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【1】書式概要
警察から「あなたの会社で扱っているお客さんの電話通話記録、メール記録、ログイン情報などを教えてほしい」という照会を受けたとき、通信事業者がそれにどう対応するかを定めるための回答書です。このテンプレートは、携帯電話会社、固定電話会社、インターネットプロバイダなど、通信関連の事業を展開している企業が想定する想定以上に増えるシーンで活躍します。
具体的には、詐欺事件の捜査で「犯人がこの電話番号から詐欺の電話をかけていたようだが、その通話記録や着信相手の情報を教えてほしい」と警察から求められたり、テロ対策の捜査で「容疑者がこのメールアドレスでやり取りしていた可能性がある。そのメール送受信の記録を教えてほしい」と言われたり、あるいはサイバー犯罪の捜査で「この人物がこのIPアドレスからいつ、どの時間帯にネットにアクセスしていたのか教えてほしい」というように言われることです。こうした要請は、法律に基づいた正当な照会であり、通信事業者は応じる責任があります。
ただし、単に記録を差し出すだけというわけにはいきません。通信事業者は、顧客のプライバシーを守りながら、同時に捜査に協力するというバランスの取れた対応をする必要があります。また、提供する情報の範囲、提供する情報の正確性、情報を提供した後の企業としての責任の限界、といった複雑な点も整理して記載する必要があります。このテンプレートは、そうした配慮が全て組み込まれた形で設計されています。
通信事業者の法務部や総務部の担当者であれば、このテンプレートを開いて、警察からの照会に記載されている特定の人物の電話番号やメールアドレス、契約ID、照会対象期間といった基本情報をWord形式の入力欄に記入していくだけで、法律に基づいた適切で専門性の高い回答書が完成する仕組みになっています。一から文章を作成する手間も、法律の専門家に相談する手間も大幅に削減できます。
このテンプレートの特徴は、通信事業者が保有する多種多様な情報を、体系的かつ分かりやすく整理できるように設計されていることです。第4章の通話記録では、誰とどの時間帯に通話したのかといった基本的な情報から、非通知着信や国際電話といった特殊なケースまで、網羅的に記載できるセクションがあります。第5章のメール記録では、メールアドレス、アカウント作成日、ログイン履歴、メール送受信の日時といった情報が効率的に整理できます。第6章のインターネットアクセス記録では、どのIPアドレスからいつ、どのくらいの時間ネットに接続していたかという情報が記載できます。第7章では位置情報や基地局情報についても記載でき、容疑者がどの地域にいたのかといった捜査に必要な情報も提供できるようになっています。
同時に、このテンプレートは、通信の秘密やプライバシー保護というきわめて重要な問題についても、しっかりと配慮されています。例えば、メール本文や通話内容といった、通信の内容そのものは、法律上の根拠がなければ提供してはいけません。そのため、提供可能な情報と提供できない情報の区別を明確にするセクションが第13章に設けられています。また、データがどのくらいの期間保持されているのか、またシステムの障害などにより記録が欠落する可能性があるのか、といった記録上の限界についても第9章に詳しく記載されており、警察側も「この情報には限界がある」という適切な理解の上で捜査を進めることができるようになっています。
このテンプレートを使用することで、通信事業者は法律に基づいた適切な対応ができるだけでなく、企業としてのリスク管理も強化することができます。情報提供後の責任範囲が明確になり、不適切な情報利用があった場合のトラブル回避も可能になります。さらに、複数の警察からの照会に対応する際も、同じフォーマットで効率的に対応できるため、業務の標準化にも貢献します。Word形式であるため、自社の企業名やロゴ、担当者の情報など、個別の情報を簡単にカスタマイズできます。
【2】条文タイトル一覧
第1条(当社の概要)
第2条(本照会書の内容の確認)
第3条(契約者情報及び契約詳細)
