【1】書式概要
この契約書は、複数の企業が共同でプロジェクトを進める際に必要となる三者間の秘密保持契約書です。近年のビジネス環境では、一つの企業だけでは対応しきれない複雑なプロジェクトが増えており、複数の会社が連携して事業を進めることが当たり前になっています。
例えば、システム開発会社、デザイン会社、マーケティング会社が協力して新しいWebサービスを立ち上げる場合や、製造業者、販売会社、物流会社が連携して新商品の市場投入を行う場合など、三社以上が関わるビジネスシーンは数多く存在します。このような場面で、各社が持つ技術情報、顧客データ、営業戦略などの重要な情報を安全に共有するために、この三者間秘密保持契約書が威力を発揮します
。
従来の二者間契約では対応できない複雑な情報共有の仕組みを、この契約書一つで整理できるため、多くの企業から注目されています。改正民法にも対応しており、最新の規定に基づいた内容となっているため、安心してご利用いただけます。契約交渉の時間短縮にもつながり、スムーズなプロジェクト開始を実現できる実用的な書式です。
【2】条文タイトル
第1条(本目的)
第2条(定義)
第3条(秘密保持)
第4条(第三者開示)
第5条(権利の不許諾)
第6条(秘密情報の返還)
第7条(有効期間)
第8条(合意管轄)
第9条(契約の変更)
第10条(疑義の解釈)
【3】逐条解説
第1条(本目的)の解説
この条文は契約全体の目的を明確にする重要な規定です。三者間での情報共有における安全性と効率性の両立を目指していることが分かります。単純に「秘密を守る」だけでなく、「業務遂行を安全且つ円滑に実施する」という積極的な目的が設定されているのがポイントです。
実際のビジネスでは、情報を出し惜しみしていてはプロジェクトが進まない一方で、無制限に情報を開示してしまうとリスクが高まります。この条文により、必要な情報は適切に共有し、かつ機密性も保持するというバランスの取れた関係を築くことができます。
第2条(定義)の解説
契約書において最も重要な用語の定義を行う条文です。特に「秘密情報」の定義は実務上極めて重要で、二つのパターンが示されています。一つは開示時に明示的に秘密である旨を表示する方法、もう一つは開示後14日以内に書面で通知する方法です。
この14日間の猶予期間は実務的に非常に有用です。会議や打ち合わせの中で思わず重要な情報を話してしまった場合でも、後から秘密情報として指定できるため、情報管理の柔軟性が確保されています。また、開示者と受領者の定義により、三者間で情報の流れが複雑になっても、誰が開示者で誰が受領者なのかが明確になります。
第3条(秘密保持)の解説
秘密保持契約の核心となる条文です。5つの項目からなる包括的な規定となっており、情報の使用制限、第三者への開示禁止、例外規定、複製禁止、管理義務が定められています。
特に注目すべきは第3項の例外規定で、5つのケースが列挙されています。これらは一般的に「公知例外」と呼ばれるもので、既に公になっている情報や正当に取得した情報については開示制限が適用されないという合理的な仕組みです。法令に基づく開示も例外とされており、コンプライアンス上の問題が生じないよう配慮されています。
第4条(第三者開示)の解説
前条で認められた例外的な第三者開示について、具体的な手続きと責任を定めた条文です。従業員や協力会社に情報を開示する場合には、同等の秘密保持義務を負わせることが求められています。
この規定により、情報が間接的に漏洩するリスクを防いでいます。例えば、A社がB社に開示した情報をB社の従業員が不注意で外部に漏らしてしまった場合、A社はB社に対して損害賠償を請求できることになります。三者間契約では情報の流れが複雑になりがちですが、この条文により責任の所在が明確化されています。
第5条(権利の不許諾)の解説
秘密情報の開示と知的財産権の許諾は別問題であることを明確にした条文です。技術情報や営業秘密を教えたからといって、それを自由に使用できる権利まで与えたわけではないという当然のことを確認しています。
実務では、情報を受け取った側が「教えてもらったから使っても良いはず」と誤解するケースが時々あります。この条文により、そうした誤解を防ぎ、後のトラブルを予防することができます。特に技術系の協業では重要な規定です。
第6条(秘密情報の返還)の解説
契約終了時や契約違反時の情報処理について定めた条文です。秘密情報とその複製物、記録媒体の返還または廃棄を義務付けています。デジタル時代においては、情報のコピーが容易に作成できるため、この規定の重要性は増しています。
開示者の指示に従って処理するとされているため、ケースバイケースで柔軟な対応が可能です。重要度の高い情報は返還、それほどでもない情報は廃棄といった使い分けができます。また、完全な廃棄が困難な電子データについても、アクセス制限などの措置を講じることで実質的な効果を得ることができます。
第7条(有効期間)の解説
契約の有効期間と秘密保持義務の存続期間を分けて規定している点が特徴的です。契約自体は定められた期間で終了しますが、秘密保持義務はその後も一定期間継続します。これは秘密情報の性質を考慮した合理的な仕組みです。
存続期間の設定により、プロジェクト終了後も安心して情報管理を行うことができます。業界や情報の種類によって適切な期間は異なりますが、一般的には3年から5年程度が設定されることが多いようです。
第8条(合意管轄)の解説
紛争が生じた場合の裁判所を予め指定する条文です。三者間契約では、各社の本社所在地が異なることが多いため、どこの裁判所で争うかを事前に決めておくことで無用な争いを避けることができます。
通常は、契約の中心となる企業の本社所在地や、プロジェクトの実施地を管轄する裁判所が指定されることが多いです。この条文により、紛争解決のコストや時間を予測しやすくなります。
第9条(契約の変更)の解説
三者間契約では契約変更の手続きが複雑になりがちですが、この条文により明確なルールが設定されています。全当事者の合意が必要であり、かつ書面での手続きが義務付けられています。
口約束での変更を認めないことで、後日の紛争を防止できます。また、一部の当事者だけで契約を変更することを防ぎ、三者間の公平性を保つ効果もあります。
第10条(疑義の解釈)の解説
契約書に明記されていない事項や解釈に迷う事項について、当事者間の協議により解決することを定めた条文です。「誠意をもって協議」という表現により、建設的な話し合いを促しています。
三者間の関係では、二者間よりも複雑な利害関係が生じる可能性があります。この条文により、問題が生じた際には訴訟ではなく話し合いでの解決を優先する姿勢を示しており、長期的な協力関係の維持に寄与します。