【1】書式概要
この契約書は、暗号資産やNFTなどのデジタル資産を担保にして資金を借り入れる際に必要となる専用の契約書テンプレートです。従来の不動産や株式を担保とする融資とは異なり、ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨、さらにはNFTやデジタル証券まで幅広いデジタル資産を担保として活用できる点が大きな特徴となっています。
近年、デジタル資産の価値が急激に上昇する中で、これらの資産を手放すことなく資金調達を行いたいニーズが高まっています。特に暗号資産を大量に保有している個人投資家や企業が、税務上の理由で売却を避けながら流動性を確保したい場合に、この契約書が威力を発揮します。また、NFTアートや音楽作品の権利を担保にクリエイターが制作資金を調達する場面でも活用されています。
この契約書では、デジタル資産特有の価格変動リスクに対応するため、担保価値の日常的な評価方法や追加担保の要求条件を詳細に定めています。さらに、ウォレットでの保管方法、カストディ業者の活用、マルチシグによる共同管理など、デジタル資産の安全な管理体制についても具体的に規定しています。
改正民法に完全対応しており、最新の債権法制度のもとで有効に機能するよう設計されています。Word形式で提供されているため、当事者の具体的な取引条件に応じて自由に編集・カスタマイズが可能です。金融機関、投資会社、個人投資家など、デジタル資産を活用した新しい金融取引を検討している方にとって、必要不可欠な契約書テンプレートといえるでしょう。
【2】条文タイトル
第1条(定義) 第2条(貸付及び返済) 第3条(利息) 第4条(担保の設定) 第5条(担保の管理) 第6条(担保価値の維持) 第7条(期限の利益の喪失) 第8条(担保権の実行) 第9条(相殺) 第10条(契約の変更) 第11条(通知) 第12条(秘密保持) 第13条(反社会的勢力の排除) 第14条(準拠法及び管轄)
【3】逐条解説
第1条(定義)
この条文はデジタル資産担保融資における基本的な用語を明確に定義しています。特に「デジタルアセット」については、単なる暗号資産にとどまらず、NFTやデジタル証券まで含む包括的な定義を採用しています。例えば、アート作品のNFTを担保にクリエイターが制作資金を調達する場合、このNFTはERC-721トークンとして分類され、適切な価格評価方法が適用されます。ウォレットの定義では、個人が使用するMetaMaskのようなソフトウェアウォレットから、機関投資家が利用するLedgerのようなハードウェアウォレットまで幅広くカバーしています。
第2条(貸付及び返済)
融資の基本的な枠組みを定めた条文です。従来の融資契約と同様に、貸付金額と返済期日を明確に規定しています。ただし、デジタル資産担保融資では、担保価値の変動により返済条件が変更される可能性があるため、この条文は他の条文と密接に関連しながら機能します。例えば、1000万円の融資を受けた借主が、ビットコインの価格上昇により担保価値が増加した場合でも、この条文で定めた返済義務は変わりません。
第3条(利息)
利息計算の方法を詳細に規定しています。デジタル資産担保融資では、担保価値の変動リスクを反映して通常の融資よりも高い利率が設定されることが多いため、利息計算の透明性が特に重要になります。日割計算を採用することで、早期返済時の利息負担を公平に算出できます。例えば、年利12%で6ヶ月間の融資を受けた場合、実際の借入期間に応じて正確な利息が計算されます。
第4条(担保の設定)
デジタル資産を担保として設定する具体的な手続きを定めています。従来の不動産担保とは異なり、デジタル資産は物理的な存在がないため、ウォレットアドレスや秘密鍵の管理が担保設定の核心となります。例えば、イーサリアムを担保として提供する場合、借主は特定のウォレットアドレスに該当する数量のETHを移転し、そのウォレットの管理権限を制限することで担保設定が完了します。所有権の保証条項により、借主は担保提供前に他の債権者への重複担保や盗難リスクがないことを確認する必要があります。
第5条(担保の管理)
担保となるデジタル資産の日常的な管理方法を規定しています。カストディ業者の活用は、個人では難しい高度なセキュリティ対策を可能にします。例えば、BitGoのような専門業者に担保資産の管理を委託することで、ハッキングリスクを大幅に軽減できます。マルチシグウォレットの使用では、貸主と借主双方の承認がなければ資産を移動できないため、一方的な処分を防止できます。管理費用の負担者を明確にすることで、後日の紛争を防いでいます。