第4条(通話記録)
第5条(メール記録及びメールアカウント情報)
第6条(インターネットアクセス記録)
第7条(位置情報及び基地局情報)
第8条(その他のログ情報及び関連データ)
第9条(データ保持期間及び記録の限界について)
第10条(プライバシー保護及び個人情報管理)
第11条(法的根拠及び情報開示に関する説明)
第12条(重要な留意事項)
第13条(通信内容への制限及び秘密保護)
第14条(今後の対応及び問い合わせ先)
【3】逐条解説
◆第1条(当社の概要)
通信事業者としての基本情報を最初に明記するセクションです。会社名、代表者名、本社所在地、電話番号、設立年月日、従業員数、事業内容といった項目が含まれます。警察側からすれば、照会に対する回答が本当にその通信事業者から来ているのかを確認したいというニーズがあります。例えば、大手携帯キャリアなのか、格安SIM事業者なのか、あるいは独立系のプロバイダなのかといった情報は、捜査の信頼性判断に関わります。また、登録ユーザー数や事業内容といった情報によって、当該事業者がどの程度の規模で通信情報を管理しているかが分かり、警察が情報の信頼性を評価する際の参考になります。通信事業者側としても「当社は正当に営業許可を取得している事業者である」というメッセージを、冒頭から効果的に発信できる効果があります。
◆第2条(本照会書の内容の確認)
警察から実際に受け取った照会書の内容を、通信事業者側が正確に読み取り、理解していることを示すためのセクションです。照会日、どこの警察からの照会か、照会対象者の氏名と生年月日、照会対象となっている契約(電話番号やユーザーID)、どのような情報が求められているか、照会対象の期間、関連する事件の容疑内容、といった各要素を表形式でまとめ記載します。このプロセスは単なる形式的な手続きではなく、実務的には非常に重要です。例えば、同じメールアドレスで複数の照会が来た場合、或いは同じ人物について複数の警察機関から照会が来た場合、どの特定の照会に対してどの回答をしているのかを明確にしておく必要があります。誤った契約情報の人物の通信記録を提供してしまったら、捜査に支障をきたすだけでなく、関係のない利用者のプライバシーをも侵害してしまうことになります。このセクションにおいて「我々はこの内容の照会に対して、このような回答をした」という記録が明確に残ることで、通信事業者側の自己防衛にもなります。
◆第3条(契約者情報及び契約詳細)
当該通信事業者で管理している、特定の契約に関する基本情報をまとめるセクションです。契約ID、電話番号またはユーザーID、契約者の氏名と生年月日、契約者の住所、契約開始日、現在の契約状況(契約中か解約済みか)、契約解除日、契約プランの種類、付帯サービス(国際電話、転送電話、メールサービスなど)、最後の利用日時、最後の利用内容といった項目が記載されます。これらの情報は、警察側が「この人物は当該期間において本当にこの電話番号またはメールアドレスを使用していたのか」「どのような契約内容だったのか」といった基本的な事実を確認するために必要です。例えば、ある電話番号を使って詐欺電話が行われた場合、その電話番号の正当な契約者が誰であり、その契約がいつの期間で有効だったのかを把握することは、犯人が契約者本人なのか、それとも他人の契約を無断で使用していたのかを判断するために重要です。
◆第4条(通話記録)
警察からの照会で最も頻繁に求められる情報の一つが通話記録です。このセクションでは、特定の電話番号について、照会対象期間内における全ての通話(発信と着信の両方)について、日時、通話相手の電話番号、通話の種別(発信か着信か、国際電話か否か)、通話の時間(分と秒)といった情報が表形式で記載されます。例えば、詐欺事件の捜査で、容疑者が使用していた電話番号の通話記録を調べることで、その容疑者がいつ、誰に電話をかけたのか、或いは誰からかかってきたのかが明らかになります。また、非通知着信の記録も重要です。詐欺師は非通知で電話をかけることが多いからです。さらに、国際電話の記録も記載されます。テロ関連事件の捜査では、国際電話の相手国や通話時間が重要な手がかりになります。このセクションの最後には合計通話回数と合計通話時間も記載され、全体像が一目で分かるようになっています。重要なのは、通話内容そのものは記録されていないということです。つまり、「何を話したか」は分かりませんが「いつ、誰に、どのくらいの時間、話したか」は分かるということです。
