【1】書式概要
この「〔改正民法対応版〕税理士紹介業務委託契約書」は、税理士を紹介するビジネスを行う方と、税理士を探している依頼者との間で締結する契約書の雛型です。近年、適切な税理士を見つけることが難しいと感じる経営者や個人事業主が増えており、そのニーズに応えるマッチングサービスの需要が高まっています。
本契約書は、紹介業務の範囲、紹介料や成功報酬の支払条件、責任の所在など、両者の権利義務関係を明確にします。特に改正民法に準拠した内容となっており、紹介者と依頼者双方の立場を考慮した公平な条件設定になっています。税理士紹介ビジネスを始める方や、専門家の紹介サービスを展開する企業にとって必須の書式です。
また、紹介後のトラブル防止にも役立ちます。税理士事務所と契約を結びたい企業や個人が、仲介者を通じて最適な専門家を見つける際の取引条件を明確化したい場合に活用できます。
【2】条文タイトル
第1条(目的)
第2条(定義)
第3条(紹介業務の内容)
第4条(紹介プロセス)
第5条(紹介料)
第6条(紹介の条件)
第7条(紹介者の義務)
第8条(免責事項)
第9条(依頼者の義務)
第10条(機密保持)
第11条(個人情報の取扱い)
第12条(契約期間)
第13条(再紹介)
第14条(契約解除)
第15条(損害賠償)
第16条(反社会的勢力の排除)
第17条(譲渡禁止)
第18条(不可抗力)
第19条(協議事項)
第20条(管轄裁判所)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条文は契約書の根本的な意図を示すもので、税理士紹介サービスの提供者(紹介者)と、税理士を探している企業や個人(依頼者)との間の取り決めであることを明らかにしています。実務上は、この契約が「誰が」「何を」するための契約なのかを簡潔に表現しており、後に解釈の違いが生じた場合の基本方針となります。
例えば、ある会計事務所の顧問先企業が急成長し、より専門的な税務サポートを必要とする場合、適切な税理士を紹介するというサービスの枠組みを本条で定義しています。
第2条(定義)
この条文では契約で使用される重要な用語の意味を明確にしています。特に「紹介業務」「紹介料」「成功報酬」「機密情報」という4つの重要概念を定義しており、後続の条項で使用される際の解釈に一貫性を持たせる役割があります。
例えば、中小企業向けに税理士紹介を行う会社が、初回相談料として基本紹介料を設定し、実際に契約が成立した場合には税理士への報酬の一定割合を成功報酬として受け取る、というビジネスモデルの根拠となる用語を定義しています。
第3条(紹介業務の内容)
この条文は紹介者が提供するサービスの具体的な範囲を規定しています。依頼者のニーズに合わせた税理士の選定、紹介する税理士の情報提供、複数の候補者紹介の可能性などが含まれます。
実際の適用場面としては、製造業を営む中小企業が、業界特有の税務知識を持つ税理士を求めている場合、紹介者はその業種に精通した実績のある税理士を選定し、その専門分野や過去の実績情報を提供する、といった業務内容を定めています。
第4条(紹介プロセス)
この条文は実際の紹介手順を段階的に規定しており、依頼者による条件提示から始まり、紹介者による税理士選定、面談調整、そして最終的な契約交渉に至るプロセスを明確にしています。
例えば、税理士を探している個人事業主が「確定申告の経験が豊富で、月額報酬3万円以内、オンライン対応可能な税理士」という条件を提示し、紹介者がその条件に合う税理士を選定、Zoomでの初回面談を調整するといった流れが想定されます。
第5条(紹介料)
この条文は紹介サービスの対価について詳細に規定しています。基本紹介料と成功報酬の2段階の報酬体系、支払方法、支払期限、遅延損害金についても明記されています。
実務では、例えば紹介者が基本紹介料として2万円を設定し、成功報酬として税理士への初年度報酬の15%を受け取るケースが考えられます。依頼者が税理士と月額5万円の顧問契約を結んだ場合、年間60万円の15%である9万円が成功報酬として紹介者に支払われることになります。
第6条(紹介の条件)
この条文は紹介サービスの品質保証と限界について規定しています。紹介者は最適な税理士を紹介する努力義務を負う一方、全ての希望条件を満たす保証はしないという現実的な取り決めです。また、条件不一致の場合の代替紹介の可能性も規定しています。
例えば、依頼者が「国際税務に精通し、英語対応も可能で、月額報酬は3万円以内」という条件を提示したが、そのような条件を全て満たす税理士が見つからない場合、紹介者は最も近い条件の税理士を紹介し、不満がある場合は代替案を提示する対応が可能です。
第7条(紹介者の義務)
この条文は紹介者の基本的な責任と行動規範を定めています。誠実な業務遂行、正確な情報提供、情報管理、契約交渉への不干渉などが含まれます。
実際には、例えば紹介者が「この税理士は上場企業の税務顧問経験あり」と紹介したが実際には経験がなかった場合、紹介者の義務違反となる可能性があります。また、紹介後に依頼者と税理士の間の報酬交渉に介入して高額契約を促すような行為も不適切とされます。
第8条(免責事項)
