【1】書式概要
近年、SNS上で深刻な社会問題となっているのが、他人の顔写真を無断で使用し、AIによって水着姿や性的な偽画像を生成・拡散する「ディープフェイク被害」です。X(旧Twitter)をはじめとするSNSでは、見知らぬ第三者や、場合によっては知人によって、自分の顔が勝手に性的な画像に合成されるという悪質な行為が後を絶ちません。
本書式は、こうしたAI生成による偽画像・合成画像の被害に遭われた方が、加害者に対して損害賠償を請求するための内容証明郵便として使用できるひな型です。
この請求書を使用する場面としては、たとえば「自分の顔写真がSNS上で水着姿に加工されて投稿されているのを発見した」「知人から、ネット上に自分の性的な偽画像が出回っていると教えられた」「発信者情報開示請求によって加害者の身元が判明した」といったケースが想定されます。被害に気づいてから、まず加害者に対して金銭的な償いと画像の削除を求める最初の一歩として、この書面を送付することになります。
書式の内容には、慰謝料・弁護士費用・調査費用の請求、肖像権侵害や名誉毀損といった不法行為の根拠の明示、そして令和5年に施行された性的姿態等撮影処罰法に基づく刑事告訴の可能性を示唆する警告文が含まれています。加害者に対して「このまま放置すれば刑事事件になりますよ」という強いプレッシャーを与える構成になっており、示談交渉を有利に進めるための武器として活用できます。
Word形式でご提供しますので、被害の具体的な日時や金額、加害者のアカウント名など、ご自身の状況に合わせて自由に編集してお使いいただけます。専門的な知識がなくても、空欄を埋めていくだけで完成する実用的なひな型です。
【2】構成タイトル
- 第1(請求の趣旨)
- 第2(請求の原因)
- 第3(警告及び今後の対応)
- 第4(要求事項)
【3】解説
第1(請求の趣旨)
ここでは、加害者に対して「何を」「いくら」「いつまでに」払ってほしいのかを明確に伝えます。損害賠償請求書の冒頭に結論を持ってくることで、受け取った相手に事態の深刻さを即座に認識させる効果があります。
たとえば、ディープフェイク被害で精神的苦痛を受け、さらに加害者を特定するために発信者情報開示請求に費用がかかった場合、その総額を「慰謝料○○万円+調査費用○○万円+弁護士費用○○万円」と内訳を示して請求します。支払期限を「14日以内」と設定しているのは、相手に考える猶予を与えつつも、だらだらと引き延ばされることを防ぐためです。振込先口座を明記しておくことで、相手がすぐに支払いに応じられる状態を作っておきます。
第2(請求の原因)
この部分は、なぜ加害者が損害賠償を支払わなければならないのか、その理由と根拠を説明するパートです。
まず「当事者」の項目で、被害者と加害者が誰なのかを特定します。発信者情報開示請求で判明した相手の氏名・住所などをここに記載することになります。
次に「被通知人による不法行為」では、具体的に何をされたのかを時系列で説明します。「令和○年○月○日頃、私の顔写真を無断で使用して、AIで水着姿の偽画像を作成し、X(旧Twitter)のアカウント『@○○○』で公開した」といった具合です。曖昧な表現ではなく、日付やアカウント名など特定できる情報を入れることで、言い逃れを防ぎます。
「法的根拠」の項目では、相手の行為がどのような権利を侵害しているのかを列挙しています。肖像権侵害、名誉毀損、プライバシー権侵害に加えて、令和5年に新しく施行された「性的姿態等撮影処罰法」にも触れています。この法律は、いわゆるリベンジポルノやディープフェイクによる性的画像の拡散を処罰するもので、違反すれば3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という重い刑罰が科されます。
「損害」の項目では、被害者が実際に受けた損害を金額で示します。精神的なダメージは「慰謝料」として、加害者特定にかかった費用は「調査費用」として、この件で弁護士に依頼した場合は「弁護士費用」として、それぞれ請求できます。
第3(警告及び今後の対応)
ここは、加害者に対して「誠意ある対応をしなければどうなるか」を伝えるパートです。この書面の中でも最も強いプレッシャーを与える部分といえます。
まず民事訴訟の提起を予告します。裁判になれば、加害者は訴訟費用の負担に加えて、判決が出るまでの遅延損害金も支払うことになります。
さらに重要なのが刑事告訴の示唆です。性的姿態等撮影処罰法違反、名誉毀損罪、侮辱罪といった罪名と、それぞれの法定刑(懲役○年以下、罰金○万円以下など)を具体的に列挙することで、「これは犯罪なのだ」という認識を相手に植え付けます。前科がつく可能性があることを明示することで、示談に応じるインセンティブを高めています。
また、偽画像がまだネット上に残っている場合は直ちに削除すること、他の人に画像を渡していた場合はその情報を開示することも求めています。
第4(要求事項)
最後に、加害者に対する具体的な要求をまとめています。
損害賠償金の支払い、偽画像の削除、拡散先情報の開示、今後同様の行為をしない旨の誓約、そして書面による謝罪文の提出という5つの項目を挙げています。
謝罪文の提出を求めているのは、金銭的な解決だけでなく、加害者に自分の行為を反省させることも被害回復の一環と考えているからです。また、誓約を取り付けておくことで、万が一同じことが繰り返された場合に、より強い措置を取りやすくなります。
【4】FAQ
Q1. この請求書は弁護士に依頼しなくても自分で送れますか?
