【1】書式概要
この契約書は、企業が外部に研究開発業務を委託する際に必要となる機密情報の管理と保護を目的とした書式です。現代のビジネスシーンでは、新しい技術や製品の開発において、自社だけでは対応が困難な専門分野について外部の企業や研究機関に業務を依頼するケースが増加しています。
そうした場面において、委託する側の企業が持つ重要な技術データや営業秘密、顧客情報といった価値ある情報を相手方に開示する必要が生じます。しかし、これらの情報が適切に管理されずに外部に漏れてしまうと、企業にとって取り返しのつかない損失を招く可能性があります。
本書式は、そのようなリスクを防ぐために作成された実務的な契約書テンプレートです。IT関連のシステム開発、医薬品や化学製品の研究、製造技術の改良、新材料の開発など、幅広い業界で活用できる内容となっています。特に、バイオテクノロジー企業がCRO(開発業務受託機関)に臨床試験を委託する場合、製造業が技術コンサルタントに生産改善を依頼する場合、IT企業がシステム開発を外部ベンダーに発注する場合などに威力を発揮します。
Word形式で提供されているため、自社の業界や取引内容に応じて条文の修正や追加が容易に行えます。専門知識がない方でも、各条項の目的や内容が理解しやすいよう配慮された構成となっており、すぐに実務で使用することが可能です。
【2】条文タイトル
第1条(機密情報の定義) 第2条(機密情報の除外事項) 第3条(秘密保持義務) 第4条(機密情報の使用制限) 第5条(社内開示の制限) 第6条(関係者の管理責任) 第7条(第三者への開示許可) 第8条(機密情報の複製等の制限) 第9条(機密情報の管理体制) 第10条(機密情報の返還又は廃棄) 第11条(立入調査権) 第12条(契約違反に対する措置) 第13条(損害賠償) 第14条(契約期間) 第15条(一般条項)
【3】逐条解説
第1条(機密情報の定義)
委託会社が受託会社に開示する情報のうち、何が「機密情報」に該当するかを明確に定めた規定です。技術データや営業資料、顧客リストなど、ビジネス上重要な情報が幅広く対象となります。例えば、新薬開発において製薬会社が臨床試験機関に提供する化合物の構造式や試験プロトコル、製造業が外部コンサルタントに見せる生産ラインの詳細データなどが該当します。
第2条(機密情報の除外事項)
一般に公開されている情報や、受託会社が既に知っていた情報など、保護の対象外となる情報を列挙しています。これにより、不必要に広範囲な制約を課すことを避け、実務上の運用をスムーズにします。たとえば、業界の標準的な技術手法や、既に特許公報で公開されている技術内容は除外されます。
第3条(秘密保持義務)
受託会社が機密情報を第三者に漏らしてはならない基本的な義務を定めた中核条項です。この条項により、情報の外部流出を防ぐための基盤が築かれます。
第4条(機密情報の使用制限)
開示された機密情報を、委託された業務以外の目的で使用することを禁止しています。例えば、A社から受託した研究で得た技術情報を、B社向けの別プロジェクトで無断使用することは許されません。
第5条(社内開示の制限)
受託会社内であっても、業務に関わる必要のない人員には機密情報を見せてはならないという制限です。情報へのアクセス権限を最小限に絞り込むことで、漏洩リスクを低減させます。
第6条(関係者の管理責任)
受託会社が自社の従業員や協力会社に対して適切な管理を行う責任について定めています。単に契約書を締結するだけでなく、実際の管理体制まで求める実効性の高い規定です。
第7条(第三者への開示許可)
やむを得ず第三者に情報を開示する必要が生じた場合の手続きを定めています。事前承諾と秘密保持契約の締結を求めることで、情報管理のチェーン構造を維持します。
第8条(機密情報の複製等の制限)
資料のコピーや電子データの複製について制限を設けています。デジタル化が進んだ現代において、データの複製による拡散リスクを抑制する重要な規定です。
第9条(機密情報の管理体制)
単に「管理しなさい」というだけでなく、具体的な安全管理措置やアクセス記録の保管を求めています。サイバーセキュリティの観点からも重要度が高い条項です。
第10条(機密情報の返還又は廃棄)
プロジェクト終了時や契約終了時における情報の処理方法を明確にしています。廃棄証明書の提出まで求めることで、確実な情報処理を担保します。
第11条(立入調査権)
委託会社が受託会社の施設に立ち入り、契約の履行状況を確認できる権利を定めています。特に大規模なプロジェクトや長期間の委託において、継続的な監査体制を確保するために有効です。
第12条(契約違反に対する措置)
契約違反が発生した場合の対応手順を定めています。まず是正を求め、重大な違反の場合は契約解除も可能とする段階的なアプローチを採用しています。
第13条(損害賠償)
情報漏洩等により実際に損害が発生した場合の賠償責任について定めています。上限額を設定する一方で、故意や重過失の場合は無制限とするバランスの取れた構成となっています。
第14条(契約期間)
契約の有効期間を定めており、プロジェクト終了後も一定期間は秘密保持義務が継続することを明確にしています。技術情報の価値が長期間継続することを考慮した実務的な規定です。
第15条(一般条項)
準拠法、管轄裁判所、協議条項など、契約運用に必要な基本事項をまとめて規定しています。紛争解決の枠組みを事前に定めることで、トラブル時の混乱を避けることができます。
【4】活用アドバイス
この契約書を効果的に活用するためには、まず自社の業界特性や取引内容に応じた調整を行うことが重要です。標準的な内容となっているため、必要に応じて業界固有の条項を追加したり、損害賠償額や契約期間を実情に合わせて修正したりしてください。
締結前の段階では、相手方企業との間で契約内容について十分な協議を行い、双方が納得できる内容に調整することが肝要です。特に、機密情報の範囲や管理方法については、具体的な運用イメージを共有しておくと後々のトラブルを避けることができます。
契約締結後は、定期的に履行状況をチェックし、必要に応じて立入調査権を活用して実際の管理状況を確認することをお勧めします。また、従業員への教育や管理体制の整備についても、継続的な改善を図ることが大切です。
【5】この文書を利用するメリット
この契約書を利用する最大のメリットは、企業の重要な情報資産を確実に保護できることです。現代のビジネスにおいて、情報漏洩は企業の存続を脅かすほどの深刻な問題となりえます。この契約書を適切に運用することで、そうしたリスクを大幅に軽減できます。
また、15条にわたる詳細な規定により、あらゆる場面での情報管理がカバーされているため、想定外の事態が発生した場合でも適切な対応が可能です。特に、損害賠償条項や契約解除権の規定により、万一の事態における救済手段も確保されています。
さらに、Word形式での提供により、自社の実情に合わせたカスタマイズが容易に行える点も大きな利点です。業界や取引規模に応じた調整を加えることで、より実効性の高い契約書として活用できます。
取引相手に対しても、しっかりとした契約書を提示することで、情報管理に対する真剣な姿勢を示すことができ、信頼関係の構築にも寄与します。
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