【1】書式概要
この〔テクノロジー犯罪・嫌がらせ犯罪被害報告書〕は、近年増加している目に見えないテクノロジーを使った攻撃や組織的な嫌がらせ行為の被害者が、自分の体験を系統立てて記録するための実用的な書式です。
被害者の多くは「何が起きているのか説明できない」「どこに相談したらいいかわからない」といった悩みを抱えていますが、この書式を使えば、被害の種類や状況を客観的に整理できます。
声による被害、音による被害、映像による被害、睡眠妨害、盗聴・盗撮など、複雑で多岐にわたる被害内容を項目別に記録することで、被害の実態を第三者に伝えやすくなります。警察や弁護士への相談時、医療機関の受診時、被害者の会への参加時など、様々な場面で活用できる実用的なツールです。
この書式を継続的に記入することで被害の変化や傾向も把握でき、問題解決への第一歩となるでしょう。私自身、こうした被害に悩む知人を支援した経験から、具体的な項目立てと使いやすさにこだわって作成しました。
【2】条文タイトル
1.テクノロジー犯罪被害
1-1. 声による被害
1-2. 音による被害
1-3. 映像による被害
1-4. 睡眠妨害
1-5. 身体攻撃
1-6. その他の感覚被害
2.嫌がらせ犯罪被害
2-1. 嫌がらせの種類
2-2. 嫌がらせを受ける場所
2-3. 地域的・国際的な嫌がらせの状況
3.電気製品・自動車関連の被害
3-1. 電気製品の故障・不具合
3-2. 自動車関連被害
4.盗聴・盗撮被害
5.電磁波・超音波探知
6.個人情報の流出
7.犯罪主体と加害方法
7-1. 犯罪主体として考えられる組織・個人
7-2. 加害方法を知った情報源
8.相談歴
8-1. これまでの相談場所
8-2. 相談時の対応と結果
9.医療関連
9-1. 医師の診察
9-2. 薬の服用
10.被害の時系列
11.証拠資料
12.補足情報
【3】逐条解説
1.テクノロジー犯罪被害
テクノロジー犯罪被害は現代社会で増加傾向にある新しいタイプの被害です。従来の犯罪と異なり、目に見えない技術を使用されるため、被害者は不可解な体験をすることになります。この項目では、どのような技術的被害を受けているのかを詳細に記録します。被害者の声を聞いていると「誰にも信じてもらえない」という悩みが共通しているため、できるだけ具体的な事実を記録することが重要です。
1-1. 声による被害
声による被害は被害者から最も多く報告される症状の一つです。ある方は「頭の中で他人の声が聞こえる」と訴え、別の方は「壁から聞こえる」と表現するなど、体験は様々です。この項目では、声の数、内容、聞こえる場所や頻度などを記録します。特に重要なのは、その声が自分の思考を読み取っているように感じるかどうかという点です。例えば「買い物に行こうと思っただけなのに、すぐに『スーパーに行くな』という声が聞こえた」といった体験を時系列で記録しておくと、相談時に役立ちます。
1-2. 音による被害
音による被害は、特定の音が異常に大きく聞こえたり、日常では考えられない奇妙な音が聞こえたりする現象です。「キーン」という高周波音やパチパチという音が頻繁に報告されています。ある被害者は「家電製品から聞こえるブーンという音が、私がどこに移動しても同じように聞こえる」と報告しています。この項目では音の種類や発生源と思われる場所を詳細に記録します。実際の事例では、音が聞こえる場所を変えても被害が続く場合が多いため、環境の変化と被害の関係も記録すると良いでしょう。
1-3. 映像による被害
映像による被害は、目を閉じていても映像が見える、または通常では見えないはずの映像が見えるという症状です。目を閉じている時に見える場合と開いている時に見える場合があり、それぞれ特徴が異なります。「目を閉じると知らない人の顔が次々と現れる」「壁に映像が映し出されているように見える」などの報告があります。この項目では映像の内容や見える状況、頻度、色の有無などを記録します。映像と体調の関連性も重要なポイントで、「特定の映像が見えた後は必ず頭痛がする」といった関連性があれば記録しておきましょう。