第6条(担保価値の維持)
デジタル資産特有の価格変動リスクに対処するための重要な条文です。担保価値の定期的な評価により、貸主の債権回収リスクを管理しています。例えば、1000万円の融資に対して2000万円相当のビットコインを担保として設定した場合、ビットコイン価格が50%下落すると担保価値が1000万円となり、追加担保の要求が発動されます。借主は追加のビットコインを提供するか、融資の一部を返済することで担保率を回復させる必要があります。
第7条(期限の利益の喪失)
借主の債務不履行や信用悪化に対する貸主の保護措置を定めています。デジタル資産担保融資では、担保価値の急激な変動が頻繁に発生するため、従来の融資よりも厳格な条件が設定されています。例えば、借主が追加担保要求に応じない場合、貸主は期限の利益を喪失させて即座に全額返済を求めることができます。破産手続きの開始申立てがあった場合も、デジタル資産の散逸リスクを考慮して迅速な対応が可能になっています。
第8条(担保権の実行)
債務不履行時の担保権実行手続きを規定しています。デジタル資産の売却は、従来の不動産競売とは異なり、暗号資産取引所での売却やOTC取引など多様な方法があります。例えば、大量のビットコインを担保実行する場合、市場への影響を最小化するため複数の取引所で分散売却を行うことが一般的です。貸主への帰属も選択肢として規定することで、市場流動性が低い場合でも迅速な債権回収が可能になります。
第9条(相殺)
債権債務の相殺に関する条文です。デジタル資産取引では、貸主と借主が相互に債権債務関係を持つことが多いため、相殺規定の重要性が高くなっています。例えば、借主が貸主に対して暗号資産の売却代金債権を有している場合、貸主は自身の融資債権と相殺することで、複雑な決済手続きを簡素化できます。期限の定めのない債権でも相殺可能とすることで、機動的な債権回収を実現しています。
第10条(契約の変更)
契約内容の変更に関する厳格な手続きを定めています。デジタル資産担保融資では、市場環境の急激な変化に対応するため契約変更が必要になることが多いため、書面による合意を必須とすることで後日の紛争を防いでいます。例えば、新しい種類のデジタル資産を追加担保として受け入れる場合、その評価方法や管理方法について詳細な合意書の作成が必要になります。
第11条(通知)
契約に関する重要な通知方法を規定しています。デジタル資産の価格変動は24時間365日発生するため、迅速な通知が極めて重要です。書面による通知と到達みなし規定により、緊急時の対応における法的な確実性を確保しています。例えば、週末に担保価値が急落した場合でも、適切な通知手続きを経ることで追加担保要求や期限の利益喪失の効力を確保できます。
第12条(秘密保持)
デジタル資産取引に関する機密情報の保護を定めています。暗号資産の保有状況や取引履歴は、投資戦略やプライバシーの観点から極めて機密性が高い情報です。例えば、大量のビットコインを保有する個人投資家の情報が漏洩すると、セキュリティリスクが大幅に増加します。相互の秘密保持義務により、安全な取引環境を確保しています。
第13条(反社会的勢力の排除)
暗号資産の匿名性を悪用したマネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための重要な条文です。デジタル資産取引では、従来の金融取引以上に反社会的勢力の排除が重要になります。詳細な表明保証事項により、取引の透明性と健全性を確保しています。例えば、取引相手が暴力団関係者である場合、契約解除により即座に取引関係を遮断できます。
第14条(準拠法及び管轄)
国際的な性格を持つデジタル資産取引において、準拠法と管轄裁判所を明確に定めることで紛争解決の予測可能性を高めています。日本法を準拠法とし、日本の裁判所を管轄とすることで、日本の投資家にとって理解しやすい紛争解決手続きを確保しています。例えば、海外の暗号資産取引所を通じた取引であっても、この契約に基づく紛争は日本の裁判所で解決されます。
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