【1】書式概要
この契約書は、薬局の所有者が実際の店舗運営を専門業者に任せたい場合に使用する委託契約の雛形です。近年、薬局業界では人手不足や専門性の高い運営ノウハウが求められる中、薬局オーナーが経営の専門家に店舗運営を委ねるケースが増えています。
この書式が活用される代表的な場面として、薬局を相続したものの経営経験がない方、複数店舗を展開したいが人材が不足している薬局チェーン、本業に専念したい医師が開設した門前薬局などがあります。また、薬局の売却を検討しているが当面は運営を継続したい場合や、新規開業時に経験豊富な業者に運営を依頼したい場合にも重宝します。
契約書には薬事関連の規制への対応、処方箋の適切な管理、従業員の雇用形態、売上金の管理方法、在庫管理の責任分担など、薬局特有の運営課題を網羅的にカバーしています。改正民法にも対応しており、現行制度下での委託契約として安心してご利用いただけます。委託料の設定方法も固定額と売上連動の組み合わせパターンを採用し、双方にとって公平な収益配分を実現できる内容となっています。
【2】条文タイトル
第1条(目的)
第2条(定義)
第3条(委託業務の内容)
第4条(委託期間)
第5条(経営の名義及び損益の帰属)
第6条(委託料)
第7条(経費の負担)
第8条(売上金の管理)
第9条(在庫管理)
第10条(従業員の雇用)
第11条(報告義務)
第12条(監査権)
第13条(秘密保持)
第14条(個人情報の保護)
第15条(転貸の禁止)
第16条(反社会的勢力の排除)
第17条(契約の解除)
第18条(契約終了時の措置)
第19条(損害賠償)
第20条(不可抗力)
第21条(権利義務の譲渡禁止)
第22条(再委託の禁止)
第23条(知的財産権)
第24条(商標等の使用)
第25条(保険)
第26条(令遵守)
第27条(反社会的勢力との取引禁止)
第28条(契約の変更)
第29条(存続条項)
第30条(協議事項)
第31条(管轄裁判所)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条文は契約全体の基本的な枠組みを定めています。薬局の所有者が運営の専門家に店舗経営を任せるという、シンプルながら重要な取り決めです。例えば、薬剤師の資格は持っているものの経営は苦手という薬局オーナーが、チェーン展開の経験豊富な企業に運営を委ねる場合などに適用されます。
第2条(定義)
契約書で使用される重要な用語の意味を明確にしています。「本件店舗」「経営管理業務」「営業日」といった基本概念を統一することで、後々の解釈の違いを防ぎます。特に複数店舗を運営する場合、どの店舗が対象なのかを明確にする意味でも重要な条項です。
第3条(委託業務の内容)
委託される業務の具体的な範囲を詳細に列挙しています。日常運営から従業員管理、在庫管理、薬事関連業務まで幅広くカバーしており、薬局特有の専門性を要する業務も含まれています。処方箋管理や調剤業務の監督など、薬局ならではの責任ある業務も明記されているのが特徴です。
第4条(委託期間)
契約の有効期間と自動更新の仕組みを定めています。3ヶ月前の事前通知により契約終了の意思表示ができる一方、何もしなければ自動的に1年延長される仕組みは、継続的な薬局運営の安定性を重視した設計といえます。
第5条(経営の名義及び損益の帰属)
薬局の経営名義は委託者のままで、損益も委託者に帰属することを明確にしています。これにより、薬局開設者としての許可関係はそのまま維持され、受託者は純粋に運営業務のみを担当する構造になります。債務負担の制限も設けることで、委託者の財産を保護しています。
第6条(委託料)
固定額と売上連動の組み合わせによる委託料設定は、受託者の基本的な業務遂行を保障しつつ、売上向上へのインセンティブも与える合理的な仕組みです。例えば、月額30万円の固定費と売上の3%といった設定により、双方にとってメリットのある収益配分を実現できます。
第7条(経費の負担)
薬局運営に必要な経費の負担区分を明確にしています。店舗賃料や薬剤師の人件費、医薬品仕入費用は委託者負担とし、日常的な運営経費は受託者負担とする区分けは、それぞれの責任範囲に応じた合理的な配分といえます。
第8条(売上金の管理)
薬局の売上金を毎日委託者の口座に入金する仕組みは、資金管理の透明性を確保する重要な条項です。釣銭準備金として一定額の保管を認めることで、日常業務の円滑な遂行も可能にしています。
第9条(在庫管理)
医薬品という特殊な商品を扱う薬局では、適切な在庫管理が不可欠です。定期的な棚卸しと報告義務により、在庫の正確性を保つとともに、過剰在庫や品切れを防ぐ発注管理も受託者の重要な責務として位置づけています。
