【1】書式概要
この書式は、医療機関が輸血療法や特定生物由来製剤を使用する際に、患者さんや家族に対して治療の内容、効果、危険性などを正確に説明し、その上で使用に関する同意を得るためのひな形です。医療機関では血液製剤や生物由来の医療用製品を扱う場面が多くありますが、これらを使用する前には国の規制に基づいて患者さんに十分な説明をした上で、明確な同意を取得することが必須となっています。
実際の使用場面としては、手術前に貧血が見つかって輸血が必要になった場合、交通事故で大出血した患者さんの緊急治療、難病の治療に際して特殊な生物由来製剤が必要になった場合など、医療機関が日常的に遭遇する状況が対象となります。
この書式は医師や看護師、医療事務スタッフが使用することを想定して、分かりやすい表現で構成されており、Word形式で自由に編集・カスタマイズすることができます。医療機関の標準書式として、または地域の医療法人グループで共有する統一書式として活用できます。難しい法律用語を避けて、一般的な日本語で作成されていますので、医療の専門家でなくても記入・管理の内容が理解しやすいことが特徴です。
【2】逐条解説
第1条 説明の実施と記録
医師が患者さんに対して、治療に使う医療製品についての詳しい説明を行う部分です。単に口頭で説明するだけでなく、説明に使用した資料や印刷物を患者さんに交付することが要求されています。例えば、輸血の場合には「輸血療法に関する説明資料」という別紙を患者さんに手渡し、その資料の内容に沿って説明を進めるという流れになります。この過程を書式に記録することで、後日「きちんと説明を受けた」ことの証明になります。
第2条 説明項目の確認
患者さんに説明すべき7つの項目をチェックリスト形式で記載しています。例えば、最初に「なぜこの治療が必要なのか、使わないとどうなるのか」を説明し(第1項目)、次に「この治療にはどんな副作用や危険性があるのか」を説明します(第2項目)。さらに「もしも感染などの被害が起きた場合、国の救済制度がある」ことも説明する必要があります(第3項目)。医師や説明担当者は、各項目について実際に説明したかどうかをレ点やチェックマークで確認していきます。これにより、説明漏れがないようにチェック機能が働く仕組みになっています。
第3条 医師の署名と立会人
説明を行った医師が署名することで、説明の実施を医師自身が確認・保証する形になります。また、可能な限り立会人(看護師や他の医療スタッフ)の署名があると、複数の者が説明プロセスを目撃したことになるため、後々のトラブル防止に役立ちます。例えば、裁判になった場合に「説明は十分に行われた」という証拠になる力が増します。
第4条 患者さん(または代理人)の同意
患者さんが上記の説明を理解した上で、治療を受けることに同意する部分です。患者さん本人が署名するのが原則ですが、意識がない、認知症など本人が署名できない場合は、配偶者や子ども、親など法律で定められた家族が代わりに署名します。署名の際には必ず印鑑(㊞)を押すことで、その同意が真正であることを示します。本人との関係も記入することで、署名者が本当に患者さんの家族であることを確認できるようにしています。
第5条 緊急時の対応の承諾
治療中に予期しない緊急の事態が発生することもあります。例えば手術中に思わぬ大出血が起きた場合、その時点で新たに家族の承認を得ている余裕がないこともあります。同意書の中に「緊急時には医師の判断で適切な処置を行う」という一文を入れておくことで、医師が患者さんの生命を守るために必要な医療を速やかに実施できるようになります。
【3】よくある質問(FAQ)
Q1: この書式は誰が作成・署名するのですか?
A: 基本的には医師が患者さんに説明した上で署名します。看護師が説明補助を行うこともありますが、最終的な医学的説明と判断は医師の責任です。立会人は医師ではなく、説明の現場にいた別の医療スタッフ(看護師など)が署名するのが一般的です。
Q2: 患者さんが拒否した場合はどうするのですか?
