【1】書式概要
この文書は、人材派遣会社(派遣元)と派遣先企業が労働者派遣を行う際に必要となる契約書の雛形です。労働者派遣法に基づき、派遣労働者を受け入れる企業と派遣会社の間で取り交わされる重要な書類となります。
人材派遣業を営む会社にとって、適切な契約書は事業運営の基盤となります。また、派遣労働者を受け入れる企業側も、労働者派遣法の規定に従った適正な契約を結ぶことで、コンプライアンス面でのリスクを回避できます。改正民法に対応した条項も盛り込まれており、現在の法制度に適合した内容となっています。
この契約書雛形は、新たに人材派遣事業を開始する企業、既存の派遣契約書を見直したい企業、派遣労働者の受け入れを検討している企業などが利用する場面で威力を発揮します。基本契約書と個別契約書がセットになっているため、継続的な派遣関係から個別の派遣案件まで幅広く対応可能です。特に中小企業の人事担当者や総務担当者にとって、専門的な知識がなくても安心して使える実用的な書式として活用いただけます。
【2】逐条解説
第1条(派遣契約)
この条項は派遣関係の基本的な枠組みを定めています。派遣会社が自社で雇用している労働者を派遣先企業に送り出し、派遣先が指揮監督権を持つという労働者派遣の根本的な仕組みを明確にしています。例えば、IT企業がシステム開発のプロジェクトで人手が足りない時、派遣会社からプログラマーを受け入れる場合、そのプログラマーの給与は派遣会社が支払いますが、実際の作業指示はIT企業が行うことになります。
第2条(適用範囲)
基本契約書は今後締結される全ての個別契約に適用されることを定めています。ただし、個別契約の内容が基本契約と異なる場合は個別契約が優先されるという重要なルールも設けています。これにより、基本的な取引条件は統一しつつ、案件ごとの特殊事情にも柔軟に対応できる仕組みになっています。
第3条(個別契約)
具体的な派遣の詳細は個別契約で定めることを規定しています。就業場所、業務内容、派遣料金などは案件ごとに異なるため、基本契約とは別に個別に定める必要があります。例えば、同じ派遣会社から受け入れる場合でも、経理部門への派遣と営業部門への派遣では業務内容も料金も大きく異なるため、それぞれ個別契約を結ぶことになります。
第4条(派遣料金)
派遣料金の支払い方法と支払い期限を定めています。毎月末日までに指定口座への振込という一般的な商慣行に従った内容となっています。また、派遣先企業は料金の算定根拠を書面で通知する義務も定められており、透明性の確保が図られています。振込手数料は派遣先負担とすることで、派遣会社の手取り額を保護しています。
第5条(派遣労働者の確保)
派遣会社には適切な労務管理の義務が、派遣先企業には不適当な派遣労働者の変更要求権が定められています。例えば、派遣された経理担当者の計算ミスが頻発する場合、派遣先は派遣会社と協議して別の人材への変更を求めることができます。また、派遣労働者が急に欠勤した場合の対処についても規定されており、派遣会社は速やかに代替要員の手配などの対応を取る必要があります。
第6条(業務指揮)
派遣先企業の指揮命令権について定めています。派遣労働者に対する具体的な業務指示は派遣先が行いますが、個別契約で定めた就業条件を超えて使用してはいけないという制限も設けられています。例えば、一般事務として派遣された労働者に対して、契約にない営業活動をさせることはできません。
第7条(安全及び衛生)
派遣先企業は派遣労働者の安全と衛生に配慮する義務を負います。工場での作業であれば安全装置の使用説明や危険箇所の周知、オフィスワークであれば適切な照明や空調の管理などが含まれます。労働安全衛生法の適用も受けるため、派遣先としての責任は自社従業員と同等に重要です。
第8条(便宜供与)
派遣労働者が食堂や休憩室などの福利厚生施設を自社従業員と同様に利用できることを定めています。これにより派遣労働者の職場環境が改善され、業務の円滑な遂行につながります。ただし、利用条件は自社従業員と同等であり、特別な優遇を与える必要はありません。
第9条(苦情処理)
派遣労働者からの苦情への対応窓口と処理方法を定めています。派遣会社と派遣先企業の双方に窓口を設置し、苦情が発生した際は両者で協議して解決に当たることになります。例えば、職場でのハラスメントや労働条件に関する不満があった場合、派遣労働者はどちらの窓口にも相談できる体制が整備されています。
第10条(責任者)
契約に関する責任者を明確にすることで、日常的な連絡調整や問題発生時の対応を円滑に行えるようにしています。責任者の連絡先も明記することで、緊急時の対応も可能になります。
第11条(費用)
派遣労働者が業務を行う際に必要な設備利用費や光熱費などは派遣先企業の負担とすることを定めています。パソコンや電話の使用料、電気代、通信費などが該当します。これにより派遣会社の負担軽減と派遣料金の明確化が図られています。
第12条(守秘義務)
契約期間中および終了後も相手方から開示された情報の守秘義務を定めています。ただし、既に公知の事実や適法に取得した情報などは除外されます。人材派遣では両者の機密情報に触れる機会が多いため、この規定は特に重要です。
第13条(解除及び期限の利益喪失)
契約違反や経営状況の悪化などの事由が発生した場合の契約解除について詳細に定めています。特に派遣先企業が自己都合で契約を解除する場合は、30日前の予告や賠償金の支払いなど派遣労働者保護のための厳しい条件が設けられています。また、重大な事由が発生した場合の期限の利益喪失についても規定されています。
第14条(損害賠償責任)
契約違反により相手方に損害を与えた場合の賠償責任を定めています。例えば、派遣会社が契約した人数の派遣労働者を送らずに派遣先企業の事業に支障をきたした場合や、派遣先企業が派遣料金の支払いを怠った場合などが該当します。
第15条(遅延損害金)
派遣料金の支払いが遅れた場合の遅延損害金について定めています。年利14.6%という具体的な利率が設定されており、支払い遅延に対する抑制効果と派遣会社の権利保護が図られています。
第16条(契約期間)
基本契約の有効期間と自動更新の仕組みを定めています。1年間の契約期間で、期間満了の1ヶ月前までに異議がなければ自動的に1年間延長される条項により、継続的な取引関係の安定化が図られています。
第17条(協議解決)
契約に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合は、まず当事者間の協議で解決を図ることを定めています。訴訟に発展する前に話し合いによる解決を促進する条項です。
第18条(合意管轄)
契約に関する紛争が裁判になった場合の管轄裁判所を事前に定めています。これにより紛争解決の迅速化と予見可能性の向上が図られています。管轄裁判所の選択は通常、派遣会社または派遣先企業の本社所在地を基準とします。