【1】書式概要
この顧客適合性管理規程は、金融商品取引業者が法令遵守体制を確立するために不可欠な社内規程のテンプレートです。証券会社、投資運用会社、投資助言業者など、あらゆる金融商品取引業者が適合性原則を適切に運用するための包括的なガイドラインとして設計されています。
金融商品取引法第40条に規定される適合性原則は、顧客の知識・経験・財産状況・投資目的を踏まえた適切な商品提案を義務付けており、この遵守なくして金融業務の継続は困難です。本規程では、顧客情報の収集から商品分類、適格性判定、記録管理まで、実務で直面する全ての場面を想定した運用手順を明確に定めています。
特に重要なのは、金融庁検査や監督官庁への対応場面です。検査官は適合性原則の運用状況を詳細に確認するため、明文化された社内規程の存在は必要条件となります。また、顧客からの苦情対応や紛争解決の際も、適切な規程に基づいた業務運営を証明できることで、企業の信頼性確保につながります。
日常業務では、営業担当者が顧客に商品提案する際の判断基準として活用されます。リスク分類レベル1から5までの商品分類と、適格性レベルAからSまでの顧客分類により、どの顧客にどの商品を提案すべきかが一目で分かる仕組みになっています。また、75歳以上の高齢者への特別配慮や投資可能資金の30%上限など、実務で頻繁に問題となる事項についても具体的な基準を設けています。
この規程はWord形式で提供されており、各社の業務実態に応じて条文の修正や追加が容易に行えます。空欄部分には各社固有の部署名や責任者名を記入することで、即座に運用開始できる実用性の高い内容となっています。新規登録申請時の添付書類としても、既存業者の規程見直しにも対応可能な汎用性を備えています。
【2】逐条解説
第1条(目的)
この条文は規程全体の存在理由を明確にしています。金融商品取引法第40条第1号の適合性原則は、単なる努力義務ではなく法的義務であり、違反すれば業務改善命令や登録取消しの対象となります。投資者保護という大きな目標のもと、日々の営業活動に明確な指針を与える役割を果たします。
第2条(定義)
業界特有の用語を統一することで、社内での認識齟齬を防ぎます。特に「勧誘」の定義は重要で、これには積極的な商品紹介だけでなく、顧客からの問い合わせに対する回答も含まれる場合があります。顧客カードは紙媒体に限らず、電子データベースも含む概念として運用されています。
第3条(適用範囲及び管理責任者)
営業担当者だけでなく、事務担当者や管理職も含む全役職員が対象となります。コンプライアンス統括責任者を管理責任者とすることで、法務部門による一元的な管理体制を構築できます。この責任者は定期的な研修実施や遵守状況の監督も担当します。
第4条(基本方針)
抽象的になりがちな適合性原則を、具体的な行動指針として落とし込んでいます。継続的管理という文言により、契約時だけでなく契約後も顧客情報の更新が必要であることを明確にしています。適切な説明義務は、顧客の理解度に応じた説明方法の選択も含みます。
第5条(顧客情報の把握)
適合性原則の4要素(知識・経験・財産・投資目的)を具体的に細分化しています。例えば知識については、単に「投資経験あり」だけでなく、どの程度の知識レベルかを判定する必要があります。FP資格保有者であっても実際の投資経験が乏しい場合もあるため、多角的な情報収集が求められます。
第6条(顧客情報の取得方法及び管理)
顧客カードの一元管理により、複数の担当者が同一顧客を担当する場合でも情報共有が可能になります。情報の更新タイミングを明確にすることで、古い情報に基づく不適切な商品提案を防止できます。デジタル化が進む中、電子データでの管理も想定されています。
第7条(金融商品のリスク分類)
5段階のリスク分類により、商品の複雑性やリスクレベルを視覚的に理解できます。例えば、同じ投資信託でも日本の大型株中心のバランス型はレベル2、新興国株式特化型はレベル3に分類されます。この分類により、営業現場での判断基準が明確になります。
