【1】書式概要
「商品共同開発に関する業務提携契約書」は、二社間で新商品を共同開発する際に必要な重要事項を網羅した契約書です。企業が持つ技術やノウハウを相互に活用し、一つの商品開発に取り組む場合に使用します。
開発体制、業務分担、費用負担、知的財産権の帰属など、共同開発における基本的な取り決めを明確にすることで、後のトラブルを未然に防ぎ、円滑な協力関係を構築するための土台となります。例えば、あるメーカーと部品サプライヤーが新製品を共同開発する場合や、異なる専門分野を持つ企業同士が革新的な商品を生み出したい場合などに最適です。
最近では業界の垣根を越えたコラボレーションも増えており、そういった場面でもこの契約書が活躍します。開発スケジュール、秘密保持、契約解除など実務上必要な条項もしっかり網羅しているため、安心して共同開発プロジェクトをスタートできるでしょう。
〔条文タイトル〕
第1条(定義)
第2条(目的)
第3条(開発体制)
第4条(業務分担)
第5条(開発スケジュール)
第6条(費用負担)
第7条(成果物の帰属)
第8条(既存の知的財産権)
第9条(特許出願)
第10条(改良発明)
第11条(秘密保持)
第12条(契約期間)
第13条(中途解約)
第14条(契約解除)
第15条(契約終了後の措置)
第16条(損害賠償)
第17条(反社会的勢力の排除)
第18条(協議解決)
第19条(管轄裁判所)
【2】逐条解説
第1条(定義)
この条項では契約書で使用する重要な用語の意味を明確にしています。「本開発」「知的財産権」「成果物」「秘密情報」といった用語を定義することで、契約内容の解釈に齟齬が生じないようにしています。特に「成果物」の定義は広く設定されており、開発過程で生まれるあらゆる知的成果を包含しています。実務では、業界特有の専門用語がある場合はここに追加するとよいでしょう。例えば、ソフトウェア開発であればソースコードやオブジェクトコードなどの定義を加えることが考えられます。
第2条(目的)
この条項は契約の目的を明確にするもので、両社が技術とノウハウを出し合って共同開発を行い、互いの事業発展を目指すことを示しています。目的条項は契約の解釈指針となるため、重要です。例えば、契約の他の条項に曖昧さがある場合、この目的に沿った解釈が優先されることがあります。「両社の事業発展に寄与する」という文言から、win-winの関係構築を意図していることが読み取れます。
第3条(開発体制)
共同開発を効率的に進めるための体制として、共同開発委員会の設置を定めています。委員会の構成や決定事項を明確にすることで、開発の方向性や進捗に関する意思決定を円滑に行えるようにしています。実務では、委員会の開催頻度や議事録の作成責任者など、より詳細な運営ルールを定めることも考えられます。また、甲乙それぞれから3名ずつとしていますが、プロジェクトの規模によって適切な人数は変わるでしょう。
第4条(業務分担)
両社の役割分担を明確にする条項です。企画・設計・製造と市場調査・技術支援・品質評価という形で分担を明記し、詳細は別紙で定めるとしています。実務では、この業務分担表が非常に重要で、詳細かつ明確に作成することがトラブル防止につながります。例えば、A社はユーザーインターフェースの設計を担当し、B社はバックエンドシステムの開発を担当するといった具体的な分担を記載します。
第5条(開発スケジュール)
開発期間の目標と、具体的なスケジュールの決定方法、遅延発生時の対応について定めています。1年という全体期間の目標設定、スケジュールの決定権限を委員会に委ねることで柔軟性を持たせ、遅延リスクへの対応策も盛り込んでいます。実務では、マイルストーンを設定し、各段階での成果物や承認プロセスも明確にすると良いでしょう。例えば、3か月後に基本設計完了、6か月後に試作品完成、9か月後に評価完了などです。
第6条(費用負担)
開発に必要な費用の負担方法を定めている条項です。原則として折半としつつ、間接経費は各自負担、特別な設備投資は別途協議としています。実務では、費用の定義や精算方法をより詳細に定めることが望ましいでしょう。例えば、「開発費用」には人件費を含むのか、外注費は誰の承認を得るのか、月次で精算するのか四半期ごとに行うのかなどを明確にしておくと良いです。
第7条(成果物の帰属)
共同開発による成果物の知的財産権の帰属を定める重要な条項です。共有としつつ持分は均等とし、本商品の開発・製造・販売目的に限り相手方の同意なく使用できるとしています。第三者への許諾等には相手方の同意が必要です。実際のケースでは、例えば、A社が70%、B社が30%といった形で貢献度に応じた持分比率を定めることもあります。また、特定の技術分野や用途については一方当事者に独占的な権利を与えるといった取り決めもあり得ます。
第8条(既存の知的財産権)
