【1】書式概要
この退職覚書は、会社と従業員が円満に雇用関係を終了するために作成する重要な合意文書です。特に、退職に際してトラブルが予想される場合や、特別な条件で退職する際に威力を発揮します。
従業員が会社を辞める時、単純に退職届を出すだけでは解決しない問題が山積みになることがあります。例えば、退職金の額で揉めたり、会社の機密情報の取り扱いが曖昧になったり、退職後に元同僚に連絡を取ることでトラブルになったりするケースが後を絶ちません。
この覚書を使えば、そうした問題を事前に防ぐことができます。会社側は従業員に特別退職金を支払う代わりに、機密情報の返還や第三者への口外禁止、元同僚への接触禁止などの条件を明確にできます。従業員側も、きちんとした補償を受けながら、後々のトラブルを避けて新しいスタートを切ることができるのです。
特に中小企業では、退職時の取り決めが曖昧になりがちです。「言った言わない」の水掛け論になる前に、きちんと書面で合意内容を残しておくことが何より大切です。この覚書があれば、双方が納得した上で雇用関係を終了でき、将来的な紛争リスクを大幅に減らすことができます。
人事担当者や経営者の方はもちろん、退職を検討している従業員の方も、この書式を参考にして円滑な退職手続きを進めることをお勧めします。
【2】逐条解説
第1条(特別退職金の支払い)
会社が従業員に対して通常の退職金とは別に特別退職金を支払うことを定めています。金額や支払期限、振込先を具体的に記載することで、後々の支払いトラブルを防ぎます。振込手数料を会社負担とする点も、従業員への配慮を示している部分です。実際の運用では、退職日から1ヶ月以内の支払いが一般的でしょう。
第2条(資料の返還・廃棄)
従業員が在職中に取り扱った会社の機密資料や顧客情報を確実に返還・廃棄させる条項です。顧客名簿は特に重要な営業資産なので、明確に言及されています。デジタルデータの場合は完全削除、紙資料の場合は現物返還が基本です。最近ではクラウドサービスやUSBメモリに保存されたデータの取り扱いも問題になることが多いため、注意が必要です。
第3条(紛争不存在の確認)
この覚書の締結により、会社と従業員の間にそれまで存在していた全ての争いごとが解決されたことを確認する条項です。未払い残業代や有給休暇の買取、パワハラ問題など、様々な労働問題がこの一文で清算されることになります。従業員側は署名前に本当に他に請求したいことがないか、よく考える必要があります。
第4条(守秘義務)
この退職合意の存在自体と、その具体的な内容を第三者に漏らしてはならないという条項です。特別退職金の額や退職の経緯が外部に知られることで、会社の評判に影響が出たり、他の従業員から同様の要求が出たりすることを防ぐ狙いがあります。ただし、この条項があっても弁護士や税理士への相談は通常認められます。
第5条(接触禁止)
退職した従業員が、元の職場の人たちに連絡を取ることを禁止する条項です。会社の役員や同僚だけでなく、その家族まで対象に含まれているのが特徴的です。引き抜き行為の防止や、社内の混乱を避ける目的があります。ただし、あまりに広範囲な接触禁止は裁判で無効とされる可能性もあるため、バランスが重要です。
第6条(管轄裁判所の合意)
万が一この覚書を巡って裁判になった場合、どこの裁判所で争うかを事前に決めておく条項です。通常は会社の本店所在地を管轄する地方裁判所が指定されます。これにより、従業員が遠方に住んでいても、会社にとって都合の良い場所で裁判ができることになります。従業員側は署名前に、実際に裁判になった時の負担を考慮しておく必要があります。