【1】書式概要
この契約書は、出版社と編集者の間で、出版物の編集業務を委託する際に使用する契約書です。出版社(甲)が編集者(乙)に対して編集業務を委託する際の契約条件を明確に定めています。
出版業界で働く方々にとって、編集業務の範囲や納期、対価の支払い方法、違約金、著作権の帰属など重要事項をカバーしたこの契約書は実務で即使える内容となっています。例えば、先日うちの顧客の出版社でフリーランスの編集者さんに雑誌の特集記事を依頼する際にも、この契約書をベースに細部を調整して使用しました。お互いの認識のズレがなく、スムーズに進行できたのが印象的でした。
契約書には秘密保持義務や競業避止義務も含まれており、出版社の機密情報や企画内容を守りながら、質の高い編集成果物を得るための条件が整っています。新人編集者との初めての取引や、複雑な編集プロジェクトを外注する際にも安心して使えるでしょう。
昨今の出版業界では外部編集者との協業が増えていますが、そうした状況でもトラブルを未然に防ぐために、この契約書テンプレートを活用することをおすすめします。私自身、10年以上出版業界にいますが、明確な契約書があるとないとでは、プロジェクトの成功率が大きく変わると実感しています。
〔条文タイトル〕
第1条(目的)
第2条(業務範囲)
第3条(善管注意義務)
第4条(提出期間)
第5条(対価及び支払方法等)
第6条(違約金)
第7条(損害賠償)
第8条(秘密保持義務)
第9条(競業取引の禁止)
第10条(著作権)
第11条(協議事項)
第12条(合意管轄)
【2】逐条解説
第1条(目的)
この条項では契約の基本目的を定めています。甲(出版社)が乙(編集者)に特定の出版物の編集業務を委託するという基本的な関係性を明確にしています。ここでは具体的な出版物名を記載することで、委託業務の対象を明確にします。実際の現場では「月刊ビジネスジャーナル6月号」や「『成功する投資術』単行本」など、具体的な書名や号数を入れることになります。
第2条(業務範囲)
編集業務の具体的な範囲を甲乙間の協議で定めるとしています。これは企画立案から原稿整理、校正、レイアウト指示など、どこまでを乙の業務範囲とするかを明確にするための条項です。具体的な業務範囲は別途覚書などで明確にすることが多いです。例えば「原稿収集・整理、初校・再校の校正、図版選定・キャプション作成まで」といった具合に業務範囲を特定します。
第3条(善管注意義務)
編集者(乙)には委託された業務を円滑に進める義務があることを規定しています。特に各工程の成果報告と進行状況の報告を行うこと、出版社(甲)からの指示に従うことが求められます。編集の現場では、原稿集めの進捗や校正の状況など、こまめな報告が重要になります。「執筆者からの原稿が3名分未着です」「校正作業は予定通り進んでいます」といった具合の報告が想定されます。
第4条(提出期間)
各編集工程の期限を守ることを乙に義務付ける条項です。出版物は発売日が決まっていることが多く、そこから逆算して各工程の期限が設定されます。例えば「初校ゲラ:5月10日まで」「再校ゲラ:5月17日まで」「校了:5月24日まで」などのスケジュールが別途覚書で定められることになります。
第5条(対価及び支払方法等)
編集業務の報酬額とその支払方法を定めています。出版業界では、契約締結時、原稿整理完了時、校了時の3回に分けて支払うケースが多いです。金額は出版物の規模や編集業務の範囲によって異なりますが、例えば月刊誌の一特集であれば10〜30万円程度、単行本の全体編集であれば50〜100万円程度が相場となっています。
第6条(違約金)
乙の責任で期限が遅延した場合の違約金について定めています。出版物は発売日が決まっているため、各工程が遅れると全体のスケジュールに影響します。特に季節商品や時事的な内容の場合は、遅延が大きな損害につながるため、この条項は重要です。違約金の算定基準として総額の14.6%という数字は消費税を想定したものかもしれません。
第7条(損害賠償)
乙が第三者の著作権を侵害するなど、乙の責任で甲の名誉や信用を傷つけた場合の損害賠償責任を定めています。例えば、乙が他の出版物の文章を無断で流用したり、事実確認を怠って誤った情報を掲載したりした場合などが考えられます。出版物は多くの読者の目に触れるため、内容の正確性や権利処理は特に重要です。
第8条(秘密保持義務)
乙が業務上知り得た甲の営業上・技術上の秘密情報を漏洩しないことを義務付けています。出版業界では未発表の企画内容や著者情報、販売戦略などが機密情報に当たります。例えば「有名作家Aの新作小説を出版予定」という情報が漏れれば、競合他社に先を越される可能性もあります。ただし、既に公知の情報や乙が独自に開発した情報などは例外とされています。
第9条(競業取引の禁止)
乙が甲以外から同一または類似の編集業務を受託しないことを定めています。これは情報漏洩防止や利益相反を避けるための条項です。例えば、同じテーマの雑誌特集を複数の出版社から同時に請け負うと、編集方針や取材先の重複など問題が生じる可能性があります。ただし、この条項は範囲や期間が不明確な場合、過度な制限になる可能性もあるため、実務では適用範囲を明確にすることが望ましいでしょう。
第10条(著作権)
編集業務で生じた著作権等の知的財産権はすべて甲に帰属することと、乙は著作者人格権を行使しないことを定めています。例えば、編集者が考案した特集のタイトルや構成、レイアウトなどの権利は出版社に帰属します。これにより出版社は自由に二次利用や改変を行うことができます。しかし、実務では貢献度に応じて編集者のクレジット表記をするケースも多いです。
第11条(協議事項)
契約に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合は、甲乙協議して解決することを定めています。出版業界は慣習や業界特有の事情も多いため、柔軟な対応が必要です。例えば、契約当初は想定していなかった追加取材が必要になった場合や、出版物の仕様変更があった場合などは、この条項に基づいて追加報酬や期限の調整などを協議することになります。
第12条(合意管轄)
紛争が生じた場合の裁判管轄を定めています。通常は出版社の所在地を管轄する地方裁判所が指定されることが多いです。例えば東京の出版社であれば「東京地方裁判所」、大阪の出版社であれば「大阪地方裁判所」といった具合です。この条項により、万が一訴訟になった場合に、出版社に有利な裁判所で争うことができます。
この契約書は編集業務を外部委託する際の基本的な枠組みを提供するものですが、実際の使用に際しては各社の状況や案件に応じてカスタマイズしたうえで、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。