【1】書式概要
この「連帯保証人なし版 ハラスメント被害に関する損害賠償示談合意書」は、職場内で発生したハラスメント問題を被害者と加害者の二者間で法的かつ効率的に解決するための包括的な法的文書テンプレートです。本雛型は、連帯保証人を設けることなく示談合意を成立させることで、手続きの簡素化とプライバシーの確保を両立させた実務的なアプローチを提供します。
このテンプレートの核心部分は、全19条にわたる精緻な条項構成にあります。第1条では示談の目的を明確に規定し、第2条では被害事実を具体的に列挙することで、当事者間での認識の共有を図ります。ハラスメント行為を「性的嫌がらせ」「暴言」「脅迫」「退職妨害」と具体的に分類することで、曖昧さを排除し、後の紛争リスクを低減しています。
金銭的解決の枠組みは第3条から第6条にかけて詳細に規定されています。損害賠償額の設定、支払方法の選択肢(一括払いと分割払い)、振込手数料の負担、証明資料の提供義務まで細部にわたり明確化されています。特に分割払いの特約(第5条)では、分割回数、支払日、金額を明記するだけでなく、支払い怠った場合の期限の利益喪失条項を設けることで、被害者の権利保護を徹底しています。年14.6%という具体的な遅延損害金の規定(第6条)も、履行確保のための実効的な手段として機能します。
本テンプレートは金銭的解決だけでなく、将来的な関係構築と再発防止にも重点を置いています。第7条の権利放棄条項は、賠償金支払いを条件とすることで被害者の権利を守りつつ、紛争の最終的解決を図ります。第8条の守秘義務条項では、例外事由を具体的に列挙することで、現実的な運用を可能にしています。
特に注目すべきは第9条から第12条にかけての将来指向的な条項群です。再発防止義務(第9条)では、単に抽象的な誓約にとどまらず、研修実施やハラスメント相談窓口設置といった具体的措置を要求しています。再就職妨害の禁止(第10条)や誹謗中傷の禁止(第11条)は、示談後の新たな被害を防止する重要な防波堤となります。証拠の取扱い(第12条)に関する明確なルール設定は、将来的なトラブルの種を事前に摘み取る効果があります。
雇用関係の終了確認(第13条)と労働条件の確認(第14条)により、退職に関連する潜在的紛争も予防します。本示談の効力(第15条)、解除条件(第16条)、合意管轄(第17条)、準拠法(第18条)といった法的基盤を固める条項も、緻密に設計されています。
最後に、協議事項(第19条)を設けることで、予見できない事態に対する柔軟な対応の余地を残しています。締めくくりとして、本書2通の作成と両当事者の署名押印という形式的要件を明記し、法的な完全性を担保しています。
このテンプレートは、連帯保証人を立てられない状況や、手続きの簡素化を優先したい場合に特に有用です。法的知識がなくても必要事項を記入するだけで実効性のある示談合意書を作成できる設計となっており、弁護士相談費用の削減にも貢献します。ハラスメント問題の迅速かつ効果的な解決を目指す全ての方にとって、この雛型は信頼できる出発点となるでしょう。
〔条文タイトル〕
第1条(本示談の目的)
第2条(被害事実の確認)
第3条(損害賠償金の支払い)
第4条(支払方法)
第5条(分割払いの特約)
第6条(遅延損害金)
第7条(権利放棄)
第8条(示談内容の公表禁止)
第9条(再発防止義務)
第10条(再就職妨害の禁止)
第11条(誹謗中傷の禁止)
第12条(証拠の取扱い)
第13条(雇用関係の終了確認)
第14条(労働条件の確認)
第15条(本示談の効力)
第16条(解除条件)
第17条(合意管轄)
第18条(準拠法)
第19条(協議事項)
【2】逐条解説
第1条(本示談の目的)
この条項は示談合意書の目的と適用範囲を明確にします。勤務期間中に発生したハラスメント行為を特定し、この合意書が対象とする問題の範囲と、当事者間の法的関係を明確化する目的を持ちます。特に「性的嫌がらせ、暴言、脅迫、退職妨害等」と具体的に例示することで、対象となるハラスメント行為の種類を明らかにしています。
第2条(被害事実の確認)
この条項は被害者が主張する被害内容を明記します。ここで重要なのは、加害者が事実関係の一部を争いつつも、早期解決のために示談に応じたことを記録している点です。具体的な行為を列挙することで、のちに「何に対する示談なのか」という争いが生じるのを防ぎます。各項目は被害の実態を具体的に記述し、性的言動、暴言、脅迫、退職妨害という典型的なハラスメント行為を網羅しています。
