【1】書式概要
この契約書は、食器メーカーと食品メーカーがコラボレーションして商品を開発・販売する際に必要となる取り決めを網羅的にまとめた実用的な雛型です。
異なる業種間でのコラボレーション商品開発においては、企画段階から販売に至るまでの責任分担や収益配分、知的財産権の取扱いなど、明確にしておくべき事項が多岐にわたります。本契約書テンプレートは、こうした複雑な関係性をスムーズに構築するための基盤となります。
食器メーカーが提供する器と、食品メーカーが提供する食品を組み合わせた商品を共同で企画・販売する際に生じる様々な論点をカバーしており、各社の役割分担から品質管理基準、費用負担、収益配分の方法まで詳細に規定されています。特に両者の強みを活かしながら、リスクを適切に分散させる仕組みが盛り込まれているため、対等なパートナーシップを構築したい企業間で活用できます。
また、近年増加している異業種コラボレーションにおける契約上の課題を解決するポイントを押さえつつ、改正民法にも対応しているため、最新の契約実務に沿った内容となっています。
食器ブランドと食品メーカー、カフェチェーンとスイーツメーカー、レストランと食器メーカーなど、食に関わる異業種間でのコラボレーション企画を検討している経営者や契約担当者にとって、交渉の出発点となる実用的な雛型です。
【2】条文タイトル
第1条(目的)
第2条(定義)
第3条(業務提携の範囲)
第4条(甲の義務)
第5条(乙の義務)
第6条(共同業務)
第7条(責任者の選任)
第8条(品質基準)
第9条(価格及び支払条件)
第10条(費用負担)
第11条(収益配分)
第12条(在庫管理)
第13条(知的財産権)
第14条(商標の使用)
第15条(秘密保持)
第16条(個人情報の取扱い)
第17条(契約期間)
第18条(解除)
第19条(契約終了時の措置)
第20条(損害賠償)
第21条(不可抗力)
第22条(協議事項)
第23条(管轄裁判所)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条項では契約の根本的な目的を明確にしています。両社が持つ強みを活かし、食器と食品を組み合わせた商品を共同で企画・開発・販売する体制を構築することで、相互の事業発展を図ることを目指します。目的条項は契約の解釈指針となるため、曖昧な表現は避け、具体的な協業内容を明記することが重要です。
例えば「高級陶器と伝統和菓子を組み合わせたギフト商品の開発」といった具体的な記載も検討するとよいでしょう。
第2条(定義)
契約書内で使用される重要な用語の意味を明確にしています。特に「本商品」「知的財産権」「営業日」といった頻出する概念について共通認識を形成するための条項です。定義を明確にしておくことで、後の解釈の違いによるトラブルを防止できます。実際の契約では、「季節限定商品」や「常設商品」など、取引の特性に応じた用語を追加定義するケースもあります。
第3条(業務提携の範囲)
業務提携の具体的な範囲を列挙し、協業の全体像を明確にしています。特に企画・開発、製造・品質管理、販売・マーケティングなどの主要プロセスを網羅的に含めることで、協業の全体像を明確にしています。実務では各項目の詳細について別途覚書を作成することが多いですが、基本となる業務範囲をここで押さえておくことが大切です。
例えば、地方の窯元と老舗和菓子店がコラボする場合、地域観光との連携やふるさと納税の返礼品としての展開なども業務範囲に含めることがあります。
第4条(甲の義務)
食器メーカー側(甲)の具体的な義務について規定しています。食器の企画・製造・供給といった中核業務だけでなく、品質管理、衛生管理、検査、包装への技術提供、関連法令の遵守といった責任範囲を明確にしています。実際の運用では、食器メーカーの製造ラインの稼働状況に合わせた生産計画の立案も重要になるでしょう。有田焼のメーカーと老舗和菓子店のコラボでは、伝統工芸品としての価値を損なわない生産体制の確保なども義務に含めることがあります。