A1. はい、ご自身で作成して内容証明郵便として送付することが可能です。
Q2. 慰謝料の金額はどのように決めればよいですか?
A2. ディープフェイクによる性的画像被害の慰謝料相場は、拡散の程度や被害の深刻さによって異なりますが、50万円〜300万円程度が一つの目安です。画像の拡散範囲が広い場合や、被害者が精神的な治療を要した場合などは、より高額になることもあります。
Q3. 加害者の住所や氏名がわからない場合はどうすればよいですか?
A3. SNS上のアカウント情報しかわからない場合は、まず発信者情報開示請求という手続きを行って、加害者を特定する必要があります。プロバイダ責任制限法に基づいて、SNS運営会社やインターネットプロバイダに対して情報開示を求めることができます。
Q4. 刑事告訴は本当にできますか?
A4. ディープフェイクによる性的画像の作成・拡散は、2023年に施行された性的姿態等撮影処罰法によって明確に犯罪とされています。被害届の提出や刑事告訴は、警察署や検察庁で行うことができます。
Q5. 相手が未成年の場合はどうなりますか?
A5. 加害者が未成年であっても、民事上の損害賠償責任は発生します。未成年者本人に責任能力がない場合は、親権者(保護者)に対して請求することになります。
Q6. 画像を削除させることはできますか?
A6. この請求書には画像削除の要求も含まれています。加害者が応じない場合は、SNS運営会社に対して直接削除申請を行うこともできます。また、裁判所に仮処分を申し立てて削除命令を出してもらう方法もあります。
Q7. 示談が成立した場合、刑事告訴はできなくなりますか?
A7. 示談の内容によります。示談書に「告訴しない」「告訴を取り下げる」といった条項を入れた場合は、その合意に拘束されます。示談交渉の際に、刑事告訴をしない代わりに慰謝料を上乗せするといった交渉も可能です。
Q8. 海外のサーバーに画像がアップされている場合は?
A8. 海外サーバーの場合、発信者情報開示請求や削除請求が難しくなるケースがあります。弁護士や専門家に相談して、対応可能な方法を検討することをお勧めします。
【5】活用アドバイス
証拠をしっかり保全してから使用する
請求書を送る前に、被害の証拠を確実に保存しておくことが重要です。問題の画像が投稿されているページのスクリーンショット、URL、投稿日時、加害者のアカウント情報などを記録しておきましょう。スクリーンショットだけでなく、画面収録や魚拓サービスを使って保存しておくと、後から「そんな投稿はしていない」と言い逃れされることを防げます。
金額設定は根拠を持って
慰謝料などの金額は、高すぎると相手が交渉に応じにくくなり、低すぎると被害に見合った補償が得られません。類似の裁判例を調べたり、弁護士に相談したりして、妥当な金額を設定しましょう。調査費用や弁護士費用は、実際にかかった金額の領収書などがあれば、より説得力が増します。
内容証明郵便で送付する
この請求書は、普通郵便ではなく内容証明郵便で送ることをお勧めします。内容証明郵便は、いつ、どんな内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれるため、「届いていない」「そんな内容ではなかった」といった言い逃れを防ぐことができます。
期限管理を徹底する
請求書には14日以内の支払期限を設定しています。この期限を過ぎても連絡がない場合は、予告通り次の法的手段に移行することを検討しましょう。期限を設定したのに何もしないと、相手に「結局何もしてこないのだな」と思われてしまいます。
専門家への相談も視野に
ご自身で対応することも可能ですが、相手が支払いを拒否した場合や、交渉が長引く場合は、弁護士への相談を検討してください。特に訴訟に発展する可能性がある場合は、早い段階から専門家の助言を受けておくと安心です。
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