1-4. 睡眠妨害
睡眠妨害は最も深刻な被害の一つで、長期間続くと心身の健康に重大な影響を及ぼします。多くの被害者が「ちょうど眠りに落ちそうになると突然音がして起こされる」「毎晩30分おきに目が覚める」といった症状を訴えています。この項目では睡眠妨害の原因と考えられるもの、睡眠時間、起こされる頻度や時間帯などを記録します。特に重要なのは、睡眠妨害が仕事や日常生活に与える影響です。「重要な会議がある日に限って睡眠を妨害される」といったパターンがあれば記録しておくと良いでしょう。
1-5. 身体攻撃
身体攻撃は、外傷が見られないにもかかわらず、特定の部位に痛みや異常を感じる症状です。「針で刺されるような痛み」「電気ショックのような感覚」「内臓が締め付けられる感じ」などが報告されています。この項目では攻撃を受ける部位や、攻撃時の状況、それに伴う精神的変化を記録します。ある被害者は「頭に強い痛みを感じた直後から、普段は冷静な性格なのに強い不安感に襲われた」と報告しており、身体症状と精神状態の変化の関連性も重要です。
1-6. その他の感覚被害
味覚、嗅覚など他の感覚に関する被害や、複合的な症状を記録する項目です。「食べ物に異物が混入しているように感じる」「部屋に入ると特有の異臭がする」といった症状が報告されています。また、「考えが読まれている」「体が勝手に動く」など、多岐にわたる症状をチェックリスト形式で記録できます。私が支援した方の中には「家に帰ると必ず頭が締め付けられるような感覚があり、思考力が低下する」と報告した方がいました。日常生活のどの場面でどのような症状が出るのか、パターンを記録することが重要です。
2. 嫌がらせ犯罪被害
嫌がらせ犯罪被害は、実際に第三者から受ける嫌がらせ行為を指します。テクノロジー犯罪と併せて行われることが多く、被害者を孤立させ、精神的に追い詰める効果があります。この項目では物理的な嫌がらせ行為の詳細を記録します。証拠が残りやすい被害なので、可能であれば写真や動画などの証拠と併せて記録すると良いでしょう。
2-1. 嫌がらせの種類
嫌がらせは非常に多岐にわたります。盗聴、盗撮、つきまとい、家宅侵入、物品の移動や破損など、日常生活のあらゆる場面で起こり得ます。「帰宅すると必ず家具の位置がわずかに動いている」「外出すると必ず誰かがつきまとう」などの報告があります。この項目では受けている嫌がらせの種類を詳細にチェックし、その頻度や特徴を記録します。ある被害者は「仕事に関する重要な書類だけが紛失する」というパターンを発見し、記録することで対策を講じられるようになりました。
2-2. 嫌がらせを受ける場所
嫌がらせが発生する場所を記録する項目です。路上、公共交通機関、店舗、自宅、職場など、場所によって嫌がらせの内容が変わることがあります。「自宅では物の移動や破損、外出時はつきまといや嫌がらせの視線」といったパターンが見られることがあります。場所ごとの嫌がらせの特徴を記録することで、対策を考える手がかりになります。私が知る事例では、「特定の商店に入ると必ず店員から嫌がらせを受ける」という方がいましたが、記録を続けることでパターンが明確になり、その場所を避けるようになって精神的負担が軽減されました。
2-3. 地域的・国際的な嫌がらせの状況
嫌がらせが特定の地域に限定されているのか、あるいは場所を変えても続くのかを記録する項目です。引っ越しや旅行などで環境が変わった時の状況は特に重要です。「地元では嫌がらせがあるが、親戚の家に滞在している間は何もない」「海外旅行中も同じ嫌がらせが続いた」など、環境の変化と被害の関係を記録します。ある被害者は「県外に引っ越したら嫌がらせが一時的に止んだが、1週間後から再開した」と報告しており、このような変化のパターンは対策を考える上で重要な情報となります。
