【1】書式概要
この契約書は、店舗や商業施設の経営者が、他の事業者に対して自分の建物や敷地内に広告看板を設置させる際に使用する専門的な取り決め書類です。近年、コンビニエンスストアや商業ビルの外壁、店舗の軒先などに他社の看板が掲示されているのをよく見かけますが、これらはすべてこのような契約に基づいて設置されています。
改正民法に完全対応したこの契約書雛形は、看板設置に関わる双方の権利と義務を明確に定めており、トラブルを未然に防ぐための重要な仕組みが盛り込まれています。特に、反社会的勢力の排除条項や解除事由の詳細な規定など、現代のビジネス環境に必要不可欠な要素がしっかりと含まれているのが特徴です。
実際の使用場面としては、飲食店経営者が近隣の学習塾に店舗外壁への看板設置を許可する場合、商業ビルのオーナーが企業の広告看板を屋上や壁面に設置させる場合、コンビニエンスストア経営者が地域の不動産会社に看板スペースを提供する場合などが挙げられます。また、個人商店の店主が副収入を得るために店舗前のスペースを看板設置場所として貸し出す際にも重宝されています。
この契約書を使用することで、月額の看板掲示料金の支払い方法、契約期間、看板の維持管理責任、契約終了時の看板撤去義務などが明確になり、後々のトラブルを効果的に防ぐことができます。特に、看板の破損時の対応や中途解約の手続き、損害金の計算方法まで詳細に定められているため、実務上非常に使いやすい構成となっています。
【2】条文タイトル
第1条(基本合意)
第2条(期間)
第3条(看板掲示料金)
第4条(看板の修復・交換)
第5条(権利義務の譲渡の禁止)
第6条(中途解約)
第7条(解除)
第8条(看板の撤去)
第9条(損害金)
第10条(反社会的勢力の排除)
【3】逐条解説
第1条(基本合意)の解説
この条項は契約の根幹を成す部分で、看板を設置する場所と設置の目的を明確に定めています。重要なのは設置場所の特定で、単に「店舗内」ではなく「●●階●●スペース」まで具体的に記載することで、後々の場所に関するトラブルを防いでいます。例えば、2階建ての美容院で1階の入口横に看板を設置する場合、「1階入口横壁面」といった具合に詳細に記載することが実務上重要です。また「有償で掲示する」という文言により、これが無償の好意ではなく商業取引であることを明確にしています。
第2条(期間)の解説
契約期間の設定は看板契約において極めて重要な要素です。多くの看板契約では1年から3年程度の期間が設定されることが一般的ですが、この条項では期間満了後の更新についても言及しています。「甲乙協議の上書面により更新することができる」という規定により、自動更新ではなく双方の合意による更新となるため、どちらか一方が契約継続を望まない場合は期間満了で自然に契約が終了します。これは地域の商業環境の変化に柔軟に対応できる仕組みといえるでしょう。
第3条(看板掲示料金)の解説
料金に関する条項は契約の中核的な部分です。月額制とすることで定期的な収入が見込める一方、毎月末日までに翌月分を前払いする仕組みにより、貸主側の資金繰りの安定を図っています。振込手数料を借主負担とするのは一般的な商慣行で、少額とはいえ毎月発生するコストを明確にしておくことでトラブルを防げます。実際の料金設定では、看板のサイズ、設置場所の人通りや車通りの多さ、周辺の商業価値などを総合的に考慮して決定されることが多いようです。
第4条(看板の修復・交換)の解説
看板は屋外に設置されることが多いため、台風や雪などの自然災害、経年劣化による破損は避けられません。この条項では修復や交換の費用負担を借主とすることで、看板の所有者である借主に適切な維持管理を促しています。
ただし「することができる」という表現になっているのは、軽微な破損の場合は修復せずにそのまま使用を続けることも可能だということを示しています。例えば、塾の看板の端が少し欠けた程度なら、広告効果に大きな影響がなければ修復を強制されないということです。
第5条(権利義務の譲渡の禁止)の解説
この条項は看板設置権の転売や又貸しを防ぐ重要な規定です。例えば、学習塾が看板設置契約を結んだ後、その権利を他の学習塾に売却したり、看板スペースの一部を別の業者に又貸ししたりすることを禁止しています。貸主としては、契約時に想定していた相手以外の看板が設置されることを防げるため、周辺環境や店舗イメージの維持につながります。事前の書面による承諾があれば譲渡可能としているのは、完全に禁止するのではなく、貸主の判断で柔軟に対応できる余地を残しているためです。
第6条(中途解約)の解説
借主側の事情により契約期間中に看板設置が不要になる場合への対応を定めています。何か月前の予告が必要かは契約書作成時に具体的に記載しますが、通常は1か月から3か月程度が一般的です。この予告期間により、貸主は次の借主を探す時間を確保できますし、収入の急激な減少も避けられます。例えば、個人経営の英会話教室が生徒数の減少により閉校することになった場合、この条項に従って適切な手続きを踏めば、残りの契約期間の料金を支払わずに済みます。
第7条(解除)の解説
この条項は契約違反や信用不安などの重大な事態が発生した場合の強制的な契約終了について定めています。8つの解除事由が列挙されており、料金の未払いから会社の倒産まで幅広いリスクをカバーしています。特に注目すべきは「催告及び自己の債務の履行の提供をすることなく、直ちに本契約を解除することができる」という部分で、通常の契約解除で必要な事前通告や催促を省略できる緊急事態条項となっています。
例えば、看板を設置していた会社が破産手続きを開始した場合、貸主は即座に契約を解除して看板の撤去を求めることができます。
第8条(看板の撤去)の解説
契約終了時の看板撤去は必須の義務として明確に規定されています。「自己の費用をもって直ちに」という表現により、撤去費用の負担者と撤去時期が明確になっています。看板の撤去には専門業者による作業が必要な場合も多く、特に高所に設置された大型看板では数十万円の費用がかかることもあります。借主としては契約時からこの撤去費用を見込んでおく必要があり、貸主としては撤去が適切に行われない場合の対応策も事前に検討しておくことが重要です。
第9条(損害金)の解説
看板撤去の遅延に対するペナルティを定めた条項です。1日あたりの損害金額を具体的に設定することで、撤去遅延を効果的に防止できます。この損害金は懲罰的な意味合いだけでなく、撤去が遅れることで貸主が次の契約を結べない機会損失を補償する意味もあります。例えば、月額3万円の看板契約で1日1000円の損害金が設定されている場合、1か月撤去が遅れると損害金だけで3万円となり、借主にとっては早期撤去の強いインセンティブになります。
第10条(反社会的勢力の排除)の解説
現代の契約書では必須となっている反社会的勢力排除条項です。この条項は単に暴力団員の排除だけでなく、暴力団と関係を持つ企業や個人も対象としており、非常に包括的な内容となっています。看板契約においても、地域の安全性や店舗イメージの維持のため、この条項は不可欠です。
例えば、一見普通の会社に見えても、実質的に暴力団が経営に関与していることが後から判明した場合、この条項に基づいて即座に契約解除できます。また、下請けや委託先についても同様の確認を求めることで、契約関係全体から反社会的勢力を排除する仕組みが構築されています。