両社がもともと保有していた知的財産権の取扱いを定めています。これは第7条の新たに生まれる成果物の扱いと区別するために重要です。本開発のためなら相手方は無償で使用できるとしています。実務的には、「本開発に必要な場合」の判断基準をより具体的にしておくと良いでしょう。また、既存知的財産権のリストを別紙にまとめておくことで、後々「これは元々あった技術か新しく開発した技術か」という争いを防ぐことができます。
第9条(特許出願)
成果物について特許出願する場合の手続きと費用負担について定めています。共同出願とし、費用は折半、内容や手続きは協議して決めるとしています。実務では、出願国や特許以外の知的財産権(商標権や意匠権など)の出願についても定めておくと良いでしょう。例えば、日本国内の特許出願は共同で行うが、海外出願については各自の判断で行い、費用も各自負担といった規定も考えられます。
第10条(改良発明)
契約終了後に単独で行った改良発明の扱いについて定めています。当事者に帰属するとしつつも、相手方に優先的交渉権を与えるというバランスの取れた規定です。例えば、A社が契約終了後に共同開発した製品の改良版を開発した場合、その特許はA社に帰属しますが、B社には優先的にライセンス交渉をする機会が与えられます。実務では、この「優先的交渉権」の期間や条件をより具体的に定めると良いでしょう。
第11条(秘密保持)
開発過程で知り得た秘密情報の取扱いについて定めています。第三者への開示禁止と例外事由、義務の存続期間(契約終了後5年)を明記しています。実務では、情報管理の方法(アクセス制限など)や秘密情報の表示方法(「秘」や「Confidential」の明記など)についても定めることがあります。また、情報漏洩時の対応や損害賠償についても詳細に規定するケースが増えています。
第12条(契約期間)
契約の有効期間と自動更新について定めています。2年間の契約期間とし、3ヶ月前までに意思表示がなければ1年間自動更新されます。実務では、契約の満了時期と開発スケジュールを整合させることが重要です。例えば、開発期間が1年の場合、契約期間を2年とすることで、開発完了後1年間は成果物の取扱いについての規律が維持されることになります。
第13条(中途解約)
契約期間中であっても解約できることを定めています。6ヶ月前の通知が必要で、解約により相手方に損害が生じた場合は賠償責任があります。実務では、開発の進捗状況によって解約の条件を変えることもあります。例えば、基本設計段階までは3ヶ月前通知で解約可能だが、試作段階以降は6ヶ月前通知が必要といった形です。
第14条(契約解除)
相手方の債務不履行や信用不安等の事由がある場合に契約解除できることを定めています。契約違反の是正期間を設けつつ、破産申立や支払停止など重大事由では即時解除可能としています。実務では、特に重要な義務(秘密保持義務など)については、違反があった場合に即時解除できるよう規定することも考えられます。また、解除事由に該当するかどうかの認定基準をより具体的にすることもあります。
第15条(契約終了後の措置)
契約が終了した場合の秘密情報等の返還・破棄と、契約終了後も効力を有する条項を明記しています。秘密保持義務や知的財産権関連の規定など、契約終了後も一定期間または無期限に効力を維持すべき条項を特定しています。実務では、返還・破棄の具体的な方法や期限、完了報告の義務なども定めておくとよいでしょう。例えば、「契約終了後2週間以内に全ての秘密情報を返還または破棄し、その旨を書面で報告する」といった具体的な定めです。
第16条(損害賠償)
契約違反による損害賠償責任を定めています。シンプルな規定ですが、実務では賠償額の上限(キャップ)や特別損害・間接損害の取扱いについても定めることが一般的です。例えば、「賠償額は過去1年間に支払われた対価の総額を上限とする」「逸失利益や間接損害は賠償の対象としない」といった条項を加えることが考えられます。
第17条(反社会的勢力の排除)
反社会的勢力との関係がないことの表明・確約と、違反時の無催告解除権を定めています。最近の契約では標準的に入れられる条項です。実務では、より具体的な確認方法や定期的な確認義務、違反時の損害賠償についても定めることがあります。例えば、年に1回、反社会的勢力でないことを書面で確認するといった運用です。
第18条(協議解決)
契約に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の対応を定めています。当事者間の協議による解決を原則としています。実務では、協議が整わない場合の対応(調停前置や仲裁合意など)についても定めることがあります。例えば、「3ヶ月以内に協議が整わない場合は、日本商事仲裁協会の仲裁に付託する」といった規定です。
第19条(管轄裁判所)
紛争時の裁判管轄を定めています。訴訟になった場合の当事者の負担を考慮し、特定の裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所としています。実務では、当事者の主たる事務所の所在地を管轄する裁判所を指定することが多いです。例えば、東京都内の企業同士なら東京地方裁判所、大阪の企業と名古屋の企業なら大阪地方裁判所といった具合です。