3. 電気製品・自動車関連の被害
電子機器の誤作動や故障、自動車関連の不審な事象を記録する項目です。現代社会では電子機器への依存度が高いため、この種の被害は日常生活に大きな支障をきたします。
3-1. 電気製品の故障・不具合
パソコン、携帯電話、家電製品などの不具合や故障を記録します。「新品の電球がすぐに切れる」「パソコンが勝手に起動・終了する」「特定の電子機器だけが繰り返し故障する」などの報告があります。この項目では不具合のある製品と症状、修理や専門家への相談結果などを記録します。重要なのは、通常では考えられない故障パターンの有無です。例えば「重要なオンライン会議の直前に限ってインターネットが切断される」といった不自然なパターンがあれば記録しておくと、対策の参考になります。
3-2. 自動車関連被害
自動車に関する不審な事象を記録します。事故、タイヤの空気抜き、車の誤作動などが報告されています。「駐車場に停めておいた車のタイヤの空気が抜かれていた」「運転中に突然ブレーキが効かなくなった」などの事例があります。自動車関連の被害は命に関わる危険性もあるため、詳細な記録と証拠の保存が特に重要です。ある被害者は「何度も同じ場所で自動車事故に遭いそうになる」というパターンを発見し、その道を避けるようになってから被害が減少した例もあります。
4. 盗聴・盗撮被害
プライバシーの侵害に関わる被害を記録する項目です。被害者の多くが「自分の行動や会話が筒抜けになっている」と感じています。この項目では、盗聴・盗撮されていると感じる状況や環境、使われている技術と思われるものについて記録します。「雨戸を閉めても盗撮されている」「浴室内でも盗撮されている感覚がある」といった報告が多くあります。特定の場所や状況で特に強くプライバシー侵害を感じる場合は、その詳細を記録しておくと対策の参考になります。記録を続けることで「盗聴・盗撮されている」という漠然とした不安から、具体的な対策へと進めることができます。
5. 電磁波・超音波探知
電磁波測定器や超音波探知器などを使用した測定結果を記録する項目です。「測定器で異常な電磁波を検出した」という事例もあります。使用した機器の種類、測定日時、測定場所、検出結果などを詳細に記録します。科学的な証拠となりうる重要な情報なので、可能であれば測定値のログや写真なども保存しておくと良いでしょう。ある被害者は定期的に測定を行い、「特定の時間帯に電磁波の強度が上昇する」というパターンを発見した例もあります。
6. 個人情報の流出
個人情報が第三者に漏れていると感じる状況を記録する項目です。「自分しか知らないはずの情報が他者の会話に出てくる」「過去の行動や思考内容が周囲に知られている」といった事例が報告されています。この項目では、流出していると思われる情報の内容、流出先と考えられる相手、気づいた理由などを記録します。例えば「電話で話した内容が、翌日に全く接点のない人から言及された」といった具体的な状況を記録しておくと、相談時の説明がしやすくなります。
7. 犯罪主体と加害方法
7-1. 犯罪主体として考えられる組織・個人
被害の背後にいると考えられる組織や個人について記録する項目です。隣人、知人、特定の団体や組織など、被害者によって様々な推測がなされています。この項目はあくまで被害者の認識を記録するためのもので、特定の個人や組織を非難するためのものではありません。「特定の隣人が引っ越してきてから被害が始まった」「以前トラブルがあった人物との関連性を感じる」など、被害と関連があると感じる人物や出来事を時系列で記録しておくと、相談時に状況説明がしやすくなります。
7-2. 加害方法を知った情報源
被害のメカニズムや加害方法について知った情報源を記録します。インターネット、書籍、被害者の会など、どこから情報を得たかを記録しておくことで、相談時に参考情報として提示できます。「被害者の会のウェブサイトで自分と同じ症状の報告を見つけた」「特定の書籍に記載されている加害方法と自分の被害が一致している」といった情報を記録しておくと、被害の理解を深める助けになります。
