【1】書式概要
この不動産割賦販売契約書は、土地や建物を分割払いで購入する際に使用する契約書の雛型です。一般的な不動産売買とは異なり、購入代金を手付金と複数回の分割払いで支払う取引に特化した内容となっています。
住宅ローンが組めない方や、金融機関からの借入れを避けたい個人の方が、不動産を直接分割払いで購入したい場合によく利用されます。また、不動産業者が顧客への販売促進策として分割払いオプションを提供する際にも重宝する書式です。
改正民法に対応した最新版となっており、期限の利益喪失や遅延損害金の取り扱い、抵当権設定による担保確保など、売主の権利保護も十分に配慮された構成になっています。個人間売買はもちろん、不動産会社が顧客に販売する際の契約書としても活用できる汎用性の高い内容です。
契約書には手付金の取り扱い、所有権移転登記の時期、抵当権設定による担保確保、火災・地震保険の付保義務、支払い遅延時の対応策など、分割払い取引で起こりがちなトラブルを未然に防ぐための条項が盛り込まれています。特に売主にとっては、買主の支払い能力に不安がある場合でも安心して取引できるよう、様々な保全措置が設けられているのが特徴です。
【2】条文タイトル
第1条(目的)
第2条(売買代金及び支払方法)
第3条(手付金の支払い)
第4条(所有権移転登記)
第5条(引渡し)
第6条(担保権等の抹消)
第7条(危険負担)
第8条(公租公課の負担)
第9条(火災及び地震保険の付保)
第10条(期限の利益喪失)
第11条(遅延損害金)
第12条(契約解除)
第13条(違約金)
第14条(費用の負担)
第15条(協議事項)
第16条(合意管轄)
【3】逐条解説
第1条(目的)
この条文では契約の基本的な目的を定めています。売主が所有する土地と建物を買主に売却することを明確にし、契約の対象物件を特定する役割を果たします。別紙に詳細な物件情報を記載することで、後々のトラブルを防ぐ構成となっています。例えば、隣接する複数の土地がある場合でも、地番や面積を明記することで売買対象を明確に区別できます。
第2条(売買代金及び支払方法)
分割払い契約の核心となる条文です。総売買代金を手付金と残代金に分け、残代金は複数回の分割払いとする仕組みを定めています。土地については公簿売買として面積差による代金調整を行わない旨も規定されており、測量費用を節約したい場合に有効です。建物代金には消費税が含まれることも明記され、税務上の透明性も確保されています。
第3条(手付金の支払い)
契約締結と同時に支払う手付金について定めた条文です。手付金は売買代金の一部として充当されるため、二重払いの心配がありません。利息を付けない旨も明記され、売主にとって有利な条件設定となっています。一般的に手付金は総売買代金の10~20%程度に設定されることが多く、買主の購入意思を確認する役割も果たします。
第4条(所有権移転登記)
登記手続きの時期と費用負担を定めた重要な条文です。契約締結から5日以内という短期間での登記完了を求めており、買主の所有権を早期に確定させます。同時に売主のため抵当権設定登記も行うことで、分割払い代金の回収を担保として確保する仕組みです。登記費用は買主負担とすることで、売主の費用負担を軽減しています。
第5条(引渡し)
物件の引渡し時期を登記手続き完了時と定めています。現状有姿での引渡しとすることで、売主の修繕義務を免除し、買主は物件の現在の状態を受け入れることになります。これにより売主のリスクが軽減され、中古物件の取引では一般的な取り扱いとなります。
第6条(担保権等の抹消)
売主が物件に設定されている既存の担保権を抹消する義務を定めています。抵当権や賃借権など買主の完全な所有権行使を妨げる権利は、登記手続き前に全て抹消しなければなりません。これにより買主は安心して物件を取得でき、第三者からの権利主張を受ける心配がなくなります。
第7条(危険負担)
契約成立後、引渡し前に物件が滅失・損傷した場合のリスク分担を定めています。自然災害や火災等による損害は売主が負担するため、買主は安心して引渡しを待つことができます。ただし引渡し後は買主の責任となるため、速やかな保険加入が重要になります。
第8条(公租公課の負担)
固定資産税等の公租公課について、引渡し日を基準とした日割り計算による負担区分を定めています。年の途中での取引でも公平な負担となるよう配慮されており、一般的な不動産取引慣行に沿った内容です。1月1日を起算日とすることで計算方法も明確化されています。
第9条(火災及び地震保険の付保)
買主に火災・地震保険への加入義務を課し、保険金請求権に売主のための質権設定を求める条文です。万が一の災害時には保険金を分割払い代金の弁済に充当できるため、売主の債権回収リスクが軽減されます。保険金額は残代金相当額とすることで、適切な保険設定が確保されます。
第10条(期限の利益喪失)
分割払いを1回でも滞納した場合の対応を定めた重要な条文です。相当期間の催告後も支払いがない場合、買主は期限の利益を失い、残代金全額を一括で支払わなければなりません。売主にとっては強力な債権回収手段となり、買主には確実な支払いを促す効果があります。
第11条(遅延損害金)
契約義務違反時の損害金について定めています。年利率を明記することで遅延時の負担額が明確になり、期日通りの履行を促進する効果があります。改正民法の法定利率変動制に対応するため、契約で利率を固定することが重要です。
第12条(契約解除)
契約違反時の解除手続きを定めた条文です。まず相当期限を定めた催告を行い、それでも履行されない場合に解除できる仕組みです。一方的な解除を防ぎ、当事者双方に履行の機会を与える公平な内容となっています。
第13条(違約金)
契約解除時の損害賠償額を予め定めることで、紛争時の解決を迅速化します。売主・買主のいずれが違反した場合でも損害額が明確で、これを超える請求はできません。手付金の放棄に加えて追加違約金も設定することで、契約履行への強いインセンティブとなります。
第14条(費用の負担)
契約書作成費用等の負担について甲乙折半を原則としつつ、他の条文で個別の定めがある場合はそちらを優先する旨を規定しています。公平性と柔軟性を両立させた条文構成となっています。
第15条(協議事項)
契約書に記載のない事項については当事者協議で決定する旨を定めています。予期せぬ事態への対応策を確保し、契約の継続的な履行を支援する条文です。
第16条(合意管轄)
紛争発生時の裁判所を予め指定することで、争訟の迅速な解決を図ります。専属管轄とすることで他の裁判所での提訴を防ぎ、当事者双方にとって予測可能性が高まります。