【1】書式概要
この植栽・緑化工事契約書は、お庭や敷地内の植栽工事や緑化整備を依頼する際に、発注者と施工業者の間で交わす正式な取り決め書です。2020年の民法改正に完全対応しており、特に「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への変更点をしっかり反映しています。
お庭づくりやオフィス周りの緑化、マンションの共用部分の植栽など、あらゆる植栽・緑化工事の発注時に使える汎用性の高いテンプレートとなっています。工事内容や支払条件、工期、植物の品質保証など、トラブルを未然に防ぐために必要な項目を網羅。別紙仕様書のひな形も付いているので、具体的な植栽計画を詳細に記載できます。
このテンプレートは、個人のお客様が専門業者にお庭の整備を依頼する場合はもちろん、不動産会社やマンション管理組合が大規模な緑化工事を発注する際にも活用できます。契約時の曖昧さをなくし、後々のトラブルを防止するための重要なツールです。必要事項を埋めるだけで、すぐに正式な契約書として使用できるので、専門知識がなくても安心です。
植物の生育保証や維持管理についての取り決めも含まれているので、工事完了後の植栽の健全な成長についても契約でカバーできます。特に季節を選ぶ植栽工事では、時期や養生期間の明確化が重要ですが、そういった点もきちんと盛り込める構成になっています。
【2】条文タイトル
第1条(目的)
第2条(工事場所)
第3条(工事内容)
第4条(契約金額)
第5条(支払方法)
第6条(工期)
第7条(工事の変更)
第8条(材料の品質)
第9条(安全管理)
第10条(近隣対策)
第11条(契約不適合責任)
第12条(所有権の移転)
第13条(第三者への委託)
第14条(秘密保持)
第15条(不可抗力)
第16条(解約)
第17条(反社会的勢力の排除)
第18条(管轄裁判所)
第19条(協議事項)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条項は契約の基本となる目的を明確にしています。シンプルな文言ですが、実際の紛争時に契約の解釈の基準となる重要な条項です。
例えば「甲の所有する土地における植栽・緑化工事」と明記することで、借地での工事や建物の緑化工事などとは区別されます。庭園リフォームやマンションの植栽工事など、具体的な工事内容の大枠を示す役割もあります。
第2条(工事場所)
施工場所を住所で明確にすることで、工事の実施地点に関する誤解を防止します。正確な住所記載により、資材の搬入経路や駐車スペースの確保、近隣への配慮など、施工計画を立てる際の基準点になります。
例えば、同じ所有者が複数の物件を持っている場合に、どの物件での工事なのかを明確にするために必須の条項です。
第3条(工事内容)
具体的な工事内容を規定する条項です。「別紙仕様書に基づき」と記載することで、詳細な植栽計画は別紙に委ねることができます。一般的な植栽工事では、高木・中低木・地被類などの植栽、芝生敷設、土壌改良など多岐にわたる作業が含まれますが、これらをまとめて記載しておくことで工事範囲を明確にします。
例えばシンボルツリーの設置から下草の植え込みまで含むのか、また灌水設備の設置は含むのかなどの範囲を定めるものです。
第4条(契約金額)
工事の対価となる金額を明記します。税込表示にすることで、消費税率変更時の混乱を防止できます。実務上は、具体的な金額だけでなく「本体価格○○円、消費税○○円、合計○○円」と記載するケースも多いです。大規模な庭園工事では数百万円に及ぶこともあり、金額の明確化は非常に重要です。
第5条(支払方法)
工事代金の支払時期と分割方法を定めます。一般的に植栽工事では、契約時・中間時・完了時の3回に分けて支払うケースが多いです。これは工事の進捗に応じた支払いとなり、双方にとって公平な支払条件となります。
例えば、大規模な日本庭園の造成などで工期が長期にわたる場合は、工事の節目ごとに細かく分割支払いとすることもあります。
第6条(工期)
工事の開始日と完了予定日を明記します。植栽工事は季節に左右されることが多く、特に植物の植え付けに適した時期があるため、工期の設定は重要です。
例えば、桜を植える場合は11月から3月頃が適期で、真夏の植栽は避けるべきです。そういった植物の特性に合わせた工期設定を行い、契約書に明記することで、適切な時期に適切な作業が行われることを担保します。
第7条(工事の変更)
工事内容の変更が必要になった場合の手続きを定めます。実際の工事中に、地中から予想外の障害物が出てきたり、発注者の好みで植栽する樹種を変更したりするケースは少なくありません。そういった変更に柔軟に対応できるよう、変更手続きを予め定めておくことで、スムーズな工事進行が可能になります。
例えば、当初予定していた常緑樹から落葉樹への変更希望があった場合、この条項に基づいて協議し、必要に応じて契約金額や工期を見直すことになります。