◆第5条(メール記録及びメールアカウント情報)
メールサービスを提供している通信事業者の場合、このセクションが重要になります。5-1ではメールアカウントの基本情報、すなわちメールアドレス、アカウント作成日、登録名義、登録電話番号、登録住所、最後のログイン日時、メールボックスの容量、アカウントの現在の状況(使用中か削除済みか)といった情報が記載されます。5-2ではメール送受信の履歴が記載されます。日時、メールの方向(送信か受信か)、相手のメールアドレス、メールの件名といった情報です。合計送信数、合計受信数、合計メール数といった統計情報も記載されます。例えば、詐欺メールを送っていた容疑者の活動を追跡する場合、いつどのような件名でメールを送ったのか、或いは誰からメールを受け取ったのかといった情報が重要になります。重要な注釈として、メール本文そのものは提供されないということが明記されています。つまり「何が書かれていたか」は秘密通信保護の観点から提供できません。但し「いつ、誰に、どのような件名で送ったか」は提供できるということです。
◆第6条(インターネットアクセス記録)
インターネットプロバイダが該当するセクションです。6-1では、プロバイダのアカウント情報、すなわちユーザーID、割り当てられたIPアドレス、そのIPアドレスが割り当てられていた期間、MAC(マックアドレス、Wi-Fi接続の場合)、接続端末の種類(パソコン、スマートフォン、タブレットなど)、アカウント登録日、最後のアクセス日時、アカウントの現在の状況といった情報が記載されます。6-2では、ログイン記録及びアクセス履歴が記載されます。ログイン日時、ログアウト日時、使用したユーザーID、アクセス元のIPアドレスといった情報です。合計ログイン回数や平均使用時間といった統計情報も記載されます。例えば、詐欺ウェブサイトを運営していた容疑者を追跡する場合、その容疑者が使用していたIPアドレスがいつ、どのくらいの時間ネットに接続していたのかという情報が重要になります。ただし、重要な注釈として、アクセスしたウェブサイトのURLアドレスについては、プロバイダのサーバーに記録されていないと述べられています。つまり「何のウェブサイトを見たか」は分かりませんが「いつ、どのくらいの時間、ネットに接続していたか」は分かるということです。
◆第7条(位置情報及び基地局情報)
携帯電話事業者の場合、このセクションが重要になります。携帯電話は常に基地局と通信しているため、通話やデータ通信があった際に、その時点での位置情報(より正確には、通信をやり取りしていた基地局の情報)が記録されます。このセクションでは、通信日時、基地局ID、基地局の所在地、通信の種別(通話かデータ通信か)といった情報が記載されます。合計位置情報件数や位置情報精度といった情報も記載されます。例えば、容疑者が犯行時刻にどこにいたのかを特定する場合、その時刻の通信記録から基地局情報を調べることで、その容疑者がどの地域にいたのかが推測できます。重要な注釈として、位置情報の精度は基地局による計測のため、数百m~数km程度であること、そしてGPS等による正確な位置特定はできないことが明記されています。つまり「正確な住所まで特定できる」ということではなく「〇〇地区の基地局の電波を受信していた」という程度の情報であるということです。
◆第8条(その他のログ情報及び関連データ)
第4~7条に記載されなかった、その他のログ情報についてのセクションです。SMS(ショートメッセージ)やMMS(マルチメディアメッセージ)の送受信記録、アプリケーションのアクセス記録、クラウドストレージへのアクセス記録、VPN接続記録、ファイアウォールログ、トラフィック分析データといった情報が該当します。ここで注意すべき点は、SNSやオンラインストレージなど、通信事業者の外部にあるサービスについては、通信事業者のサーバーに記録されていないということです。つまり、通信事業者が提供できるのは「その利用者がどのサービスにアクセスしたか」までの情報であり、「そのサービス内で何をしたか」については、そのサービスの提供企業に照会する必要があるということです。
