第1条(契約の目的)
この条項は契約の基本的な目的を明確にするためのものです。中小企業診断士の専門性を活かした経営診断や経営改善支援という契約の本質を明らかにしています。例えば、ある飲食店チェーンが業績不振に悩み、その原因分析と改善策の立案を中小企業診断士に依頼する場合、この条項によって業務の本質的な目的が明確になります。こうした目的設定があることで、万が一トラブルが発生した際にも、当初の契約意図に立ち返って解決の糸口を見つけやすくなります。
第2条(業務内容)
具体的な業務内容を列挙し、別途「業務仕様書」で詳細を定めることを規定しています。中小企業診断士の業務は多岐にわたるため、経営状況の診断から補助金申請まで幅広い業務を網羅しています。たとえば、創業5年目の製造業者が設備投資のための資金調達を検討している場合、本条により事業計画書の作成支援や資金調達支援を明確に依頼業務として定めることができます。業務内容を明確にしておくことで、「言った・言わない」のトラブルを防止できる重要な条項です。
第3条(業務期間)
契約期間と自動更新の仕組みを定めています。中小企業診断士の支援は一度きりではなく、継続的なサポートが必要なケースも多いため、自動更新条項が含まれています。例えば、経営改善に取り組む小売店が、まずは半年間の契約で経営診断を受け、その後も継続的な支援が必要と判断した場合、この自動更新条項により手続きの煩雑さを省くことができます。一方で、支援が不要となれば3ヶ月前の通知で終了させることも可能です。
第4条(業務実施体制)
中小企業診断士側の業務体制を規定しています。業務責任者の設置や変更手続き、適切な人員確保について定めており、円滑な業務遂行のための体制づくりを求めています。実際のコンサルティング現場では、複数の専門家がチームを組むこともあります。例えば、製造業の原価管理改善に取り組む場合、生産管理の専門家と財務の専門家が協力して支援することがありますが、こうした場合にも責任者を明確にすることで、委託者とのコミュニケーションがスムーズになります。
第5条(報酬)
基本報酬と成功報酬の体系を詳細に規定しています。特に成功報酬については、売上向上型、利益改善型、コスト削減型、資金調達型など、様々な成果指標に応じた報酬設計となっています。例えば、年商3億円の卸売業者が粗利率の改善を図りたい場合、利益改善型の成功報酬を中心とした契約を結ぶことで、中小企業診断士のモチベーションを高めつつ、成果が出なければコストも抑えられるというメリットがあります。この成功報酬制度は、中小企業診断士の支援効果を最大化するための工夫と言えるでしょう。
第6条(支払方法)
報酬の具体的な支払条件や方法を定めています。基本報酬、成功報酬、実費それぞれの支払時期や振込先口座、遅延損害金などについて規定しています。例えば、小規模な製造業者が経営改善計画の策定を依頼した場合、月末締め翌月末払いという一般的な支払条件を採用することで、資金繰りへの影響を最小限に抑えながら専門家の支援を受けることができます。遅延損害金の規定も、支払期日の遵守を促す効果があります。
第7条(業務遂行上の義務)
中小企業診断士の業務遂行上の義務を定めています。専門家としての注意義務、法令遵守、必要な資格の保持、依頼者の信用毀損行為の禁止などを規定しています。例えば、ある製造業者の新規事業計画策定を支援する場合、その業界特有の規制や許認可制度についても熟知していることが求められますが、本条はそうした専門性の担保を求めるものです。また、診断士が委託者の情報を得た上で競合他社の支援を行うような利益相反行為も禁止されます。
第8条(協力義務)
委託者側の協力義務を定めています。中小企業診断士が業務を遂行するためには、委託者の情報提供や協力が不可欠です。例えば、飲食店チェーンの経営改善を行う場合、売上データ、顧客情報、従業員情報など様々な情報が必要となりますが、こうした情報提供を委託者の義務として明確化しています。また、実地調査やヒアリングのための事業所への立入りも認めることで、実効性のある診断・助言が可能になります。
第9条(業務報告)
中小企業診断士の報告義務を定めています。定期的な進捗報告と最終報告書の提出を義務付けることで、業務の透明性を確保しています。例えば、半年間かけて経営改善計画を策定する場合、毎月の進捗報告により委託者は状況を把握できますし、最終報告書によって成果を明確に確認できます。また、委託者が修正や追加作業を求める権利も規定されており、より実効性の高い成果物の作成につながります。
第10条(検収)
成果物の検査と受入れの手続きを定めています。納品された成果物が契約内容に適合するか検査し、不適合があれば修正を求めることができます。例えば、ある小売店の販売戦略提案書を受け取った際、競合分析が不十分であれば修正を求めることができます。また、検収後に隠れた瑕疵が発見された場合の対応も規定することで、委託者の権利を保護しています。こうした検収プロセスがあることで、成果物の品質が担保されます。
