社の中で発揮してもらうことで、新しい事業分野に進出したり、競争力を高めたりすることが狙いです。例えば、営業部の社員が「自分の趣味のキャンプ経験を活かしてアウトドア用品のレンタル事業を始めたい」と考えたとき、会社を辞めずに挑戦できる道を用意することで、人材流出を防ぎつつ新規ビジネスを育てられるわけです。制度の目的を最初に書いておくと、後で判断に迷ったときの指針にもなります。
第2条(定義)
用語の意味をはっきりさせる条文です。社内起業制度とは何か、起業家社員とは誰のことか、新規事業とはどんな事業か、審査委員会とは何かを定めています。たとえば「新規事業」について、既存事業の単なる改善ではなく、全く新しい分野への挑戦や既存事業の抜本的な革新を指すと明確にすることで、「ちょっとした業務改善提案」と「本格的な新規事業提案」を区別できます。定義がしっかりしていると、後々の解釈の食い違いを防げます。
第3条(対象者の資格要件)
誰がこの制度に応募できるのかを決める条文です。勤続年数、懲戒処分歴の有無、人事評価、上司の承認といった条件を設定します。例えば入社3年以上の正社員に限定すれば、ある程度会社のことを理解した人だけが応募することになり、制度の濫用を防げます。また、複数人でチームを組んで応募する場合のルールも定めており、代表者だけでなくメンバーの過半数が正社員であることを求めるなど、柔軟な運用が可能です。
第4条(応募受付及び選考スケジュール)
年に何回応募を受け付けるか、いつからいつまでが応募期間か、審査にどれくらい時間をかけるかを定めます。年2回の定期募集にすることで、応募者も準備がしやすく、審査する側も計画的に対応できます。たとえば4月と10月に募集すれば、新年度や下半期のスタートに合わせて事業を始められて都合がいいでしょう。審査完了までの日数を明記しておけば、応募者も結果待ちの期間が分かって安心です。
第5条(事業提案書の記載事項)
提案書に何を書かなければいけないかを細かく指定する条文です。事業の概要、市場分析、競合状況、収支計画、リスク対策など、12項目もの記載事項が列挙されています。これだけ詳しく書かせることで、応募者自身が事業の実現可能性を深く考えるきっかけになりますし、審査する側も判断材料が揃います。例えば「なんとなく面白そう」というだけの思いつきではなく、市場データや収支の見通しまで示すことで、本気度が伝わる提案になるわけです。
第6条(所属長の承認)
提案書を提出する前に、直属の上司の承認を得ることを義務付ける条文です。これには二つの意味があって、一つは上司が部下の能力や現在の業務状況を把握しているので適性判断ができること、もう一つは後で「勝手に応募した」というトラブルを避けることです。たとえば繁忙期の真っ最中に重要プロジェクトを任されている社員が応募してきたら、上司が「今は時期が悪い」と判断して止めることもできます。承認・不承認の理由を書面で通知するルールにすることで、透明性も保たれます。
第7条(審査委員会の設置及び組織)
誰が事業提案を審査するのかを定める条文です。社長をトップに、人事、事業、財務の各担当役員、さらに社外の有識者も加えた委員会を作ります。多様な視点で審査できるのがポイントで、たとえば財務担当役員が「この収支計画は甘い」と指摘したり、社外の専門家が「この技術は実現可能だ」と太鼓判を押したりできます。委員長が社長なので、最終的な決定権も明確です。過半数の賛成で決まるというルールも分かりやすいですね。
第8条(審査の基準及び方法)
何を基準に合否を判断するかを8つの観点から示しています。新規性や実現可能性、収益性といったビジネス面だけでなく、起業家社員の熱意やリーダーシップ、社会的意義なども評価対象です。書類審査を通った人にはプレゼンの機会が与えられ、直接想いを伝えられます。例えば、書類上は平凡に見えても、プレゼンで圧倒的な情熱と具体的なビジョンを示せば評価が変わることもあるでしょう。必要に応じて追加資料を求められるのも、丁寧な審査をするためです。
第9条(審査結果の通知及び再応募)
合否の結果をどう伝えるか、不合格になった人がどうすればいいかを定めています。承認された場合は支援内容や開始予定日まで書面で通知されるので、すぐに準備に取りかかれます。不承認の場合も理由が示されるため、次回に向けて改善できます。ただし、同じような提案で何度も落ち続けると一定期間応募できなくなるルールがあり、これは審査負担の軽減と、起業家社員が別のアイデアを考えるきっかけになります。
第10条(支援の内容及び条件)