第3条(損害賠償金の支払い)
賠償金額とその性質を規定します。賠償金が精神的苦痛と経済的損失の両方をカバーすること、また弁護士費用や医療費も含まれることを明確にしています。これにより被害者は別途これらの費用を請求する必要がなくなります。
第4条(支払方法)
賠償金の支払い方法を具体的に規定しています。30日以内という期限、振込先口座の詳細、振込手数料の負担者、振込証明の提供義務など、支払いに関する実務的な事項を網羅し、後のトラブルを防止します。
第5条(分割払いの特約)
加害者の経済状況に配慮して分割払いのオプションを提供する条項です。分割回数、支払日、金額を具体的に定め、一回でも支払いを怠った場合の期限の利益喪失条項を設けることで、分割払いによるリスクを最小化しています。
第6条(遅延損害金)
支払い遅延に対するペナルティとして、年14.6%の遅延損害金を規定しています。この条項は加害者に支払義務の履行を促す効果があります。割合が具体的に定められていることで、紛争が生じた場合の計算が容易になります。
第7条(権利放棄)
被害者が損害賠償請求権を放棄する条件を定めています。重要なのは、単に合意書を締結しただけでは請求権は放棄されず、実際に賠償金が支払われることを条件としている点です。加害者が合意を履行しない場合、被害者は依然として請求権を保持します。
第8条(示談内容の公表禁止)
示談の内容と経緯についての守秘義務を規定しています。例外として法令に基づく開示請求、専門家への相談、近親者への開示を認めることで、現実的な運用を可能にしています。違反に対する違約金も明記されており、実効性を確保しています。
第9条(再発防止義務)
加害者に再発防止を義務付ける条項です。単に再発を防止するという抽象的な義務だけでなく、研修実施やハラスメント相談窓口設置など具体的な措置を求めている点が特徴的です。これにより他の従業員も保護され、組織全体のハラスメント防止に寄与します。
第10条(再就職妨害の禁止)
被害者の再就職活動を加害者が妨害することを禁止する条項です。特に照会があった場合の対応を「客観的事実のみを伝え、主観的評価は控える」と具体的に規定しています。この条項は示談後も被害者が新たな職場で不利益を被らないよう保護する重要な役割を果たします。
第11条(誹謗中傷の禁止)
当事者間の誹謗中傷を禁止する条項です。特にSNSなど新しい媒体も含めた包括的な禁止規定となっています。違約金の設定により実効性を確保しています。
第12条(証拠の取扱い)
被害者が保有する証拠の取扱いに関する規定です。公開は禁止しつつも、証拠を破棄・削除する義務は課さないという柔軟な対応を定めています。これは加害者が合意を履行しない場合に備えた現実的な配慮といえます。
第13条(雇用関係の終了確認)
雇用関係の終了日を明確に記録する条項です。これにより退職の事実や時期について後日争いが生じることを防止します。
第14条(労働条件の確認)
退職時までの給与等の金銭債務が完済されているか確認する条項です。未払いがある場合は支払期日を定めるとしており、損害賠償とは別に労働債権を保全する機能を持ちます。
第15条(本示談の効力)
示談合意書の効力発生時点を明確にする条項です。両当事者の署名押印という形式的要件を満たすことで法的効力が生じることを規定しています。
第16条(解除条件)
加害者が示談合意書の義務に重大な違反をした場合の対応を定めています。被害者は示談合意自体を解除でき、既に受領した賠償金を返還することなく新たな請求が可能という強力な権利を保持します。これは加害者の履行を促す効果があります。
第17条(合意管轄)
紛争が生じた場合の管轄裁判所を指定する条項です。これにより、被害者が遠隔地の裁判所で争わなければならないといった不利益を防止します。
第18条(準拠法)
合意書の解釈と適用に関する準拠法を日本法と規定しています。国際的要素がある場合に重要となる条項です。
第19条(協議事項)
合意書に定めのない事項や解釈に疑義が生じた場合の対応を定めています。当事者間の誠実な協議による解決を求めることで、将来的な問題に柔軟に対応する余地を残しています。
この示談合意書は、被害者の権利保護と実効性のある解決を図りながらも、加害者側にも合意可能な現実的な内容となっており、職場ハラスメント問題の円満な解決に貢献する実務的なテンプレートです。