【1】書式概要
この契約書は、特許権を持つ企業が他の企業に対して、その特許技術を使用する権利を与える際に必要となる重要な取り決めです。特許権者(ライセンサー)が、特許を活用したい企業(ライセンシー)に対して、製品の製造販売を認める代わりに、対価としてロイヤルティを受け取る仕組みを明確に定めています。
近年、企業間での技術提携や特許の有効活用が注目される中、この種の契約は非常に重要性を増しています。特に中小企業やスタートアップが大手企業の特許技術を活用して事業展開を図る場合や、研究開発型企業が自社の特許を他社にライセンスして収益を得る場合に頻繁に利用されます。
また、企業の特許戦略として、自社で製品化しない特許を他社に許諾することで、特許の死蔵化を防ぎ、継続的な収益源として活用する手法が広まっています。この契約書テンプレートは、そうした特許ライセンス取引において、双方の権利義務を明確化し、トラブルを未然に防ぐための基盤となります。
改正民法に対応した内容となっており、現在の商取引環境に適した条項構成となっているため、実務での利用価値が高い書式といえるでしょう。
【2】条文タイトル
第1条(実施許諾)
第2条(対価)
第3条(調査)
第4条(実施登録)
第5条(不争義務)
第6条(侵害の排除)
第7条(改良発明)
第8条(秘密保持)
第9条(有効期間)
第10条(解除)
第11条(期限の利益の喪失)
第12条(権利義務の譲渡禁止)
第13条(協議)
第14条(管轄)
【3】逐条解説
第1条(実施許諾)
特許権者が実施権を許諾する範囲と条件を定める根幹的な条項です。非独占的な実施権であることを明確にし、日本国内での製造販売に限定している点が実務的です。再実施権を含まないとすることで、ライセンシーが勝手に第三者に技術を再許諾することを防いでいます。例えば、自動車部品メーカーが特定の技術特許について、複数の完成車メーカーに同時にライセンスする場合などが想定されます。
第2条(対価)
ライセンス料の支払い方法を詳細に規定した重要な条項です。イニシャルペイメント(一時金)とランニングロイヤルティ(売上連動)の二段階構成となっており、特許収益化の一般的な手法を採用しています。純販売価格の定義を明確にすることで、後日の紛争を予防しています。IT関連特許では売上の3-5%、製薬関係では10%前後が相場とされることが多いです。
第3条(調査)
ロイヤルティ算定の基礎となる売上報告の透明性を確保する条項です。帳簿の保管義務と監査権を定めることで、適正な対価支払いを担保しています。公認会計士による第三者監査の仕組みは、双方の信頼関係維持に有効です。実際のライセンス取引では、売上の過少申告が問題となるケースも少なくないため、この条項の重要性は高いといえます。
第4条(実施登録)
通常実施権の登録について定めた条項です。登録により第三者に対する対抗要件を備えることができるため、ライセンシーの事業継続性を保護する意味があります。ただし、登録費用は実施権者負担としており、バランスの取れた内容となっています。特に重要な技術や長期間の契約では、登録を検討することが推奨されます。
第5条(不争義務)
ライセンシーが特許の有効性を争うことを禁止する条項です。特許権者にとって重要な保護規定であり、ライセンシーが技術を利用しながら特許無効を主張するという矛盾した行為を防止します。ただし、この条項の有効性については議論もあり、個別の事情を慎重に検討する必要があります。
第6条(侵害の排除)
第三者による特許侵害に対する対応を定めた条項です。特許権者が侵害排除の責任を負い、ライセンシーは協力義務を負うという役割分担を明確化しています。侵害発見時の報告義務により、迅速な対応が可能になります。競合他社が同様の技術を無断使用している場合の対処法として実用性が高い規定です。
第7条(改良発明)
ライセンス期間中にライセンシーが行った改良発明の取扱いを定めています。相互の技術発展を促進する条項として機能し、特に継続的な技術改良が期待される分野では重要な規定となります。合理的な条件での相互許諾により、技術の更なる発展を図ることができます。
第8条(秘密保持)
技術情報や契約内容の機密保持について定めた条項です。5年間の保持期間設定により、技術の陳腐化リスクとのバランスを取っています。例外規定により、公知情報や独自開発情報は対象外とすることで、過度な制約を避けています。知的財産関連契約では必須の条項といえるでしょう。
第9条(有効期間)
契約の存続期間を特許権の存続期間と連動させることで、自然な契約終了を図っています。特許無効時の自動終了条項により、無効な権利に基づく継続を防止しています。通常、特許権の存続期間は出願から20年間となっているため、長期的な契約関係となることが多いです。
第10条(解除)
契約解除事由を包括的に列挙した条項です。債務不履行、倒産関連事由、資本構成の変更等、様々なリスクを想定した内容となっています。特に第8号の株式取得による支配権移転は、ライセンス戦略上重要な解除事由として注目されます。30日間の是正期間設定により、軽微な違反での即座の解除を防いでいます。
第11条(期限の利益の喪失)
解除事由発生時の金銭債務の即時弁済義務を定めています。将来のロイヤルティ債務も含めて期限の利益を喪失する厳格な内容となっており、契約違反の抑止効果を持ちます。ただし、実際の適用には慎重な判断が必要となるケースも多いでしょう。
第12条(権利義務の譲渡禁止)
契約上の地位や権利義務の第三者への譲渡を制限する条項です。特許ライセンス契約の人的信頼関係を重視する性質を反映しており、予期しない第三者への権利移転を防止します。M&Aや事業承継の際には、この条項への対応が必要となります。
第13条(協議)
契約解釈等で疑義が生じた場合の解決方法を定めています。まず当事者間での誠実協議を促すことで、訴訟に至る前の円満解決を目指しています。実務では、技術的な問題や市場変化への対応等で協議が必要となるケースが頻繁に発生します。
第14条(管轄)
紛争解決のための裁判所を指定する条項です。専属的合意管轄により、複数の裁判所での重複訴訟を防止し、紛争解決の効率化を図っています。特許関連紛争では専門性が重要となるため、知的財産専門部を有する裁判所の管轄とすることが実務上有効です。