【1】書式概要
この文書は、不動産を売買する際に使用する契約書のテンプレートです。特に「買替特約」という条項が付いているのが大きな特徴で、今お住まいの物件を売却してから新しい物件を購入したい方にとって、非常に心強い内容となっています。
買替特約とは、簡単に言えば「今の家が売れなかったら、新しい家の購入契約をキャンセルできる」という約束事のことです。例えば、新しいマンションを気に入って契約したものの、今住んでいる一戸建てが期限までに売れなかった場合、ペナルティなしで契約を白紙に戻せるのです。手付金も全額返ってきますし、違約金も発生しません。これがあるおかげで、二重ローンのリスクを避けながら安心して住み替えを進められるわけです。
この書式は、不動産会社を通さない個人間の取引や、小規模な不動産事業者の方が使うケースを想定して作られています。大手の不動産会社では独自の契約書を使うことが多いですが、親族間での売買や知人同士の取引、あるいは地域密着型の小さな不動産屋さんが顧客との間で契約を結ぶ際に重宝します。売買代金の支払い方法から登記手続き、物件の引渡しまで、取引に必要な項目が一通り網羅されているので、これ一枚あれば基本的な売買契約は成立します。
Word形式で提供されているため、パソコンで開いて金額や日付、物件の情報などを自由に書き換えることができます。専門家に依頼すると数万円かかる契約書作成も、このテンプレートがあれば自分で対応可能です。もちろん、重要な取引ですから最終的には司法書士や行政書士などの専門家にチェックしてもらうことをおすすめしますが、まずは自分たちで契約内容を固めたいという場合に最適な書式と言えるでしょう。
【2】条文タイトル
- 第1条(売買の目的)
- 第2条(売買代金)
- 第3条(代金の支払方法)
- 第4条(登記手続)
- 第5条(引渡し)
- 第6条(公租公課の負担)
- 第7条(担保責任の保証)
- 第8条(買替特約)
- 第9条(売主による契約解除)
- 第10条(買主による契約解除)
- 第11条(協議事項)
- 第12条(合意管轄)
【3】逐条解説
第1条(売買の目的)
この条文では、誰が誰に何を売るのかを明確にしています。売主と買主の関係性を定義し、後ろの方に記載されている「物件の表示」という部分で詳しく説明される土地と建物を取引の対象とすることを宣言しているわけです。契約書の大前提となる部分なので、ここで物件の特定を間違えると後々大変なことになります。例えば、隣の土地と地番を間違えて記載してしまったら、全く別の物件を売買することになってしまいますからね。
第2条(売買代金)
売買代金の総額と、その内訳を定めています。土地と建物でそれぞれいくらなのかを分けて記載するのは、税金の計算に関わってくるからです。土地の売買には消費税がかかりませんが、建物には消費税がかかります。また「公簿売買」という言葉が出てきますが、これは登記簿に記載されている面積で売買するという意味です。実際に測量したら面積が違っていても、後から値段を変更しないという約束になります。逆に「実測売買」という方法もあって、こちらは実際に測ってから最終的な金額を決めるやり方です。
第3条(代金の支払方法)
お金をいつ、どのタイミングで支払うかを決めています。一般的には契約時に手付金として総額の1割から2割程度を支払い、残りは物件の引渡しと登記が完了するタイミングで支払います。手付金には「解約手付」としての性質があって、買主が契約をやめたくなったら手付金を放棄すれば解約できますし、売主が契約をやめたい場合は手付金の倍額を返さなければなりません。ただし、これは相手が契約の履行に着手する前までの話です。
第4条(登記手続)
所有権を売主から買主へ移す登記手続きについて定めています。期限を明確にしておかないと、いつまでも登記が完了せずトラブルになることがあります。また、登記にかかる費用は買主が負担するのが一般的です。登記費用には登録免許税や司法書士への報酬などが含まれ、物件の価格にもよりますが数十万円程度かかることが多いです。これとは別に、売主側で抵当権を抹消する必要がある場合は、その費用は売主負担となります。
第5条(引渡し)
物件を実際に買主へ引き渡す日を定めています。鍵の受け渡しや、引渡しが完了したことを証明する書面の交付について触れています。引渡日には、売主は物件を空にして買主が使える状態にしておく必要があります。例えば、まだ荷物が残っていたり、前の住人が住み続けていたりしたら引渡し完了とは言えません。引渡しと登記、残代金の支払いは通常、同じ日に銀行などで一斉に行われます。
第6条(公租公課の負担)
固定資産税や都市計画税といった税金を、売主と買主でどう分担するかを決めています。所有権が移転した日を境に、それ以前は売主、それ以降は買主が負担するという内容です。例えば、年の途中で売買が成立した場合、その年の固定資産税は日割り計算して按分することになります。1月1日時点の所有者に課税されるのが原則ですが、実務上は引渡日で区切って清算するのが一般的です。
第7条(担保責任の保証)
売主が、物件に住宅ローンの抵当権や賃借人がいないことを保証する条項です。もし契約後に実は物件に借金の担保が付いていたとか、勝手に人に貸していたとかいう事実が判明したら、売主の責任で解決しなければなりません。これは買主を守るための重要な約束です。中古物件を買ったら知らない人が住んでいて追い出せない、なんてことになったら大変ですからね。売主はこうしたリスクがないことを契約前にしっかり確認しておく必要があります。