会社がどんな支援をしてくれるかを具体的に列挙した、起業家社員にとって最も気になる条文です。資金提供、本業からの免除、オフィススペース、メンター紹介、知的財産の利用許可、スタッフの配置など、6種類の支援が用意されています。例えば上限額の範囲内で数百万円の資金を受け取り、専用の作業スペースを無償で使い、社内の特許技術も活用できれば、かなり有利な条件でスタートできます。支援内容は事業ごとに個別調整されるので、柔軟性もあります。
第11条(雇用関係及び処遇の取扱い)
社内起業に挑戦している間も会社の社員であり続けることを確認する条文です。給料や福利厚生は基本的に維持されるので、生活の心配をせずに事業に集中できます。ただし業務免除の程度に応じて調整される可能性もあります。人事考課は新規事業の進捗で評価されるため、通常業務とは異なる基準が適用されます。例えばベテラン社員が社内起業に挑戦して失敗しても、その経験自体が評価されるような仕組みが考えられます。
第12条(事業の実施期間及び進捗報告)
事業にチャレンジできる期間と、定期的な報告義務を定めています。原則の実施期間を設けることで、いつまでもダラダラ続けることを防ぎます。ただし成果が出かけているなら延長も可能で、柔軟性があります。数ヶ月ごとの報告書提出が義務付けられており、活動内容、収支実績、顧客獲得状況、課題などを報告します。これにより会社側も進捗を把握でき、必要なアドバイスやサポートができます。報告書を書くこと自体が、起業家社員にとって振り返りの機会にもなるでしょう。
第13条(事業の評価及び継続の判断)
定期的に事業を評価して、続けるか中止するかを判断する仕組みです。マイルストーンの大幅な遅れ、収支の著しい悪化、目標未達、能力不足、法令違反、市場環境の激変などが中止の理由として挙げられています。例えば1年経っても全く顧客が獲得できず改善の見込みもないなら、早めに見切りをつけて起業家社員を元の仕事に戻す方が本人にとっても会社にとっても良いでしょう。中止決定には書面での通知と理由説明が求められ、公正な運用が担保されます。
第14条(知的財産権の帰属及び対価)
事業の中で生まれた発明やノウハウの権利は会社に帰属すると明記しています。起業家社員が会社のリソースを使って開発したものなので、これは妥当な取り決めです。ただし特許などを取得した場合は相応の報奨金が支払われるため、起業家社員のモチベーションも保たれます。例えば新しい製造方法を発明して特許を取れば、職務発明規程に基づいた対価がもらえるわけです。届出義務も定められており、知財の適切な管理につながります。
第15条(事業の独立及び子会社化)
事業が大成功した場合の出口戦略を示す、夢のある条文です。売上や利益などの基準をクリアすれば、子会社として独立できます。しかも起業家社員には一定割合の株式を取得する権利が与えられ、代表取締役に就任することも可能です。例えば年商5000万円を超えて黒字化し、顧客基盤も安定したら、自分が社長の会社を持てるわけです。ただし数年間は親会社が議決権の過半数を保有し、株式にも譲渡制限があるので、急な暴走は防げます。
第16条(事業中止時の処理及び原職復帰)
残念ながら事業が中止になった場合の扱いを定めています。指定された期日までに元の部署か別の部署に戻ることになりますが、基本的には降格や減給などの不利益な扱いは受けません。失敗を恐れずチャレンジできる環境を作るための配慮です。ただし本人の重大な過失や不正があった場合は別です。事業で得た経験を活かして会社に貢献することが期待され、決定に不服があれば異議申立てもできます。例えば「もう少し時間があれば成果が出た」と主張して再審査を求めることも可能です。
第17条(秘密保持義務)
事業を進める中で知った会社の機密情報を守る義務です。営業秘密、技術情報、顧客データなどを無断で外部に漏らしてはいけません。この義務は退職後も一定期間続くので、たとえ会社を辞めても簡単には情報を持ち出せません。事業に関する情報を対外発表する際も事前承認が必要で、例えばメディア取材を受ける前に広報部門の許可を取るといった運用になります。情報管理の徹底は会社の競争力を守るために欠かせません。
第18条(競業避止義務)
社内起業中や退職後に競合する事業をやってはいけないというルールです。会社のリソースや情報を使って学んだノウハウを、そのまま競合他社で使われたら困りますからね。一定期間は競合企業への転職や自分で競合事業を始めることが制限されます。違反すれば損害賠償を求められることもあります。例えば社内起業で飲食事業のノウハウを得た人が、すぐに退職して同じような飲食店を開業するのは認められないということです。
第19条(資金の管理及び返還義務)
