【1】書式概要
〔改正民法対応版〕請負契約書〔汎用モデル〕(注文者有利版)は、個人や企業が仕事や工事を外部に発注する際に使える実用的な契約書です。改正民法の内容を踏まえ、特に注文者側に有利な条件で作成されており、建設工事や制作物の発注、システム開発の委託など幅広い用途に対応しています。
この契約書は仕事内容や代金の明確化だけでなく、工期の遅延、成果物の品質問題、中途解約時の精算方法など、発注時によくあるトラブルにも対応できる条項を盛り込んでいます。契約不適合責任に関する規定も改正民法に沿って整備されており、引き渡し後に問題が発見された場合の対応も明確です。
実務で即使える形式でありながら、記入例や空欄をあらかじめ設けているので、具体的な案件に合わせて簡単にカスタマイズできます。リフォーム工事の発注、ウェブサイト制作の依頼、イベント企画の委託など、外部に仕事を依頼する際の取引条件を明確にしたい場面で役立ちます。請負契約の基本要素をおさえつつ、注文者の立場を守る内容となっているため、初めて外注する方でも安心して利用できます。
【2】条文タイトル
第1条(本件仕事の完成)
第2条(代金の支払い)
第3条(本件工事完成前の終了と精算等)
第4条(危険の移転)
第5条(注文者による本契約の解除)
第6条(解除)
第7条(損害賠償)
第8条(契約不適合)
第9条(合意管轄)
第10条(協議)
【3】逐条解説
〔改正民法対応版〕請負契約書〔汎用モデル〕(注文者有利版)逐条解説
第1条(本件仕事の完成)
この条項では契約の基本となる3つの要素、つまり①何の仕事を行うか、②いつまでに完成させるか、③いくらの対価を支払うかを定めています。請負契約の核心部分であり、当事者間で最も重要な合意事項です。
記載例としては、①の仕事内容は「東京都渋谷区〇〇町の甲所有建物における内装リフォーム工事一式」のように具体的に書くことが望ましいです。曖昧な表現だと後々トラブルになることがよくあります。実際にあった例では、「会社案内パンフレットの制作」という記載だけで契約したため、ページ数や使用する写真の点数などで認識の相違が生じ、追加料金を巡って紛争になったケースがありました。
また引渡日は具体的な年月日を入れることで、工期の遅延が発生した場合の責任の所在を明確にできます。対価金額も税込か税別かを明記すると親切です。
第2条(代金の支払い)
支払条件を定める重要な条項です。一般的には「着手金」「中間金」「完成引渡時払い」などの段階的な支払いが多く採用されています。
具体的な記載例としては「着手金として契約締結時に総額の30%、中間金として工事進捗50%時点で30%、残金40%を引渡し完了時に支払う」といった形式が一般的です。最近では電子決済の普及に伴い、支払方法についても「銀行振込(振込手数料は乙負担)」のように明記するケースが増えています。
あるウェブサイト制作会社では、制作の途中で発注者が仕様変更を繰り返し、最終的に大幅な納期延長になったにもかかわらず、当初の支払条件に基づく請求ができず資金繰りに苦労したという事例がありました。こういったリスクを避けるため、中間金の設定や仕様変更に関する追加費用の規定を盛り込むことが重要です。
第3条(本件工事完成前の終了と精算等)
この条項は、仕事が完成する前に契約が終了した場合の精算方法について定めています。特に注文者側に有利な内容となっており、注文者の責任でない事由による場合は実費相当額のみの償還とし、請負人側の責任による場合は一切の請求ができないとしています。
例えば、システム開発の途中でクライアント企業の経営方針が変わり、プロジェクトが中止になった場合、この条項があれば既に投入した工数分のみ支払えば済むことになります。請負人側としては厳しい条件ですが、注文者としては無駄な支出を抑えられるメリットがあります。
建設業界の実例では、工事の途中で地中から予期せぬ埋設物が発見され工事続行が困難になったケースで、この条項に基づき既施工部分の実費精算で決着したというケースもあります。
第4条(危険の移転)
危険負担の問題を規定しています。成果物の引渡し前に天災などで成果物が滅失・毀損した場合のリスクは請負人が負い、引渡し後のリスクは注文者が負うという原則を明確にしています。
例えば、家具製作を依頼し、完成品が工房から顧客宅への配送中に交通事故で破損した場合、まだ引渡しが完了していないため、修理または再製作の責任と費用は請負人側にあることになります。
一方で、2項では天変地異など双方の責任でない事由による滅失・毀損の場合は契約解除ができるとしつつも、修補可能な場合は請負人の責任と負担で修補する義務を課しており、注文者保護の観点が強い条項となっています。東日本大震災後に多くの建設中の物件で問題となったのがこの危険負担の問題でした。
第5条(注文者による本契約の解除)
