【1】書式概要
この書式は、患者さんやご家族が宗教上の信念や個人的な理由により、輸血や特定の血液製剤の使用を希望しない場合に、その意思を医療機関へ正式に伝えるための文書です。医療現場では、患者さん一人ひとりの価値観や信条を尊重することが求められており、特に輸血については生命に関わる選択となるため、患者さんと医療スタッフの間で明確な意思確認が必要になります。
この文書を使用する場面としては、入院前の事前準備、手術の予定が決まった際の事前説明、あるいは救急搬送時でも意識がある段階での意思確認など、様々なケースが想定されます。患者さん自身が署名できない状況では、ご家族など代わりの方が署名することも可能な構造になっています。
Word形式で編集可能なため、各医療機関の実情に合わせて項目の追加や修正が簡単にでき、患者さんの個別の希望にも柔軟に対応できます。どの血液製剤なら受け入れ可能か、どの治療法なら同意できるかといった細かな選択肢が用意されているため、単なる「拒否」ではなく「部分的な同意」を示すことも可能です。医療機関にとっては、患者さんの意思を記録として残すことで、後々のトラブルを防ぎ、医療スタッフが安心して治療方針を決定できる環境を整えることができます。
【2】解説
■ 文書のタイトルと宛先について
文書の冒頭では病院長宛に「輸血療法・特定生物由来製剤の使用に対する謝絶書」という明確なタイトルが付けられています。これは単なる希望ではなく、正式な意思表示として扱われることを意味しています。医療機関の最高責任者である病院長宛にすることで、この意思が組織全体で共有され、担当医だけでなく看護師や他のスタッフにも周知される仕組みになっています。
■ 前文(説明受領の確認)
「私は、輸血療法・特定生物由来製剤の使用について、いただいた別紙『輸血療法・特定生物由来製剤使用に関する説明書』に基づいて上記の説明を受け、輸血治療及び無輸血治療それぞれの有効性や危険性につき十分に理解しました」という部分は非常に重要です。これは患者さんが十分な情報を受け取った上で判断している証拠となります。たとえば、出血のリスクが高い手術を控えた患者さんが、輸血をした場合の回復の見込みと、輸血をしない場合の生命リスクの両方について医師から詳しく説明を受け、それでもなお自分の信念に従うという決断をしたことを示しています。
1 謝絶の理由
この欄には患者さんが輸血を受け入れられない具体的な理由を記入します。多くの場合、特定の宗教的信念(エホバの証人など)に基づくものですが、過去の輸血での副作用経験や、感染症への強い不安など、個人的な理由もあり得ます。この理由を明記することで、医療スタッフも患者さんの背景を理解し、より適切なコミュニケーションが取れるようになります。
2 謝絶する輸血などの範囲
ここがこの文書の最も実務的な部分です。「原則として、いかなる種類であっても受け入れることはできません」という大前提を示しつつ、個別の製剤や治療法について〇で囲むことで、受け入れ可能なものを選択できる仕組みになっています。
具体的には、アルブミン製剤や免疫グロブリン製剤といった血液から作られる製剤、エリスロポイエチンのような造血を促す薬、術中に自分の血液を回収して戻す方法、透析や人工心肺のように血液が体外を循環する治療などが選択肢として挙げられています。
たとえば、ある患者さんは他人の血液は一切受け入れられないけれど、自分の血液を手術中に回収して戻す方法なら許容できるという場合、「術中回収式自己血輸血療法」に〇をつけることで、その意思を明確に示せます。また「その他」の欄もあるため、ここに挙げられていない特殊な治療法についても個別に記載できます。
3 免責事項と家族への拘束力
「私は、当患者のために輸血以外の十分な治療が施行されたにもかかわらず、私が輸血を拒んだことによって当患者に生じるかもしれない死亡その他のいかなる障害に対しても、医師、病院当局及び病院職員の方々の責任を問うことはありません」という文言は、医療機関にとって極めて重要です。
これは患者さんが自分の選択の結果を受け入れるという意思表示であり、医療スタッフが患者さんの意思を尊重して治療を行った場合に、法的責任を問われないための保護にもなります。ただし、これは医療側の過失を免責するものではなく、あくまで輸血をしなかったことに起因する結果についてのみの内容です。
また「この指示は、私以外の当患者の親族に対しても拘束力を有します」という一文により、たとえば緊急時に他の家族が「やはり輸血してほしい」と言ってきても、本人の意思が優先されることが明記されています。
■ 署名欄の構成
患者本人の署名欄があり、本人が署名できない場合(意識がない、未成年など)には代諾者の署名ができるようになっています。代諾者の場合は本人との関係も記入します。
■ 担当医の同意
最後に「私は、上記患者と話し合った上、その意向を受け入れ、いかなる場合にも、患者が拒絶する血液製剤を使用致しません」という担当医の署名欄があります。これにより、医師もこの意思を理解し、尊重することを約束する形になっています。複数の担当医が関わる場合を想定して、署名欄が二つ用意されているのも実務的な配慮です。
【3】活用アドバイス
この文書を効率的に活用するためには、まず患者さんが入院や手術の予定が決まった段階で、できるだけ早めに医療機関と話し合いの機会を設けることをお勧めします。緊急時ではなく、落ち着いた環境で十分に説明を受け、質問もしながら理解を深めた上で記入することが大切です。
「2 謝絶する輸血などの範囲」の選択肢については、医師とよく相談しながら決めましょう。たとえば、宗教的な理由で他人の血液は受け入れられないけれど、自分の血液を使う方法なら問題ないという場合、その旨を明確に示すことで、医師も治療計画を立てやすくなります。分からない医療用語があれば遠慮せずに医師や看護師に質問し、納得した上で〇をつけるようにしてください。
また、この文書は一度作成したら終わりではありません。治療が進む中で気持ちが変わることもあるかもしれませんし、新しい治療法について知る機会もあるでしょう。その場合は再度医療スタッフと話し合い、必要に応じて文書を更新することも可能です。
医療機関側としては、この文書を患者さんのカルテと一緒に保管し、救急対応や夜間対応のスタッフも含めて全員が患者さんの意思を把握できるようにすることが重要です。電子カルテシステムに登録するだけでなく、紙の原本もすぐに参照できる場所に保管しておくと、万が一の際にも迅速に対応できます。
【4】この文書を利用するメリット
患者さんにとっては、自分の価値観や信念を医療現場で確実に守ってもらえるという安心感が得られます。医療は本来、患者さん一人ひとりの意思を尊重して行われるべきものですが、緊急時や意識がない状態では、本人の希望が正確に伝わらないこともあります。この文書があることで、どんな状況でも自分の意思が反映された治療を受けられます。
医療機関にとっては、患者さんの明確な意思表示があることで、医療スタッフが安心して治療方針を決定できるというメリットがあります。特に生命に関わる判断を迫られる場面では、この文書が医師や看護師の大きな支えとなります。また、後から家族間で意見の相違が生じた場合や、万が一訴訟などのトラブルに発展した際にも、患者本人の意思が書面で残っていることは非常に重要な証拠となります。
さらに、この文書を通じて患者さんと医療スタッフの間に深い信頼関係が築かれることも大きなメリットです。お互いに十分な対話を重ね、理解し合った上で治療を進めることができるため、医療の質そのものが向上します。
Word形式で編集可能なため、各医療機関の実情や地域性、患者層に合わせてカスタマイズできる点も実用的です。たとえば、小児科を多く扱う病院であれば保護者向けの説明を追加したり、外国人患者が多い地域では多言語版を作成したりといった応用が可能です。
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