第10条(従業員の雇用)
薬局スタッフの雇用関係を整理しています。一般スタッフは受託者が雇用する一方、薬剤師などの専門職については協議により決定する柔軟な仕組みを採用しています。これにより、専門性の高い人材の確保と適切な労務管理の両立を図っています。
第11条(報告義務)
月次での詳細な経営報告により、委託者が店舗の状況を正確に把握できる仕組みです。売上から在庫、従業員の状況、顧客対応まで幅広い報告項目により、薬局経営の全体像を可視化します。
第12条(監査権)
委託者による店舗監査の権利を保障しています。事前通知による監査実施により、委託者の知る権利と受託者の営業への配慮のバランスを取っています。薬局という公共性の高い事業だからこそ、適切な監督が重要になります。
第13条(秘密保持)
薬局経営で知り得る情報の機密性を保護しています。顧客の処方箋情報や経営データなど、センシティブな情報を扱う薬局では特に重要な条項です。契約終了後5年間の保持義務により、長期的な情報保護も担保しています。
第14条(個人情報の保護)
薬局では患者の個人情報を多数取り扱うため、個人情報保護への対応は必須です。関連する規制の遵守と安全管理措置の実施により、患者のプライバシーを適切に保護する体制を整備します。
第15条(転貸の禁止)
委託された薬局経営権を勝手に第三者に転貸することを禁止しています。薬局開設許可との関係や、委託者との信頼関係を考慮すれば、当然の制限といえます。
第16条(反社会的勢力の排除)
薬局という社会的責任の重い事業において、反社会的勢力との関係を完全に遮断することを明確にしています。詳細な定義と確約により、クリーンな経営環境を確保します。
第17条(契約の解除)
契約違反時の解除手続きと、重大な事由による即時解除の要件を定めています。薬局の公共性を考慮し、営業停止処分や許認可取消などの事由も即時解除事由として規定しています。
第18条(契約終了時の措置)
契約終了時の円滑な業務引継ぎを確保するための条項です。薬局の継続的な運営を保障するため、書類やデータ、在庫の適切な引継ぎを義務づけています。
第19条(損害賠償)
契約違反による損害賠償責任を明確にしています。薬局経営という専門性の高い業務において、適切な履行を確保するための重要な条項です。
第20条(不可抗力)
天災や法改正など、当事者の責任を超えた事由による履行不能への対応を定めています。薬局という必要不可欠なインフラを考慮し、様々な不可抗力事由を想定しています。
第21条(権利義務の譲渡禁止)
契約上の地位や権利義務の第三者への譲渡を制限しています。薬局経営の委託という個人的信頼関係に基づく契約の性質を反映した条項です。
第22条(再委託の禁止)
受託した業務をさらに第三者に委託することを原則禁止しています。薬局経営の責任の所在を明確にし、品質の維持を図る重要な制限です。
第23条(知的財産権)
業務遂行過程で生まれる成果物の知的財産権を委託者に帰属させています。薬局運営で開発される業務改善のノウハウや仕組みを委託者の資産として位置づけています。
第24条(商標等の使用)
薬局のブランドや商標の使用について適切な管理を行う条項です。委託者のブランド価値を保護しつつ、受託者による適切な使用を可能にしています。
第25条(保険)
薬局運営に伴うリスクをカバーする保険への加入を義務づけています。医薬品を扱う業務の特殊性を考慮し、適切なリスクヘッジを図ります。
第26条(令遵守)
薬事関連の法規制遵守を明確に義務づけています。薬局運営には多くの規制が適用されるため、これらの遵守は事業継続の前提条件となります。
第27条(反社会的勢力との取引禁止)
薬局運営において反社会的勢力との取引を禁止しています。第16条と併せて、薬局の社会的責任を果たすための重要な条項です。
第28条(契約の変更)
契約内容の変更は書面による合意が必要であることを明確にしています。口約束によるトラブルを防ぎ、契約の安定性を確保します。
第29条(存続条項)
契約終了後も効力を持続させる条項を指定しています。秘密保持や損害賠償など、契約終了後も重要な条項の効力を維持します。
第30条(協議事項)
契約に定めのない事項や解釈の疑義について、誠実な協議による解決を定めています。薬局運営という継続的な関係では、柔軟な対応が重要になります。
第31条(管轄裁判所)
紛争時の管轄裁判所を事前に合意しています。迅速な紛争解決と当事者の予見可能性を確保するための条項です。