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【1】書式概要
この書式は、会社を退職した後に「名ばかり管理職」として扱われていた期間の未払い残業代を会社に請求するための通知書テンプレートです。
「名ばかり管理職」というのは、店長や課長といった役職名だけ与えられ、実際には経営者と同等の権限を持っていないにもかかわらず、残業代を支払われないまま長時間働かされるケースのことです。本来、残業代が免除されるのは「経営者と一体的な立場にある人」だけなのですが、この基準を悪用して、肩書だけ「管理職」にして残業代を払わない会社が後を絶ちません。
この通知書は、退職した元従業員が「自分は本当の管理職ではなかった」ということを会社に伝え、支払われるべきだった残業代を正式に請求するために使用します。具体的には、採用・解雇の権限がなかったこと、出退勤時刻を自由に決められなかったこと、待遇が管理職としてふさわしくなかったことなどを整理して記載し、一定期間内の回答を求める形式になっています。
回答がない場合には労働基準監督署への申告や労働審判も視野に入れている旨を伝える文面も含まれており、会社側に誠実な対応を促す効果があります。
飲食チェーン店やコンビニエンスストア、アパレルショップなど、店長職で働いていた方が退職後に残業代を取り戻したいと考えた際に、まず会社に送る最初の一歩としてお使いいただけます。Word形式なので、ご自身の状況に合わせて日付や会社名、具体的な勤務実態を自由に編集してご利用いただけます。
【2】項目タイトル
- 管理監督者に該当しない理由
- 請求の内容
- 回答期限
【3】各項目の解説
1. 管理監督者に該当しない理由
この項目は、通知書の核心部分です。会社から「あなたは管理職だから残業代は出ない」と言われていた場合に、「いや、自分は本当の管理監督者ではなかった」と反論するための根拠を示します。
裁判所が管理監督者かどうかを判断する際には、主に3つのポイントが重視されています。それが(1)経営への関与・権限、(2)勤務態様、(3)待遇です。この通知書ではその3つに沿って自分の状況を説明する構成になっています。
(1) 経営への関与・権限について
ここでは、採用・解雇の決定権があったか、人事評価に実質的に関わっていたか、経営方針の決定に参加できたかといった点を説明します。
たとえば、ある飲食チェーンの店長だったBさんは、「アルバイトを採用したいときは必ず本社に申請して許可をもらう必要があった」「店の売上目標や仕入れ先は本社が決めていて、自分の意見を言う場もなかった」という状況でした。このような実態があれば、肩書は店長でも経営者と一体的な立場とは言えません。
(2) 勤務態様について
ここでは、出退勤の時間を自分で自由に決められたか、遅刻や早退でペナルティを受けていなかったかといった点を説明します。
本当の管理監督者であれば、何時に出社して何時に帰るかは自分の裁量で決められるはずです。しかし実際には、「シフトは本社のシステムで自動的に組まれていた」「タイムカードで打刻が義務付けられていて、遅刻すると給与から引かれた」という店長は多いです。こうした厳格な時間管理を受けていたなら、管理監督者とは認められにくくなります。
(3) 待遇について
ここでは、役職手当の金額や年収が、一般従業員と比べてどの程度差があったかを説明します。
管理監督者として残業代が免除される代わりに、それに見合った高い給与を受け取っているべきというのが法律の考え方です。ところが実際には、「役職手当は月3万円だけだった」「時給換算するとアルバイトより低かった」というケースも珍しくありません。待遇面で一般従業員との差がほとんどなければ、管理監督者として扱うのは不当だという主張が成り立ちます。
2. 請求の内容
この項目では、上記の理由を踏まえて「自分には残業代を受け取る権利がある」という意思を明確に伝えます。
具体的な金額を記載することもできますが、正確な計算には勤務時間の記録や給与明細が必要です。会社側がそれらの資料を保管している場合も多いため、この通知書では「算定根拠となる記録は別途開示請求する」という形にしています。
退職時に自分でタイムカードのコピーを取っていなかった場合でも、諦める必要はありません。業務で使っていたメールの送信時刻、スマートフォンのGPS履歴、交通系ICカードの利用履歴なども証拠として活用できることがあります。
3. 回答期限
この項目では、会社に対して14日以内に回答するよう求めています。期限を明示することで会社に対応を促すとともに、誠意ある回答がなければ次の段階に進むという姿勢を示しています。
「労働基準監督署への申告」「労働審判の申立て」「その他法的措置」という文言を入れることで、会社側に「このまま放置すると問題が大きくなる」と認識させる効果があります。実際、労働審判は原則3回以内の期日で結論が出る制度で、会社としても長期間の紛争は避けたいと考えるのが普通です。
この項目があることで、単なるお願いではなく、正式な請求であるという重みが伝わります。
【4】FAQ
Q1:退職してからどのくらいの期間まで残業代を請求できますか?