◆第9条(データ保持期間及び記録の限界について)
通信事業者が提供する情報には、データが保持されている期間と、記録上の限界があります。このセクションでは、データ種別ごとに、通常どのくらいの期間保持されているのかが表で示されます。例えば、通話記録は通常1~3ヶ月、ログイン記録は6ヶ月~1年、請求データは2~5年といった具合です。これらの保持期間は法令の定めまたは通信事業者のセキュリティポリシーに基づいているということが明記されています。さらに、記録上の限界として、ユーザーが主要な情報を削除した場合は復旧が困難なこと、メール本文はサーバーに保存されない場合があること、アクセスしたウェブサイトのURL情報は記録されていないこと、システムの障害やメンテナンスの期間は記録が欠落する可能性があること、といった点が列挙されています。これらの点を最初から明記しておくことで、警察側も「この情報には限界がある」という適切な理解の下で捜査を進めることができるようになります。
◆第10条(プライバシー保護及び個人情報管理)
通信事業者の重要な責務は、顧客のプライバシーを守ることです。このセクションでは、個人情報保護方針に基づき、顧客情報を適切に管理していることが述べられています。特に、容疑者本人の個人情報についても、プライバシー保護の観点から慎重に取り扱うこと、そして通信内容そのもの(メール本文等)は秘密通信保護法による保護対象となる可能性が高く、原則として提供しないことが明記されています。さらに、通話相手やメール送信相手といった第三者の情報については、その第三者のプライバシーも守る必要があるため、特に個人的な連絡先については、提供する際に配慮が必要であることが述べられています。例えば、容疑者が友人の電話番号に電話をかけた記録は提供する必要がありますが、その友人が別件で容疑者になっていないのであれば、その友人のプライバシーにも配慮する必要があります。
◆第11条(法的根拠及び情報開示に関する説明)
通信事業者が顧客の通信情報を警察に提供することが、法律上正当であることを説明するセクションです。具体的には、刑事訴訟法第197条第2項に基づいて、捜査機関が運送企業に情報照会を行う権限があること、電気通信事業法第161条で通信事業者が捜査機関の要求に応じて通信記録を提供することができることが規定されていること、個人情報保護法第23条第2項第2号で「法令に基づく場合」に個人情報提供が認められていること、そして憲法第21条等で通信の秘密は保護されるべきだが、犯罪捜査という正当な目的による開示は許容される場合があること、といった各法律の根拠が述べられています。このセクションを入れることで、通信事業者が「単に警察からの圧力に屈しているのではなく、複数の法律に従って適切に対応している」ということを明確に示すことができます。
◆第12条(重要な留意事項)
回答書提出後の重要な点を警察側に改めて念押しするセクションです。具体的には、提供した情報は照会の対象となっている事件の捜査のためにのみ使用されるべきであること、情報が利用される過程で新たに得られた二次的な情報の利用については通信事業者への事前報告があるべきであること、情報提供後の情報管理はすべて警察側の責任であることといった点が記載されています。また、契約者への対応や従業員の守秘義務についても述べられています。これらの点を警察に対して明示することで、通信事業者としての責任範囲を明確にし、トラブルの回避を図ることができます。例えば、提供した通信記録が警察内で不正に共有されたり、無関係な部署に流出した場合でも、通信事業者の管理ミスではないため、通信事業者は責任を負わないということが明記されていれば、後々のトラブル回避につながります。
◆第13条(通信内容への制限及び秘密保護)
