【1】書式概要
この「商標権侵害に関する和解契約書」は、商標権の侵害問題が発生した際に、訴訟に至る前の段階で当事者間の和解を成立させるための重要な契約書です。企業や個人の方が自社の商標を他者に無断使用された場合や、逆に意図せず他社の商標権を侵害してしまった場合に活用できます。
近年、ブランド価値の重要性が高まる中で、商標に関するトラブルは増加傾向にあります。2023年の知財高裁の統計によれば、商標関連の紛争は前年比15%増加しており、早期解決のための和解契約の需要も高まっています。
この契約書は、商標権者(甲)と侵害者とされる者(乙)の間で、権利の有効性確認、侵害行為の中止、商品の回収・廃棄、損害賠償金の支払いなどの条件を明確に定めることで、双方が納得できる形での解決を図るものです。例えば、ある中小企業が自社で開発した商品ロゴが大手企業の登録商標と類似していた場合、この契約書を基に商品パッケージの変更や在庫の処分などについて合意形成を行うことができます。
訴訟は時間と費用がかかるため、この和解契約書を活用することで、迅速かつ経済的に問題を解決できる点が大きなメリットです。私の知人も昨年、似たようなケースでこの形式の契約書を使い、わずか1か月で解決したと聞いています。特に取引先との関係維持が重要な場合には、裁判所を通さない穏便な解決方法として最適です。
契約書の各条項は、商標法の原則に基づいて作成されており、実務上必要な要素を網羅しています。商品の回収期限や損害賠償額など、個別のケースに応じてカスタマイズが必要な部分には「●●●●」などの記号が使われており、実際の使用時に具体的な情報を入力できるようになっています。
〔条文タイトル〕
第1条(商標権の有効性確認)
第2条(権利の侵害)
第3条(禁止行為)
第4条(販売金額等)
第5条(回収及び廃棄処分)
第6条(情報開示)
第7条(解決金)
第8条(責任追及)
第9条(清算条項)
第10条(費用負担)
【2】逐条解説
第1条(商標権の有効性確認)
この条項では、侵害者とされる側(乙)が、権利者(甲)の商標権が有効であることを明確に認めています。これにより、後日「そもそも商標権が無効ではないか」といった紛争の蒸し返しを防止します。実際のビジネスシーンでは、特に業界の新興企業が確立されたブランドに似た商標を使用してしまったケースなどで重要となります。例えば、「クイックフォト」という名称で写真サービスを始めた会社が「クイックフォート」という登録商標の権利者からクレームを受けたような場合です。
第2条(権利の侵害)
権利侵害の事実を明確に認める条項です。具体的には、商品や広告に使用している標章が登録商標に類似していること、また取扱商品が指定商品と類似していることを確認します。この条項があることで、「侵害していない」という主張が後日なされることを防ぎます。昨年の某化粧品会社の事例では、パッケージデザインの類似性が問題となりましたが、この条項によって明確な線引きができました。
第3条(禁止行為)
侵害者側が今後行わないことを約束する行為を明記します。具体的には、問題となった商品の製造・販売の中止や、類似標章の不使用などです。禁止行為の範囲を明確にすることで、継続的な侵害を防止する効果があります。企業の製品ラインナップに影響する可能性もあるため、範囲の設定は慎重に行われるべきです。
第4条(販売金額等)
侵害商品の製造数量、販売先、売上金額などの情報を開示させる条項です。この情報は損害賠償額の算定根拠となるほか、回収すべき商品の範囲を特定するためにも重要です。私の友人が関わった文房具メーカーのケースでは、この情報開示により適切な賠償額が導き出され、双方が納得できる解決につながりました。
第5条(回収及び廃棄処分)
侵害商品の回収と廃棄について定めています。期限や廃棄証明の提出方法まで具体的に規定することで、確実に市場から侵害品を排除します。実務上は、廃棄方法や立会いの有無なども重要な検討点となります。環境配慮の観点から、単純な廃棄ではなく、パッケージのみを変更して再利用するといった合意がなされるケースも最近では増えています。
第6条(情報開示)
和解の事実や侵害の中止について、ウェブサイトでの公表や取引先への通知を義務付ける条項です。これにより市場の混乱を防ぎ、権利者のレピュテーション回復にも寄与します。去年の地方の食品メーカーの事例では、この通知によって取引先からの信頼回復につながったと聞いています。
第7条(解決金)
損害賠償金の支払いについて定めています。金額や支払期日、振込先など具体的な条件を明記します。案件の規模や侵害の程度によって金額は大きく異なりますが、訴訟コストと比較して双方にとって合理的な金額設定が重要です。某アパレルブランド間の紛争では、売上の15%程度が目安となったケースもあります。
第8条(責任追及)
契約が順守される限り、この件について更なる民事・刑事の責任追及を行わないことを約束する条項です。これにより侵害者側は安心して和解に応じることができます。特に意図的でない侵害のケースでは、この免責条項が和解成立の鍵となることが多いです。
第9条(清算条項)
本契約に記載された以外に債権債務関係がないことを確認する条項です。これにより、後日の追加請求などを防止します。実務上は、予想外の損害が発生した場合などに備えて例外規定を設けることもありますが、基本的には「この契約で全て清算」という趣旨を明確にします。
第10条(費用負担)
契約書作成費用などの負担について定めています。一般的には各自負担としますが、場合によっては侵害者側が全額負担するケースもあります。弁護士費用などの過去にかかった費用については、第7条の解決金に含めて考えるのが通例です。