【1】書式概要
この契約書は、建築工事を発注する際に注文者(施主)の権利を手厚く保護するために作成された建築一式工事請負契約書の雛形です。令和2年4月施行の改正民法に完全準拠しており、従来の請負契約で問題となりがちな契約不適合責任や危険負担について、注文者に有利な条項を盛り込んでいます。
住宅の新築やリフォーム、店舗・事務所の建設工事において、工事業者との間で締結する正式な契約書として活用できます。特に個人の住宅建築や中小企業の建物建設において、発注者が不利な条件で契約を結んでしまうリスクを軽減できるよう設計されています。工事内容の変更、工期の延長、代金の支払条件、検収手続き、契約解除の要件など、実際の建築工事で発生しやすいトラブルを想定した条項が網羅的に盛り込まれています。
Word形式で提供されているため、具体的な工事内容や金額、工期などを自由に編集することが可能です。建築士事務所、工務店、ハウスメーカーとの契約締結時に、そのまま使用できる実用的な書式となっています。法改正に対応した最新の内容で、安心して工事契約を進めることができます。
【2】条文タイトル
第1条(本件工事の完成) 第2条(代金の支払い) 第3条(本件工事完成前の終了と精算等) 第4条(危険の移転) 第5条(工事内容・工期等の変更) 第6条(注文者による本契約の解除) 第7条(解除) 第8条(損害賠償) 第9条(契約不適合) 第10条(第三者との紛争等) 第11条(合意管轄) 第12条(協議)
【3】逐条解説
第1条(本件工事の完成)
建築工事の基本的な枠組みを定める根幹条項です。工事内容は躯体工事から仕上げ工事、設備工事まで包括的に規定され、建設業法遵守義務も明記されています。工期については着手と完成の両方で二重の定め方を採用し、契約締結後の状況変化にも対応できる柔軟性を持たせています。検査時期の規定により、注文者が工事完成後に十分な検収期間を確保できるよう配慮されています。例えば住宅建築の場合、内装工事の仕上がり具合や設備の動作確認など、専門知識のない一般の方でも時間をかけて確認できる仕組みになっています。
第2条(代金の支払い)
工事代金の支払方法と時期を明確化した条項です。契約締結時、上棟時、引渡時の三段階に分けた分割払いを基本とし、請負業者の資金繰りと注文者の支払負担のバランスを図っています。銀行振込による支払方法を指定することで、支払の記録を明確に残し、後日のトラブル防止に役立ちます。例えば総額3000万円の住宅建築工事であれば、契約時に1000万円、上棟時に1000万円、完成引渡時に1000万円といった具合に分割することで、注文者の資金計画も立てやすくなります。
第3条(本件工事完成前の終了と精算等)
工事が完成に至らなかった場合の処理を定めた重要な条項です。注文者に責任がない場合は実費相当額のみの負担とし、請負業者に責任がある場合は注文者に一切の負担を求めない厳格な責任分担を規定しています。これにより注文者は予期しない追加負担から保護されます。例えば請負業者が倒産した場合、注文者は工事の進捗に応じた実費のみを支払えばよく、違約金や損害賠償を求められることはありません。
第4条(危険の移転)
工事目的物に関する危険負担の移転時期を明確化した条項です。引渡し前は請負業者が危険を負担し、引渡し後は注文者が負担するという民法の原則を確認しています。天災等による損害については、修補可能な場合は請負業者の負担で修補することを義務付け、注文者の利益を保護しています。例えば完成直前に台風で屋根が損傷した場合、請負業者が自己負担で修理して引き渡すことになります。
第5条(工事内容・工期等の変更)
工事進行中の変更手続きを規律する条項です。すべての変更は書面による合意を要求し、口約束によるトラブルを防止します。天候不良等の不可抗力による工期延長については、請負業者からの通知義務を課し、延長日数と費用負担は協議で決定する仕組みとしています。例えば長雨により基礎工事が遅れた場合、請負業者は速やかに注文者に報告し、双方で延長期間と追加費用について話し合うことになります。
第6条(注文者による本契約の解除)
注文者の解除権を保障する条項です。工事完成前であればいつでも損害賠償により契約解除が可能とし、注文者の事情変更に柔軟に対応できるようにしています。これは民法の請負契約における注文者の特別な権利を明確化したものです。例えば家族構成の変化により建築計画を見直したい場合、適切な損害賠償を支払うことで契約を解除できます。
第7条(解除)
双方の当事者が無催告で契約解除できる事由を列挙した条項です。経済的破綻や反社会的勢力との関係など、契約継続が困難または不適切な状況を詳細に規定しています。特に反社会的勢力に関する条項は現代の企業コンプライアンス要求に対応したものです。例えば請負業者が破産申立てを受けた場合、注文者は即座に契約を解除して別の業者との契約に切り替えることができます。
第8条(損害賠償)
契約違反による損害賠償の範囲と限界を定めた条項です。工期遅延や契約違反による損害は賠償請求可能としつつ、不可抗力による場合は免責とするバランスの取れた規定です。契約不適合については次条で別途規律することを明記し、責任関係を整理しています。例えば請負業者の工期遅延により仮住まい費用が発生した場合、その費用を請求できます。
第9条(契約不適合)
改正民法の契約不適合責任に対応した最重要条項です。従来の瑕疵担保責任から大幅に拡充された注文者の権利(追完請求、代金減額、損害賠償、解除)を網羅的に規定しています。責任期間は3年間と法定期間を採用し、注文者の材料供給や指図による不適合については免責とする公平な内容です。例えば完成後に雨漏りが発見された場合、修理請求、代金減額請求、損害賠償請求のいずれかを選択できます。
第10条(第三者との紛争等)
工事施工に伴う第三者との紛争処理を定めた条項です。原則として請負業者が責任を負うことで注文者を保護しつつ、注文者に原因がある場合は注文者が責任を負う公平な規定です。例えば工事中の騒音で近隣とトラブルになった場合、通常は請負業者が対応しますが、注文者が特別に騒音の大きい工法を指定していた場合は注文者が責任を負います。
第11条(合意管轄)
紛争発生時の裁判管轄を予め定める条項です。地方裁判所を専属管轄とすることで、高額な建築工事紛争に適した審理体制を確保しています。具体的な裁判所名は契約当事者が記入することになります。
第12条(協議)
契約に定めのない事項や疑義が生じた場合の解決方法を定めた条項です。まずは当事者間の協議による円満解決を目指すという、日本の商慣行に適した規定です。これにより軽微な問題については話し合いで解決し、訴訟に至るリスクを軽減できます。
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