第1条(目的)
この条文では契約の基本的な目的を定めています。着物着付けサービスを提供する事業者(甲)と着付け師(乙)の間で業務委託関係を明確にするためのものです。この条項により契約の本質が「雇用契約」ではなく「業務委託契約」であることが明確になります。例えば、着物レンタル店が外部の着付け師にサービスを依頼する場合、この目的規定によって両者の関係性が明確になります。
第2条(委託業務)
この条項では具体的な委託業務の内容を詳細に列挙しています。着付けサービスの提供、道具の準備・管理、顧客対応などの基本業務に加え、着付けデモンストレーションなど付随業務も含まれています。また業務の遂行場所や指示系統についても規定しています。例えば、成人式シーズンにホテルで行われる着付けイベントへの出張や、花嫁の自宅への出張なども含まれるということが明確になっています。
第3条(業務の遂行)
着付け師が業務を行う際の基本的な姿勢や義務について定めています。関係法令の遵守はもちろん、技能向上への努力義務や誠実な業務遂行など、質の高いサービス提供を担保するための条項です。例えば、最新の着付け技術やトレンドについて自己研鑽することが求められます。また、体調不良などで予定通り業務ができない場合には速やかな報告が必要です。
第4条(委託料)
報酬に関する条項です。基本料金、出張料、特殊着付け加算など、報酬体系を明確に定めています。支払方法や振込手数料の負担、料金改定の可能性についても言及しています。例えば、一般的な訪問着の着付けは基本料金のみですが、花嫁衣装などの場合は特殊着付け加算が適用されます。月末締めの翌月15日払いというのは業界でも一般的な支払いサイクルです。
第5条(契約期間)
契約の有効期間と更新方法について定めています。基本的に1年間の契約となり、特に申し出がなければ自動更新される仕組みです。これにより長期的な関係構築が可能になります。例えば、初回は短期間でお試し契約し、問題なければ自動更新で継続するという使い方もできます。
第6条(設備・機材)
業務に必要な道具や機材の負担区分について明確にしています。基本的には着付け師自身が準備しますが、会社から貸与される場合もあるため、その管理責任についても規定しています。例えば、着付け師個人の好みで集めた帯締めや帯揚げなどの小物は自前のものを使用し、高価な振袖など特殊な衣装は会社から貸与されるというケースが多いでしょう。
第7条(報告義務)
着付け師の報告義務について定めています。定期的な業務報告や問題発生時の緊急報告など、円滑な業務運営のための情報共有体制を整えるための条項です。例えば、顧客からの特別なリクエストや着付け中に気づいた着物の傷みなどを報告することで、サービス品質の向上につながります。
第8条(顧客対応)
顧客サービスの質を確保するための条項です。丁寧かつ適切な対応を行い、クレームがあった場合の報告義務などを定めています。例えば、着物の着崩れが心配だという顧客の声に対して、着崩れしにくい補正方法を提案するなど、積極的なサービス提供が求められます。
第9条(研修・技能向上)
着付け師のスキルアップのための研修参加義務とその費用負担について定めています。サービスの質を維持・向上させるための重要な条項です。例えば、新しい着付けスタイルや季節の帯結びのワークショップなどに参加することで、常に最新の技術を習得することが期待されています。
第10条(機密保持)
顧客情報や会社情報の守秘義務について厳格に定めています。契約終了後も一定期間は機密保持義務が続く点に注意が必要です。例えば、芸能人や著名人の着付けを担当した場合、その情報を外部に漏らさないことが求められます。また、顧客の体型情報などのプライバシーにも配慮する必要があります。
第11条(競業避止)
契約期間中および契約終了後一定期間の競業避止義務を定めています。違反した場合の違約金についても明記されています。例えば、委託先の着物店で接客した顧客を自分の個人ビジネスに引き抜くことは禁止されています。ただし、競業避止義務の範囲は合理的な限度内である必要があります。
第12条(権利義務の譲渡禁止)
契約上の地位や権利義務を第三者に勝手に譲渡することを禁止する条項です。これにより契約関係の安定性が保たれます。例えば、着付け師が自分の担当する顧客を別の着付け師に勝手に引き継がせることはできません。
第13条(再委託の禁止)
委託された業務を着付け師が勝手に別の人に再委託することを禁止する条項です。信頼関係に基づく契約であることを明確にしています。例えば、予約が重なった場合でも、自分の判断で友人の着付け師に仕事を振ることはできず、必ず会社の許可が必要です。
第14条(損害賠償)
契約違反や業務遂行上の過失により生じた損害の賠償責任について定めています。不可抗力による損害についての取り扱いも明記されています。例えば、着付け中に顧客の着物を誤って破損させた場合の責任や、台風で業務が遂行できなかった場合の取り扱いなどが含まれます。
第15条(契約解除)
契約を解除できる条件について詳細に定めています。通常の解除手続きと、重大な違反があった場合の即時解除の両方について規定しています。例えば、無断で業務を放棄するような行為があれば即時解除の対象となりますが、些細な問題であれば是正の機会が与えられます。
第16条(反社会的勢力の排除)
反社会的勢力との関係がないことを相互に確認し、違反した場合は契約を解除できることを定めています。現代の契約では必須の条項となっています。例えば、後から相手方が暴力団と関係していることが判明した場合、即座に契約関係を解消できます。
第17条(契約終了後の処理)
契約終了時の物品返還義務や、契約終了後も存続する条項について明記しています。契約終了後のトラブル防止のための重要な条項です。例えば、貸与された高級な帯や着付け道具は速やかに返却する必要があります。
第18条(協議事項)
契約書に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の対応方法を定めています。話し合いによる解決を優先する姿勢を示しています。例えば、新型コロナウイルスのような予期せぬ事態が発生した場合、この条項に基づいて対応を協議することになります。
第19条(管轄裁判所)
紛争が生じた場合の裁判管轄について定めています。通常は委託者側の最寄りの裁判所が指定されることが多いです。例えば、東京の着物店と大阪の着付け師の間で契約した場合、東京地方裁判所が管轄裁判所として指定されることが一般的です。これにより、万が一の法的紛争の際の手続きが明確になります。