【1】書式概要
この契約書雛形は、電気工事業者が店舗や事業所の配線工事を受注する際に使用する請負契約書です。特に受注者(工事業者)側の権利を適切に保護する内容となっており、改正民法にも対応した実用的な書式として作成されています。
屋内配線工事や引込線工事を請け負う電気工事業者の方が、発注者との間で工事内容、代金、工期などの重要事項を明確に定めたい場面で威力を発揮します。工事代金の分割払い条項や工期延長の正当事由、工事変更時の対応など、実際の現場でよく発生する問題を想定した条項が盛り込まれているのが特徴です。
また、一括下請の通知制度や技術責任者の常駐義務など、電気工事業界の実情に合わせた実務的な規定も含まれています。契約不適合責任については修正民法の内容を反映し、過度な責任を負わないよう配慮された内容となっています。
電気工事業を営む個人事業主から中小企業まで、幅広い事業者の方にご活用いただける契約書雛形です。
【2】条文タイトル
第1条(請負工事)
第2条(工事代金の支払)
第3条(工期)
第4条(工事の変更)
第5条(工事用材料)
第6条(一括下請の通知)
第7条(完成検査)
第8条(完成遅延)
第9条(契約不適合責任)
第10条(安全配慮)
第11条(損害賠償)
第12条(解除)
第13条(権利義務の譲渡禁止)
第14条(管轄)
【3】逐条解説
第1条(請負工事)の解説
この条項では工事の具体的な内容を明確に定めています。屋内配線工事、引込線工事、そしてこれらに付随する工事という3つのカテゴリーで整理されており、後々のトラブルを防ぐための重要な規定です。例えば、コンセント設置だけでなく、そのために必要な壁の補修工事なども「付随する工事」として含まれることになります。
第2条(工事代金の支払)の解説
工事代金の支払方法を2回に分けて規定しており、受注者にとって資金繰りの面で有利な条件となっています。着手時と完成検査完了時の2回払いとすることで、材料費などの先行投資に対するリスクを軽減できます。振込手数料も発注者負担とすることで、受注者の実質的な収入を確保しています。
第3条(工期)の解説
工期の設定だけでなく、延長事由についても詳しく規定されています。「不可抗力」には台風や地震などの自然災害、「乙の責めに帰さない事由」には発注者による仕様変更や現場の状況変化などが含まれます。これにより、受注者が一方的に工期遅延の責任を負うことを防いでいます。
第4条(工事の変更)の解説
工事内容の変更に関する柔軟な対応を可能にする条項です。発注者からの変更要求だけでなく、受注者からの提案も認めており、現場の実情に応じた最適な工事を実施できるよう配慮されています。例えば、古い建物で配線ルートを変更する必要が生じた場合などに活用されます。
第5条(工事用材料)の解説
材料の調達責任を受注者が負うことを明確にした条項です。これにより、材料の品質管理や納期管理を受注者が主体的に行えるようになり、工事の品質向上につながります。一方で、材料費の負担も受注者が負うことになるため、見積時の正確な算定が重要になります。
第6条(一括下請の通知)の解説
下請業者への発注を認める画期的な条項です。通常の建設業では一括下請は制限されることが多いのですが、この契約では事後通知でも可能としており、受注者の事業運営の自由度を高めています。ただし、責任の所在は明確にするため、通知義務は課されています。
第7条(完成検査)の解説
工事完成後の検査手続きを定めた条項です。受注者が完成を報告し、発注者が検査を行うという流れを明確にすることで、工事の完了時点を客観的に確定できます。これにより代金支払いのタイミングも明確になります。
第8条(完成遅延)の解説
工期遅延時の違約金について規定していますが、受注者の責任による場合に限定されているのがポイントです。違約金の額は請負代金の一定割合とすることで、過度な負担を避けています。例えば、受注者の都合で1週間遅延した場合の計算方法が明確になります。
第9条(契約不適合責任)の解説
改正民法に対応した現代的な責任規定です。従来の「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変更され、修補請求権を中心とした内容になっています。ただし、軽微な不適合については修補を求めることができないとする制限も設けており、受注者の負担軽減を図っています。責任期間も1年と明確に限定されています。
第10条(安全配慮)の解説
工事現場での安全管理について詳細に規定した重要な条項です。技術責任者の常駐義務を課すことで、専門的な判断に基づく安全管理を確保しています。また、事故が発生した場合の責任の所在も明確にし、発注者への影響を最小限に抑える配慮がなされています。
第11条(損害賠償)の解説
双方向の損害賠償規定となっており、受注者だけでなく発注者の債務不履行についても規定しているのが特徴です。発注者の支払遅延に対しては年3%の遅延損害金を設定し、受注者の権利を適切に保護しています。これは銀行金利よりも低い水準で、合理的な設定といえます。
第12条(解除)の解説
契約解除事由を具体的に列挙することで、解除の要件を明確にしています。営業停止や破産手続きなどの重大な事由だけでなく、義務違反についても相当期間の催告後という手続きを経ることで、一方的な解除を防いでいます。差押えや手形不渡りなど、実務でよく問題となる事由も含まれています。
第13条(権利義務の譲渡禁止)の解説
契約上の地位の安定を図るための条項です。事前の書面による承諾があれば譲渡も可能としており、完全に禁止するのではなく、相手方の同意による柔軟な対応を可能にしています。これにより、事業承継や組織再編にも対応できます。
第14条(管轄)の解説
紛争が生じた場合の裁判管轄を受注者の本店所在地とすることで、受注者にとって有利な条件を設定しています。専属的合意管轄とすることで、他の裁判所での訴訟提起を防ぎ、受注者の応訴負担を軽減する効果があります。地方の工事業者にとっては特に重要な条項といえるでしょう。