通信の秘密及び個人情報保護の観点から、通信事業者が提供できない情報についてのセクションです。メール本文、通話内容(音声)、チャットメッセージ本文等、通信内容そのものは原則として提供できません。これは憲法第21条等により保護される通信の秘密に該当するためです。これらの情報を提供する場合は、電気通信事業法第163条に基づく裁判所の令状(通信傍受令状等)が必要となる場合があります。一方、提供可能なのは通信の「メタデータ」(通信相手、通信日時、通信時間、基地局情報等)であり、通信の「内容」(何が話されたか、どのような内容のメッセージか等)ではないということが明記されています。例えば、詐欺電話の捜査であれば「何時に誰に電話をかけたか」は分かりますが「電話でどのような詐欺の手口を使ったか」という具体的な内容は、通話記録からは分かりません。
◆第14条(今後の対応及び問い合わせ先)
最後のセクションでは、通信事業者の連絡先情報がまとめられています。本社住所、代表電話番号、法務部や捜査照会専用窓口といった問い合わせ先、担当者の直通番号や携帯電話、メールアドレスといった情報が記載されます。営業時間も明記され、緊急時は時間外対応も可能であることが示されています。警察が回答書を受け取った後「この通信記録についてもう一つ質問がある」「この人物の過去の通信記録についても調べてほしい」といった追加の要求が生じることは珍しくありません。そうした際に、スムーズに連絡が取れるようにしておくことは、通信事業者としての誠実さを示すとともに、捜査協力という観点からも重要です。特に、大手の通信事業者では組織が大きく、どの部門に連絡すればよいのか分からないことがあるため、「捜査照会専用窓口」といった形で明確に窓口を指定しておくことが重要です。
【4】FAQ
Q1:このテンプレートは誰が使うのでしょうか?
A1:携帯電話会社、固定電話会社、インターネットプロバイダ、メールサービス企業など、通信に関わるサービスを提供している企業が使用します。特に、法務部や総務部の担当者が、警察からの照会に対応する際に活用することを想定しています。
Q2:警察から突然照会が来たらどうすればいいですか?
A2:落ち着いて、まずはその照会の内容を正確に確認してください。このテンプレートの第2条「本照会書の内容の確認」に沿って、照会内容を整理します。その後、社内の配送管理システムから必要な情報を抽出し、このテンプレートの各欄に記入していくことで、対応が始まります。不安であれば、弁護士や法務の専門家に相談することもお勧めします。
Q3:メール本文は提供しなければならないのですか?
A3:いいえ、提供する必要はありません。メール本文は秘密通信保護法により保護されるべき情報であり、原則として提供できません。提供できるのは、メールアドレス、送受信日時、件名といったメタデータまでです。
Q4:通話内容は提供できますか?
A4:できません。通話内容(何を話したか)は秘密通信保護法により保護されます。提供できるのは、誰に、いつ、どのくらいの時間通話したか、といったメタデータのみです。通話内容を提供する場合は、裁判所の通信傍受令状が必要となる場合があります。
Q5:データはどのくらいの期間保持されていますか?
A5:データの種類によって異なります。通話記録は通常1~3ヶ月、ログイン記録は6ヶ月~1年、請求データは2~5年といった具合です。詳しくは第9条「データ保持期間及び記録の限界について」をご参照ください。
Q6:位置情報の精度はどの程度ですか?
A6:位置情報は基地局による計測のため、精度は数百m~数km程度です。GPS等による正確な位置特定はできません。基地局の配置状況によって精度が変わります。
Q7:複数の警察から同じ人物についての照会が来た場合はどうするのですか?
A7:それぞれの照会に対して、別々の回答書を作成することが適切です。このテンプレートはWord形式であり、複数の照会に対応する際も効率的に使用できるように設計されています。各照会ごとに、照会内容を正確に確認した上で、対応していきます。
Q8:うっかり誤った情報を提供してしまった場合はどうするのですか?