8. 相談歴
8-1. これまでの相談場所
被害について相談した機関や個人の記録です。警察、弁護士、行政機関、医療機関など、相談先と日時、対応内容を詳細に記録します。「警察に相談したが取り合ってもらえなかった」「精神科医に相談したが理解してもらえなかった」といった経験は多くの被害者に共通しています。相談の経緯と結果を詳細に記録することで、今後の相談先選びや説明方法の改善に役立てることができます。
8-2. 相談時の対応と結果
各相談機関での対応内容や結果を詳細に記録します。担当者の名前、説明された内容、提案された対策、その後の経過などを時系列で記録しておくと、次回の相談時に経緯を説明しやすくなります。例えば「〇月〇日に△△警察署で相談し、××という回答だったが、その後も被害は継続している」といった形で記録しておくと良いでしょう。継続的な記録は、被害者自身の記憶の整理にも役立ちます。
9. 医療関連
9-1. 医師の診察
医療機関での診察内容や診断結果を記録する項目です。受診した医療機関名、診療科、医師名、診断内容などを詳細に記録します。「精神科で統合失調症と診断されたが、薬の服用で症状に変化がない」「内科で検査したが異常が見つからなかった」といった医療情報は、被害の解明や対策に重要な手がかりとなります。医師の説明をできるだけ正確に記録し、疑問点があれば次回の診察時に質問できるよう準備しておくと良いでしょう。
9-2. 薬の服用
処方された薬の種類、服用期間、効果などを記録します。「〇〇という薬を服用したが、被害症状に変化がなかった」「△△という薬で一時的に症状が軽減した」など、薬と症状の関係を詳細に記録しておくと、医師との相談時に有用な情報となります。副作用と思われる症状も併せて記録しておくと、適切な治療法を見つける助けになります。正確な服薬記録は自己管理にも役立ちます。
10. 被害の時系列
被害の発生から現在までの経過を時系列で記録する重要な項目です。「いつ」「どこで」「何が」起きたのかを詳細に記録します。例えば「2020年6月頃から自宅で声が聞こえ始め、同年8月からは外出先でも聞こえるようになった」といった形で、被害の進行や変化を記録します。時系列での記録は、被害のパターンや特徴を把握するのに役立ちます。「特定の出来事の後に被害が悪化した」「引っ越し後に被害が変化した」といった関連性が見えてくることもあります。
11. 証拠資料
被害を証明する資料や証拠の有無を記録します。写真、動画、音声記録、日記、診断書など、客観的な証拠となり得るものをリストアップします。「不審者の写真を撮影した」「異常な音を録音した」「毎日の被害状況を日記に記録している」など、具体的な証拠の内容を記録します。証拠は日付や場所などの情報と併せて整理しておくと、相談時に効果的に提示できます。客観的な証拠は被害を証明する上で非常に重要です。
12. 補足情報
前述の項目に当てはまらない情報や、特に伝えたい事項を自由に記入する項目です。「被害に気づいた当初の状況」「被害と関連があると思われる特定の出来事」「試した対策とその効果」など、被害の全体像を理解する上で重要と思われる情報を記録します。この項目は被害者自身の言葉で状況を説明できる貴重なスペースなので、思いついたことを自由に記録するとよいでしょう。時には感情的な部分も含めて記録することで、被害がもたらす精神的影響も伝えることができます。
この報告書は、被害の実態を客観的かつ系統的に記録するための重要なツールです。継続的に記録することで、被害のパターンや特徴が明らかになり、適切な対策や相談先を見つける手がかりとなります。また、記録すること自体が被害者の精神的な整理にも役立ちます。被害に悩む方々の一助となることを願っています。