第5条(乙の義務)
食品メーカー側(乙)の具体的な義務を規定しています。食品の企画・製造・供給に加え、食品衛生法の遵守、HACCP対応、アレルギー表示、賞味期限・消費期限の管理などの責任を明確にしています。乳製品を扱うスイーツメーカーなら、コールドチェーン(低温物流)の確保や、温度管理が必要な商品の取扱説明書作成なども重要な義務になるでしょう。
第6条(共同業務)
両社が協力して行うべき業務範囲を明確にしています。企画開発、販売戦略、広告宣伝、価格設定、販売チャネル開拓、顧客フィードバック分析などの協業事項を列挙し、定期的な進捗確認の場を設けることで、効果的な協業体制を構築します。実務では、月1回の定例会議を設定し、売上実績や市場動向を共有しながら次の施策を検討するといった運用が一般的です。
第7条(責任者の選任)
スムーズな業務遂行のため、各社の窓口となる責任者の選任を義務付けています。責任者が明確になることで、意思決定の迅速化や問題発生時の対応がスムーズになります。変更時の事前通知義務を定めることで、引継ぎの問題も防止できます。実際には、責任者だけでなく、営業担当、製造担当、品質管理担当などの実務者レベルの連絡先リストを別途作成しておくと便利です。
第8条(品質基準)
商品の品質維持のための基本ルールを定めています。具体的な品質基準は別途協議で定める形式をとりつつ、基準を満たさない商品の出荷禁止や、基準変更時の協議義務を規定しています。
例えば、和菓子と陶器のセット商品であれば、和菓子の鮮度保持条件や陶器の強度テスト基準などを具体的に定めた品質基準書を別途作成するのが一般的です。
第9条(価格及び支払条件)
商品の販売価格および両社間の決済条件について詳細に規定しています。特に供給価格の決定方法、価格改定の手続き、支払サイクル、売上金の配分方法、遅延損害金、費用負担、相殺などの金銭的側面を網羅しています。
例えば、百貨店での販売を想定した高級ギフトセットの場合、百貨店の販売手数料(通常25〜30%)を考慮した上で、両社の利益を確保できる価格設定が必要になります。
第10条(費用負担)
開発・製造費用や販促費用の負担割合を明確に定めています。食器関連費用は甲、食品関連費用は乙、共同開発・販促費用は折半という基本ルールを示しつつ、その他の費用は協議事項としています。
例えば、展示会出展費用や、ポップアップストアの運営費用などは、予算と効果を見極めながら、その都度協議して決定するケースが多いでしょう。
第11条(収益配分)
商品販売による収益の配分方法について定めています。具体的な計算方法は別途定めることとしつつ、配分方法の変更が必要な場合の協議義務を規定しています。実務では、食器と食品それぞれの原価率や市場価値、ブランド力などを考慮した上で、
例えば「売上の60%を甲に、40%を乙に配分する」といった具体的な配分率を決定します。
第12条(在庫管理)
商品の在庫管理のルールを定めています。在庫管理規程を別途定めることとしつつ、適正在庫の維持努力義務を規定しています。季節商品や賞味期限のある商品の場合、過剰在庫や廃棄リスクを最小化するため、需要予測に基づく計画生産体制の構築が重要です。例えば、バレンタイン向けの特別パッケージ商品の場合、販売期間終了後の在庫処分方法についても事前に合意しておくべきでしょう。
第13条(知的財産権)
知的財産権の帰属や取扱いについて定めています。既存の知的財産権は各社に帰属し、新たに生じた知的財産権は共有としつつ、持分割合は寄与度に応じて決定する仕組みです。共有知的財産権の単独実施には相手方の承諾を要するとしています。
例えば、開発した商品デザインをベースに、甲が単独で食器シリーズを展開したい場合や、乙が他社とのコラボで類似商品を作りたい場合には、事前に相手方の承諾を得る必要があります。