A8:気付いた時点で速やかに警察に連絡し、誤りを説明した上で、修正版の情報を提供することをお勧めします。Word形式のテンプレートであれば、修正が容易です。
Q9:契約者本人から「私の情報が警察に提供されたって本当か」と聞かれた場合はどう対応すべきですか?
A9:基本的には、法令に基づいた適切な照会であれば、対応する義務があることを説明することができます。ただし、警察から「秘匿してほしい」という指示がある場合は、その指示に従う必要があります。事前に弁護士に相談することをお勧めします。
Q10:このテンプレートを使えば、本当に大丈夫でしょうか?
A10:大丈夫度は高いです。ただし、大規模な事件やテロ関連事件など特殊な事情がある場合は、弁護士などに相談することをお勧めします。通常の犯罪捜査に関連した照会への対応であれば、このテンプレートを使用することで、通信事業者として十分な対応ができるレベルの書式になっています。
Q11:提供した情報が警察内で不正に使用された場合、通信事業者に責任がありますか?
A11:いいえ、ありません。このテンプレートに「提供後の管理及びセキュリティ確保については、警察機関の責任に属するものです」と明記されています。通信事業者の管理ミスに起因しない限り、通信事業者は責任を負いません。
Q12:アクセスしたウェブサイトの情報は提供できますか?
A12:できません。インターネットプロバイダのサーバーには、ユーザーがアクセスしたウェブサイトのURLアドレスは記録されていません。提供できるのは「いつ、どのくらいの時間、ネットに接続していたか」までの情報です。
【5】活用アドバイス
■ステップ1:照会内容を注意深く確認する
警察からの照会を受け取ったら、まずは深く息を吸いましょう。その後、落ち着いてその照会の内容を全体的に読み込んでください。照会対象者の氏名と生年月日、電話番号またはメールアドレス、照会対象期間、どのような情報が求められているのか、といった点を整理します。このテンプレートの第2条を使いながら、照会内容を表にして整理するのがお勧めです。特に照会対象者の特定は重要です。同じ名前の人物が複数いる場合や、複数の電話番号を持っている場合があるため、生年月日や住所といった詳細情報で正確に特定する必要があります。誤った人物の通信記録を提供してしまったら、その人物のプライバシーを侵害するだけでなく、捜査にも支障をきたします。
■ステップ2:社内の適切な部門に相談する
大手の通信事業者の場合、組織が大きく複雑です。照会を受け取ったら、直ちに法務部やコンプライアンス部に報告してください。また、必要に応じて情報システム部門や個人情報保護委員会といった関連部門にも情報を共有し、社内での対応方針を協議します。外部の弁護士に相談することも検討しましょう。特に事件の内容が複雑で、提供してよい情報の範囲について判断に迷う場合は、弁護士のアドバイスを受けることが無難です。
■ステップ3:必要な情報を社内システムから抽出する
次に、通信事業者内のシステムから、当該照会対象者の通信情報を抽出します。契約者情報、通話記録、メール送受信記録、ログイン記録、位置情報といった情報を集めます。このテンプレートの各セクションを見ながら「どのような情報を提供する必要があるか」を確認しておくと、情報抽出がスムーズになります。システムから自動的に出力できるデータもあれば、手作業で確認する必要があるデータもあります。特に、どのくらいの期間データが保持されているのか、欠落している期間がないのかといった点を確認することが重要です。
■ステップ4:データの正確性を複数回確認する
抽出したデータをテンプレートに入力する前に、複数回確認してください。特に日時については細心の注意を払ってください。「何月何日の何時」という情報が1時間違うだけで、犯行時刻の推定に大きな影響を与える可能性があります。また、電話番号やメールアドレスについても、記載誤りがないか確認します。複雑な照会の場合は、2人以上で確認するというダブルチェック体制を採用することをお勧めします。
■ステップ5:情報の保持期間と限界を確認する