民法641条を反映した条項で、注文者は請負人に対して損害賠償をすることにより、いつでも契約を解除できることを明記しています。
たとえば、社内のウェブサイトリニューアルプロジェクトを外注した後、経営判断で方針が変わり、プロジェクト自体を中止するような場合に適用されます。この場合、既に発生した費用や得られるはずだった利益相当額を請負人に支払うことで、契約を解除できます。
実際の事例では、ある企業がオフィス移転に伴う内装工事を発注した後、移転計画そのものを延期することになり、この条項に基づいて既発生費用と一定の利益相当額を支払って契約を解除したケースがあります。注文者にとって、事情変更に柔軟に対応できる重要な権利と言えます。
第6条(解除)
この条項は当事者の一方に重大な契約違反や信用不安事由が生じた場合に、相手方が催告なしに直ちに契約を解除できる権利を定めています。特に6号の反社会的勢力排除条項は、近年の契約書では不可欠な要素となっています。
例えば、請負人が仕事の途中で倒産した場合、この条項により注文者は速やかに契約を解除し、別の業者に仕事を依頼し直すことができます。また、請負人が反社会的勢力との関係が判明した場合も同様です。
実際に大手ゼネコンの下請け業者が暴力団関係者と判明し、この条項に基づいて即時契約解除された事例があります。このような事態に備えて契約書に明記しておくことで、スムーズな対応が可能になります。
第7条(損害賠償)
この条項は契約違反による損害賠償請求権を定めていますが、同時に不可抗力による免責も規定しています。改正民法の債務不履行責任の考え方に沿った内容となっています。
例えば、請負人の工期遅延により注文者のビジネスオープンが遅れ、逸失利益が発生した場合、この条項に基づいて損害賠償を請求できます。ただし、その遅延が台風などの自然災害による場合は、免責される可能性があります。
2項では契約不適合については次条で別途規定することを明確にしており、体系的な整理がされています。実際のトラブル事例としては、システム開発の納期遅延により発注企業の新サービス開始が遅れ、この条項に基づいて逸失利益の一部が損害賠償として認められたケースがあります。
第8条(契約不適合)
改正民法の最も重要な変更点の一つである「契約不適合責任」について規定しています。旧来の「瑕疵担保責任」から変更された新しい考え方に基づき、請負人の責任を明確にしています。
具体的には、成果物に品質や種類の不適合があった場合、注文者は①履行の追完請求、②報酬減額請求、③損害賠償請求、④契約解除という4つの救済手段を選択できます。ただし、不適合の原因が注文者の提供した材料や指示にある場合は請求できないという例外も設けられています。
例えば、発注したオフィス家具のサイズが契約と異なっていた場合、注文者はこの条項に基づいて正しいサイズでの作り直し(追完請求)を求めることができます。
通知期間の制限として3年以内という期間が設けられていますが、これは改正民法の定める期間と同一です。ただし請負人が不適合を知りながら告げなかった場合は例外とされており、注文者保護の配慮がなされています。実際の裁判例でも、建物の基礎工事の重大な欠陥を施工者が知りながら隠していたケースで、期間制限にかかわらず責任を認めたものがあります。
第9条(合意管轄)
訴訟になった場合の管轄裁判所を定める条項です。通常は注文者の所在地を管轄する裁判所が指定されることが多く、注文者にとって有利な内容となっています。
例えば東京に本社がある発注企業が大阪の業者に仕事を依頼する場合、この条項により紛争が生じた際には東京地方裁判所で裁判を行うことができ、注文者側の利便性が確保されます。
管轄合意がない場合は民事訴訟法の原則に従って被告の所在地裁判所に訴えを提起することになりますが、この条項があれば注文者側の負担軽減につながります。実際のビジネスシーンでは、全国展開する企業が地方の業者と契約する際に、本社所在地の裁判所を合意管轄とすることで、紛争管理を効率化しているケースが多く見られます。
第10条(協議)
最後に置かれることが多い条項で、契約書に明記されていない事項や解釈に疑義が生じた場合の対応方法を定めています。
例えば契約締結時には想定していなかった状況が発生した場合、この条項に基づいて当事者間で誠実に協議し、円満な解決を図ることが求められます。
特に長期的な取引関係を維持したい場合には、すぐに訴訟に発展させるのではなく、まずは協議によって解決を図るという姿勢が重要です。ある建設プロジェクトでは、工事途中で想定外の地中障害物が発見された際、この協議条項に基づいて追加費用の分担について話し合いが行われ、訴訟に至らず解決したという事例があります。契約書の文言だけでは解決できない実務上の課題に対応するための重要な条項です。