支給された事業資金を適切に使い、きちんと報告する義務を定めています。領収書を保管して定期的に収支報告を出すことで、不正使用を防ぎます。虚偽報告や目的外使用、故意や重過失による失敗、勝手な事業放棄などがあった場合は、資金の返還を求められます。例えば事業資金を私的な用途に流用したり、嘘の報告をしたりすれば、当然全額返金です。ただし誠実に事業に取り組んで結果的に失敗した場合は返還不要なので、チャレンジしやすい仕組みになっています。
第20条(成功報奨制度)
頑張って成果を出した人にはボーナスを出すという、モチベーションを高める条文です。2年以内の黒字化で100万円、年商5000万円超えで300万円など、具体的な金額が示されています。これがあると「何としても黒字にしよう」「売上目標を達成しよう」という強い動機づけになります。審査委員会が独自に設定する基準もあるので、特に画期的な成果には特別報奨も期待できます。成果確認の翌々月に支給されるので、そんなに待たされることもありません。
第21条(規程の改廃)
この規程を変更したり廃止したりする手続きを定めています。取締役会の決議が必要とされており、勝手に変えられないようになっています。制度の安定性を保つための重要な条文です。
【4】活用アドバイス
このテンプレートを最大限に活用するには、いくつかのポイントを押さえておくと良いでしょう。
まず、空欄部分(__の箇所)は自社の規模や文化に合わせて慎重に設定してください。たとえば応募資格の勤続年数は、スタートアップなら1年程度、老舗企業なら3年以上といった具合に調整します。支援金額の上限も、数十万円から数千万円まで会社の財務状況次第です。あまり厳しすぎる条件にすると誰も応募しませんし、逆に緩すぎると制度が形骸化します。
次に、審査委員会のメンバー選びが制度の成否を分けます。形式的に役員を並べるだけでなく、実際に新規事業に理解がある人や、起業経験のある社外の専門家を入れると、質の高い審査ができます。また、事務局を担う人事部には、制度運用のノウハウを蓄積させることが大切です。
制度を導入する際は、社内への周知を丁寧に行いましょう。説明会を開いて具体的な応募方法や支援内容を伝えたり、過去の成功事例(他社事例でも可)を紹介したりすると、社員の関心が高まります。最初の募集で応募がゼロというのは避けたいところです。
運用が始まったら、定期的に制度を見直すことをお勧めします。附則にも書かれていますが、実際に使ってみると「この条件は厳しすぎる」「この支援が足りない」といった改善点が見えてきます。年に一度は運用状況をレビューして、必要に応じて規程を改定していきましょう。
最後に、失敗した事業についても学びを共有する文化を作ることが重要です。「失敗したら恥ずかしい」という雰囲気だと誰もチャレンジしません。失敗事例からの学びを社内で発表する機会を設けるなど、挑戦を称える風土づくりも並行して進めてください。
【5】この文書を利用するメリット
この規程テンプレートを使うことで得られるメリットは多岐にわたります。
第一に、制度設計の時間とコストを大幅に削減できます。ゼロから社内起業制度を作ろうとすると、他社事例の調査、社内ヒアリング、弁護士への相談など、膨大な労力がかかります。このテンプレートには必要な要素がすべて盛り込まれているため、空欄を埋めて微調整するだけで実用的な規程が完成します。早ければ数日で導入できるでしょう。
第二に、制度の透明性と公平性が確保されます。応募資格、審査基準、支援内容、成功報酬など、すべてが明文化されているため、「あの人だけ特別扱いされた」といった不公平感が生まれにくくなります。社員からの信頼を得やすく、制度の利用率向上にもつながります。
第三に、リスク管理がしっかりしています。知的財産権の帰属、秘密保持義務、競業避止義務、資金返還義務など、会社を守るための条項が網羅されています。これにより「社内起業で学んだノウハウを持ってすぐ独立された」「支給した資金が不適切に使われた」といったトラブルを未然に防げます。
第四に、優秀な人材の引き留めと育成に効果を発揮します。起業志向の強い社員に対して「会社を辞めずにチャレンジできる道」を示すことで、退職を防げます。また、仮に事業が失敗しても経営者的な視点を持った人材が社内に残るため、将来の幹部候補として期待できます。
第五に、新規事業創出の仕組みが組織に根付きます。一度この制度を整えれば、継続的に新しいアイデアが社内から湧き上がる土壌ができます。年2回の定期募集というサイクルも、社員に「次こそ応募しよう」というモチベーションを与え続けます。
最後に、社外へのアピール効果も見逃せません。「社内起業制度あり」は採用活動での大きなセールスポイントになります。特に優秀な若手人材は、自分のアイデアを実現できる環境を求めていますから、この制度があることで採用競争力が高まります。
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