【1】書式概要
建物のオーナーさん、こんな経験はありませんか?賃借人が倒産寸前で、でも建物はどんどん傷んでいく。そんな時、頭を悩ませるのが工事代金の直接支払い問題です。まるで針の山に押しつぶされそうな状況でも、この合意書があればスムーズに解決の糸口が見えてきます。
この雛型は、改正民法を反映した最新版で、建物所有者と工事業者の間で工事代金の直接支払いについて合意を成立させる「架け橋」となります。賃借人が支払い不能になった際にも、オーナーが工事業者に直接代金を支払えるよう、法的に整備されたシンプルだけれど強力な書類です。
特に飲食店舗や小規模オフィスを賃貸しているオーナーの方々には、まさに「転ばぬ先の杖」となるでしょう。水漏れの緊急修理、空調設備の交換など、待ったなしの状況でも慌てずに済みます。条文は14条とコンパクトながら、契約不適合責任や機密保持まで網羅し、トラブルの火種を未然に防ぎます。
〔条文タイトル〕
第1条(目的)
第2条(背景)
第3条(工事内容)
第4条(工事金額と支払方法)
第5条(工事の実施と完了)
第6条(契約不適合責任)
第7条(責任)
第8条(権利義務の譲渡禁止)
第9条(秘密保持)
第10条(賃貸借契約との関係)
第11条(第三者との関係)
第12条(反社会的勢力の排除)
第13条(合意管轄)
第14条(協議事項)
【2】逐条解説
第1条(目的)
この条文は合意書の基本的な目的を定めています。賃借人が支払い不能になった際に、建物所有者が工事業者に直接代金を支払えるルートを明確にすることで、建物の維持管理を継続できる仕組みを確立します。緊急時における支払い方法の確保という実務的な必要性に応えた条文と言えます。
第2条(背景)
この条文は、当事者の関係と状況を明確にする重要な部分です。建物所有者、賃借人、工事業者の立場と、賃借人の支払不能という事態における各当事者の状況を整理します。これにより、その後の合意書の必要性と法的根拠を明確に示し、後々の紛争を防ぐ基礎固めとなります。
第3条(工事内容)
工事の具体的な内容を、レシピを書くように詳細に記載する条文です。「何を、いつまでに、どこで」という工事の三要素を明確にすることで、後から生じる「言った言わない」の泥沼を回避します。これは建築という複雑な「料理」の材料と手順を記した「メニュー表」のようなものです。
第4条(工事金額と支払方法)
お金の話は人間関係の潤滑油であり、時には摩擦の原因にもなります。工事完了から30日以内という支払期限は、「現金主義」の世界で生きる工事業者にとって安心材料となる「保険」のようなもの。銀行振込という近代的手法を採用し、現金のやり取りという「リスクの芽」を摘んでいます。
第5条(工事の実施と完了)
ここは工事業者の「職人としての心構え」を定めた条文です。善管注意義務という法律用語は、平たく言えば「プロとしての誇りを持って仕事をしなさい」ということ。検査合格通知というお墨付きをもらうまでが、真の工事完了だというルールを設定します。
第6条(契約不適合責任)
改正民法の「目玉商品」とも言える契約不適合責任を、しっかりと取り入れています。これは、購入した商品が期待と違った時の「返品・交換ルール」を工事に適用したバージョン。1年という時効期間は、工事業者に無限の責任を負わせない「セーフティネット」としても機能します。
第7条(責任)
シンプルながら核心を突く条文。工事の品質は工事業者が、建物管理は建物オーナーが、それぞれ責任を持つという「分業体制」を明確化。これは、「餅は餅屋」という日本古来の知恵を体現したものと言えるでしょう。
第8条(権利義務の譲渡禁止)
権利や義務を無断で他人に譲渡することを禁じる条文。契約は信頼関係の上に成り立つもの。これは友人との約束を、勝手に他人に引き継がせてはならないという、人間関係の基本ルールと同じ考え方です。
第9条(秘密保持)
企業情報は「生命線」です。建物の構造や修繕箇所といった情報は、防犯上も重要な「国家機密」。この条文は、情報漏洩という「リスクの火種」を予め消し止めておく「防火対策」として機能します。
第10条(賃貸借契約との関係)
賃料と工事代金という異なる性質の支払いを、はっきりと区別する条文。これは「家計の予算管理」と同じ発想で、支出の目的を明確に仕分けすることで、お金の流れを透明化します。
第11条(第三者との関係)
この合意書が、あくまで建物オーナーと工事業者という二者間の「内輪の約束」であることを確認する条文。賃借人という第三者には直接の影響が及ばないという「線引き」を明確にします。
第12条(反社会的勢力の排除)
ビジネスの世界では「類は友を呼ぶ」。反社会的勢力との付き合いは、連鎖反応を生みかねません。この条文は、そうした「悪しき輪」を断ち切る「ワクチン」として機能し、健全なビジネス環境を守ります。
第13条(合意管轄)
万一の紛争時、どこの裁判所で争うかを予め決めておく条文。これは「喧嘩になったら、どこで話し合うか」を事前に決めておくようなもの。無用な争いを避け、効率的な解決への「道筋」を示します。
第14条(協議事項)
最後は、予期せぬ事態への対処を定めた条文。「想定外」を「想定内」に組み込む矛盾した知恵を体現し、誠実な話し合いこそが最終的な問題解決の「特効薬」であることを示しています。