残業代の請求権には時効があります。2020年4月1日以降に発生した賃金は3年間、それ以前に発生した賃金は2年間が時効となっています。退職後も時効は進行しますので、請求を検討している場合は早めの行動をおすすめします。
Q2:この通知書は内容証明郵便で送るべきですか?
内容証明郵便で送ると、「いつ、どのような内容の文書を送ったか」が郵便局に記録として残ります。後々のトラブル防止や、時効の完成猶予(一時停止)の効果を得るためにも、内容証明郵便での送付が一般的です。
Q3:具体的な請求金額はどのように計算すればよいですか?
時間外労働は基礎賃金の1.25倍、月60時間を超える時間外労働は1.5倍、休日労働は1.35倍、深夜労働(22時〜翌5時)はさらに0.25倍の割増が原則です。月給制の場合は月給を所定労働時間で割って時給を算出し、実際の時間外労働時間を掛けて計算します。なお、2023年4月以降は中小企業でも月60時間超の割増率1.5倍が適用されています。
Q4:会社が勤務記録を出してくれない場合はどうすればよいですか?
自分で記録していたメモやスマートフォンのGPS履歴、業務メールの送信時刻なども証拠として活用できます。また、労働基準監督署に相談すれば、会社に対して記録の開示を促してもらえる場合があります。
Q5:この通知書を送った後、会社から連絡が来たらどう対応すればよいですか?
会社から連絡があった場合は、口頭でのやり取りだけで終わらせず、合意内容を必ず書面にすることが大切です。金額や支払い時期について納得できない場合は、労働局のあっせん制度や労働審判の利用も検討してください。
【5】活用アドバイス
この通知書を効果的に使うためのポイントをいくつかお伝えします。
まず、送付前に自分の勤務実態を整理しておくことが重要です。「本当に自分は管理監督者ではなかったのか」という点について、採用・解雇の権限、勤務時間の自由度、待遇の3つの観点から具体的な事実を書き出してみてください。「店長だったけど、アルバイトの採用は本社の許可が必要だった」「タイムカードで管理されていて、遅刻すると給料が引かれた」といった事実があれば、管理監督者には該当しない可能性が高いです。
次に、証拠となる資料をできるだけ集めておきましょう。タイムカードのコピー、給与明細、雇用契約書、就業規則、シフト表、業務上のメールやLINEのやり取りなどが役立ちます。退職前にこれらを手元に確保しておくと、請求がスムーズに進みます。
通知書は内容証明郵便で送付することをおすすめします。配達証明付きにすれば、会社が「受け取っていない」と言い逃れることを防げます。郵便局の窓口で手続きできますし、最近は電子内容証明(e内容証明)というオンラインサービスも利用可能です。
会社から回答があった場合は、感情的にならず冷静に対応してください。提示された金額に納得できない場合や、会社が請求を拒否してきた場合は、労働基準監督署への相談や、労働局のあっせん、労働審判といった次のステップに進むことになります。
最後に、請求金額が大きい場合や、会社側が顧問弁護士を立ててきた場合は、こちらも弁護士への相談を検討してください。残業代請求を得意とする弁護士は着手金無料・成功報酬制で受けてくれる事務所もあります。
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