【1】書式概要
この契約書は、土地や建物を無償で貸し借りする際に使用する「使用貸借契約書」の書式です。使用貸借とは、賃貸借とは異なり、借主が貸主に対して賃料を支払わずに不動産を使用できる契約形態を指します。
親族間での土地や建物の貸し借り、知人や友人への一時的な住居提供、事業用地の無償提供など、金銭のやり取りを伴わない不動産の貸借関係で広く活用されています。例えば、親が子供に住宅用地を無償で提供する場合や、企業が関連会社に事務所を無償で貸し出す場合などが典型的な使用場面となります。
改正民法に完全対応しており、従来の民法では不明確だった使用貸借の期間や終了事由について、より明確な規定を盛り込んでいます。特に貸主側の権利を重視した条項構成となっており、契約違反時の解除権や原状回復義務について詳細に定めています。
無償の貸借関係であっても、後々のトラブルを防ぐためには書面での契約締結が不可欠です。口約束だけでは、使用期間や使用目的、返還条件などが曖昧になりがちで、関係者間での認識の違いが生じる可能性が高くなります。この契約書を使用することで、双方の権利義務関係を明確化し、安心して不動産の使用貸借を行うことができます。
【2】条文タイトル
第1条(使用貸借契約)
第2条(契約期間)
第3条(使用目的)
第4条(乙による使用・収益)
第5条(修繕等)
第6条(使用目的の変更等)
第7条(解除)
第8条(損害賠償)
第9条(本件不動産の返還・原状回復、残置物の所有権放棄)
第10条(合意管轄)
第11条(協議)
【3】逐条解説
第1条(使用貸借契約)
この条項では契約の基本的な枠組みを定めています。土地と建物の詳細な情報を記載する欄が設けられており、所在地や地番、建物の構造や面積まで具体的に特定できるようになっています。例えば、親が所有する実家を子供が使用する場合、建物の家屋番号や床面積まで正確に記載することで、対象不動産を明確に特定できます。引渡し期日も明記することで、いつから使用を開始するかが明確になります。
第2条(契約期間)
使用貸借の期間を2年間と設定していますが、当事者の一方的な意思表示により期間満了前でも解約が可能な条項が含まれています。これは貸主にとって有利な規定で、事情が変わった場合に柔軟に対応できます。また、借主が死亡した場合の契約終了についても明記されており、相続人への承継を防ぐ効果があります。例えば、高齢の親族に住居を提供している場合、その方が亡くなられた際に自動的に契約が終了するため、相続人との新たな交渉を避けることができます。
第3条(使用目的)
不動産の使用目的を限定する重要な条項です。住居用、事業用、倉庫用など、具体的な使用目的を記載することで、目的外使用を防ぐことができます。例えば、住居用として貸した建物を勝手に事務所や店舗として使用されることを防げます。使用目的の限定は、近隣への影響や建物の劣化防止の観点からも重要な意味を持ちます。
第4条(乙による使用・収益)
借主の使用方法について定めた条項です。不動産の性質に応じた適切な使用を義務付けており、貸主の承諾なしに第三者への転貸を禁止しています。例えば、個人住宅として貸した建物を民泊として第三者に提供することは、この条項に違反することになります。転貸禁止の規定により、貸主が想定していない使用者による利用を防ぐことができます。
第5条(修繕等)
従来の賃貸借契約では貸主が負担することが多い修繕費用について、使用貸借では借主負担とする条項です。これは無償で借りる代わりに、維持管理費用は借主が負担するという考え方に基づいています。例えば、水道管の修理や屋根の補修、エアコンの故障修理なども借主の負担となります。ただし、構造上の重大な欠陥については別途協議が必要な場合もあります。
第6条(使用目的の変更等)
借主が勝手に建物を改造したり使用目的を変更したりすることを防ぐ条項です。事前の承諾制とすることで、貸主の意に反する変更を防げます。例えば、住宅として貸した建物の間取りを変更したり、庭に物置を設置したりする場合も、事前に貸主の承諾が必要になります。改良工事についても同様で、借主にとって良かれと思った改修でも、貸主の意向と合わない場合があるため、事前協議が重要です。
第7条(解除)
貸主が契約を即座に解除できる事由を詳細に列挙した条項で、貸主にとって非常に有利な内容となっています。契約違反はもちろん、借主の財務状況悪化や反社会的勢力との関係についても解除事由として明記されています。例えば、借主企業が倒産手続きに入った場合や、手形が不渡りになった場合も即座に契約解除が可能です。反社条項も詳細に規定されており、暴力団関係者との関係が発覚した場合の対応も明確化されています。
第8条(損害賠償)
契約違反や不適切な使用により生じた損害について、貸主が賠償請求できる期間を3年間と定めています。不動産返還後から起算するため、借主としては返還後も一定期間は責任を負い続けることになります。例えば、建物を事業用として無断使用したことで近隣に迷惑をかけた場合の損害賠償や、不適切な使用により建物価値が低下した場合の補償などが対象となります。
第9条(本件不動産の返還・原状回復、残置物の所有権放棄)
契約終了時の返還義務について詳細に定めた重要な条項です。原状回復義務については、損傷の原因を問わず借主負担とする厳しい内容になっています。また、残置物については自動的に所有権放棄となるため、借主は必ず撤去する必要があります。例えば、住居として使用していた建物の壁紙が経年劣化で汚れた場合でも、借主負担で張り替える必要があります。エアコンや照明器具なども、契約終了時には必ず撤去しなければなりません。
第10条(合意管轄)
契約に関する紛争が生じた場合の裁判管轄を指定する条項です。通常は貸主の住所地近くの裁判所が指定されることが多く、借主にとっては不利になる可能性があります。専属的合意管轄とすることで、他の裁判所での訴訟提起を防ぐ効果があります。
第11条(協議)
契約書に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の解決方法を定めています。まずは当事者間での話し合いによる解決を試み、それでも解決しない場合は前条の合意管轄裁判所での解決を図ることになります。円満解決を目指す姿勢を示しつつも、最終的には裁判での解決も視野に入れた構成となっています。