第11条(秘密保持)
両者の秘密保持義務を定めています。中小企業診断士は企業の機密情報に触れる立場ですので、秘密保持は極めて重要です。例えば、新製品開発中のメーカーが経営診断を受ける場合、製品情報の漏洩は致命的な問題となります。本条により、契約終了後も一定期間(5年間)は秘密保持義務が継続する点や、秘密情報の適切な管理義務についても規定されており、情報セキュリティを確保しています。
第12条(個人情報の取扱い)
個人情報保護法に対応した個人情報の取扱いを規定しています。特に従業員情報や顧客情報などの個人情報を扱う場合の留意点を明確にしています。例えば、飲食店チェーンの顧客データ分析を行う場合、個人を特定できる情報の取扱いには細心の注意が必要です。本条は、目的外使用の禁止、適切な管理措置の実施、契約終了時の返還・廃棄など、個人情報の取扱いルールを定めることで、トラブルを防止しています。
第13条(知的財産権)
成果物の知的財産権の帰属を明確化しています。一般的に委託契約の成果物の知的財産権は委託者に帰属しますが、本条はその点を明確に規定しています。例えば、ある製造業者のために独自の原価計算システムを開発した場合、そのシステムの著作権は委託者に帰属し、中小企業診断士は同じシステムを他社に提供できません。また、著作者人格権の不行使や第三者の知的財産権侵害がないことの保証も含まれており、知的財産に関するトラブルを防止しています。
第14条(資料等の管理)
委託者から提供される資料等の管理義務を定めています。例えば、小売業の在庫管理システム改善のために、過去の在庫データや販売データを提供された場合、これらを適切に管理し、契約終了時に返還または廃棄する義務を負います。本条によって、委託者の貴重な経営資料が適切に管理・処分されることが担保されます。
第15条(再委託の禁止)
原則として再委託を禁止し、例外的に委託者の承諾を得た場合のみ可能とする規定です。例えば、IT活用による業務効率化の診断において、システム面の詳細評価を別のIT専門家に依頼する必要が生じた場合、委託者の書面による承諾を得れば再委託が可能です。ただし、その場合も最終的な責任は中小企業診断士が負うことが明確化されています。これにより、再委託先の選定や管理についても慎重さが求められます。
第16条(責任)
中小企業診断士の損害賠償責任の範囲と限度を定めています。専門家として責任は負うものの、その範囲は「直接の結果として現実に発生した通常の損害」に限定され、上限も「受領した報酬の総額」と定められています。例えば、経営診断の誤りによって事業投資が失敗した場合でも、その全損失を賠償するわけではなく、一定の範囲に限定されます。ただし、故意や重過失の場合は例外とされており、免責の濫用を防止しています。
第17条(契約の解除)
契約解除の条件と手続きを定めています。債務不履行や破産申立てなどの重大事由がある場合の即時解除権と、委託者の都合による中途解約の場合の手続き(1ヶ月前の通知と損害賠償)が規定されています。例えば、中小企業診断士が約束した報告書を繰り返し期日までに提出しない場合、委託者は催告後に契約を解除できます。一方、経営方針の転換などで支援が不要になった場合は、1ヶ月前の通知と所定の賠償により契約を終了できます。
第18条(契約の変更)
契約内容の変更手続きを定めています。業務の進行に伴い、当初想定していなかった課題が見つかり、追加の調査や分析が必要になることは珍しくありません。例えば、当初は販売戦略の立案を依頼していたが、調査の結果、組織体制の見直しも必要だと判明した場合、本条に基づき書面で合意することで契約内容を変更できます。この規定により、柔軟な対応が可能になります。
第19条(反社会的勢力の排除)
反社会的勢力との関係排除を明確に規定しています。両者が反社会的勢力でないことの表明保証と、違反時の無催告解除権が定められています。この条項は、健全な経済活動の基盤となる重要な規定です。近年、多くの契約書で標準的に盛り込まれる条項となっており、企業コンプライアンスの観点からも不可欠な条項となっています。
第20条(合意管轄)
紛争が生じた場合の裁判管轄を定めています。地方の中小企業が東京の中小企業診断士と契約する場合など、当事者の所在地が離れている場合、どこの裁判所で争うかは重要な問題です。本条により、あらかじめ第一審の管轄裁判所を定めておくことで、紛争解決の円滑化を図っています。一般的には委託者側の最寄りの地方裁判所とすることが多いですが、当事者間の協議で決めることになります。
第21条(協議事項)
契約書に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の対応を定めています。どんなに詳細な契約書でも、すべての事態を想定することはできません。例えば、契約期間中に法改正があって業務内容の一部が実施できなくなった場合など、予期せぬ事態に対応するための条項です。本条により、当事者間の誠実な協議により問題解決を図ることが求められます。