A: 輸血を拒否する権利は患者さんにあります。その場合は同意書に署名されないまま、医学的に代替手段がないか検討し、患者さん、家族、医療チーム全体で話し合いを重ねることになります。拒否された旨を診療記録に記載しておくことが重要です。
Q3: 代諾者が子どもの場合は?
A: 未成年の患者さんの場合、親権者である両親のいずれか(または両者)が代諾者になります。両親が死亡している場合は後見人が署名します。医療機関によって細かい取り扱いが異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
Q4: 説明資料は毎回新しく作成する必要がありますか?
A: 医療機関で統一された説明資料があれば、それを使い回しても構いません。ただし医学知識の更新に伴って内容が古くなっていないか、定期的に確認・改訂することが望ましいです。資料のバージョンや交付日を書式に記入することで、いつの資料を使ったのかが後で確認できます。
Q5: Word形式で項目を追加してもいいですか?
A: はい、医療機関の実情に合わせて自由に追加・修正できます。例えば、特殊な生物由来製剤を多く扱う場合には、その製剤ごとの説明項目を追加したり、地域の医療法に応じた条項を加えたりすることができます。ただし、基本的な法令要件である7つの説明項目は削らないようにしてください。
Q6: この書式を使うと法的なトラブルを完全に防げますか?
A: 書式を使うだけでは不十分です。大切なのは、実際に患者さんと向き合い、時間をかけて丁寧に説明することです。書式はその説明がきちんと行われたことを記録・証明するためのツールに過ぎません。
【4】活用アドバイス
事前準備が成功のカギ
医師が忙しい診療の合間をぬって患者さんと向き合う時間は限られています。看護師や医療事務スタッフが事前に患者さんの状況をまとめておき、医師がスムーズに説明できる環境を整えることが大事です。患者さんが理解しやすいように、複雑な医学用語はなるべく平易な言葉に置き換えて説明するよう、スタッフ全体で工夫しましょう。
説明記録の保管と管理
同意書は医療記録の一部として、患者さんのカルテと一緒に保管することになります。カルテの保存期間は法律で定められているため、所定の年数が経過するまでは紛失しないよう厳重に管理してください。デジタル化する場合も、改ざん防止機能のあるシステムを使うことが大切です。
複数言語への対応検討
外国籍の患者さんが増えている医療機関では、説明資料と同意書を複数の言語に翻訳しておくと便利です。翻訳の際には医学用語の正確性が特に重要です。
定期的な見直しと更新
医療技術や法令は時間とともに変わります。数年に一度は書式の内容が最新の状況に対応しているか見直し、必要に応じて改訂する習慣をつけましょう。
スタッフ教育の実施
この書式を導入したら、医師、看護師、事務スタッフを対象に研修を行い、説明プロセスの意味と正しい使い方を理解してもらうことが重要です。
【5】この書式を利用するメリット
・規制対応の確実性:国が定めた説明項目を網羅したチェックリスト形式になっているため、説明すべき内容を漏らす心配がありません。医療機関としての責任を果たしていることを明確に示せます。
・紛争予防効果:万が一、患者さん側からトラブルが発生した場合でも、医師が丁寧に説明を行い、その内容を記録していたことが証明できるため、医療機関を守る強い証拠になります。
・患者さんとの信頼構築:説明資料を手渡し、チェックリストで確認しながら説明を行うプロセスを通じて、患者さんは「医師が真摯に向き合ってくれている」と感じるようになり、治療への不安が軽減されます。
・業務効率化:統一された書式を使うことで、説明に必要な時間を短縮でき、医師やスタッフの業務効率が向上します。新人スタッフの教育にも役立ちます。
・カスタマイズ可能性:Word形式なので、医療機関の特性に合わせて自由に修正・追加できます。他施設への転用や改良も容易です。
・コスト削減:ひな形があるため、弁護士に相談して書式を一から作成する必要がなく、制作時間とコストを削減できます。
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