この条文は紹介者の責任範囲の限界を明確にしています。紹介した税理士の能力や業務内容に関する保証をしないこと、紹介後の紛争責任を負わないことなどが規定されています。
例えば、紹介された税理士が依頼者に不適切な節税策を提案し損害が生じた場合、その責任は基本的に税理士本人にあり、紹介者は責任を負わないという原則を定めています。これは紹介ビジネスの性質上、合理的な範囲設定といえます。
第9条(依頼者の義務)
この条文は依頼者側の責任を規定しています。正確な情報提供、誠実な面談対応、契約締結の通知義務、契約内容の開示などが含まれます。
実務上は、例えば依頼者が「年商5000万円の個人事業」と紹介者に伝えたが、実際には年商1億円の法人だった場合、適切な税理士紹介ができない原因となり得ます。また、紹介された税理士と秘密裏に契約し、成功報酬を回避しようとする行為も義務違反となります。
第10条(機密保持)
この条文は両者間で交換される機密情報の取扱いを規定しています。開示された機密情報の第三者提供禁止、例外事項、義務の存続期間などが明記されています。
例えば、依頼者が「来年M&Aを検討しているので、その経験がある税理士を」と機密情報を開示した場合、紹介者はこの情報を他社に漏らしてはならず、この義務は契約終了後も5年間続くことになります。
第11条(個人情報の取扱い)
この条文は個人情報保護法に基づく個人情報の適切な管理を規定しています。利用目的の限定、第三者提供の制限、安全管理措置などが含まれます。
実務では、依頼者が個人の場合、住所や所得状況などのセンシティブな情報を紹介者に開示することがあります。紹介者はこれらの情報を適切に管理し、例えば紹介目的以外のマーケティング利用などは避けるべきことが定められています。
第12条(契約期間)
この条文は契約の有効期間と、期間経過後も継続する義務について規定しています。基本的な契約期間と、成功報酬に関連する条項の存続が定められています。
例えば、6ヶ月の契約期間を設定した場合、その間に紹介された税理士と契約が成立し、成功報酬の支払いが契約期間終了後になっても、その支払義務は継続することが明確にされています。
第13条(再紹介)
この条文は最初の紹介が不成立だった場合の再紹介の可能性について規定しています。依頼者の再紹介請求権と、それにかかる費用の協議事項が定められています。
実務では、例えば3名の税理士を紹介したが全て条件が合わず契約に至らなかった場合、依頼者は追加費用について協議の上、さらに別の税理士の紹介を受けることができる仕組みを提供しています。
第14条(契約解除)
この条文は契約終了の条件と手続きを規定しています。一般的な契約違反による解除、即時解除事由、支払遅延による解除などが明記されています。
例えば、依頼者が紹介料を支払わない場合や、紹介者が意図的に虚偽の情報を提供した場合など、契約関係を継続することが適切でない状況での解決策を定めています。
第15条(損害賠償)
この条文は契約違反があった場合の責任と賠償について規定しています。一般的な賠償責任、責任の上限、紹介税理士の業務に関する免責などが含まれます。
実務上は、例えば紹介者が守秘義務に違反し依頼者の機密情報を漏洩した場合の賠償責任を定めていますが、通常は支払われた紹介料の総額を上限とする合理的な制限が設けられています。
第16条(反社会的勢力の排除)
この条文は契約当事者が反社会的勢力でないことの保証と、違反時の対応を規定しています。自己と役員等の非該当性保証、解除権、禁止行為などが詳細に定められています。
この条項は現代の契約書では標準的なもので、健全な経済活動を保護するために必要な規定です。特に専門家の紹介という信頼性の高いサービスでは重要な意味を持ちます。
第17条(譲渡禁止)
この条文は契約上の地位や権利義務の第三者への譲渡を制限しています。信頼関係に基づく契約であることを前提に、当事者の同一性を保持する規定です。
例えば、紹介者が自社の権利を別会社に売却して成功報酬を受け取る権利を移転しようとする場合、依頼者の事前承諾が必要になります。
第18条(不可抗力)
この条文は当事者の責めに帰さない事由による義務不履行の免責を規定しています。不可抗力の具体例、通知義務、対応協議などが含まれます。
例えば、大規模災害で紹介予定だった税理士との連絡が取れなくなった場合や、パンデミックで対面面談が不可能になった場合など、予見不可能な事態への対応方針を定めています。
第19条(協議事項)
この条文は契約に定めのない事項や解釈の疑義が生じた場合の解決方法を規定しています。当事者間の誠実な協議による解決原則を定めています。
実務上は、例えば契約書にない新たなサービス(税理士との初回面談への同席など)を依頼された場合の対応や、「適切な税理士」の解釈に違いが生じた場合の協議プロセスなどが想定されます。
第20条(管轄裁判所)
この条文は紛争が生じた場合の管轄裁判所を指定しています。通常は紹介者の所在地を管轄する裁判所が指定されることが多いですが、交渉によって変更可能です。
この規定は、万が一訴訟になった場合の予見可能性を高め、どこでどのような手続きで解決されるかを明確にする機能を持っています。遠方の裁判所が指定されると訴訟コストが増大するため、依頼者にとっては重要な交渉ポイントとなります。