このテンプレートの第9条で、各データがどのくらいの期間保持されているか、またどのような限界があるかが述べられています。例えば、警察が3年前の通話記録を求めている場合、通話記録の保持期間が1~3ヶ月であれば、そのデータはもう存在しないということになります。その場合は、その旨を明記して回答することが重要です。また、システムの障害やメンテナンスの期間、データが欠落している可能性がないかも確認します。
■ステップ6:秘密保護の範囲を理解する
第13条で述べられているように、提供できない情報(通信内容そのもの)と提供できる情報(メタデータ)の区別を正確に理解することが重要です。例えば、「メール本文」は秘密保護対象だが「メールアドレスと件名」は提供できる、「通話内容」は秘密保護対象だが「通話日時と相手先」は提供できる、といった具合です。これを誤って理解していると、提供してはいけない情報を提供してしまったり、逆に提供できる情報を提供しなかったりするリスクが生じます。
■ステップ7:第三者情報への配慮を検討する
容疑者の通信相手の電話番号やメールアドレスといった第三者情報については、その第三者のプライバシーも守る必要があります。例えば、容疑者が友人や家族に電話をかけた記録は提供する必要がありますが、その友人や家族が別件で容疑者になっていないのであれば、彼らのプライバシーにも配慮する必要があります。具体的には、警察に対して「以下の情報は第三者のプライバシーに配慮し、提供させていただきます」といった一文を加えることで、通信事業者としてのプライバシー保護への配慮を示すことができます。
■ステップ8:契約者への対応を検討する
回答書を警察に提出する前に、契約者への対応をあらかじめ検討しておくことをお勧めします。警察から「秘匿してほしい」という指示がなければ、適切なタイミングで契約者本人に知らせることが誠実な対応です。ただし、知らせ方には工夫が必要です。突然「あなたの通信情報が警察に提供されました」と通知すると、契約者が不安になったり、不信感を持ったりする可能性があります。「犯罪捜査への法律に基づいた協力」という背景を丁寧に説明することが重要です。社内のマニュアルを整備しておくと、対応がスムーズになります。
■ステップ9:情報セキュリティを厳格に管理する
回答書は通信情報を含む非常に重要な文書です。ファイル送付時には、パスワード保護を使用し、メール以外の安全な方法での送付も検討します。例えば、警察の指定する安全な受け渡し方法がないか確認することが有効です。また、企業内でも、この文書へのアクセスを限定し、知る必要がある人材のみがアクセスできるようにします。回答書の控えについても、適切に保管管理し、一定期間経過後は適切に廃棄します。
■ステップ10:今後のコミュニケーション体制を整える
警察から追加質問が来る可能性に備えて、このテンプレートの第14条に記載した担当者を実際に決めておき、その担当者が警察との連絡窓口になるようにします。警察からの問い合わせに対しては迅速に対応することで、通信事業者としての協力的姿勢をさらに示すことができます。同時に、緊急時の対応体制も整備しておくと、突然の照会にも慌てずに対応できます。
■ステップ11:社内マニュアルの整備
これは1回限りの話ではなく、複数の警察から複数の照会が来る可能性があります。そのため、社内マニュアルを整備しておくことが重要です。「警察からの照会を受けたときの流れ」「情報抽出の方法」「回答書作成の手順」「契約者への対応方法」といったポイントをまとめたマニュアルを作成しておくと、組織内で標準的で効率的な対応ができるようになります。定期的に研修を実施し、担当者の異動があった場合にも、新しい担当者にマニュアルを共有することが重要です。
■ステップ12:プライバシー保護への姿勢を外部に発信
警察への協力は必要ですが、同時に「当社は顧客のプライバシー保護を最優先としている」という姿勢を外部に発信することも重要です。企業のウェブサイトやプライバシーポリシーで、法令に基づく照会にはどのように対応しているかを明確に述べておくことで、顧客からの信頼を維持することができます。
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