第8条(買替特約)
この契約書の最大の特徴である条項です。買主が今持っている物件を一定の期限までに一定の金額以上で売却できなかった場合、ペナルティなしで契約を解除できるという内容になっています。例えば、3000万円のマンションを買う契約をしたけれど、今住んでいる一戸建てが期限までに2500万円以上で売れなかったら、契約を白紙に戻せるわけです。この場合、手付金も全額返金され、双方とも損害賠償を請求できません。住み替えを考えている人にとっては、資金計画の不安を大きく軽減してくれる安心材料となります。
第9条(売主による契約解除)
買主が約束を破った場合に、売主が契約を解除できる条件を定めています。例えば、買主が決められた期日に代金を支払わなかったような場合です。この場合、売主は事前に「早く払ってください」と催促する必要がなく、すぐに契約を解除できます。そして既に受け取っている手付金は返さなくてよく、損害金として受け取ることができます。これは契約違反をした側にペナルティを課すことで、安易な契約破棄を防ぐ目的があります。
第10条(買主による契約解除)
逆に、売主が約束を破った場合に買主が契約を解除できる条件を定めています。例えば、売主が期限までに物件を引き渡さなかったような場合です。この場合も買主は事前催告なく契約解除でき、さらに既に支払った金額の倍額を損害金として請求できます。売主側の違反に対する方が、買主側の違反よりペナルティが重く設定されているのが一般的です。これは、物件を手放さない売主の方が買主より有利な立場にあることを考慮しているためです。
第11条(協議事項)
契約書に書かれていないことが起きたり、解釈で揉めたりした場合は、お互い誠実に話し合って解決しましょうという条項です。不動産取引では予期せぬ事態が起こることも多いので、こうした柔軟な対応を可能にする規定が必要になります。例えば、引渡し予定日に台風が来て物件に被害が出た場合など、契約書に明記されていない状況にどう対処するかを当事者間で協議することになります。
第12条(合意管轄)
万が一裁判になった場合、どこの裁判所で争うかをあらかじめ決めておく条項です。これがないと、売主と買主が遠く離れた場所に住んでいる場合、どちらの地域の裁判所で裁判するかで揉めることがあります。通常は物件の所在地を管轄する裁判所を指定することが多いですが、当事者の合意があればどこでも構いません。実際に裁判になることは稀ですが、こうした取り決めがあることで、いざという時の不安を軽減できます。
【4】活用アドバイス
まず、この契約書を使う前に必ず両当事者で内容をしっかり読み合わせることをおすすめします。特に金額や日付、物件の情報は何度も確認してください。一文字間違えただけで大きなトラブルに発展することもあります。
買替特約を使う場合は、現在所有している物件の情報を正確に記入することが重要です。所在地や地番は登記簿謄本を見ながら転記すると間違いがありません。また、売却希望金額は現実的な価格設定にしましょう。あまりに高額な金額を設定すると、実質的に買替特約が機能しなくなってしまいます。
契約書の●印で伏せられている部分は、実際の取引内容に応じて埋めていきます。特に日付については、登記完了予定日や引渡日、買替特約の期限など複数の期日が関係してくるため、全体のスケジュールを見通した上で無理のない日程を設定してください。一般的には、契約締結から引渡しまで1ヶ月から3ヶ月程度の期間を設けることが多いです。
完成した契約書は2部作成し、売主と買主が双方とも署名・押印した上で各自1部ずつ保管します。印鑑は実印を使用し、印鑑証明書も添付するのが望ましいです。また、重要な取引ですから、契約締結前に司法書士や行政書士、あるいは不動産に詳しい専門家に内容をチェックしてもらうことを強くおすすめします。
【5】この文書を利用するメリット
最大のメリットは、住み替えに伴うリスクを大幅に軽減できる点です。買替特約があることで、今の家が売れないのに新しい家を買ってしまい、二重にローンを組まなければならないという最悪の事態を避けられます。これは資金計画に余裕がない方にとって非常に心強い保険となります。
Word形式で提供されているため、自分で編集できるのも大きな利点です。専門家に契約書の作成を依頼すると、数万円から場合によっては10万円以上の費用がかかることもあります。このテンプレートを使えば、そうしたコストを節約しながら、きちんとした形式の契約書を作成できます。
また、契約内容が明文化されているため、後々のトラブルを防ぐ効果もあります。口約束だけで取引を進めてしまうと、言った言わないの争いになりがちです。しかし、文書として残しておけば、何かあった時に契約書を見返せば解決の糸口が見つかります。
個人間での不動産取引や、小規模な不動産事業者にとっては、業務の効率化にも繋がります。毎回ゼロから契約書を作る手間が省けますし、必要な項目が網羅されているため、重要な条項を書き忘れるリスクも減らせます。
さらに、この契約書は一般的な不動産取引の流れに沿った構成になっているため、相手方に提示しても違和感なく受け入れられやすいという利点もあります。変わった条項や不公平な内容が含まれていないため、交渉もスムーズに進みやすいでしょう。
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