【1】書式概要
「債務承認弁済契約公正証書」は、取引先企業との売掛金やその他の金銭債務について、債務額を確定させて確実な回収を図るための重要な法的書類です。本書式は、債務者側から「確かにこの金額を借りています」という認識を明確に示してもらうことで、後々のトラブルを防ぎ、万が一の場合には法的手続きをスムーズに進められるように設計されています。
特に注目すべきは、この公正証書に強制執行認諾約款が付されている点です。これにより、債務者が約束どおりに返済しない場合、通常必要となる訴訟手続きを経ずに、直接強制執行に移ることができます。これは企業間取引において、時間とコストを大幅に節約できる非常に実務的なメリットといえます。
この書式が特に力を発揮するのは、売掛金の回収が滞っている場合や、分割払いの取り決めをする際です。また、事業承継時の債権債務整理や、企業再生局面での債務整理など、様々な場面で活用できます。債務者に対して支払期日を明確に設定し、万が一の延滞時には適正な遅延損害金を設定できる点も、債権者にとって大きな安心材料となります。
法的な強制力を持ちながらも、利息や遅延損害金について柔軟に取り決めができる設計となっており、企業間の友好的な関係を維持しながら、確実な債権回収を実現できる優れた書式です。多くの企業法務担当者や会計事務所から高い評価をいただいている実践的なツールです。
〔条文タイトル〕
第1条(債務承認)
第2条(返済方法)
第3条(利息及び遅延損害金の不存在確認)
第4条(遅延損害金)
第5条(費用負担)
第6条(強制執行認諾条項)
【2】逐条解説
【第1条解説】
企業間の金銭取引において、債務の存在とその金額を明確に書面化することは極めて重要です。この条項では、債務者である乙が甲から購入した製品等に基づく未払債務の存在とその金額を認めることで、法的な争点を未然に防ぐ効果があります。債務額を具体的に記載することで、後日の認識の齟齬を防止し、回収業務を円滑に進めることができます。
【第2条解説】
債務の弁済方法と期限を明確に定めることで、債権回収における不確実性を排除します。全額一括払いの方式を採用することで、分割払いに伴う管理コストや手間を省くことができます。また、振込による支払方法を指定することで、支払いの証跡が残り、後々の確認が容易になります。指定口座への振込とすることで、支払処理の効率化も図れます。
【第3条解説】
この条項は、既存の債務に利息や遅延損害金が発生していないことを双方で確認するものです。これにより、支払額が増加することなく、債務者にとって負担が明確になります。また、この時点までの債務額が確定することで、債権者としても計算が簡明になり、経理処理も簡潔化されます。企業間取引において重要な透明性を確保する役割を果たします。
【第4条解説】
万が一の返済遅延に備えた重要な条項です。年利14.6%という遅延損害金の率は、商取引における一般的な水準であり、法定利率の上限内で設定されています。支払期日の翌日から発生するという明確な起算点を設けることで、遅延期間の計算に関する争いを防ぎます。これにより、債務者に対して適切なプレッシャーをかけながら、債権の確実な回収を図ることができます。
【第5条解説】
公正証書作成に伴う費用負担を債務者に課すことで、債権者の負担を軽減する実務的な条項です。公正証書作成費用は、通常数万円程度ですが、これを債務者負担とすることで、債権回収のコストを抑えることができます。また、債務者にとっても、この公正証書によって債務の法的安定性が確保されるため、合理的な費用負担といえます。
【第6条解説】
この条項は本契約書の核心部分で、強制執行認諾約款として機能します。債務者が支払期日までに債務を履行しない場合、裁判を経ずに直接強制執行手続きに移行できるという画期的な効力を持ちます。これにより、訴訟手続きに要する期間とコストを大幅に削減できます。企業の資金繰りにおいて、迅速な債権回収が可能となる点で、非常に実務的な価値の高い条項といえます。債務者にとっては重い条項ですが、これにより債務履行に対する強いインセンティブが働きます。