第8条(材料の品質)
工事に使用する植物や資材の品質について定めています。植栽工事では、植物の品質が仕上がりを大きく左右するため、品質確保は重要です。
例えば、シンボルツリーとなる高木が病気や害虫に侵されていると、庭全体の印象を損なうだけでなく、他の植物にも悪影響を及ぼす可能性があります。この条項により、健全な植物材料の使用が担保されます。
第9条(安全管理)
工事中の安全確保について定めています。植栽工事では重機を使用したり、高所作業が発生したりすることもあるため、作業員の安全確保は重要です。
例えば、大型の既存樹木を移植する際には、クレーン作業や根回し作業などの危険を伴う工程があります。こういった作業における安全確保の責任を明確にしています。
第10条(近隣対策)
工事に伴う近隣への配慮について定めています。植栽工事でも土の搬入出や、高木植栽のためのクレーン使用など、一定の騒音や交通障害が発生します。特に住宅密集地での工事では、近隣トラブルを未然に防ぐための配慮が必要です。
例えば、早朝や夜間の作業を避けたり、歩道を土で汚さないよう清掃を徹底したりするといった対応を施工者に求める根拠となります。
第11条(契約不適合責任)
改正民法に対応した条項で、従来の「瑕疵担保責任」に相当します。植栽した樹木や施工した芝生などに、契約の内容に適合しない部分があった場合の責任について定めています。
例えば、植栽後1年以内に特に問題なく枯れてしまった樹木については、施工者の負担で植え替えを行うことになります。ただし、施主の管理不足(極端な水やり不足など)による枯損は除外されるケースが一般的です。
第12条(所有権の移転)
植栽した樹木や設置した設備の所有権がいつ移転するかを定めています。一般的には、代金の支払完了時点で所有権が施工者から発注者に移転します。
例えば、高価なシンボルツリーなどを植栽した場合、代金支払前に発注者が倒産するようなリスクから施工者を守る役割もあります。
第13条(第三者への委託)
工事の下請けに関する制限を定めています。植栽工事の場合、専門性の高い作業(例:大型樹木の移植や古木の剪定など)を専門業者に委託することがありますが、全面的な下請けは品質管理の面で問題があるため制限しています。
例えば、メインの造園業者が受注したが、実際の作業は全て別の業者が行うような場合、発注者としては契約した相手と実際の施工者が異なることになり、品質面での不安が生じます。
第14条(秘密保持)
工事に関連して知り得た情報の取扱いについて定めています。例えば、高級住宅の庭園工事を請け負った場合、その住宅のセキュリティシステムや所有者の個人情報などに接する可能性があります。そういった情報の漏洩を防止するための条項です。また、特殊な庭園デザインやオリジナルの植栽パターンなど、発注者側のアイデアを守る役割もあります。
第15条(不可抗力)
天災地変など予見不可能な事態への対応を定めています。例えば工事期間中に台風が直撃し、植栽予定だった樹木が流されるなどの事態が発生した場合、当事者の責任範囲を超える事態として扱われます。また、法令の制定・改廃により急に特定の植物の移動が規制されるようなケース(外来種規制の強化など)も想定されます。
第16条(解約)
契約違反があった場合の解約手続きを定めています。例えば、施工者が正当な理由なく工期を大幅に遅延させている場合や、発注者が支払いを怠る場合などに、相手方に対して改善を求めた上で(これが「催告」です)、状況が改善されなければ契約を解除できるとしています。実際には、完全な解約よりも条件変更などで合意することが多いですが、最終手段として解約の規定を設けています。
第17条(反社会的勢力の排除)
契約当事者が反社会的勢力でないことを相互に確認する条項です。残念ながら建設業界は過去に反社会的勢力との関わりが指摘されてきた経緯があり、こういった明確な排除条項を設けることが一般的になっています。これにより、後から相手方が反社会的勢力と関係があると判明した場合に、契約を解除する根拠となります。
第18条(管轄裁判所)
万が一紛争が生じた場合の裁判所を指定する条項です。例えば東京の業者が地方の現場で工事を行う場合、紛争時にどちらの地域の裁判所で争うかを予め決めておくことで、手続きの混乱を防ぎます。一般的には発注者側の最寄りの裁判所を指定することが多いですが、双方の合意があれば別の裁判所を指定することも可能です。
第19条(協議事項)
契約書に明記されていない事項や解釈に疑義が生じた場合の対応を定めています。植栽工事は自然を相手にする工事であり、予期せぬ事態が発生することも少なくありません。
例えば、掘削中に予想外の岩盤が出てきた場合や、希望の植物が市場で入手困難になった場合など、契約時点では想定していなかった状況に柔軟に対応するための条項です。誠意をもって協議することで、双方が納得できる解決策を見出すことを目指しています。