第14条(商標の使用)
相手方の商標使用に関するルールを定めています。事前承諾を原則とし、使用方法・条件は別途覚書で定めるとしています。ブランド価値の保護は両社にとって重要な関心事であり、例えば老舗和菓子店の屋号や、有名陶芸作家の銘などの使用については、使用場面や表示方法に関する詳細なガイドラインを作成するケースが多いです。
第15条(秘密保持)
相手方から得た情報の秘密保持義務を定めています。秘密情報の定義、除外事由、義務存続期間(契約終了後3年)などを規定しています。食品の製造レシピや、陶器の釉薬の配合など、各社のコアとなる技術情報については、特に厳格な管理が求められます。実務では、機密度に応じた情報の取扱区分を設け、特に重要な情報については閲覧可能な担当者を限定するなどの運用が効果的です。
第16条(個人情報の取扱い)
個人情報保護法に則った個人情報の取扱いを義務付けています。具体的な方法は別途覚書で定める形式をとっています。オンラインでの直販を行う場合などは、顧客データの共有範囲や利用目的、保存期間などについて詳細な取決めが必要になるでしょう。例えば、共同運営のECサイトで収集した顧客情報を、どちらの会社がどのような目的で利用できるかといった点は明確にしておくべきです。
第17条(契約期間)
契約の有効期間(1年間)と自動更新の仕組みを定めています。3ヶ月前までに異議がなければ同一条件で1年間自動更新される形式です。コラボレーション商品の販売サイクルに合わせて、適切な契約期間を設定することが重要です。例えば、季節商品の場合は1シーズンを基準とした期間設定が現実的かもしれません。
第18条(解除)
契約解除の条件を定めています。契約違反があり、催告後も是正されない場合の解除権と、重大事由(営業停止処分、倒産手続開始、手形不渡り等)による無催告解除権を規定しています。食品衛生法に基づく行政処分を受けた場合や、大規模リコールが発生した場合なども、重大事由として追加しておくとリスク管理の観点から有効です。
第19条(契約終了時の措置)
契約終了時に取るべき措置を定めています。資料・情報の返還・破棄、秘密情報の取扱い、共有知的財産権の協議などが含まれます。また、一部条項の契約終了後の存続も規定しています。在庫商品の処分方法や、継続中の販売チャネルへの対応なども明確にしておくと、円滑な契約終了が可能になります。
第20条(損害賠償)
契約違反による損害賠償責任を定めています。例えば、品質管理の不備による商品回収や、納期遅延による機会損失などが発生した場合の責任関係が対象になります。実務では、損害賠償額の上限(キャップ)を設定することもあります。例えば「賠償額は過去12か月間の取引額を上限とする」といった制限です。
第21条(不可抗力)
天災地変等の不可抗力による債務不履行の免責を定めています。自然災害だけでなく、感染症の流行やサプライチェーンの混乱なども免責事由として考慮する必要があるでしょう。例えば、東日本大震災のような大規模災害発生時には、生産・供給体制の立て直しに向けた協力体制についても協議しておくと良いでしょう。
第22条(協議事項)
契約に定めのない事項や解釈の疑義について、誠意をもって協議解決する義務を定めています。実際のビジネスでは予期せぬ状況が発生するものですから、柔軟な対応と協議を重視する姿勢が重要です。契約書に書かれていないからといって一方的な判断をするのではなく、当初の契約目的に立ち返って協議することが長期的な関係構築につながります。
第23条(管轄裁判所)
紛争解決の管轄裁判所を定めています。一般的には、原告・被告のいずれにも公平な地域の裁判所を選定します。実務では、東京地方裁判所や大阪地方裁判所など、商事事件の取扱い実績が豊富な裁判所を指定することが多いです。また、裁判に先立つ調停手続きや、第三者機関による裁判外紛争解決手続き(ADR)について定めることもあります。