第8条(顧客の投資適格性の判定)
顧客を5段階で分類し、リスク分類との対応関係を明確にしています。投資経験3年の基準は、リーマンショックのような大きな市場変動を経験しているかどうかの目安でもあります。適格機関投資家への特別扱いにより、機関投資家向けビジネスの円滑な実施も可能になります。
第9条(財産状況による制限及び高齢者への配慮)
投資可能資金の30%上限は、過度な集中投資を防ぐリスク管理手段です。75歳という年齢基準は、認知機能の低下可能性を考慮した予防的措置であり、金融庁の監督指針でも重視される論点です。承認手続きにより組織的なチェック機能を働かせます。
第10条(不適合勧誘の禁止)
具体的な禁止行為を列挙することで、営業現場での判断に迷いが生じる余地を減らしています。特に虚偽説明については、意図的でなくても結果的に誤解を招く説明は禁止対象となります。顧客の理解度を超えた複雑商品の提案も、適合性原則違反の典型例です。
第11条(勧誘時の説明義務及び理解度確認)
説明義務は単に情報を伝えるだけでなく、顧客が理解できる形で伝えることが重要です。専門用語を多用した説明書を渡すだけでは不十分で、顧客のレベルに応じた分かりやすい説明が求められます。理解度確認により、形式的な説明に終わらない実質的な顧客保護を実現します。
第12条(記録の作成及び保存)
5年間の保存義務は法定期間に対応しています。記録は単なる事務処理ではなく、後日の検証や顧客との紛争時の証拠としても機能します。記録内容の標準化により、担当者による記録品質のばらつきを防止できます。
第13条(顧客情報の更新)
年1回の定期更新に加え、重要な変化があった場合の臨時更新を義務付けています。大きな投資損失後は顧客のリスク許容度が変化する可能性があるため、速やかな情報更新が必要です。75歳到達時の更新により、高齢者への配慮体制を確実に機能させます。
第14条(遵守状況の検証及び改善措置)
四半期ごとの検証により、問題の早期発見と対応が可能になります。金融庁検査での指摘事項への対応手順を明確にすることで、検査対応の迅速化を図ります。改善計画の策定・実行により、単発的な対応に終わらない継続的な改善を実現します。
第15条(研修及び自己査定)
年1回の研修により、法令改正や実務の変化に対応した知識の維持・向上を図ります。新入社員への事前研修により、業務開始時点から適切な知識を身につけさせます。自己査定制度により、個人レベルでの意識向上と問題の早期発見を促進します。
第16条(苦情及び紛争への対応)
顧客苦情は適合性原則の運用状況を測る重要な指標です。苦情内容の記録・保存により、同種問題の再発防止につなげることができます。金融ADR制度の活用により、訴訟に至る前の円滑な紛争解決を目指します。
第17条(利益相反の管理及び特定顧客への特例)
営業成績や手数料収入を優先した商品提案は適合性原則違反となります。顧客利益最優先の原則を明文化することで、営業現場での判断基準を明確にします。適格機関投資家への特例により、プロ向け商品の効率的な販売も可能になります。
第18条(規程の周知及び見直し)
規程の存在を知らない状態での業務は適合性原則違反のリスクを高めます。定期的な見直しにより、法令改正や業務変更に対応した規程の維持・更新を行います。金融庁の監督指針変更も見直しのきっかけとなります。
第19条(違反者への対応及び報告義務)
懲戒処分の可能性を明示することで、規程遵守への意識向上を図ります。重大問題の報告義務により、組織ぐるみでの隠蔽を防止し、早期の問題解決につなげます。取締役会への報告により経営レベルでの問題認識も促進されます。
第20条(施行期日)
規程の効力発生時期を明確にし、準備期間を考慮した適切な施行日設定を可能にします。既存の類似規程がある場合は、重複や矛盾を避けるための整理期間も必要になります。
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